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BARエルミタージュ<10> 

正直云うと、俺、初めての相手がヒロさんで良かった。と思ってる。
あのまま、煮詰まってたら、マスターに妙な迫り方して首になるか、自棄になってその辺でおかしな男に捕まってたかも。

俺が落ち着くと、ヒロさんと俺は、常連とバーテンダーのいい関係に戻った。
ヒロさんは、月に一度か二度、金曜の夜に現れては、酒を楽しむだけの時もあれば、強引に迫られた相手と出て行くこともある。
大抵の場合、相手は真幸さんだが、数ヶ月に一度の割合で、祥さんが顔を出すと、いかにも『仕方ねぇな』という雰囲気で連れ立って出て行く。
俺が入る前からの常連だったらしい祥さんは、ニューヨークにオフィスを持っていて、数ヶ月に一度、日本に帰ってくる。
帰ってくると、毎晩『エルミ』に入りびたりで、毎日、違った子をお持ち帰りするという、とんでもない遊び人だ。
でも、祥さんの感心なところは、ちゃんと遊びなれた大人の男しか誘わないこと。
その彼が、どういう訳だか、ヒロさんにはご執心で、ヒロさんが来るといつもまとわり付いている。以前は冗談だと思っていた祥さんの口説き文句も、ヒロさんが『どっちでもいい』男だと知ってからは、本気だと思えるようになった。
ヒロさんも、邪険にいなしながらも、結局強引さに負けて、何度かに一度はお持ち帰りされると云う具合だ。

ただ、幾度目かに気付いてしまったのだ。
まるで女の子みたいに、ヒロさんをエスコートして出て行く祥さんを、マスターが悲しげに見つめていることに……。

それに気付いたとき、俺は頭を殴られたような衝撃を感じた。
どっちが好きなんだ? 祥さん? ヒロさん?
どちらも、俺なんかじゃ敵いそうに無い、いい男二人だ。
それから、マスターの視線を探るように追う。
マスターの好きな人がどちらかなんて、すぐに判った。何で気付かなかったんだろう。マスターはいつも、柔らかく見守るような視線で、その男を眺めていたというのに。
マスターの視線の先は、いつも、ヒロさんがいた。
『ヒロちゃん』
そう呼び掛けるマスターの声は、いつも以上に優しい。
いつも、真剣に俺の愚痴を聞いてくれて、自棄になった俺を欲望に走ることなく優しく抱いてくれたヒロさん。
俺は、男として到底敵わないと、悔しさに唇を噛み締めた。


ヒロさんが苦手になったのはそれからだ。
嫌いじゃ無い。むしろ嫌うことなんか出来なかった。

だから、今更のように、マスターに『ヒロはいい奴だ』と云われても、俺は困ってしまう。
いい奴どころか、素敵な人だよ。ああいう男を抱きたいって気持ちは判らないけど、すごくかっこ良くて、男らしくて、優しくて―――――。
それだけに、マスターがヒロさんを何年も思い続けているのが辛い。ヒロさんが何年も一人でいるのが悪いんだ。
でも、うちの常連で一二を争う美形二人がセフレだっていうんだから、ヒロさん自身は真面目でも、『遊び』で声を掛ける人が後を絶たない。
むしろ、祥さんか真幸さんとくっついてくれれば、後腐れが無いのになどと考えたこともあった。
そのヒロさんが、店でお持ち帰りしなくなったのが、2年前で、足がぷっつりと途絶えたのは一年前だ。
パートナーが出来たんじゃないかとは、噂で聞いていた。
けど『エルミ』で見る限り、ヒロさんはかなりの面食いで、真幸さんや祥さん以外の相手も見事に綺麗系。
アレ以上って、どんな奴?って、みんな興味深々。でも、佐伯さん見て、納得したよ。
マスターが二人を見守る顔は、いつも祥さんと出て行くときに見せる悲しげな顔じゃ無かった。
やっと、諦めてくれると思ったのに。ここに来ても、ヒロさんの話か?

「俺、ヒロさんに、いろいろ愚痴聞いてもらったから、何となく苦手なんです。男として敵わないって感じがして」
「ああ。確かにコンプレックス刺激されるみたいだね。ヒロちゃんは。最初は妙な風に絡む子も多かったし」
「ヒロさんみたいに出来た人に、絡むって」
マスターの言葉に、俺は絶句した。
絡むネタがあるくらいなら、こんな風にいじけたりしない。
「ヒロちゃんは、むしろ圭くんみたいになりたかったんじゃないかな?」
「は? 俺、ですか?」
マスターが笑ってうなずいた。
「ヒロちゃんって、性格男前だし、身体つきも男っぽい。けど、すごく可愛くて優しいんだよね。意外と細かいトコに気が廻るし」
「俺みたいになる必要ないと思いますけど?」
俺は素直に云う。俺がヒロさんみたいになりたかった。そしたら、マスターは俺の方見てくれたかもしれない。
「付き合う相手は、ヒロちゃんの可愛くて真面目なところに惚れるんだけどね。ヒロちゃんは、自分は可愛くないって思い込んでるから」
そう云えば、俺にも、やたらと『可愛い』を連発してたっけ。お世辞かと思ってた。
「そのくせ、いつも相手は極上品だろう。嫉妬して馬鹿なことやる奴もいるんだよ。昔は一人で手が廻らなかったし、バイトも長続きしなくて――――
圭くんが来てくれてからは、きちんと目が届くようになったけどね」
マスターが目を細める。
「俺、役にたってますか?」
「もちろん。君にずっといてくれってお願いしたいくらいだ」
ヒロさんの中身に見合った可愛さを受け止めてくれる相手が、あの佐伯さんなんだ。
「俺、マスターが好きです」
ほっとした瞬間に、告白はするりと口から漏れた。
受けてとめて欲しい。
俺の気持ち。
ヒロさんはもう他の男のものだよ。だから、俺を見て。


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