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俺の主治医<3> 

本間亮が目を覚ました時、目の前には見慣れない白い天井が広がっていた。
頭がずきずきする。
手を当てた感触で、自分の頭に包帯が巻かれていることに気がついた。
「何処だ? ここ……」
廻りにはカーテンが引かれ、ベッドの脇には点滴がぶら下がっている。
「病院……」
「気がついたかい? おっと、そのまま。安静にしていなさい」
掛けられた声の主を見ようと、起き上がりかけた身体を押し戻された。
「俺は医者だよ。君、自分の名前云えるかい?」
「本間、亮」
「保険は持ってる?」
亮は首を振る。いくらいまどきのヤクザが会社組織だとは云え、保険には加入していない。
「そう。それは何とかするから、気にしないで。俺は草野。君の担当医だよ」
「草野、先生?」
亮はやたらと愛想の良い克利に、うろんな視線を向けた。
着崩したスーツに派手なシャツを見れば、こちらがまともな勤め人ではありえないのは分かった筈だ。
「君、殴られて頭を打ったんだよ。5針縫っているからね。3日は安静だ」
「あ、あんた。あの時の……、」
克利の顔をまともに見た亮が声を上げる。
「すまなかったね。俺が声を掛けたからだろう。あいつらは君に暴行を受けたと訴えているそうだが、何、こうやって入院したのは君の方なんだから」
「草野センセだっけ? あんた、俺が何で奴らとやりあってたと思ってんの?」
医者と云う割には、草野の態度は偉く親しげだ。いくら草野の所為で殴られたとは云え、何故こうもあけっぴろげに善意を示されるのかが分らない。
責任を感じているという風にも見えない。
亮は、異様な居心地の悪さを禁じえなかった。
「ヤクザにはとても見えないね。どうしてヤクザになんてなったんだい?」
確かに、だまっていると亮の風貌は優しげというか、押しが強そうには見えない。それは亮自身がよく分かっていた。
どちらかと云えば、ヤクザに脅されているサラリーマンといった風だ。
「はぁ? アンタみたいなエリートさんには面白くも無い話だと思うぜ。家出してるところを、兄貴に拾われた。笑っちゃうくらい典型的で捻りもナンも無い話」
「ありふれてるが、当人にしてみるとそうでも無いさ。生年月日は?」
問診票を取り出した克利の顔からは、うさんくさい微笑みは消えている。きりっとした風貌は、まるで何処かの俳優が演じているエリート医師に見えた。
「197×年、3月28日」
「クスリのアレルギーは?」
「無ぇよ」
病歴の有無や住所など、基本的なことを雑談を交えて応答していく。
先ほどまでの異様な親しさは消えていたが、この方が亮には居心地が良かった。
見返りの無い優しさなど、裏があるのが普通だ。ただ、いかにもエリート然とした克利が、そんなことをして何になるのか見えないだけに、不安を煽る。


見返りの無い優しさは過去のものだ。
亮が子供の頃、母親はいつも怒っていた。
父親に捨てられ、生活は安定せず、子供に当り散らし、愛情不足の子供は尚更愛情を求めて不安定さをさらす。それによりイラつきが増す。
悪循環だ。


いつも、肉体も精神も飢えていた。寂しさとお腹を抱えて階段に座り込んでいると、亮と同じアパートの兄ちゃんが抱きしめてくれた。
兄ちゃんが、学生服を着ていたことは覚えている。多分、高校生かそこらだったのだろう。
ごはんを食べさせてくれて、抱きしめてくれたり、勉強を教えてくれたり、一緒に寝てくれたり――――亮にとってそれは最上級に幸せな時間だった。
だが、いつもなら子供が何日留守をしても気付きもしない母親は、時折思い出したように、怒鳴り込んで来るのだ。『息子を返せ』と。
今でも亮はその様子を思い出すと笑えてくる。何が「息子」だ。そんなこと思ってもいないくせに。
それも、兄ちゃんが隣県の大学へ通うために下宿をするまでだった。
もう誰もかばってはくれない。
耐えかねた亮が家出するまで一年も無かった。


「兄ちゃん、か……」
ここ数年思い出しもしなかったフレーズに、亮は自分が弱気になっているのだと感じる。
病院では何もすることが無いのが余計な考えをめぐらせる元だ。
だが、刑事が張り込んでいるらしい。少なくとも、3日はここにいろと、あの医者に云われた。
「冗談じゃ無ぇ」
兄貴分に報告をしなければいけないし、第一、入院費なんか払える訳が無い。
亮は、仕事のしくじりをどう云おうか、言い訳を考えてため息をついた。

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