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俺の主治医<2> 

コンビニは好きでは無いが、手術明けの疲れた身体で食事を作るのが面倒で、克利は仕方なく駅から自宅へ行く途中にあるコンビニへ立ち寄った。
駅向こうのスーパーまでは、到底足を伸ばす気にはなれない。
それでも脂っこい弁当などは口にする気になれず、いくつかのレトルト食品とスポーツドリンクを買い込んだ。


公園を抜けた所にあるマンションに、克利の自室はある。
明るいうちはかなり賑わうこの公園は、日が落ちてしまうとがらりと様相を変えた。
昼間は強い日差しを和らげる木陰が、夜は周りの視線を遮る壁になる。
週末がくれば、刺激的な戯れを楽しむカップルの格好のデートスポットだ。
外灯の明かりさえ届かない薄暗い片隅で、争う気配に気付いた克利は、思わずため息を漏らす。
公園の出口までは後僅かだ。拘わりたくは無いと足を速めることは簡単だが、死人でも出たときに、後で知らん顔をしていたことがバレると厄介だ。
一応は、医者としての評判は気になる。
ここは一応、警察を呼ぶなり、大声を上げるなりするべきだろう。


逡巡していると、争う声は一層激しくなってくる。
これは迷っている場合では無いのかもしれない。と克利は覚悟を決めて、声を上げた。

「そこで何をしているッ!」

出来るだけ、大声を上げて暗がりに踏み込んだ。
そこにいたのは、四人の男だ。殴り合いの音だと思ったが、どうやら一人の男が、他の三人を相手どっているらしい。
足元には、二人が既にうずくまっていた。
いきなり現れた克利に驚いたらしい。三人を殴り付けていた男が振り返る。
その隙を相手は逃さなかった。
男を殴りつけ、倒れた男のわき腹を蹴り付ける。
克利は、慌てて男に駆け寄った。
「おい、大丈夫か?」
何処も打っていないか確認をする。
相手は、男が昏倒したのをこれ幸いと、倒れている仲間を助け起こして逃げ出して行く。
息は正常だが、小さくうめいたきりで意識が無かった。
どうやら、頭を強く打っているようだ。
克利は、抱え込んだやっかいごとに舌打ちをしながら、119番へ電話を掛ける。
「場所は市民プール横の公園です。西側の出口の近くになります。頭を打っています。意識がありません」
場所と症状だけ手短に伝えると、今度は病院へ電話を掛けた。
「師長。今から救急車がそっちへ。頭部を打撲。CTを。脳外は今日は残ってますか?」
幸い外科の師長の桃山が夜勤だったらしく、すんなりと指示が通る。
いざと云うときの為に、脳外科の住之江も待機していてくれるように頼んだ。
頭の中身だけは、克利の範囲ではない。
駅向こうの消防署からの救急車は、すぐにやってきた。
「すみませんが、香田病院へ廻してください」
自分が医師であり、勤務先で受け入れ態勢を整えていることを伝えると、救急隊員は喜んで救急車を香田病院へと差し向ける。
救急の入り口には既にナースが待機していた。
頭部のレントゲンの指示を出し、外科の医局へ向かうと、既に脳外の住之江が待機していた。
「救急の付き添いだって? 草野先生にしては珍しい」
克利が金にならない親切をしないのは、住之江だけでなく、病院のスタッフの誰もが知っている。
「行きあわせちまったんですよ。仕方がありません」
先輩医師の皮肉に、克利は淡々と事実を述べた。皮肉をかわされて、住之江はあからさまに舌を打つ。
「可愛げが無いな」
「そんなものが私にあった例は無いと思いますが?」
何を云っても、しれっと返す克利に、住之江は無駄だとばかりにため息を付いた。
「先生方、CT上がりました」
桃山師長がレントゲンをシャーカステンに挟むと、今までの嫌みったらしい態度がころりと変わって、住之江は医者の顔になっている。
「血液の凝固も無いな。これなら、脳外はいらん」
「じゃあ、意識が戻るまで外科で引き取りましょう」
桃山に処置室に連れてくるよう指示を出し、白衣を着て処置室に向かう。
脳に異常が無いとは云え、頭部の出血だ。処置が早いに越したことは無い。


「脳に出血が無い割には大きいな」
どうするか迷ったが、処置をするところだけ、最低限の頭髪の処理をして、傷口を縫合した。
化膿止めの点滴と痛み止めを打ち、処置室を出ると、そこだけ明るい待合室に人の影が動く。
時間外診療の連絡は無いから、患者では無い筈だ。


「先生。どうも」
にやりと笑って頭を下げた男の、見知った顔を見て、克利は隠しもせずにため息をついた。
「何の用ですか? 刑事さん。診療時間外なんです。患者さんへの質問は面会時間内にお願いしたいんですが?」
特別室の神田に、しつこく事件のことを聞きに来る所轄の刑事だ。怪我の状態など、何度も同じことの繰り返しで、正直、克利はうんざりしている。
しかも、今日は当直でも無いのに、時間外の処置を済ませたばかりだ。
「今日は神田のことじゃありません。本間のことを伺いたいんですが」
「本間?」
「本間亮。先生が今日救急車でココに運んだ男ですよ」
「ああ」
意識を失ったままの急患だ。名前など知りようも無い。
「状況をうかがいたいんですが。よろしいですか?」
「ええ。どうぞ」
本来なら医局まで戻るべきなのだろうが、そんなことをこの男相手にするつもりは無い。
「実は、暴行の訴えがありましてね。本間に公園で暴行された、と。どんな風だったんですか?」
時間外の待合室なんぞ誰も来ないだろうと、その場で刑事の話を聞くことにした。
「通り掛ったら、争う声がしたんで。声を掛けたら、患者が殴られるところでした。意識が無かったので、救急車を呼びました」
至って冷静に、事実のみを並べる。
「彼らは殴られたので、殺されると思ったと云ってるんですが」
「私が見たのは、患者が一人の男に掴みかかっているところです。しかも、彼が倒れた後に、三人とも元気に逃げ出して行ったようですが?」
「……殴られるところは見ていないと?」
「はい」
「本間にはいつ会わせていただけますか?」
これ以上の質問は無駄だと思ったのか、刑事はターゲットを切り替えたようだ。
「会わせるも何も、意識が戻っていません。しかも、後頭部がぱっくり割れてましてね。幸い脳に血腫は無かったですが、二、三日は安静です」
「つまり会わせるつもりは無いと?」
「意識不明の状態で会っても仕方が無いでしょう?」
刑事はどうやら克利が嘘を付いていると思っているらしい。だが、訂正する気も起きなかった。
「あんたなぁ……。そんなにヤクザに肩入れしてどうする気なんだ?」
この刑事が来たと云う事で、克利にも予測はついていたが、患者はやはりヤクザらしい。正直、克利には興味も無い。単なる患者としか見てはいないし、金を払ってくれればお客様だ。
「別に私はヤクザに肩入れしている訳ではありません。ただ、患者の安静は守っていただきたい。私には事件なんかどうでもいいんですよ。患者が第一なんでね」
「成る程ね」
刑事は、ムカついていることを隠しもせず、唾を吐くと、足早に立ち去って行った。


「何ですか? あの人は」
さすがの桃山も態度の悪さに呆れ果てたようだ。
「あんな態度じゃ、知ってても何も云いたくないわ」
「師長。本間さんは個室に入れてくれ。3日間安静だ」
ティッシュで床をぬぐっていた桃山が、にやりと笑った。
「はい。面会謝絶ですね?」
「そうだ。ヤクザだろうが何だろうが、病院にいる間は患者だ。完治して出て行ってもらう」
只でさえ警察嫌いの克利は、あの刑事の所為で、より一層警察嫌いに拍車が掛かっていた。

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