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初恋の男<2> 

俺がシャワーから出ると、台所は美味そうな匂いで溢れかえっていた。
「佐伯。今日、何?」
珍しく平日に顔を出した佐伯は、来るなり夕食を造り始める。
大体、コイツがうちに来る目的はセックスだから、来るのは週末が主だ。
野郎は毎日でも来たがったが、俺が持たねぇ。コイツ、最低三回はやりたがるんだぜ?
その代わり、家の掃除、洗濯、飯の世話までやらせるけどな。
俺は、普段は『面倒くさいが服を着て歩いている』と云われるくらいのものぐさだ。その俺が、週末しかやらない家事を、そんな疲れるセックスの後にやる訳が無い。
さすがに、来るたびに薄汚れていく家を(俺も、か?)見かねたのか、週末の家事は全て佐伯がやってくれるようになった。
「豆腐ハンバーグ。好きだよな?」
しかも、やらせてみると、佐伯は一通りの家事は何でもこなす。
「美味そうじゃん。あんかけはきのこたっぷりな」
「はいはい」
平日にこんな充実した食卓か。いいねぇ。でも、コイツ何しに来た訳?
「美味い!」
一口含むと、豆腐が口の中でとろける。あんかけの甘さとすっぱさのバランスも絶妙だ。思わず上げた声に、佐伯はにっこりと微笑む。
「そうか。良かった」
俺が大口開けて、ばかばか食ってるのを見ている佐伯は、本当に幸せそうな顔をしていた。変な奴。
「なぁ、お前さ。何で俺にここまでしてくれんの?」
食事を済ませ、洗い物をしている佐伯の背中からは、鼻歌でも聞こえてきそうだ。
「久世が美味そうに食ってくれるから、だけど?」
当たり前のように云われて、俺はちょっと居心地が悪かった。
「そーじゃなくてさ。俺が恋人だったら、その答えも納得するけどよ。俺とお前はセフレじゃねーか。ここまでしてくれる程、俺の躯がいいってワケでも無いだろ?」
自嘲するような台詞をもらした俺に、佐伯はニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
「本当に、そう思ってるのか?」
云うなり、俺の身体を抱きこみ、口付けた。
「ヤメロっ、サカってんじゃねぇよ!」
押し戻そうとする俺の躯を、佐伯がスレンダーな見栄えには似合わない馬鹿力で押さえ込む。
「可愛いこと云ってるな。止まんないぜ」
「どうして、そうなるよ! 止めろって!」
抵抗する俺を、佐伯は余裕たっぷりに後ろから抱きこんでくると、首筋に吸い付いてきた。
「本気で嫌がってるワケでもないだろ? オトナになれよ」
見透かしたように云われるのが、腹が立つ。だが、まったくもってその通りだ。
嫌だったら殴り倒してるぜ。そのために鍛え上げた身体だからな。
言葉に詰まった俺に、佐伯が欲望を押し付けてくる。
「な? いいだろ?」
今更と云う気もするが、佐伯は必ず同意を求めてきた。
もっとも、答えを返す前に、行為に入られる場合も、ままあるが、本気で嫌がっていないことを見透かした上での行動だと、俺も承知している。悔しいので口にしないだけだ。
「仕方ねぇな。一回だけにしろよ。明日も早いんだ」
まったくもって、陳腐な言い訳。
「了解」
改めて佐伯が俺を押し倒そうとした、その時――――
申し訳程度に取り付けた、インターフォンが来客を告げた。


「佐伯、待った!」
「え~ッ、ここまで来てかよ?」
躯を起した俺に、佐伯は本当に不満げに、声を上げる。
「訪ねてくる奴なんかいるのか?」
「宅配か、妹だと思うが」
圧し掛かる佐伯を押しのけようとする俺と、それでもまとわり付く佐伯の、ちょっとした攻防が起こったが、さすがにもう一度インターフォンが鳴ると、佐伯の腕が外れた。
「くそ、俺が出る」
佐伯は明らかな舌打ちをして、ドアへと向かう。
「服、直せ。妹だったら困るだろ?」
佐伯の言葉に、俺は自分の格好を見下ろして、唖然となった。
「いつの間に…」
乱れているどころか、まとわり付いているだけのワイシャツの有様に、俺は慌てて奥の部屋へ引っ込む。
「はい。今、開けます」
余所行きモードで、愛想良く応対する佐伯の声が聞こえた。
乱れたシャツを脱ぎ捨てる。しわだらけのソレを着なおすよりも、着替えた方が早い。
「何か、御用ですか?」
ドアを開けた途端、佐伯の口調が冷たく変わった。
「どうした? 佐伯」
声を掛けると、襖が開いて、佐伯が顔を覗かせる。
「林主任、来てるけど…。どうする?」
信吾だって? 
思わず、ぴくりと片眉が上がったのが、自分でも判った。
「上がってもらってくれ。すぐに行く」
話の内容の予測は付く。玄関先で出来る話では無いことは確かだ。
これから同じ会社で働く以上、いずれ避けては通れないとは思っていたが、向こうから態々来るとは意外だった。
「一体、何の用だ?」
襖を開くなり、冷たく云った俺の顔を、信吾の野郎はじっとうかがっている。
「今日、来なかったんだな」
「お前の歓迎会か。営業課のだろう。俺には関係ない」
「部長はお前も呼んだって」
「ああ」
確かに誘われはしたが、行くとは云っていない。
「水上は、お前と俺が『親しかった』頃を知ってるからな」
含んだような云い方は故意だ。
「隆…」
「その呼び方、止めようぜ。もうお互い名前で呼び合うような年でも無いだろう?」
「たか…」
「林主任。コーヒーでいいですか?」
絶句した信吾に、絶妙なタイミングで佐伯が声を掛ける。コイツ、打ち合わせしたみたいだな。
「あ、ああ…」
佐伯は俺の前にもコーヒーを置いた。
「じゃ、久世。俺はこれで」
コーヒーを入れた佐伯は、これ以上の長居は無用とばかりに腰を上げる。それに、あからさまに林がほっとした顔をした。
おい、コイツと二人だけってのは勘弁してくれ。
「待てよ。お前もいてくれ」
「いいのか? 何か重要な話なんだろう? 俺がいるの迷惑そうだぜ、林サン」
そんなことは判りきっている。俺は林に振り向いた。
「すまんが、お前と二人だけで話をする気は無い」
一気に吐き出すように云う。
「隆大。聞いてくれ、頼む―――」
「聞くだけだ」
テーブルに手をついて頭を下げる様子は、今にも土下座せんばかりの勢いだ。全ては今更だ。
「謝って済むことじゃないのは解かってる。だが、俺はずっと後悔していた」
「もう、過去のことだ。十六年も前だぞ。殺人だって時効が来る」
激高しそうな自分を抑えるのも精一杯だ。コイツの所為じゃないと判っているのに。
「ましてや、レイプは親告罪だしな。ま、男じゃレイプは成立しないか」
下を向いたままいい放った俺の、膝に置く手が震えていた。それを佐伯がぎゅっと握り締める。
「安心しろ。俺だって好奇の目で見られたいワケじゃない。口止めの必要は無いぜ」
「そんなつもりで来たんじゃない…。お前は俺に謝らせてもくれない気なのか?」
林には、俺が何に怯えているのかは、きっと解からないだろう。正直、俺は忘れたかった、忘れたつもりでいた。
「さっきも云ったが、もう過去のことだ。お前と今更『親友』に戻る気も無い」
だがな、お前の話を聞いた途端に、俺の忘れた筈の記憶は甦ってきてしまう。
「俺のしでかしたことを、無かったことにしろとは云わない。お前の気の済むようにしてくれていい」
「だったら、俺の前には現れないで欲しかったね」
吐き捨てるように云った俺の顔は、きっと醜く歪んでふた目と見られないものだったに違いなかった。
だが、同じ会社に勤める以上、それが無理な相談だと云うのも判っている。営業と総務と云う普段は付き合いの無い部署だというのが、専務を拝み倒したいくらいに有り難かった。
これで、奴が経理なんぞだったりした日には、俺は即行で会社を辞めていたに違いなかった(もっとも、そんな梃入れしても会社の実権争いに利益の無い部署に、専務自らヘッドハンティングした逸材を送りこむ訳は無かったが)。
「俺の顔も見たくないって訳か」
「別に…もう係わり合いになりたくないだけだ。赤の他人とまでは云わないが、普通の同級生でいいだろう?」
「嫌だ…!」
激しい拒絶に、俺は思わず伏せていた顔を上げる。
「いいのか。そいつ、帰さなくても。これから先はお前が困ることになるぜ」
佐伯を見据える林の目が据わっていた。
「何、を…」
一体、何を言い出す気だ? 気でも狂ったのか? コイツは?
「別に構いませんよ。俺は、久世の過去になんかこだわらない男なんです。惚れてますから」
さらりと云ったフリをして、佐伯はかなりキツイ台詞を吐いた。
「しかも、十数年も大昔のことじゃないですか」
「何だと?」
馬鹿にされたと思ったのか、林が佐伯を睨みつける。その林を見やって、佐伯が更にせせら笑うような笑みを、唇にのせた。
冷たい人を見下したような笑みは、佐伯の冷たい美貌に似合いすぎている。見惚れるくらいだと、俺はこの場には合わない感想を抱いた。
「アンタの切り札は何ですか? 十年以上前に無理やり組み敷いた躯だけでしょう? それとも何ですかね? 本気で久世に惚れてたとでも云い出す気ですか? そりゃ、いくら何でも遅すぎるんじゃないですか?」
「お前が、今の隆大の『男』ってワケか」
佐伯に、過ぎ去った過去の遺物扱いされた林のもらした感想は、専務が惚れこんだ優秀な頭脳には見合わない稚拙なもので、俺は思わずため息を吐く。
「残念ながら、ハズレです。会社じゃ誰でも知ってることなんで、ヒントはナシ。ま、俺と行動が別になれば、嫌でも誰かから耳に入るとは思いますけど」
ニヤニヤと嫌な感じの笑いを貼り付けたまま応じる佐伯に、さすがの林もキレた。
「答えになってない!」
「何で、そんな個人的なことをアンタに応えにゃならんのですか? 主任。立場わきまえてくださいよ。俺は、久世がアンタと二人だけになりたくないって云うから、ここにいるんですよ。その俺を恫喝したりするのは、間違ってやしませんか?」
林の野郎は一言も無い。当たり前だ。あったりしたら、俺がキレる。
「まぁ、今日のところは帰った方が良くないですかね? 頭に血が上った状態で、何か云い出して後悔しても遅いですよ」
切り捨てられた幼馴染のうかがうような視線を、俺はきっぱりと無視してやった。
「判った。今日のところは帰る」
しばらく、俺を見ていた林だが、俺が口ぞえする気が無いのを見て取ったらしい。やっと奴が重い腰を上げたとき、俺はどっと力が抜けるのを感じた。


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