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初恋の男<1> 

転勤してきた上司は、初恋の相手だった。

<2> <3> <4> <5>完


圧し掛かる躯に、俺は本能的な嫌悪と恐怖を感じて、反射的に跳ね除けようともがいた。
だが、身体はまるで縫い付けられたかの様に、動かない。
這い回る何人もの手の感触に、吐き気がこみ上げた。
数人掛りで押さえつけられた身体は、抵抗どころか、動くことさえ侭ならない。
叫びを上げようとした口すら塞がれる。
俺は、声にならない悲鳴を上げていた。


     ◆◆◆


「久世ッ!」
乱暴に揺さぶられて目を開けると、見慣れてもドキリとする美貌が俺を見下ろしていた。
「さ…え、き…?」
「大丈夫か?」
優しい声に、俺はほっと息を吐く。そうか、夕べこいつ泊まってたんだっけ。
「だいぶ、うなされてたぜ?」
「ああ……」
気付くと、俺の手首は、佐伯にしっかりと捕らえられていた。
反射的に上がった足は、俺の上に乗っかった状態の佐伯を、毛布ごとベッドの下へ蹴り落とす。
「いつまで乗ってやがる!」
蹴り落とした先には布団が敷いてあるので、大したダメージは無い筈だ。
「おい、これって有りかよ? 心配したんだぜ」
それは解かっている。佐伯がそばに居てくれたことに、安心したのも事実だ。
だが、同時に俺は舌打ちしたい気分を隠しおおせない。
思ったよりも、佐伯英次と云う男に心を許している自分と、十年以上前の出来事は、未だに小さなきっかけで、トラウマを呼び覚ますものだと云うことに。
「冷てぇよな。久世は」
蹴り落とされた布団に起き上がった佐伯が、拗ねた口調で唇を尖らせた。
「冷たくて結構。気に入らなければ、他所へ行け」
「ちぇッ」
俺は、動揺を隠すように、態と冷たい声で云い放つ。佐伯はそれに、ますます拗ねた子供みたいになって布団へ潜り込んだ。
そういうところも可愛いと思っている俺は、そうとうコイツにハマってるのかもしれない。


「ねぇ、教えてくださいよ。久世さん?」
「何を?」
出社すると同時に、目を輝かせたのは、総務一のお元気娘・本田美弥だ。
「またまた、とぼけちゃって。営業の新入社員の話ですよぉ」
ちょっと待て! 庶務主任のこの俺が、週末に専務に呼ばれて知ったことを、何で週明けには知っているんだ?
「まったく、うちの女子社員の情報網はどうなってるのか、一回聞かせて欲しいね」
「え~、簡単ですよぉ」
簡単なのか??
「だって、久世さん。週末に専務に呼ばれてたじゃ無いですかぁ?」
「専務に呼ばれていても、そうとは限らないだろう?」
最近、専務に呼ばれた記憶は、と云うと、数ヶ月前の嫌な騒動絡みだった。
「営業部長の水上さんも呼ばれてましたよ」
俺の後ろのパソコンに陣取った芳野あや子も、打ち込みの手を休めることなく、話に加わる。
「しかも、主任。備品と会社のカタログ揃えてたでしょ?」
「それに、保険と年金の提出書類の枚数確認してたじゃないですかぁ?」
美弥ちゃんとあやちゃんが『ねー?』と口を揃えるのに、総務の数少ない男どもは、口をあんぐりと開けたままだ。
恐るべし、オンナども。
「ご推察の通り、佐伯の穴埋めの営業の社員だよ」
佐伯のアホは、数ヶ月前のちょっとした(?)騒動で、ゲイであることがバレた。
そのため、一時しのぎだった筈の、営業から営業事務への転属が本決まりになったのだ。
『まぁ、このご時勢にクビにならなかっただけマシ』とは、総務部長の弁である。
「しかし、新人とは云え、営業主任だからな。残念ながら若い男じゃないぞ」
「ええ~~~?」
悲鳴に近い、いかにも残念そうな声は、経理課からだ。
「何だ? そっちも狙ってたのか?」
「だって、佐伯さん、久世さんに持っていかれちゃったし」
経理の角谷の突っ込みに、俺は含んだコーヒーを吹き出しかける。
「持ってかれたって何だ! その俺と佐伯がカップルみたいな云い方は止してくれ!」
俺が怒鳴ると同時に、総務のフロアがどっと沸いた。
「おい、久世はまだオチてないらしいぞ」
「賭けはドローだな」
「俺で遊ぶなッ!」
ちなみに、ゲイであることが明らかになった佐伯は、ついでに俺に迫ってることまでバラしやがった。
それからは、事ある毎にネタにされている。
さすがにげんなりし始めた頃、原因がやってきた。


「久世」
「何だ? 佐伯!」
機嫌の悪い俺は、噛み付くように返事を返す。入ってきたのは、佐伯ともう一人・佐伯と変わらないくらい背の高い男だ。
「ご機嫌ナナメだなぁ。可愛い顔が台無しだぜ」
何が『可愛い』だ? こんなガタイのデカい三十男が可愛い訳あるか!
「お前と漫才やってる暇は無い! 新入社員置いて、とっとと失せろ!」
「へいへい。―――専務から聞いてるよな?」
「ああ」
俺は佐伯の後ろに立つ男に笑いかけた。
「営業主任の林さんですね。庶務主任の久世です」
新入社員と云っても、専務自らスカウトしてきた営業のポープだ。長身に堂々とした体躯と、ハンサムな顔の持ち主である。
「最低限の備品は用意してあります。足りなければ、庶務課へ申請してください。保険は今日中に手配します。保険証は後ほど営業部へ届けますので……」
説明をしていた俺は、林の反応がまったく無いのに気付いて、顔を上げた。林は、俺の顔をひたすら凝視している。まるでそこにいるのが信じられないという風に。
「聞いてんのか! 信吾!」
俺の怒鳴り声に、我に返ったらしい林信吾が目をしばたたかせた。
「すまん、隆」
懐かしい呼び方に、俺は必死で平静なフリを装う。
幾分、砕けた口調で、もう一度保険の件までを繰り返した。
「カタログは、今期分と前期分を用意した。他が欲しければ倉庫にある。総務に云ってくれ」
「解かった」
「名刺は取りあえずこっちを使ってくれ。写真を入れたものは、印刷させている。一週間で上がる予定だ」
パソコンで作った簡易的な名刺を手渡す。
「以上だ。質問は?」
書類に落としていた顔を上げると、今度はちゃんと聞いていたらしい林が口を開いた。
「交通費は? さっそく今日から外回りなんだが」
俺は奥のカウンターを指差す。
「そっちが経理課。伝票出して、カード貰ってくれ」
「ありがとう、隆」
林は最上級の笑みを浮かべて、経理のカウンターへ向かった。
その後姿に視線を走らせると、経理課で同じようにカードを貰っている佐伯の姿がある。
「佐伯さんも外回りですか?」
佐伯狙いだった角谷が、機嫌よく応対している。まぁ、アレだけの綺麗な顔だ。鑑賞用でも悪くは無い。
「引継ぎだ。二日間だけ」
フロアへ入って来た時とは、うって変わって無愛想に応じる佐伯に、何故か経理課では、くすくすとさざめく様な笑いが起こった。
「林さんは、久世主任とご友人なんですかぁ?」
カードを受け取って帰ろうとする林に話し掛けた美弥ちゃんも、嫌な笑いを引っ込めないまま。
「幼馴染だよ。物心付く前からのお隣さんって奴」
さすがに林が、ムッとしたまま答えると、美弥ちゃんはにっこりと微笑んだ。
「そうですかぁ。みんなびっくりしちゃったんですよぉ。久世主任を『タカ』なんて呼ぶ人、初めてだし」
まるで、俺が怖い上司であるかのような言い草だ。面白がってるだけだろう。
他人のトラブルは大きければ大きいほど、楽しいらしい。
「東京帰ってきているのも知らされなかったくらい、疎遠になってるけどな」
俺はオンナどもの勘繰りを打ち消すつもりで云ったが、今度は林が痛そうな顔をした。
だが、そっちには気付かなかったフリを押し通す。云いたいことは、解かっているつもりだった。


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