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<ご挨拶>ここは真名あきらの創作メンズラブ小説のブログです 

未分類

真名あきらのオリジナルメンズラブ小説のブログです。
普通の地味なサラリーマン(職業人)が、ひたすら地味に、地道に生きているお話です。
それでも良い方だけ、お読みください。
携帯で画像をご覧になりたい方は、各話タイトル横のカメラマークをクリックしてください。

◆完結小説一覧◆←こちらよりそれぞれの小説にお入りください
社会人系。学生系。ファンタジー系と、いずれも漢度高く、ついでに年齢高いです。

◆最新小説◆
彼女に振られた男が偶然出会った同僚は。「どうでもいい男」連載中です。
花街の用心棒と最強魔術師のすれ違いコメディ。「仮初の守護者」完結しました。

同人誌イベントにも参加中。イベント参加予定

うちの子自由に描いてください同盟さんに参加してます。
どんどん描いてください。出来れば、送ってくださったりすると嬉しいです。
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ネクタイを結んで<転げ落ちた先に>番外 

転げ落ちた先に

「いらっしゃいませ。渥美さま、鈴木さま」
馴染み客の顔に、店主は厳つい顔に穏やかな笑みを浮かべた。
「本日はどのような御用件で」
「夏用のシャツを頼みたい」
口を開いたのは渥美の方だ。顔も渋みのある甘さの無い顔つきだが、声も低めで渋い。
「鈴木さまの分もでしょうか」
大抵、渥美が訪れるときには二人分の注文をしていくのが常だが、決めつけは厳禁である。
「ああ。二人分で頼む」
「会社の方はノーネクタイは推奨されておりますか」
勤め先は商社と聞いている。部署によってはそれに従った方がいいだろう。
「内勤はそうだな」
「鈴木さまはほっそりしておいでなので、開襟シャツもお似合いかと。ノーネクタイのワイシャツは着こなしによってはだらしのない印象にもなりかねませんし」
「義彦。どうする?」
渥美は隣にいる鈴木へと声を掛ける。自分のことを相談されているというのに、鈴木の神経質そうな顔はまったくの無関心だ。
「角田さんとお前に任せるよ」
投げやりにも見える言葉だが、そうではないことを店主の角田も渥美も解っていた。自分が選ぶよりも二人に任せた方がいいという信頼だ。
「お任せください」
角田が頭を下げる。
「じゃ、開襟で」
せっかく任せてくれたのだ。ちょっとくらい渥美の趣味でも構わないだろう。細い首がさらされる様を思い浮かべて、にやけそうになるのを抑える。
「色と素材はどうなさいますか」
「白とブルーくらいかな」
さすがに通勤用ではそう大胆な色は選べない。今どきの新入社員ではないのだ。
「麻の新色が入っておりますよ。生成りベースで、薄いブルーとグリーンのバリエーションです」
角田が取り出した布の見本帳には生成りの生地にほんのりと色の乗ったものが並んでいた。
「これはいいな。派手すぎないし、涼しそうだ」
「かっちりとしたデザインにも出来ますよ。鈴木さまはかなり細身ですから、やはりシャープにお作りした方がよろしいかと」
「クールビズも提唱されて結構経つんだが、役所やモデル企業連中がやりすぎてるからな」
鈴木が横合いから口をはさんでくるのに、角田がうなずいた。
「私どものような年齢ですと、和装ならまだしもアロハやTシャツは勤め人の服としては抵抗がございますね」
「派手なパフォーマンスの方が絵になるからな。マスコミ向けなんだろうが、極端すぎる」
「結局、あまり好まれませんね。やはり、スタンダードなものをお作りになられます」
角田が微笑みを浮かべる。
「ほんの少しの冒険でよろしいのですが」
「お前はどうするんだ?」
鈴木が悪戯っぽい笑みを浮かべて渥美に問いかける。
「同じ布で、ワイシャツを」
「承知いたしました。ネクタイはダブルでお召しでしたでしょうか」
「ああ」
銀座の裏通り。いかにもな下町にあるテーラーとの付き合いはもう十年近い。元々、鈴木が昔から懇意にしていたらしいそこは、着こなしや職場の環境など細かいところにまで気を配ってくれるため、渥美もお気に入りの一店だ。
季節の変わり目には必ず訪れて、お気に入りの数枚を作る。
ソファへ腰を下ろし注文票が出来るのを待っていると、涼やかな音と共に扉が開き、年若い青年が顔を出した。
大きめのシャツとスラックス姿の青年は、先客がいるのを認めると窓際の席へと腰を下ろす。
渥美に劣らぬ長身の青年は手慣れた仕草で見本帳を開いた。
「お待たせしました。ご確認をお願いします」
窓際の客へと軽く頭を下げ、角田は注文票を二人へ示す。
「じゃあ、これで」
どうやら、決定権は鈴木にあるらしい。鷹揚にうなずいた鈴木を促して渥美が立ち上がった。
「鈴木さま。首元が」
角田に指摘されるまでもなく渥美は鈴木のネクタイが歪んでいるのには気づいていた。さすがに人前で直すことにためらいがあり、店を出てからと考えていたのだ。
「義彦。顎あげろ」
指摘されたのをいいことに、渥美は鈴木のネクタイを解き締めなおす。鈴木の方はされるがままだ。
「角田さん、出来上がった頃に取りに来るよ」
「はい。お待ちいたしております」
さすがに老舗のテーラーとあって、どんな関係だと勘繰るような視線を向けられることは無いが、平然と店主に声を掛ける鈴木のように図太くもなれない。
平静を装いながら店を出ると、鈴木にわき腹を突かれた。
「妙なところで臆病だな。とうの昔に気付かれてるさ。気にするな」
さらりと言い捨てた鈴木もまた気付いている。窓際の客に送った店主の愛おしむような視線に。
唖然とする渥美を鈴木は振り向くことなく、足を進める。その後姿を慌てて渥美は追いかけた。

<おわり>

初夏イベントに付けた無配SS.
相変わらずの二人とちょっとテーラーの二人のその後も匂わせ。
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どうでもいい男(ひと)<11>完 *R15 

連載小説

この後に及んで馬鹿な呼び名を止めない朔に、久遠はいっそ呆れる。歯列を割り舌を滑り込ませて蹂躙する。受け身など初めてらしく、苦し気な吐息が久遠を煽った。
やっと離れた唇に、朔はほっとして肺に空気を取り込む。
「ひろみ、さん?」
「呼び捨てでいいわ」
良く響く久遠の低音の声が耳元で囁くのに、まるで毒を吹き込まれているようだと思う。
互いの身体を弄る手にも触れあう唇にも惑う気持ちが無くなった朔の腕を、久遠は止めた。
「ここまで来てお預けですか」
「うん。ちょっと確認しておきたいの」
「確認?」
「そう。どっちがいい?」
どっち、口の中で反芻して朔はやっと意味に気付く。隣に座った久遠をじっと見て、頬を染めると逡巡した後に口を開いた。
「抱かれるつもりで来たんですが、出来れば抱きたいです」
「正直ね」
予想は付いていたとはいえ、この上背のある中年男を抱きたいと正面切って言われるとは。久遠は半ば呆れつつ、薄い笑みを唇に乗せた。わざとらしいくらいに振りまいた色気に、朔が目線を落とす。
「いいわよ。こんなおっさんに勃つかどうか見てあげるわ」
「そんなこと無いです! 主任、ひろみはカッコいい素敵な人です」
自嘲するように笑った久遠の言葉は、朔の反論に封じられた。ずいっと目の前に迫る真剣な眼差し。その癖おずおずと伸ばされる手は熱かった。
「ひろみ」
伸びた腕に久遠の腰が引き寄せられる。触れるまでは遠慮がちだった腕は、力強く久遠を抱き込み、合わせた唇は荒々しい。その動きに久遠は安堵を覚えた。精神的に包み込み優しくしたところで、逞しい肉体だけはどうしようもない。ノンケの朔にはもしかすると無理かもしれないと踏んでいた所為もあった。
「ちょっと待って」
勢いよくソファへ押し倒され、伸し掛かられる。余裕が無いというよりも、体格差を何とかしようと必死なのに気付いて笑いがこみ上げるが、もう一つまずいことに気付いて、朔の胸を押し戻した。
「あ、俺」
途端にひどく傷ついた表情の朔を見て、久遠は焦って言葉を継いだ。
「これ以上はベッドでしましょ」
「す、すみません。焦っちゃって」
慌てて久遠の上から退いた朔に、久遠は柔らかく笑い掛ける。
「アタシもこんなにその気になってくれると思わなかったわ」
身体を起こした朔に差し出した久遠の手を、朔はしっかりと握って助け起こした。それなりに女性の扱いには慣れているようだ。
「シャワー浴びて来るわ。先に行ってて」
「はい」
態と振る舞いを女っぽくしてみると素直に従う。か弱い振りで甘えてやれば簡単に落ちるだろう。その上で優しく受け止めてやればいい。
そう考えて、久遠は思考を止めた。都合のいい相手にはしたくないと朔は言った。そんな相手に誠実に返さずにどうすると言うのだ。
都合が悪ければ付き合いたくない、どうでもいい人。お互いにそんな自分に疲れたからこそ手を伸ばしたのに。
シャワーを浴び、受け入れるための最低限の処理をする。
タオルドライしただけの髪を手櫛で後ろへ流し、久遠はバスローブだけを身に着け、バスルームの扉を開いた。

朔はベッドの端に腰掛け、シャワーの音へと耳を傾ける。
心拍数が上がるのが解った。シャツの合わせ目を掻き合わせ、拳を握る。
出来れば抱きたい。そう言った瞬間、隣にある身体を意識した。焦りすぎだと自分でも思う。体格差もあり当然自分が抱かれるものと思っていたが、久遠を抱けると思うだけで反応する自分が信じられない。久遠を女のように思っている訳では無い。男としての本能的な部分が訴えるのだ。心を寄せた相手を自分のものだと確信したいと。
ドアの開く音に顔を上げる。バスローブから覗く素肌がやけに白いことに気付いて、目はそこに釘づけだ。
「何? 今更我に返った?」
やけに色っぽい仕草で朔の隣へ腰かけた久遠に、朔はどぎまぎして視線を下ろした。するとバスローブから覗く、綺麗に組まれた足を意識してしまう。
「ひろみ、判ってやってるでしょう」
「当たり前よ。恋人が隣にいるのに、誘惑しないほど初心じゃないわ」
しなだれかかってくる久遠は、クスクスと声を上げて笑っている。それは隠微な響きを帯びていた。
「あんまり煽らないでください。余裕無いんで」
「余裕なんて無くしてあげるわよ」
力強く肩を抱き寄せられ、唇が重なったかと思うと、対応できないでいる朔の歯列を割って舌が入り込んできた。
巧みな技巧に朔の息が上がる。唇が離れると、悪戯が成功したような目をした久遠と目が合った。悔しいが経験値の差は大きい。
「そういうつもりなら遠慮なんかしませんよ」
「いいわよ。望むところ」
うるんだ目で見上げられて、そう我慢が効く訳が無い。ベッドに押し倒してバスローブから覗いた肌に唇を這わせる。嫌悪感は無かった。どころか股間は痛いぐらいに主張を始めている。
「ホントに俺が抱いてもいいですね」
もう一度だけ確認を取った。
「何度聞けば気が済むの。それとも怖気付いた?」
「まさか」
揶揄うような久遠の問いに、朔は速攻で否定を返す。
「もう口は別のことに使って頂戴」
もう一度唇が重なる。かと思うと朔の唇は久遠の顎から首筋、胸元をたどる。バスローブを開き、乳首に吸い付く。そのまま、舌先で転がし強く吸い上げた。
「ちょ、しつこいわよ」
先へ中々進もうとはしない朔に、焦れた久遠が声を上げる。
バスローブから覗く足を幾度も撫で上げる手の動きも、肝心な場所へは触れようとしない。
「もう、いつまで」
「すみません。俺の手で貴方が乱れてくれるの、楽しくて」
口では謝っているものの、手の動きは途切れなかった。その腕がふいに掴まれたかと思うと、朔の視点はひっくり返っていた。
「悪戯はここまでよ」
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた久遠に見下ろされる。惑いなく久遠の指が朔の股間を這った。
「へえ、中々立派じゃない」
爪で軽く鈴口を引っ掛かれ、痛みに朔の顔が歪む。ちょっと調子に乗りすぎたかと思いつつも、抵抗しようとは考えなかった。
そのまま股間をすり合わせるようにして手を添えられる。荒い息遣いがその場を満たした。
二人同時に吐き出した瞬間に、仰け反った喉が朔の目の前へと晒される。朔は高ぶった気分のままにその喉へとかぶりついた。
「ナニ? 吐き出しても賢者タイムとはいかない?」
最初、驚いた顔をした久遠が、喉をさすりつつ朔を見下ろす。久遠にしてみれば、嬉しい誤算だった。男の身体にさして興味がある訳でもない相手だ。無理強いするつもりはない。ところが未だ朔は何処か興奮冷めやらずといった風だ。
久遠の指が朔の尻へと伸びる。二人の精液でどろどろになった指は、簡単に朔の中へと潜り込んだ。
「ホントに抱かれるつもりで来たのね。いただいちゃうわよ」
「どっちでもいいです」
さっきまでの色っぽい久遠もいいが、やっぱりオネェ言葉で強引なのが久遠らしい。
「じゃ、遠慮なく」
濡れた指が朔の奥を探る。
「あ、そこッ」
思わず声が漏れた。奥を探っていた指が一点を掠める。身もだえる朔を面白そうに久遠が見下ろしている。
「覚悟いい?」
「は、い」
優しいから好きなのか、都合がいいから好きなのか。いや、だったらこんなことまで許さない。やっと確信が持てた。
「好きです。貴方が」
見上げるのと、久遠が朔に馬乗りになるのは同時だった。
「くッ、」
「ひろ、みッ」
朔の屹先に濡れた感触が当たる。久遠の顔が苦痛で歪んだ。急に腰を落とそうとする久遠の手に朔は指を絡ませて支える。
「ずるいわ、こんな時に。アタシ、めろめろじゃない」
腰を落としきった久遠が顔を上げた。朔は目を見開く。大きく息を吐き出し、動き始める久遠に、朔は仰け反る。濡れた体内が蠢くように朔の屹立を包み込んでいた。
「ちょ、動きすぎ。イッちゃいます」
「イッちゃいなさいよ」
「勿体ないです。もう少し」
「何処のオヤジよ」
色気の無い直截な言葉を並べつつも、久遠の顔は苦痛と快楽の入り混じった凄絶なものだ。
絡んだ指に力が入る。
「ねぇ、アタシも好きよ」
幸福そうな顔の久遠に朔はほっと息を吐いた。同時に久遠が動きにひたすら快楽だけを追う。今はそれだけで良かった。

翌朝、目覚めた朔は目の前にある熱い胸板の谷間に顔を埋めるような体制だった。ちょっと息苦しいが、それも悪くない。
朔を胸に抱きしめたまま眠る久遠は気持ちよさそうに寝息を立てている。
ベッドサイドの時計に目をやると、まだ起きるには早すぎる時間だ。
もう少ししたら、久遠は目を覚ましてジョギングにでも出掛けるかもしれない。そしたら自分も起きだそう。以前作ってくれた朝食には劣るかもしれないが、味噌汁と卵くらいなら朔も用意が出来る。
身体がキツイようなら、もう少し休んでもらうのもありだ。
これからのこと、自分がどうしたいのか、久遠がどうしたいのかを話しあおう。互いに都合がいいばかりではなく、一緒に歩いていくために。
久遠がもぞりと動き、きつめの瞳が薄く開いた。
「おはよう」
これから新しい関係を築いていく朝だ。

<おわり>

これにて完結です。
何か完成まですごく時間が掛かってしまいましたが、逆転っぽいけど違うっていう 
ノンケ×オネェを書くのがすごく難しく。考え込んでいるうちに、体調を崩してしまって。
仕事も忙しくなってきたので、しばらくはファンタジー更新すると思います。
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2016夏のイベント参加予定 

未分類

大変遅くなりましたが、夏のイベント参加予定をお知らせします。

コミックマーケット90(東京ビッグサイト)8月12日~14日
12日(金)東3ホール・コ33b[TORTA]さんへ委託です。
今回は仕事の都合上、新刊はなし。ペーパーも6月の福岡で配布したものになります。

で、ちょっとお知らせ。完売したと思っていた、「傭兵と吟遊詩人」と「武士の背中」が在庫が見つかりました。委託スぺなので全部少数ですが、持っていきます。
よろしくお願いします。

そして、夏イベントはもう一つ。翌週の大阪スパコミへ参加します。
SUPER COMIC CITY関西21(インテックス大阪)8月21日
6号館Aホール。ヤ56a「BAR金緑石」で参加します。TORTAさんの委託あります。
新刊はありませんが、ペーパーは秋の庭の準備号です。
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どうでもいい男(ひと)<10> 

連載小説

その日の久遠の機嫌は最悪だった。
いつも通りに始業時間ギリギリに出社する。真面目な朔はすでに仕事を始めていた。
「おはよう」
挨拶の声に応えるのは様々だ。昨日の今日である。胡散臭げな視線を向けるもの、気にせずに挨拶を交わすもの、ひそひそと言葉を交わすもの。その中には派遣の女へ妙な視線を投げるものもいる。おそらくは呼び出しの前に嬉々として情報を広めていたのだろう。完全に仇になった行動力にひっそりと笑いが漏れるが、同時に対応を間違えば、あれは朔に対するものになっていたのだと思うと朝から背筋がぞくっとした。
「おはようございます。久遠主任」
声を上げた朔に、手を上げて応じると、ふいっと視線が逸らされる。照れ隠しというよりもひたすら視線を避けるようなそれに、かなり久遠はショックを受けた。
慌ただしく仕事に追われ、気付いた時には顔を合わせることも無く営業へと出ていた。帰社した時には既にフロアには誰の姿も残っていない。かなりショックだ。
勝算はあると踏んでいたのだが、見誤ったかもしれない。
好意の質を間違えたのか、それとも怖気づかれたか。どちらにしろ今日は出直しを図るしかないだろう。
「今までだったらすんなりと諦めてたのに。アタシも未練がましいわね」
ため息を紫煙と共に吐き出す。ほぼ吸うことは無い煙草だが、酒飲みの癖で持ち歩いてしまうそれはため息を吐くときには便利な小道具だ。トンと箱を叩いて二本目のフィルターを出すと、中で崩れた煙草の屑が舞った。
店へ行く気はとうに失せている。そのまま行ったところでいいネタにされるのは間違いない。賭けに負けたと認めるのはさすがに堪える。
数駅離れた場所にある都心のマンションは4階までは飲食店が入っているため、つまみに困ることも無かった。そのまま呑んだくれて寝てしまえとばかりにいくらかの惣菜を買い込んでエレベーターに乗る。軽い浮遊感に外へと視線を向けると、眼下には眩しい夜景が広がっていた。
沈んだ気分のままエレベーターを降りた久遠は、そこで足を止める。自室の前にがっちりとした体系とは裏腹に頼りなげに佇んだ影に、自身願望の投影かと思わず目を擦った。
「久遠主任」
男が久遠を呼ぶ。ここ数ヶ月ですっかりと耳に馴染んだ声は、低いが何処かすがるような響きを伴っている。こちらを気遣いいいのだろうかと迷いを含んだその声。
「入って」
平静を装った筈の声は震えてはいないだろうかと久遠は精一杯の虚勢を張った。朔を部屋へと押し込み、ドアへ鍵を掛ける。
自分をさらけ出すことを極端に恐れるあまりの癖だが、その音に朔の背がびくりと震えるのが解った。
「とりあえず上がって」
怯えているような朔の背を押すと、観念したように靴を脱ぐ。改めて性急だとは思うが、どうしても怖さが先に立った。
「何か呑む?」
「いえ」
幾度か招いたソファの定位置に腰を下ろした朔は固まったままだ。
「取って食いはしないわよ」
「え?」
意外そうに眼を上げられて、今度は久遠が固まる。
「な、何よ。その残念そうな声」
「あの俺、すみません、その勘違いを」
真っ赤になって言葉を紡ぐ朔に、久遠は呆れと同時にはっきりと悟った。
「勘違いねぇ」
慌てて腰を浮かそうとする朔の隣に座る。逃がしたりなどするものか。腰を抱き込んで再び座るように促すと、身を離そうと必死で腕を突っ張る。
「すみません。主任、離してください」
「意地悪でごめんなさい。嫌われたかしらって思っていたから、つい。でも良かったわ」
腕の中でもがいていた朔の動きが止まった。正直、立派な体格の朔に本気で抵抗されたら久遠も成すすべが無い。
「嫌ってなんか……」
振り向いた朔の視線が、久遠を捕らえるのと同時に落とされた。
「いえ、すみません。そう思われても仕方がないです。実際逃げてましたから」
迷っている朔の言葉を待つ。
「久遠主任のことは好きです」
朔の言葉の意味を久遠は取り違えなかった。これは嫌っているかとの返答にしか過ぎない。
「ただ優しくされたから好きなのか、それとも助けてもらったからなのか。その意味を考えていました。正直、今でも迷ってます。都合のいい相手だから好きなんじゃないかって」
都合のいい人はどうでもいい人。都合が悪くなれば好きではなくなる相手。今度こそ間違いたくないのだ。
「答えは出たかしら?」
「出てません。でも、これ以上負担にだけなるのは嫌です。俺も返したい」
久遠はほっと息を吐く。真剣に考えてくれたのだ。
「じゃ、お試しで付き合ってみない? あんた男初めてでしょ」
「あ、当たり前です。男にこんな気持ち、主任が初めてで」
耳まで赤くなって反論する朔に、久遠はクスリと笑った。失意の後だけに浮き立つ心を抑えきれない。
「あとアタシ男なんだけど、そこ解ってる?」
覗き込むように瞳を見れば、途端に朔は視線を彷徨わせ、手を握ったり開いたりしている。明らかに挙動不審だ。
「最初っからそのつもりだったの」
「あの、俺さすがにそっちは初めてで、そのきちんと出来るかどうか、その」
しどろもどろで言葉を続ける朔に、久遠は間抜けに口を開いたままだ。しばらくして漸く事態が飲み込める。
「もしかして、やり方調べたりしたかしら」
朔がうなずいた。あまりに可愛すぎてくらくらする。落とすつもりが落とされそうだ。
「アンタ、天然なの。それとも計略でやってんの」
ちょっと表情を引き締める。カッコよく口説きたいのは本音だ。
「一応、誘ってるつもりはありますけれど」
「さらっと言わないでよ。ちょっとショーゲキだわ」
ノンケの口から、まさか誘ってるなんて言葉が飛び出てくるとは。久遠は緩む口元を抑えきれずにいた。好意を持たれている自覚はあったが、性的な意味でのそれとは違うと思っていたのだ。もちろん意識をすり替えるくらいのことはするつもりではあったのだが。
「じゃあ、試してみる?」
「はい」
衝動的に手を出すつもりは無いが、快楽で流されてくれればそれでもかまわない。
久遠は改めてソファに座る朔の手を握った。震えている拳を包み込むように上から手を重ねる。
「主任」
「主任なんて色気の無い呼び方止めてちょうだい。ひろみ、よ」
拳を解き、指を絡ませた。耳元へ熱を吹き込むように囁くと、くすぐったいのか少しだけ抵抗された。
「ほら呼んで。はじめ」
「ひ、ろみ」
甘い低温を響かせて囁く久遠の声は、やたら色気があって女言葉が似合うような似合わないような妙な気分だ。名を呼ばれて、朔はくすぐったい気分だった。
「朔」
首筋を熱い唇が這う。耳を食まれ、そちらに気を取られていると、いつの間にか指先が悪戯をするようにジッパーを開いて下着の上から股間を弄っている。
不思議と嫌悪感は無かった。
元々、同性同士に耐性があるのか、それとも相手が久遠だからなのかは朔には解らない。
じんわりと下着に精が滲む。
「ちょ、これ以上は、主任ッ」
「主任?」
抵抗を示す朔の唇を久遠が塞いだ。

多分、次回で終わり。
続きは再来週NEXT

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どうでもいい男(ひと)<9> 

連載小説

「久遠主任。すみません、あの俺じゃ役にたちませんか?」
「何に?」
半ば予想の付いた言葉を、いかにも知らぬげに久遠は恍けて見せる。カウンターで手の中のグラスを弄びつつ、それでも硬い決意を覗かせる視線を向ける朔に罪悪感を煽られるが、そうでもしなければ朔が現れなかっただろうとも確信している。
女の脅しに屈したのは、自分が大事だからではなく、久遠を思っての事だろうと簡単に推察は付いた。そうすると脅しのネタもお察しである。
そうやって朔自身を犠牲にしても、久遠を守ってくれると言うのなら、それは最大限の好意だろう。すり替えることは出来る筈だ。
だが、距離を取っている朔を近づけさせるにはどうする。簡単なことだ。久遠の窮状をチラつかせればいい。
「あの、アリスちゃんは」
小声で久遠に呼びかけ、視線で店を見回す。
「大丈夫よ。奥で休んでるわ」
「そうですか。あの、本当に俺にも出来ることって」
明らかにほっとしたため息を漏らす朔の勘違いに、周囲の悪い男たちはそっと目を見交わした。さすがにちょっと胸が痛い。
「もう片付いたから大丈夫よぉ」
明るい声を出しつつも、周囲のさっさと消えろと言わんばかりの視線に急かされる。
「俺じゃ頼りになりませんよね」
「そう言う訳じゃないわよ。アタシが危ない目に合って欲しくないの」
あまりにも落ち込む朔に慌てたのと、罪悪感マックスの周囲に急かされるのとで、久遠はらしくもなく焦っていた。するりと出た本音に朔の瞳が見開かれる。
「え?」
しまったと口を押えるが、出た言葉は戻らない。
「もう鈍すぎるのもいい加減にしてちょうだい。アタシが嫌なのよ。危ないことをされるのも距離置かれるのも」
ここまで来たらもう自棄だ。もっと上手く立ち回って騙すつもりだったのにと久遠はほぞを噛んだ。自分で段取りをぶち壊したことに、めまいがする。
「いやいや、宮ちゃんはアンタの為に一芝居打ったんだぜ。自分がゲイだって会社にばれてもいいって」
唖然とした朔に久遠の横合いから声が掛かった。朔も覚えている。確か最初にこの店に来た時に声を掛けて来た男だ。だが、今の問題はそれではない。
「一芝居? どういうことですか久遠主任」
「写真撮ってたの、あの女ッ」
久遠は我に返って余計な真似をする男の口を塞いだが、当然間に合う筈もない。一方の男は給与の半分近くをカップル成立に賭けているのだ。必死である。
「写真? あの女?」
考え込まねば解らない程には朔も馬鹿ではない。一度悪意を持ったならば、どこまでも潰しにかかる人間がいることくらいは知っている。
「主任。俺の為、ですか」
「違うわよ。アタシの為よ。アタシがあんな女に好き勝手させたくなかっただけ」
おずおずと尋ねる朔に、久遠は吐き捨てた。どこまでも醜いエゴでしかない。朔の為じゃない。朔と一緒にいるのに邪魔な女を排除しただけだ。
「主、任」
口籠る朔の中でいろいろな感情が交差していた。謀を巡らせてまで守られた情けなさ、会社において不利なことを暴露させてしまった後悔、そしてそうまでしてくれた感謝。
「はいはい。見つめ合うんなら、ここじゃなくて場所変えてくれよ」
割って入ったマスターの声に、呆然としたままお互いを見つめていた状況に気付いて、朔は真っ赤になった。
「せっかくいいとこだったのに。仕方ないわねぇ」
クスリと久遠が笑い掛ける。それは何処か悪戯を思いついたような顔だ。久遠が懐から財布を出そうとするのを、朔は押しとどめて支払いをする。
「悪いわね」
「このぐらいさせてください」
二人してぎこちない笑いを交わしつつ、店を後にした。
無言で先を歩く久遠の後ろを朔が追う。背中を見つつ考えるのは久遠の事ばかりだ。女言葉も違和感があったのは最初だけで、その方が自然なのだろうと思えば納得できた。寂しかったのかもと零した横顔。こちらを何処までも甘やかす雰囲気に、逆に甘えてはいけないとブレーキを掛けた。
愚痴を聞いてくれて、優しくしてくれる。どんな時でも味方になってくれる。そんな久遠を『都合のいい男』にしてはいないだろうか。
「どうした?」
振り向いた久遠に朔は戸惑った。まさか貴方のことを考えていたとは言いづらい。
「いえ。何でもないです」
「そうか」
男言葉の時の久遠は普段の饒舌さはなりを潜める。地が出ることを避けているのもあるのだろう。
「じゃあまた明日」
「え?」
軽く手を上げた久遠に、朔は思わず声を上げてしまった。
「また明日、だ」
てっきり久遠の家へと行くつもりでいた朔には拍子抜けだ。ロクな説明すらない。
「明日までしっかり考えて。アタシだってあんまり気は長い方じゃないのよ。どういう意味か解るでしょ」
すれ違い様に囁かれる言葉には、ほんの少しの甘さがある。
朔はそのまま硬直してしまい、気付くとすでに久遠はいなかった。
「どういう意味かって、それぐらい解りますよ。いくら何でも子供じゃあるまいし」
好意だけでここまで親身になってくれると思えるほどおめでたくは無い。しかも、相手は同性を恋愛対象にしているとあっては。
「いいお友達でいましょうね、か」
あの日、プロポーズした女に言われた言葉。なんて薄っぺらい台詞だろう。本気で告白した相手への思いやりも何もない。
いい女のフリをした自己保身のための言葉だ。
「居心地のいいだけの関係なんかクソくらえ」
都合のいい人になんかしない。どうでもいい人になんかならない。
「主任」
優しい嘘には騙されるものか。そっと呟いた朔の決意は決まっていた。

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どうでもいい男(ひと)<8> 

連載小説

「まさかとは思いますが、今どき男女で踊るとか不健全などと言い出される訳では?」
「恍けるのは止めたまえ。君がこの店へ出入りしていると証言があった。証拠もある」
不思議そうな顔で聞き返した久遠を、部長は頭から湯気でも出そうな勢いで怒鳴りつける。差し出された写真には覚えがあった。
「はあ? この写真は?」
男が二人で寄り添って『会員制パブ・将』と書かれたドアを開けている写真。後姿は確かに久遠だ。
「とある社員から提出されたものだ」
ドヤ顔の部長には久遠は煙たがられている。この機会に放り出す気満々だろう。
「一緒にいる相手に言及するのは止そう。とりあえず、外向きの仕事には君は不向きだと判断した」
「部長」
久遠が静かに写真を手に取った。
「この写真でその判断を下されるとのことであれば、私としては名誉棄損で訴えさせていただきますが」
よろしいですか?と言外に含みつつ、久遠は強い視線を上げる。それに気圧されたように部長の視線が泳いだ。
馬鹿じゃないの。怯むくらいなら端から仕掛けなきゃいいのよ。
心の内で久遠がごちる。
「違うとでもいうのなら、反論したまえ。言い分が確かであれば考えよう」
巧みに自分の逃げ道を作る辺り、さすがに狸だ。
「こちらの店ですが、友人の店です。一緒にいる男は友人の弟です。具合が悪いと言うので送っただけです。これは彼が勤めている家電量販店にでも確認していただければ」
駅前の家電ショップへ向かったのは入れ替わりのためだ。久遠が頼んだのはひとつ、こちらが用意したスーツを着て、久遠と共に家まで帰るだけ。将の恋人であるアリスと朔の体格が似ていることを利用した。もっとも緊張していたアリスは本当に気分が悪くなって、より本物っぽくなった訳だが。
「カフェで親し気に食事をしていたという目撃証言があるのだが」
「別人ですね。その子は仕事中でしたから。それ以上はプライベートでしょう」
突っ込みたいような気配を見せる部長をしれっと退ける。今どき同性を恋人にしているぐらいで表だって騒ぐ商社などありはしない。だからこそ、部長も如何わしい店へ出入りしていた点を突っ込んできたのだから。
「しかし、この店は」
「友人の店ですから、食事はしますよ。パブですし。私の通っているダンスホールは同じビル内ですから」
会員制という文字から何やら変な店でも想像したのだろうが、褌を楽しむ至って健全(?)な店である。
「しかし」
「一度おいでになりますか。友人も疑われたのは不本意だと思いますし」
何なら一度見るかとにっこり笑って誘う久遠に明らかに部長の腰が引けるのが判った。同性を恋人にしていると匂わせた男と一緒に『会員制』の店へ行く度胸など、この偏見に凝り固まった上司にある筈が無い。
「いや結構だ。疑いは晴れた。席へ戻りたまえ」
胸をそらして虚勢を張る上司に、久遠は一礼して背中を向けた。ドアノブを回したところで、ふと思い出したように振り返る。
「部長」
久遠の呼びかけに、ビクリと身体を固くするのが可笑しすぎる。
頼まれたってアンタなんか勘弁よ。明後日の方向の心配をしているらしい上司にうんざりしながら、久遠は机の上にある写真を指差した。
「いただいてもよろしいでしょうか。友人も弟さんの写真を赤の他人に握られているのは嫌だと思うので」
「あ、ああ」
久遠の当然の主張に、拍子抜けした顔の部長が差し出す写真を受け取り、再び久遠は頭を下げる。内心舌を出しつつ、部長室を後にした。
「久遠主任」
部長室から出て来た久遠に声を掛けたのは、青褪めた顔の朔だった。
「ああ。心配いらん。誤解は解けた」
「そうですか」
下手なウインクをする久遠に、朔はやっと力を抜く。
「妙なことを部長に吹き込んだ奴がいたらしい」
態と目につく場所へ放った写真を、当然朔が目に留めた。
「あれ、これ」
思わず口に出た朔が口籠る。店のことを憚ったらしい。
「ああ。そっちじゃなくて、一緒に写ってる方」
「一緒に? これ店の子ですよね。アリスちゃんでしたっけ」
朔と良く似た体形で似せたスーツを着せてはいるが、思い込みが無ければ似ている程度で見分けはすぐに付く。朔も行くたびにマスターの傍にいるアリスのことは覚えていた。
「そう。会社で具合悪くなったからって将からヘルプ入ったからな。店まで連れて行ったんだ。何故か如何わしい店に連れ込んだ扱いされたがな」
隠す必要の無い会話だ。堂々とした久遠に朔も引きずられた。
「誰か後付けて写真を撮ってたらしい」
「主任。それストーカーで警察に届けた方がいい案件じゃないですか。ああ、だから」
どうやら付け回されているのがアリスだと勘違いしてくれたらしい朔は納得したとうなずいた。少しずつの勘違いなのだが、態と勘違いするように持って行っている久遠は朔の素直さに和むのと同時に罪悪感を覚える。
「二十も離れていると、さすがに心配らしくてな。」
久遠の言葉に嘘は無い。口にしていないことがいくつかあるだけだ。チラリと隣の課を見ると、派遣の女は忌々し気にこちらを睨んでいる。
プライドを守るために築き上げた楼閣が崩れ落ちる未来が見えて、久遠は自然と唇の端がつり上がった。
これで脅しの切り札は無い。女であることを武器に使う女には二種類ある。女であることをアピールするタイプと、逆に男女平等でることを主張したがるタイプ。前者のタイプに関わらないことは簡単だし、後者の場合、理性的であれば会話は容易だ。問題は感情的な後者と、前者でありながら後者の主張をしたがる都合のいいタイプ。大抵が双方とも偏見と頭でっかちな価値観に縛られているから、引っ掛けるのは簡単だった。そして、女は御多分に漏れず都合のいい主張をしたがるタイプだった。

「サンキュー」
「思い切ったなー。匂わせて大丈夫なのか」
グラスを掲げた協力者に、久遠はご機嫌で自分のグラスを合わせる。
「これでもうちの会社は某大手財閥系の完全下請けよ。そんなこと出来る訳ないわあ。脅しも掛けたしね」
さすがに本音ではどうにかしたいと思っても、外面的に出来る訳がない。
「これきりだぞ」
渋々恋人の送り迎えを託したマスターは、苦りきった表情を隠しもしない。優しいアリスを純粋無垢なままにしておくから悪いのだ。
「もちろん今回きりよ。アタシだって弱みを全部見せて助力を乞うなんて一度で充分」
アリスのような優しい相手だからこそ通用する手段だ。普通なら付け込まれる。
「あの、宮さん。大事な方は助かったんですか」
「ええ。ありがとうアリス」
おずおずと久遠に話しかけるアリスの頭を抱え込んで髪を掻きまわすと、唯でさえあまり機嫌の良くなかったマスターの顔が渋いものになった。
「あ、将棋」
気付いたアリスが泣きそうな表情になって呼び掛ける。
「俺の心が狭いだけ。可愛い蔵斗を誰にも触らせたくない」
今までの苦い表情は何処へやら、柔和に笑うマスターに、周囲は勝手にやってろと言う気分だ。
さすがに恥ずかしくなったのか、アリスはさっさと引っ込んでしまった。
「頭撫でただけじゃないの」
「これでも我慢してるよ。宮もそのうち他人事じゃなくなるさ」
久遠に笑いかけるマスターの瞳は冷たい光を宿している。去るもの追わず。未練はあっても縋ることなどしたことはない。それが久遠広宮の信条だ。
それがなりふり構っていられない状況であるのは、今ひしひしと感じている。
ドアが開いた。
現れたのは会員制のパブには似合わない硬いスーツ姿の男だった。

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どうでもいい男(ひと)<7> 

連載小説

久遠広宮は鍛え上げられた肉体が好きである。
躍動する筋肉の動きに魅せられ、それを写し取る写真に傾倒していろいろな試合を見に行くようになった。と、同時に何故そこまで夢中になるのか考えたとき、自分の偏った性癖に思い至ってしまったのだ。
同時に思春期から違和感を覚えていた自分の言葉にも。
それからの行動は早かった。優秀すぎる成績で地元の大学に通うかたわら、バイトでとにかく金を貯めた。卒業と同時に東京へ就職して、自分の性癖をオープンに出来る店に出入りを始めた。
若かったし、経験も足りなかった。変な男に引っ掛かったのも一度や二度ではない。そんな中で出会った褌パブは、ちょっとだけ鍛え上げた久遠の身体を自慢するにも、同好の士と出会うにしても絶好の場だったのだ。
褌がさして好きではない。社会から隔絶された場での解放としての褌であった筈だ。
「ああ。そうね」
朔の前では自然でいられる。最初こそ驚いていたけれど、朔は嫌悪も拒否もすることがない。それどころか、男言葉の久遠の方に違和感を持っているようだった。
「あの子の前だとそんなことしなくても良かったんだわ」
あまりにそのままの姿でいられるから。
「だろ。ちょっとくらい力になってやろうと思ったんだぜ」
「ふうん。で、いくら賭けてんのよ」
褌姿の男の鳩尾を強く指で押す。痛みで男が仰け反った。
「申し訳ない。宮ちゃんとあの子が続く方に一万」
「一万。他は?」
じろりと周囲を見回すと、悪びれずに手を上げた連中が数人。
「俺たちは続かない方に各五千」
久遠は呆れると同時に納得した。酒場での賭けなどそんなもの。その場のノリである。
「じゃあ、アンタ続く方に十万掛けなさいよ」
「おいおい、俺の稼ぎ半分持ってかれる」
抗議を申し出る男を久遠は鼻で笑った。
「そのくらいしないと本気にならないでしょ。絶対に手助けしなさいよ」
久遠の言葉に男は口を開けたままだ。
「え? 宮ちゃん本気?」
「本気も本気よ。マジで落とすわ。アタシの考え通りなら絶対に向こうも気がある筈よ」
多分間違いない。恋愛云々はともかく、好意はマックスの筈だ。
これがもっと性質のいい女であれば話は違ったが、あの女では最低クラス。しかも、会社の連中は被害者面の女の話を素直に信じる馬鹿揃いときては。
「杵築。覚悟しなさいよ」
久遠が低く呟いた。

「あら」
お洒落で瀟洒な造りの表通りのカフェは、いつも数分は並んで入るような人気店だ。お値段も少々高めではあるが、その金額の分贅沢な気分が味わえるのが女は気に入っている。
その店に入ってきた似合わない感じの男二人に、女は見覚えがあった。
奥の喫煙席を選んで座った男たちの顔は女からでは見えないが、きちんとすればもっと見栄えがするだろう背の高い男は、どこかルーズな感じのスーツを着ている。
隣の課の主任はあまり女の好みではない。何処かキツイ感じで甘やかしてくれそうな要素が無かった。
しかも、この間からやたら朔の方を持つのだ。大抵の男はこっちが泣きつけばこちらの言うことを聞いてくれる。美人というよりもふんわりとした可愛らしさは男が守ってやりたくなるような風情を醸し出していたし、嘘をついていると思われることも少なかった。
先輩女性にも一生懸命頑張ってますという装いを忘れなかったし、正社員よりも派遣で適当に勤めていく方がお得だと感じていたのだ。責任が掛かる仕事なんて御免である。
彼氏は付き合うにはいいけれど、結婚を決めるにはちょっと頼りない。朔は正社員ではあるが出世にそんなに目の色を変えてもいないし、あの会社はそんなに給料は悪くない。辞めた後もキープしておきたかったのに、結婚前提の付き合いを断ったくらいであんなに冷たくなるなんて思わなかった。
女としては番狂わせもいいところである。
あまりに悔しかったので、ホモだって言いふらすと脅した。それであっさりと折れた朔に女は拍子抜けだ。
でも、こんなところに二人揃って入るなんて、本当に?
女は何処までも偏見の塊で狭量だった。世にスイーツ男子などと呼ばれるものがいると知識では知っていても、男二人でお高いカフェでケーキなどあり得ないと思っている。男性がカフェに来るのは女性の付き添いに決まっている。女はすっかりと自分のことを遠くの棚に上げていた。誰が好き好んで偏見で笑われると解っていることを言うだろうか、言う訳がない。
喫煙室には他に客は存在せず、ウェイトレスが運んでいったパフェはあの男二人で食べるに違いなかった。
首を伸ばして覗き込むと、男たちは二人で二つのパフェをシェアしているようだ。友人同士でも仲が良ければ普通にやる行為だが、女の頭は偏見で凝り固まっており、どうしても同性愛者だと決めつけたいのだから、始末に悪い。
こっそりと写真を撮った。スマホのシャッター音は意外と大きく、店員に注意されてしまう。周囲の客が笑っているような気がして、女はそそくさと店を出た。
「行ったぞ」
「あんまりじろじろ見るのは止めろ。気付かれたらどうする」
女が立ち上がり出て行った背を見送り、男は久遠の陰からひょっこりと顔を出す。
「大丈夫だろ。鈍そうな女じゃん。腐った女子に目を付けられそうな行動したし、ああいうのは一度思い込んだら他には目は向けないからさ。じゃ、ここ宮ちゃんのおごりね」
「よくそんな胸やけのしそうなものいくつも食えるな」
久遠がげんなりした声を上げた。甘いものは嫌いじゃないが、さすがにパフェ二つをぺろりと平らげるのを目の前で見せられるとぐったりと脱力してしまう。
「で、後は?」
「駅前の大型電化製品売り場だ」
「ふん。本格的に罠仕掛ける気なんだ」
はっきりと言い切った久遠に、男が人の悪い笑いを浮かべた。当たり前だ。そのまま放置する気など無い。おそらく何らかの手段で朔に脅しを掛けているのだろう女に同情の余地などある訳も無かった。
そしてこういう女の常として目の前にぶら下げたネタに食いついて来ない訳は無いのだ。

数日後には久遠はすっかりと周りから距離を置かれるようになっていた。どころか、部下に話しかけようとすると逃げを打たれる始末だ。もちろん、まったく変化のないものもいるが、数は少ない。
「止めが利きすぎたかな」
ぼそりと呟いた久遠を気に留める人間は皆無だ。さすがに様子が可笑しいのに気づいたか、朔からは心配そうな視線を投げかけられる。
それに久遠は心配するなと手を振った。朔の顔がちょっとだけ緩んだのが解る。さすがに自分一人で抱え込むのも限界だろう。あまり顔色が良くない。
「久遠。部長がお呼びだ」
「はい」
振り返ると女がクスリと笑っているのが見えた。まったくもって質の悪い女だ。勝ち誇ったような笑みを見やって久遠は立ち上がる。
「これ以上好き勝手されても困るわね」
口の中の呟きは久遠の中での戦闘開始の合図だった。
「久遠主任。君がいかがわしい店へ出入りしていると報告があってね。こういうことが漏れては困るんだよ。もちろん、本人の趣味に口を出す気は無いが」
要するに下請けへの移動をチラつかせた事実上の首宣言だ。
「はあ。何がでしょうか」
「いくら何でも、出会い系のような店は人の口に上りやすい。解るだろう」
「出会い系ですか」
会員制のふんどしパブ程度で如何わしいか。ホントの出会い系の実態なんぞ知ったら卒倒しそうだと久遠は心の中で突っ込みを入れた。
「趣味は社交ダンスですが。最近はじめまして」
「社交、ダンス?」
目の前の部長の間抜け面に噴出さなかったのを褒めて欲しいくらいだ。久遠は腹に力を入れた。

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転げ落ちた先のその先<転げ落ちた先に>番外 

転げ落ちた先に

「道が違うぞ」
「いや、花見に行こうと思ってな」
助手席から怪訝な声を上げた鈴木に、渥美は真っすぐに前を向いたまま答えた。二人で暮らす家に向かうのとは逆方向に向かった車に、すぐに違和感を覚えたらしい。
妙な忙しなさに追われる毎日の勤務をこなした週末。いつも以上に鈴木は痩せた身体に気だるさを纏わりつかせていた。その妙な色気を微かに発した姿を横目で眺めつつ、危うく見とれそうな自分を渥美は引き止め、ハンドルを握る手に力を込めた。
夕闇に沈み始める街を眼下に見下ろしつつ、埋め立て地を結ぶ湾岸の高速道を走る。その光景を見ながらも鈴木は言葉の違和感に助手席に預けた身体を少し浮かせた。
「花見?」
「ああ。数日前に取引先に行った時に見事だったんでな。お前にも見せたいと思って」
花、と口の中で単語を転がしながら鈴木はじっと考え込む。未だ寒さの厳しい二月の終わり。冬の華。
「椿か、夜に見るような場所があったか」
「まぁ、見てのお楽しみって奴だ」
何かを企んでいるような笑みは、普段上司然とゆったりとした表情を崩さない渥美が鈴木にだけ向けるもので、鈴木はそれに応えるような艶然とした笑みを浮かべる。
お互いに特別であることを知っているからこその、互いにだけ見せる顔は学生だった頃そのままの共犯者のそれだった。

「起きろ。そろそろだ」
ゆったりと揺らされて鈴木はうっすらと目を開く。とバックミラーに映った色彩に目を奪われた。埋め尽くされたピンクの花が灯りに照らされ、夜景に映える。
「さくら」
まさしく目が覚めるような光景に、鈴木はがばりと身体を起こす。道なりに植えられた桜がライトアップされて夜の闇に浮かび上がる様は、まさしく見事の一言に尽きる。
「今、二月だぞ。何処まで来たんだ?」
「三浦」
「三浦?」
会社からそう離れていないどころか、充分に通勤圏の地名に鈴木は目を見開いた。渥美は先週から出張などしていない。となれば、見たのは数時間で往復できる範囲ということだ。
「河津桜か、すごいな」
「知ってたか」
「聞いたことはあるが。こんな近場で見事に咲いているとは思わなかった」
静岡の河津が原産の早咲きの桜は、通勤圏の道なりに植えられている染井吉野に比べると色が濃く、宵闇に映える。
「時期が長い所為か、結構満開の時期がずれるらしい。最初、何の花だろうと思った」
「桜なんぞ、木を見りゃ解るだろう」
あっさりと断じられて、渥美は苦笑いを浮かべた。学生時代の先輩でもあるこの男は、興味を持ったらとことん知識を入れるし、物覚えもいい。だが、頭のいい人間にありがちな自分を基準にして見る癖はどうしようもなかった。
そんな渥美の内心など知る筈もなく、鈴木は目の前に広がる光景に目を奪われている。
「なぁ、近くで見たいんだが。何処かで車止められるか?」
「もう少しで駅に着くから、ちょっと待て」
好奇心に逸る心を抑えきれないらしい鈴木に、渥美は意外に思いつつも待ったを掛けた。駅前にある背の低い木ならば、身近で眺められるはずだと事前に調べてある。
近くのパーキングに車を止め、徒歩で駅へと向かった。渥美の頭よりも低い位置にある花は、鈴木も目の前で見ることが出来る。
「やっぱり花の色が濃いな。親は緋寒と大島だったか。自然交配って話だが」
花に触れながら、あちらこちらと見比べている鈴木は夢中になると人の話など聞いていない。これは気が済むまで好きにさせるしかないと、渥美はひたすら傍観を決め込む。
さすがに寒いと自販機で買った缶コーヒーを鈴木のコートのポケットに突っ込むと、自分は背後で風よけになりつつ缶コーヒーをすすった。
「……、っしゅん」
気の抜けたくしゃみをした鈴木に、渥美はようやく声を掛ける。
「ほら、気は済んだだろう。ちょっと温まろう」
「え? こんな場所に店なんて」
我に返ったらしい鈴木が、昼間はそれなりに賑わっていたらしい閉まった露店のテントの残る駅前を見回しながら、渥美に視線を戻す。
「お前が桜に夢中になってたお陰でレストランは閉まったけどな」
関東とはいえ余程の中心街でも無ければ、駅前の店など九時を過ぎれば閉まってしまう。
「女王陛下をお連れするような店じゃないが、魚は美味かったぞ」
さりげなく手を鈴木の背に回した渥美が鈴木を伴ったのは、駅前にある居酒屋だ。
「席空いてますか」
「いらっしゃい。お客さん、二人? カウンターなら空いてるよ」
愛想のいい中年女が二人して声を上げる。
「ああ。構わない」
珍しく鈴木が返事をした。
「車なんで酒は呑めないけど、食事出来る?」
「残念だけど、マグロは売り切れ。しらす丼ならあるわよ」
問い掛けた鈴木への答えは明快なものだ。三崎と言えばマグロとしらすが有名である。
「じゃあ、それ。卵焼き美味そうだな」
「二人分?」
「いや、俺は煮つけとおでんにしよう」
小食の鈴木に丼一人前が入る筈もない。渥美はさっさと他のものを頼んだ。
姦しいくらいの周囲の喧騒も、鈴木はあまり気にならないらしい。それとも未だ早咲きの桜に気を取られているのか、ゆったりと外の風景を眺めている。
「随分気に入ったみたいだな」
「自然交配っていうのに興味はあるな。株によって開花時期も大分ずれるんだと。桜っていうのは大抵は交配種で同じような変化を遂げるから珍しい」
どうやら、時折ある渥美にはまったく判らない興味の範囲らしい。
「一軒家なら一株欲しいところだ」
「家まで買う気はないぞ」
鈴木の我が侭ならば大抵は聞くが、それはさすがに論外だ。
「いや、俺もそのために数千万出す気は無い」
さらりと言った鈴木にそれなりの貯えがあるのを思い出し、渥美はほっと胸を撫でおろした。綺麗だったから見せたいと思っただけで、妙な研究心を持ち出されるとは思っていなかった。
「まぁ、毎年来れればいい。来年もその次もお前が連れてきてくれるんだろう」
さらりと落とされた爆弾に、渥美は必至で緩みそうな頬を引き締める。ごまかすために煙草が欲しい。鈴木の身体を考えて止めたのだが、それをこんな場で後悔するとは思わなかった。
「会社帰りに来れるからな」
伏せ気味にして表情を悟られないように、そういうのが精一杯。女王陛下は時折嬉しいご褒美をくれる。

≺おわり⋗

冬のお花見の話。春イベントの無配SSでした。新刊「転げ落ちた後で」ということで、渥美×鈴木。

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どうでもいい男(ひと)<6> 

連載小説

翌日、久遠は珍しく早めに出社した。元々、会社ではデカい猫を被っている所為で、早くに目覚めてはいるが、会社にはギリギリに出社している。猫を被るのに気を配るくらいなら、自分の為に朝食を作ったりランニングをしていた方がいい。
久遠が席に着くと、こそこそと隣の男と会話していた部下が振り向いた。
「おはようございます。今日は早いですね」
「おはよう。たまたま前の地下鉄に間に合ったんだ」
周囲はいつにも増して騒がしい。どうやら、昨日の朔の呼び出し理由が漸く疎い連中にまで回ってきたらしかった。
「主任、主任は知ってますか。杵築さんが昨日部長に呼び出された理由」
「いや、知らん」
上司的にはくだらない中傷と判断されたようで周知されることは無かったし、付き合いの悪い久遠に態々知らせて来る相手も無い。久遠が知っているのは朔から受けた個人的な相談の内容のみだ。
「どうやら、派遣の女の子に迫ってたらしいですよ。女の子が耐えかねて上司に相談したらしいんですが」
「くだらない。杵築の立場でか? どうするんだ。痴漢でもやってたのか」
「いや付き合えって迫ってたみたいなんですけれど。あれ?」
「部長の子飼いって訳でもない。役付きでもない。何を交換条件にするんだ?」
久遠に言われて、ご注進に及んだ部下は事態の不自然さに気付いたらしい。
「何ヶ月も我慢するような相手か」
「気が弱そうな人ですもんね、杵築さん」
人柄的にも不自然だと思ったらしく、それ以上の突っ込んだ会話も無かった。隣で噂話を聞かされていた相手も頷いている。それを見て、久遠はパソコンを立ち上げた。仕事はいくらでもある。
彼らの話が聞こえていた範囲のざわつきは収まったが、そこかしこで小声の会話は続いていた。
「おはようございます」
扉を開いて入ってきた朔を見た瞬間、会話がぴたりと止まる。内容は押して知るべしであった。気まずげに視線を逸らすもの、胡乱な視線で見るもの、気にせず挨拶を交わすものと反応は様々だ。
「おう、おはよう」
「久遠主任、おはようございます」
気にしないようにと努力をしているのは立派だが、顔つきが強張っているのが解る。あまり眠れていないのか、顔に疲れが見えた。
大丈夫かと駆け寄りたい気持ちを久遠は何とか抑えつける。
やはり、今日も誘いを掛けようと考え、久遠は意識を朔から切り離す。そうでもしなければ仕事にならないくらいに心配している自分がいた。

「顔色悪いな。眠れていないだろう」
「いえ、そんなことは」
応える朔の口調は固い。こちらと視線を合わせようとしない朔に、久遠は避けられているのかといぶかった。
エレベーターホールにはまだ人がいて、誰に聞かれるか判らない。あからさまな誘いも掛けられず、久遠はじりじりしていた。
強引にでも誘いをかければ、朔ならば付いてくるだろうと思っていたが、これは改めて久遠の性癖に引かれたかと思いいたる。ただ、このままでは朔は持たないだろうとも考えると、迷いも生じた。
「ちょっといいか。杵築」
喫煙スペースに連れ出し、詳しい話を聞こうとした久遠に朔の表情は硬いままだ。
「何があった」
「何もありません。これ以上久遠主任に迷惑は掛けられませんから」
取り付く島もない朔に、久遠はそれ以上の言葉を掛けることを諦める。歩き去る朔の背中を眺めめていると、派遣の女が軽く朔の背を叩くのが見えた。それにびっくりしたような朔が振り返る。
「あら、あの子こんな時間に何してるのよ」
派遣の労働時間はとうに終わっている。呟きつつ、久遠は火の付いていない煙草を銜えたまま、その二人の姿を眺めていた。

「う~~~ん」
口の中でもごもごと肉を咀嚼しつつ、久遠の思考は明後日の方向へと飛んでいる。去り際の朔の顔が気になるのだ。心底びっくりしたと言わんばかりの何処かおびえたような。
「考えられることはいくつかあるんだけどねぇ」
「さっきからぶつぶつ呟いて気持ち悪いな」
どうやら結構デカい声で呟いていたらしい。気味悪げに久遠を見る褌パブのマスターと目が合った。
「将ちゃん。結構頭いいわよね」
「何だ。気持ち悪いな」
癖のある笑いを閃かせるマスター・将棋に久遠は、頭に引っ掛かったちょっとした疑問を投げかけた。久遠自身、何が引っ掛かるのかが判らなかったのだ。
「復縁はあり得ないだろうな。宮を近づかせないようにしているみたいに見えるんだが」
「何か握られたかしらねぇ」
「それが一番だろう。宮とそいつが一緒にいるのを見て、何か気を回したか」
親身に聞いているとは言い難いが、投げた疑問には率直な答えが返ってくる。
「ねぇ。ちょっと試してみたいことがあるんだけど。協力してくれない?」
「あまりいいことじゃ無さそうだがな。第一、俺に何の得があるんだ?」
そういわれることは解っていたので、久遠は肩を竦めて話を打ち切った。確かに常連客ではあるが、それ以上の繋がりは無い。話を聞いてくれるのは料金の内だろうが、力を貸す謂れは無いだろう。
「面白そうだな。俺に一口噛ませろよ。この間のかわいこちゃん絡みだろ」
話を聞いていたらしい男が、久遠の背後から声を掛けて来た。常連の一人だが、誰彼構わずナンパする癖があり、要注意人物扱いだ。本人はその噂すら楽しんでいる風で、本日も真っ白な六尺褌を締めている。
「アンタだとあの子の身が危なそうなんでノーサンキュー!」
「そういうなって。珍しく宮ちゃん本気っぽいじゃん」
何処までも軽い男を、久遠はじろりと睨むだけだ。
「アンタたちの娯楽になるのは真っ平ごめんだっていったでしょ。倉田、お金ここに置くわよ」
「いやいや。そう言うなって。宮ちゃん気付いてるか? アンタの褌ここしばらく見てないぜ」
指摘されて久遠ははっと気付く。久遠自身それほど褌が好きと言う訳では無かった。鍛え上げた自分の身体を見せる相手がいないので、何となくここへ来てしまっていた。
「アラ」
思わず青くなって口元を押える。その久遠を見て、周囲の連中が天を見上げた。

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