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BARエルミタージュ<4> 

カウンターに戻ると、何故か祥さんと真幸さんがにらみ合う形になっている。
「大体、アンタがどれだけヒロを泣かせたと思ってるワケ?」
「それは僕とヒロとの間の問題だ。君に云われる覚えは無いな」
これでも、結構年を重ねてる真幸さんは、多少どころでは無く、過保護の傾向があるが、特にヒロさんに関してはそういうところが強い。
「アンタみたいな誠実の欠片も見られないような男には、ヒロはもったいないって云ってるんだよ。アンタにはお似合いの男たちがいくらでもいるはずだろう」
「随分な云い様だな」
「多少、大げさではあるけどな。云われてることは正確だろう」
むっとした顔の祥さんに言い返したのは、トイレから戻ってきたヒロさんだ。
「トイレにしては長くないか?」
「お前が妙に煽るからだろう。宥めるのにひと苦労だぜ」
カウンターに腰を下ろすヒロさんにマスターが新しいおしぼりを差し出す。
「そんなにあの彼氏がいいかい?」
「まぁな」
言葉は少ないが、ヒロさんの目はまっすぐに祥さんを見返していた。真幸さんは横目でそれを眺めながら、グラスを傾けている。
あまりにもはっきりと答えられたのがショックだったのか、祥さんは無言で手の中のグラスを玩ぶ。
まぁ、見ていてもかなりの遊び人であることは確かだし、うちの店でも、祥さんと寝たのは数人じゃきかない筈だ。
その割りに、揉めた噂も無いから、綺麗に遊ぶタイプだろうという推測は付く。その人が執着しているのが何でヒロさんなんだろうと云う疑問は湧くが、それは個人の趣味で、俺が考えることじゃ無い。
ただ、それだけにかなりの自信家らしい祥さんは、はっきりと断られることは皆無に近かった筈だ。
「僕だって、悪くは無いと思うんだけど?」
「どっちかに本気の相手が出来るまで、ってことだっただろう?」
うわ、そんな約束してたのか。意外とヒロさんも自信家だということは知ってるけど、俺から見ると、どうしてそんなに自分に自信が持てるのかが不思議だ。
そうこうしてると佐伯さんも、トイレから戻ってきた。どう云い含められたのか、ヒロさんの腰に廻された祥さんの手を払うことはしない。
「本気な訳だ」
「俺は、な」
戻ってきた佐伯さんを見やる祥さんの瞳には悔しげな色がありありと浮かんでいた。
「それでいいのかい? 僕が浮気したら、すぐにぎこちなくなっていたじゃないか。コイツの評判は君だって知っているだろう?」
いつものスマートな祥さんとは思えない嫌味だ。
「やだやだ、この男。何でも自分基準で」
既にへべれげに近いはずだと云うのに、真幸さんの突っ込みは絶妙で、ホントにこの人は酔っ払いなのかと疑りたくなる。
「どういう評判かは知らん。俺は会社と家でのこいつしか知らないし、別にそれでいい」
あっさりと答えたヒロさんは、やんわりと腰に廻された祥さんの手を外すとそのまま立ち上がった。
「おい、佐伯。帰るぞ」
佐伯さんもマスターに会釈をして立ち上がる。
「またね~、ヒロ。今度ゆっくり呑もうよぉ」
呂律の廻らない舌で、真幸さんが手をあげると、ヒロさんが笑って隣に立った美丈夫を見やった。
「俺も一緒でいいか?」
佐伯さんはすかさず、真幸さんに問いを返す。真幸さんはすごく嫌そうに顔を歪めていた。
「仕方ないね。いいよ。もう、やだなぁ、こいつすんごい焼き餅焼きじゃん。ああ、鬱陶しい」
大げさにため息をついてはいるものの、真幸さんはそのままカウンターに突っ伏して手だけ、ひらひらと振っている。
もう行け、判った。なのか、それとも、勝手にしろ。なのかは謎だけど。
「まったくだ。じゃ、またな。真幸」
そう答えて、真幸さんの頭を叩いたヒロさんの顔に広がった表情は、正直『何処がいいんだこんな奴』と思っていた俺も、打ち抜かれそうな会心の笑みで、思わず見とれてしまった。
「ホント、鬱陶しいくらいに愛されちゃってるよね。いいなぁ、ヒロちゃん」
ぽつりと眠り込む寸前に呟いた真幸さんの言葉が、俺に響く。
うん。俺も羨ましいよ。
勘定を済ませて店を出る二人は、妙にお似合いで、俺はほほえましい気分で見送った。何より、それを見送ったマスターの顔が、本当に見たこともないくらいに幸せそうだったからだ。
その所為か、出て行くヒロさんに、
「そいつに飽きたら、声掛けて。いつでもいいから」
と能天気な声を掛けていた祥さんの行動が、未練がましい真似に見える。
少なくとも、自分はああはなりたくなかった。


「すみません。真幸さんは」
幾分乱暴に開いたドアに、ちょっとびっくりして顔を上げると、見慣れた常連の、まだ少年の面立ちを色濃く残した凛々しい顔立ちがあった。
「上総くん。真幸くん、すっかり上機嫌で寝ちゃったよ。タクシー呼ぶかい? それとも、一杯くらい呑んでいく?」
この人が真幸さんの随分と年下の番犬・上総さん。
「あ、すみません。タクシーを」
「上総ぁ、お前も呑めよ」
へべれげの筈の真幸さんが、むくりと起き上がると上総さんの腕を捕らえる。
「はいはい。解りました。マスター、僕も何かもらえます?」
「そうだな。新しいカクテル作ったんだけど、試すかい?」
「あ、そうですね」
まだ、未成年の上総さんにアルコールを出すわけには行かないし、第一、酒を出したら、迎えにならない。
さっと、ノンアルコールのカクテルをシェイクする。
「どうぞ」
「ありがとう」
にっこり笑って、上総さんが受け取った。
「かんぱ~~~い」
上機嫌で真幸さんが上総さんのグラスに自分のグラスを合わせる。
「本当にご機嫌ですね」
上総さんは不思議そうに云う。まぁ、荒れていると云う連絡をしたのに、来てみるとご機嫌になっているのは不可思議以外の何者でも無いだろう。
「うん、ヒロの男が結構イイ奴でさ。アイツもすんごく幸せそうなの」
「それは……良かったですね」
ちょっと複雑そうな表情で、上総さんがうなずいた。
まぁ、複雑だよな。自分が好きな人の、好きな相手の話を聞くなんて。
それでも、上総さんは辛抱強く、その話を聞いている。
「ヒロは男運無かったからさ~。これで安心できそうだよ」
「真幸くんもそろそろ自分の心配をした方が良くないかい? 若い子の心配ばっかりしてないで」
マスターが笑いながら、上総さんにおつまみを差し出す。
「マスターこそ。そろそろ自由になってもい~んじゃない?」
真幸さんの言葉に、マスターが目を細めた。怒っているとも呆れているともつかない表情に、それが触れられたくないことだと知る。
真幸さんは店が出来た頃からの常連だというのは聞いていたが、何を知っているんだろう。
俺が、真幸さんに嫉妬してしまうのは、こういう時だ。
いくら若く見えようが、真幸さんはそれなりの年だし、付き合っている年月が違うのだから、知らないことがあるのは当然なんだけど、マスターのこととなったら話は別だ。
「マスターのことはいいですから。真幸さん、足に来ないうちに帰りましょうよ。もう、年なんですから」
「年だって~、ナマ云うんじゃ無いって、ガキ!」
上総さんも、不快だったらしく、珍しく言葉の選び方を間違えている。普段、真幸さんを怒らせるような言い方する人じゃ無いのに。
ぴんと上総さんのおでこを人差し指でつついた真幸さんは、唇を尖らせて拗ねた様子を示した。どっちが子供なんだか。
「すみません、真幸さんは充分お若いですよ。とても、俺の倍の年とは思えないです」
むっとした顔で真幸さんが立ち上がる。
「そんな、オジサンの相手なんかしたくないだろ? 君は君に相応しい、若い子とでも呑みに行ったら」
真幸さんは、幾枚かの札を乱暴にカウンターに叩きつけ、とても酔っ払いとは思えないしゃきしゃきした足取りで歩き去っていった。
「そんなことありませんって、真幸さんってば」
それを追って、上総さんがきびすを返す。

「ありがとうございました」
マスターが苦笑いのまま、二人を見送った。
「上総さんも尻に敷かれてるなぁ」
「そうかな。なかなか上手いよ。上総くんは。真幸くんはしっかりものに見えるけど、甘えるのが下手なだけだからね」
俺は、真幸さんをあんなに怒らせて、上総さんは大丈夫なのだろうかと、半ば呆れて見てしまったが、マスターは違う見方をしてるみたいだ。
それだけ人を見る目があると云うことなのか、それとも、真幸さんとの付き合いの長さが違うと云う事か。
どっちにしろ面白くなくて、俺はちょっとだけ落ち込んだ。


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