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臆病な男<3> 

「……えい?」
ユウに腕を掴まれて、俺は自分が腰を浮かしかけている事に気付く。
「ふん! 呆れるくらい本気だね。どっち?」
「な、何が?」
「とぼけんな! そんな、旦那が女房の浮気発見したみたいな顔して、何でもないよは無いだろ?」
そりゃ、どんな顔だ?
「嫉妬丸出し。英らしくないね。ここ、勤務先の近くなんだろ。同僚と呑むのも許さないワケ?」
「いや、今夜部長と呑んでいるのは、知ってた」
水上部長が、渡部の失策のフォローに廻った久世に、『今度奢るから』と頭を下げていたのも知っているし、珍しく定時で上がった部長に、新庄さんが『珍しいですね?』と問い掛けたのも、それに苦虫を噛み潰したような顔で『久世に奢り飯』と答えていたのも知っている。ついでに新庄さんが、『どうせなら渡部くんも連れてって、二人分奢らせればどうです?』と、半ば本気の口調で軽口を叩いていたのも聞こえていた。
「ああ。あの可愛い顔した方だね。もう少し、小柄ならモテるだろうな。ちょっと鍛えすぎ。でも筋肉の付き方がいいね。微妙にボーダーラインだなぁ。大柄な連中なら、絶対に声掛けるな。英の好みストレートど真ん中」
「見ただけで解かるのかよ」
一発で見抜かれるって、どうなんだ、俺。
「英って、綺麗な顔の割には、ホントにスタンダードな好みだよねぇ。いかにもって感じにゲイっぽくて笑っちまう」
「笑うな」
「そう云うなよ。ま、あいつに振られたら、また声掛けてくれ。その時に、俺がフリーだって云う保障は無いけどな」
「納得したのか?」
嫌にあっさり引き下がるじゃねぇか。
「英のそんな顔見たら、納得せざるを得ないだろ? ホンキだって云うのは解かったしね」
ユウは振り返りもせずに、拍子抜けするほどさらりと、個室を出て行った。但し、しっかりと伝票は残したままで。
まぁ、支払いくらいで嫌味だと思ってくれれば安いもんだ。久世に気付かれないうちに店を出るつもりで、俺は伝票を手に取る。
「やりやがったな。ユウ」
テーブルの上には、冷酒といくつかのつまみ。冷酒はガラス製の徳利に入れられていて、銘柄が判らなかった。いや、口当たりは良かったから、それなりの酒だとは思っていたが、伝票見て、支払いにぎょっとするような類だとは思わなかったぜ。
それを残したまま店を去るのは、さすがに平均的な給与のサラリーマンである俺には、とても出来なかった。もったいないと云う気分のままに、徳利に半分残った『大吟醸十四代』をあおる。こんないい酒を一気だなんて、悪酔いしそうだが、久世の家に押しかける勢いを付けるには、ちょうどいいのかもしれない。


     ◆◆◆


久世の家は、駅からそう離れていない商店街の真ん中にある。路地を入った昔ながらの造りのこじんまりし過ぎる一軒家だ。
酒が廻った所為か、多少ふらつきながら、久世の家の前までたどり着く。頭の中を、さっきの店で、顔を寄せ合って笑っていた二人の映像が回っていた。
俺だって、久世の相手が俺一人だけだと思っていたワケじゃない。正直、久世はゲイの男にはモテるタイプだし、初めて抱いた時だって、明らかに慣れた風だった。
セフレだと云うのが、決まった男を作らない主義から来るのか、それとも、本命が別にある所為なのかは、久世を見る限りでは、判断が付かなかった。
ただ、俺が週末ごとに泊まることに拒否反応が無さそうなところを見ると、本命が居ても、遠距離かノンケ相手だと決め付けていた。だったら、近くに居て、いつでもそばにいる俺が有利だと踏んでいたんだよ!
「不倫って可能性もありかよ」
久世は俺の同期にあたるが、年は二つ上だ。水上部長は、久世とは同い年で、同じ大学だった。大学時代からの友人かもしれない。体育会系の久世は、同じ城南大学の出身者とは非常に仲がいい。それは先輩である販売部の添田さんだったり、後輩の営業部の工藤だったりするのだが。
「くっそお、水上部長は考えて無かったぜ」
やられた、と云う感は否めない。水上部長は、専務の縁戚の婿として、俺たちの同年代では一番の出世頭だ。まさか、そんな相手とは考えようが無い。
三十過ぎた久世に、今まで誰もいないなんぞとは考えていなかったし、過去のことは仕方が無い。同じ会社の中と云うことで、八年もの間、手を出しかねていた俺がアホなだけだ。だが、今現在、誰かが居るとなれば、話は別である。
「佐伯」
掛けられた声に、俺は顔を上げる。気付くと、ぐるぐるしている間に、既に二時間が経過していた。ここが路地の奥で助かったぜ。表でこんなことやっていたら、明らかに不審者だ。
「遅かったな」
「まぁな」
俺の見当外れな批判を、久世がさらりとかわす。
「どうした? 入らないのか?」
どころか、久世は玄関まで開いて、俺を迎え入れてくれた。
「いいのか?」
「訪ねてきたのはお前だろ? 何か話があったんじゃねぇ?」
久世に促されるまま、俺は扉をくぐる。
「シャワー浴びてくるから、コーヒー入れといてくれ」
言い置いて、久世はシャワールームへと消える。狭いこの部屋は、どう見ても後付らしい不似合いなシャワールームだけが、新しかった。
云われるままに、コーヒーの準備をする。インスタントドリップに、牛乳をたらすのが久世の好みだ。しかも、常温で六十日間もつとか云う、無菌パックのどこぞの田舎の酪農牛乳。そのくせ、冷蔵庫にはその牛乳とチーズとバターしか入っていないと云う、おおらかなんだか神経質なんだか、よく判らないところが久世にはある。
シャワーを軽く浴びただけと云う風情で、久世は俺の前に座った。パジャマ代わりのスウェットの下を穿いただけ。タオルはまだ、濡れた髪をこすっている。
無防備な姿の中に、俺は情事の痕跡を探している自分に気付いて、つい目を伏せた。
「誰と出掛けてた?」
「は?」
その癖、非難がましい口を聞いてしまう。そんな資格は無いのに。
「水上のおごり飯。この前の詫びだよ。お前だって知ってんだろ?」
「随分、親しそうだったよな。顔寄せ合ったりして……」
自分でもかなり見当外れなことを云っているとは思う。久世の顔が見られない。
「長い付き合いなんでな。アイツとは。かれこれ十五年になるかな」
ある程度予想していたとは云え、久世の口からため息混じりに云われた言葉は、かなりのショックを俺に与えた。十五年だと? 高校生の頃からか?
「不倫だぞ」
そうだ、不倫じゃねぇか。しかも、アイツは久世がいるのに、結婚したんだろ? 何でそんな男と。
「不倫? 誰と誰が?」
誰って、そりゃ、お前と――――云い掛けた俺は、そこでようやく、久世の台詞に笑いが含まれていることに気付く。
思わず顔を上げると、久世がニヤリと人の悪い笑みを浮かべていた。
「お前…ッ!」
「ばーか。高校の同級生だよ。第一、そのケの無い奴は、さすがに俺には勃たないだろう」
俺はほっとするのと同時に、ちょっとした怒りも感じる。からかいやがって。人の悪い奴だ。
「お前くらいだって。こんなガタイのでかい年食った男がいいなんて」
お前くらいだと云うのは、俺だけだと云う意味か? 都合よく解釈するぜ? 久世。
「じゃ、大人しく俺のになってくれよ」
引き寄せて口付ける。
「残念だな。俺は俺だけのモンだ。でも――――」
続けようとした久世の言葉を、俺は口付けでふさいだ。今夜はほんの少しの拒絶も聞きたくない。


*これより先15禁。ご承知の上、お読みください。

そのまま、久世をその場に押し倒す。
「がっつくなよ」
知るか、そんなの!
久世の往生際の悪い台詞を聞き流し、スウェットに手を掛け、一気に引き下ろした。
「まったく我慢がきかない奴」
好きな相手を前に、そんなことがきく奴なんかいない。いたら、そいつは立派な聖人君子だが、生憎と俺はそうじゃないし、そうなりたいとも思わなかった。
ディープキスの合間に、自分のネクタイを引き抜き、ワイシャツを脱ぎ捨てる。
「ん、あ…、ッ…」
久世の息が上がってきたのを見計らって、俺は久世の脚を開かせた。
そのまま、股間へ顔を伏せる。幹に舌を這わせ、先端をくすぐるように刺激して、再び幹へと戻る。袋もしゃぶってやると、さすがに久世の口から、押さえきれない喘ぎ声が漏れた。
その間に、ベルトを外し、前をくつろげる。早く何も着けずに抱き合いたい。
「ん、くっ! も、駄目」
久世の声が、最後を訴える。先端を舌先で抉るように刺激してやると、俺の口の中に苦味が広がった。
急に追い上げた所為か、久世は涙で潤んだ目を天井に向けたまま、必死に息を整えている。
「久世。…いいか?」
「一度、だけだっ…、それ、と、ゴム付けろ」
「了解。明日も会社だしな」
俺はスラックスを脱ぎ捨て、久世を抱きこんだ。


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