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俺の主治医<1> 

外科医草野が執着する拾った男は。

<2> <3> <4> <5> <6> <7> <8> <9> <10>完
番外編「クリスマス・キャロル」 続編「通り雨」

その日、草野克利は憂鬱だった。
中規模ではあるが、地域ではそこそこ信頼されている総合病院香田病院に勤めて、早十年。
研修医時代から世話になっている病院スタッフとの関係も良好。
患者の信頼も厚く、もう若いとは云えないが、それでも男の三十六歳は、まだまだ働き盛り。身体も頑健で何ら問題は無い。
困ることと云えば、持ち込まれる結婚話に辟易しているくらいだ。

だった筈だが。

最近、問題が一つ。

「草野。特別室の神田さん、呼んでるぞ」
覗いた顔は、看護師の田沼だ。医大で同期だったが、途中で医者は向かないと看護師になった変り種である。
克利は、深くため息を漏らしてしまった。
「お前、患者のトコ行くのに、景気悪い顔止めろよ」
「良い加減疲れてんだよ。どうせ、具合なんか悪くねぇんだぜ。あのじじい」
「ぼやくな。特別室の患者がわがままなのは、今に始まったことじゃ無いだろ? さっさと行けよ。草野先生から経過を伺いたいんだとさ」
判ってはいても、ぼやきたいのは人情と云うものだ。
それに、田沼には云っていない理由が存在するのは、知られたく無かった。
「仕方ねぇな」
開けっ放しだった白衣の前を閉めて、克利はしぶしぶ特別室へ向かった。


「神田さん。どうですか? 痛みはありませんか?」
さっきまでぼやいていたとは思えない、整った顔に微笑さえ浮かべて、克利は特別室の扉を開けた。
「おう、先生。ちぃっとまだ痛むみてえなんだ」
室内に入ると、大柄な男たちが3人、さっと席を立つ。
入り口と窓際には最初から、2人立ったままの男たちが微動だにしない。
「そうですか。傷口の付近ですか?」
「そうだな。腕を動かすと引きつったみてえに痛むんだが」
「ああ、右腕ですね」
リクライニングのベッドに座った男は、痛むと云いながら、何でも無いように、腕を動かしてみせる。
大柄な身体に見合った綺麗な筋肉の動きは、ベッドで『絶対安静』の処置中の患者だとは、百人のうちの九十九人は絶対にそうは思わない筈だ。
重症と云う触れ込みで担ぎ込まれて来たこの患者は、確かに銃創を負ってはいたものの、脇腹をほんの数センチ掠めた程度で、入院するほどの怪我等では決して無かった。
それを特別室で完全看護させているのは、院長の事なかれ主義と、克利自身の取れるとこから搾り取る、銭ゲバ精神の賜物だ。
『特別室で完全看護の料金が払える奴なんぞ、真っ当な仕事などやってない』というのが、克利の論理だ。
一般病棟からの、一万二万の袖の下は断っても、特別病棟の百万は断らない男なのである。
本音としては、
『ヤクザが一丁前に痛がってんじゃねぇよ。この狸ジジイが』
と思いつつも、
「傷口がまだうまく塞がっていませんね。痛み止めでも打っておきましょう」
と、にっこりと笑って云える男でもある。


当然、発砲事件と云うことで警察の事情聴取などもあるのだが、それも痛み止めの処方をしたとなれば、伸ばすことが出来る。
ソレを見越した上での克利の呼び出しなのだ。
しかも、全てを指示することも、脅すことも無く、事を患者の有利に運ぶやり方に、神田はいたく克利を御気に召したようだった。

「なぁ、先生。俺の主治医になる話、考えてくれたか?」

この誘いも、一度や二度では無い。
「神田さんが私のことを高く買って下さるのはありがたいんですが、まだ私は勉強中でして」
『ヤクザの主治医になるほど腐っていない』などど青いことをのたまう気は無いが、さすがに手が後ろに廻るのはご遠慮したい。
「まぁ、気が変わったらいつでも云え。先生なら歓迎するぞ」
「ありがとうございます」
如才なく笑顔で応える。今は断っても、いつ受ける破目になるかは判らないからだ。
選択肢は多い方がいいに決まっている。曖昧に笑って特別室を後にした。

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