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BARエルミタージュ<11> 

「うん。知ってたよ」
マスターは事も無げに告げてきた。
「あんな、熱い目で見られて気がつかない方がどうかしているよ」
俺は多分、耳まで赤くなっていたと思う。
気づかれていたこともそうだが、ならば何故なにも云ってくれなかったのか? それ自体が望みが無いと云うことなのか?
じっと俺を見ているマスターの視線そのものが、刑の宣告を待つ犯罪者の気分だ。
「でも、圭くんは何も云ってくれなかったし、若い頃は頼りになる年上の男に憧れたりする時期もあるからね」
「違います! 俺、本当にマスターのこと……」
「うん。それも、今では判ってるよ。あんなに何年も見つめられているとね。でも、俺自身のけりがつかないうちは、応えることは出来ないと思っていたんだ」
それって、やっぱり……。
「ヒロさんですか?」
マスターは言い当てられたと思ったのか。溜め息を吐いた。
「初めて、ヒロちゃんがうちの店に来たのって、もう十年以上前でね。すごく傷ついた顔して、まるで大型犬がたらんと尻尾たれてるみたいで。まだ学生丸出しで物慣れてなくて、真幸が誘ってようやく店の中に入ってきたんだ」
あの、ヒロさんが? 
「恋人に振られたとかで、話を聞いて欲しかったんだろうな。まぁ、男同士の場合、誰にも相談できないのが、普通だからね。結局、考えすぎて駄目になったりする。まぁ、愚痴聞いてやって、真幸が連れ出して行った」
敵わない『大人の男』だと思っていたヒロさんに、そんなことがあったなんて。
「しばらくすると立ち直ったみたいで、うちの店で結構綺麗な子を引っ掛けて出て行くようになって。あんな風だけど、結構手馴れてるんだよね。ああ、これは前の彼氏は相当のプレイボーイだったんだなと思ってたんだ」
俺はじっとマスターの話を聞いていた。マスター自身のけりをつける為の話だと解ったからだ。
「そうこうしてるうちに、どうも店の経営について相棒と意見が分かれだした。俺は、ヒロちゃんみたいな子が頼ってこれる止まり木にしたかったし、本来のバーってそういうものだと思っていた」
「相棒って……」
初めて聞く話。そうか、エルミタージュは最初、恋人と作ったんだと云っていた。
「当時の俺の恋人で、人生の相棒だと、俺は信じていた。でも、あいつは巧く行き始めた経営に欲を出したんだ。まぁ、嫌なところといいところは紙一重だって云うのは判ってたはずなんだが、顔を合わせりゃ、喧嘩ばかりして、店でも険悪で。そのうち、客に区別付け初めて」
ええ? そりゃ、駄目じゃん。
俺の贔屓目かもしれないけど、エルミって結構、客筋はいいと思う。
和気藹々としているけど、放っておいてほしい人には静かに呑ませてくれて、多少強引な人はいても、無理強いしたりする人はいない。
お金を持っていることや地位をひけらかす人もいないし、あの場ではみんな平等に呑みに来ただけの人だ。
「嫌そうな顔してるね」
俺の嫌悪を読み取ったのだろう。マスターはクスリと笑った。
「そういう圭くんだから、うちの店には必要なんだよ」
俺はその言葉に、天にも昇る心地だった。
少なくとも、振られても、俺の力は必要としてくれるという事だから。
「相棒は、そうは考えない男だった。まぁ、そのうち俺が邪魔になったんだろうな。客の一人をパトロンにして、新しい店を作るって出て行った。今じゃ、界隈じゃ知らない人なんかいないくらいのデカイ店の経営者だよ」
マスターの口元が自嘲するように歪む。思わず、マスターの手を握った。俺はここにいるよ、ずっとマスターの傍にいるから。
マスターの顔が、驚いたように俺を見た。じっと見ていたマスターが俺の肩を抱く。俺たちはお互いに、寄り添うような形で座りなおした。
「もう少し、話を聞いてくれるか?」
「はい」
マスターの癒しに少しでも俺がなれるなら、と、俺はどきどきしている鼓動を意識しないように、そのままの態勢で話の続きを促す。
「何年か経って、祥くんが現われたときにね。ヒロちゃんの元彼だってのは、すぐに判ったよ。彼を見た瞬間に、ヒロちゃんは初めて店に来たときの傷ついたような顔をしていたからね」
祥さんは懲りない人だ。どんな風だったかなんて容易に想像がつく。
「ヒロちゃんの傷ついた顔が忘れられないんだ。思うと、俺は最初からヒロちゃんに惹かれてたんだろうな。恋人が愛想を尽かすのも無理は無い」
マスターはそんなにヒロさんが好きだったんだ。
「なんで、告白しなかったんですか?」
「したよ。すみません。って謝られた。まぁ、ヒロちゃんは自分の身体嫌いだからね。同じタイプの俺じゃうまくいかないのは判ってたんだ」
「ヒロさんが可愛い子や綺麗系しか相手にしないのって、もしかして……」
コンプレックス――――。俺みたいになりたかったというヒロさんの。
「そうだね。だから、ああいう相手が現れて、俺はすごく嬉しい。やっとヒロちゃんも幸せになれるよ。それに、俺もずっと抱えてた罪悪感から開放される」
マスターは晴れやかに笑った。俺が向けてもらえたら死んでもいいと思っていた、あの微笑だ。
それを俺は、今、独り占めしている。
「圭くん。それでも俺が好きかい?」
「はい」
マスターの問いに俺ははっきりと応えた。

「圭くん。いいかい?」
問われて俺はうなづいた。それが何を意味しているか解らないほど、馬鹿じゃないつもりだ。
俺の気持ちに応えてくれる――――それだけで充分だと思う。
それが、これから先の未来を意味するものでなくても構わない。
今、お互いに求め合えるだけで良かった。


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