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困惑する男<3> 

「佐伯、ヤマキと丸三の比較表、作ってくれたか?」
「大体は終わってます」
ここのところ林の野郎は、面倒そうな物件は、丸ごと俺に廻してくれる。
それだけ俺が使えるということか?と悦に入るほど、俺も馬鹿じゃ無い。
仕事・仕事で追いまくられて、俺はここ数日、まともに久世の顔も見ていないんだよ。
渡部は俺が引継ぎした当初から、些細なミスを繰り返し、俺はいつもアフターフォローに走り回っていたが、それだけに総務へ行く回数も多かった。
結局、一つのミスを完全にフォローするには、全体の調整が必要になる。伝票の修正だって頼まなきゃならない。自然、総務の連中とも顔馴染みになるし、庶務課の主任である久世に指示を仰ぐことも多い。
だが、最近は渡部のフォローは林がやっていた。表向きは、俺の元顧客は営業部全体でフォローしようと云うことらしいが、ソレはその実、誰も責任を被らないということだ。
まぁ、もちろん何かあれば、林は主任として責任を取ることにはなるのだろうが、それでも甘くなってしまうのは、自然の摂理と云う奴だ。自分の顧客と云う意識が無いんだから。俺は、一番避けたい事態になってきているのを、苦々しく感じていたが、一事務員になった俺に出来ることは、たかが知れている。
「ソレ、東興産に出す奴だから」
「じゃ、PDFでCD-Rに焼いておきます」
東興産は、資料は全てPDFで欲しがるところだ。
「林主任。二度手間なんで、そういうの、最初に云ってもらえます?」
営業部一の古株・お局新庄女史が嫌みったらしい口調で云った。ちろりと視線を営業部全体に流す。
「佐伯くんだから、大目に見てくれますけど、アタシらだったら、キレますよ?」
お局NO.2佐藤さんも、見積もりを作る手を休めずに、キツイ物言いをした。
「一応、私たちは全体の流れを見て、効率よく営業のサポートをしたいんです。主任は来られて間もないので、慣れていらっしゃらないかもしれませんが、思いつきで動かされると迷惑ですわ」
事務課の女丈夫二人が揃って云うのに、営業部がシンと静まり返る。若くは見えるものの、新庄さんは四十過ぎ、佐藤さんも三十はとっくに越している。しかも、元営業部でトップを張っていた二人なのだ。主任だろうが何だろうが、お構い無しである。
「解かった。事務課の仕事に支障をきたさない様にしよう」
一瞬、鼻じろんだ林だが、お局二人の機嫌を損なうのは不味いと感じたらしく、すぐに謝罪の言葉を口にした。
「とりあえず、今週中に上げなきゃいけない見積もりと書類。一覧出してもらえます?」
新庄さんがにっこりと笑いを浮かべるが、目が完全に笑顔を裏切っている。しっかりと怒っていらっしゃるのは、明白だった。


「佐伯くん。黙ってること無いわよ! アレはパワハラじゃなくて、完璧にセクハラじゃない」
俺が新庄女史に捕まってしまったのは、昼休みがもう終わるという頃の、喫煙所である。
パワーハラスメントじゃなくて、セクハラ??? 林主任が俺に?
「何か思い違いしてませんか? 俺、林主任にコナ掛けられた覚え、ないですが」
「あのね。セクハラって云うのは、関係を迫ったり、痴漢したりするだけじゃないの。誰と付き合ってるとか、性的な質問したり、社内恋愛なんかを、仕事にかこつけて邪魔したりとかも入ってるワケ」
ああ、そういう意味か。確かに、久世と会えないようにはされてるな。
「セクハラですかねぇ」
だが、あからさまにそういう訳にもいかず、俺はそらっとぼけて見せた。
「君、何かやった? それとも、久世くん?」
「う~~ん。強いて云えば、俺みたいな男が大事な幼馴染に、コナ掛けてるのが気に入らないとかだと思いますが」
新庄さんは、艶然と笑って、囁きかける。
「オトしたんでしょ?」
「え?」
「とぼけても駄目。久世くんよ。だから、林サン、あんなに絡んでるんでしょ?」
新庄さんが唇に人差し指を当てた。まるで、『ナイショ』と云うように。オンナって奴は、どうしてこうも勘が鋭いのか。
俺は答えなかったが、それが答えになったようなものだ。
「営業のやり方で振り回されても困るし、仕事はこっちもサポートするわ。その代わり、久世くんとちゃんと上手くいったら、奢ってね」
「了解しました」
悪戯っぽく笑う新庄さんには、諸手を挙げて降参するしかなかった。


その週末。女丈夫二人の協力で、久しぶりに残業が通常範囲で終わり、俺は足取りも軽く、久世の家への道を辿った。
日曜の夜までは、久しぶりに久世と二人きりだ。
そんなことを考えて、スーパーの袋を抱えて、久世の家を訪ねると、先客がある。
狭い玄関先に並んだ、久世のシュミでは無いイタリア製の革靴と、並んだ女らしいデザインのヒール。
「御幸さん――――」
「まだ、別れてくれてなかったの?」
久世の苦虫を噛み潰したような顔と対峙しているのは、林主任と久世の妹だ。
「俺は別れるなんて、承知してないぜ」
一方的に云われただけだ。
「御幸ッ!」
反論しようと口を開きかけた妹を、久世が鋭く制した。怒りを抑えた独特な口調に、これは相当怒っているなと感じる。
「いい加減にしろ! 俺が誰と付き合うかは、俺が決めることだ」
「だって、信ちゃんが帰ってきたのよ」
俺は勝手に上がりこむと、勝手知ったると云う奴で、コーヒーを入れ始めた。
差し出すと、案の定、客二人は嫌な顔をしている。俺が、まるで自分の家のように振舞うのが嫌なのだろう。だが、ここは久世の家で、それを許しているのも久世だ。
「信ちゃんはずっと兄さんを想っていた。兄さんだって信ちゃんのことが好きだった筈だわ。なのに、何で、こんな人が兄さんの隣にいるの?」
御幸ちゃんは、言い募る間も、俺をじっとにらみつけたままだ。
「俺も聞きたい。何故、佐伯なんだ? 俺とコイツは何処が違う?」
全部間違いだろ。『何故、俺じゃないんだ?』と聞くなら、まだ解かる。だが、云うに事欠いて、『何故、佐伯なんだ』と来た。俺がいなければ、そこは自分がいた筈だってか?
反論する言葉を捜しているのかと思った久世の手が、膝の上で少し震えていた。
俺はそっとそれに自分の手を添える。
「時間は戻らねぇよ、信吾。俺のはじめての恋人も、そいつに振られて慰めてくれた男もお前じゃ無い」
久世の言葉を、林はじっと聞いていた。


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