スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 


嫉妬深い男<2> 

話の内容云々よりも、久世から聞いた事実と、真幸が認識している事実が違うのはどういうことだ?
「何だと?」
思わず振り返った視線の先で、久世が慌てているのが見えた。
「おい、どういうことだよ? お前…ッ」
「違う。誤解だって。真幸、お前それ以上何も云うなよ!」
そんな状況で誤解だと喚かれても、誰も信じ無いと思うぜ。
「どうしようかなぁ。あ、俺はヒロの初めての女、ね。よろしく、英」
悪戯っぽく笑った真幸は、俺がこの辺りで派手に遊んでたころを知っているらしい。呼ばれた名にギクリとした。
「タチ食いの英だろ? やだなぁ。ヒロちゃん、食われちゃったワケ?」
「何だ? ソレ」
こいつ云わなくても良い事まで、べらべらと……。
「君のカレの悪名。俺もこの界隈長いからさぁ」
タチ食いと云うあだ名は付いてるが、俺は別にタチを食うのが好きという訳では無い。ワンナイトの相手なら、やっぱり手馴れた相手の方が楽だ。要は見た目とセックスの好みの問題で、皆のご想像に合わせる義理は無い。
ちらりと久世を見ると、教えなかったことを詰るように、じっとこっちを睨んでいる。
「仕方ないだろ。お前に似てる奴ばっかだと、どうしてもそういう選択になってたんだよ!」
俺は仕方なく白状した。八年越しで手に入れた恋人にこんな所で振られたくは無い。
「へ?」
久世はキョトンとした顔で俺を見ていたが、すぐに納得してくたらしい。
「あ。そう」
ぷいっと横を向いたのは照れている所為だ。
「真幸くん、素直じゃないね。そんなにヒロちゃん盗られたの悔しいのかい?」
「当たり前! 俺のオアシスなんだよ、ヒロは。それを、こーんな評判悪い男に持ってかれちゃったら、悔しいに決まってんじゃん!」
俺達に絡んでいた真幸を、マスターがくすくす笑いながらいなしてくれるが、真幸は今度はマスターに噛み付いている。
「いっつもヒロはオトコのシュミ悪いんだからさー、顔だけいい男なんて最低だよ?」
酒を煽りながらの真幸の台詞は、実に俺の耳に痛い。
「悪かったな。おい、ホントに帰るぞ、真幸」
「駄目。あのもう一人の顔だけオトコが来るまで」
どうやら付き合いの長いらしい真幸に、ああ顔だけ顔だけと繰り返されるところを見ると、久世はかなりの面食いなのだろう。そういう真幸だって、男の癖に綺麗な顔立ちだ。
「おいおい、頼むぜ。これ以上引っかき回す気かよ」
久世はうんざりした顔で、完全な酔っ払いと化した真幸から逃れようとするが、真幸はしゃべりながらも、久世の腕を離そうとしない。
こりゃ、帰れそうにないな。久世と昔の男なんざ、会わせたくは無いが仕方が無い。俺は帰ることを諦めてスツールに腰を下ろし、せっかくの酒を楽しむことにした。


     ◆◆◆


「いらっしゃいませ」
すらりとしたバーテンの声に、新しい客が来店したことを知った。すわ、久世の相手かと振り向いてしまう俺は、そうとう重症だ。
入って来た男は、ゴツイ体つきに厳めしい顔で、全然久世の好みじゃない。安堵した俺は、すぐに意識をカウンターへと戻す。
「お久しぶりですね、添田さん。バーボンでよろしいですか?」
「ああ、祥のボトルからでいい。どうせ奴の支払だしな」
だが、カウンターへ腰を下ろした男の口から漏れたのは、久世の『はじめての相手』という男の名前だ。その名前に反応したのは、当然俺だけでは無かった。
「ゲッ、先輩?」
男に気付いた久世が、嫌そうな声を上げる。
「お前なぁ、ゲとか云うくらいなら、見当付いてんだろうな? 俺はお前の後始末に来てんだぜ?」
「先輩。祥と待ち合わせっすよね?」
「お前、逃げるなよ。ああ、そうだ、ちょうどいいからお前のカレシに紹介しとけ。また妙な誤解の元になるのは御免だぞ。それで何年も柿原みたいな奴と旧交温める羽目になってんだからな?」
「はいッ!」
ピシッと背筋を伸ばした久世が先輩らしき男に頭を下げた瞬間、俺は相手を思い出した。確か販売部の横浜支店の奴だ――――。
「俺の彼氏です、佐伯。英、同じ道場の先輩の添田さん」
「ああ、大学時代の先輩だとか云う……佐伯です、よろしく」
そう、確かそう云っていた。久世が大学一年のときの柔道部の部長。販売部の合コン大好きなお祭り男(久世曰く『やり手のお見合いじじぃ』)添田さんだ。
「噂には聞いてたが、本気で付き合ってる訳だな。添田だ、よろしく。という訳で、ヒロの元カレが今から来るから。説明はそっちでやってくれよ。じゃ、な」
「ええ~~ッ!」
言い捨てて帰ろうとする添田さんの背広の袖を、しっかりと掴んだ久世が抗議をする。
「待ち合わせしたのは、先輩なんでしょう。見捨てて帰るんすか?」
「お前にカレシが出来たらしいが、何処の誰だと聞かれただけだ。俺が正直に答えてみろ、柿原の奴、会社で待ってるかもしれないぞ。どっちにしろ、顔合わせする羽目になるなら、ここでやっとけ。俺は帰る」
「そんなぁ。ひどいっすよ」
久世はひどく情けない声で訴えている。
「どうせ、ヨリ戻す気なんぞ無いんなら、ここいらできっぱりケジメつけとけ。アイツだって、相手見れば嫌でも納得すんだろ?」
添田さんの手が、小さな子供にするみたいに、久世の頭を軽く叩く。そのやけに甘えたような久世の様子に、俺は思わずムカついた。
俺には部活の経験が無いので解らないが、そんなに後輩は可愛いものなのか?
「マスター、今日の払いは祥じゃなくて、こいつにツケといて」
「ええ~ッ、払いも俺持ちっすか?」
「了解したよ」
マスターの答えにうなづいて添田さんは、酒場を後にした。


「それじゃ、腰を据えて呑むってことで」
真幸がやけに楽しそうに酒を追加するのを、久世が止めている。これがいつもの風景なのだろう。俺はちょっと取り残されたような気分だった。
「あはは、あの顔だけオトコ来るんだ~~」
そう云う真幸の言葉に、俺は久世に視線を送る。なんとなくバツが悪そうに見えるのは、俺の希望なのかもしれない。
「まったく、キミはホントに祥くん嫌いだねぇ」
「ア・タ・リ・マ・エ! 大体ヒロはオトコの趣味最悪なんだから、こっちで選んであげてるの!」
マスターの突っ込みに対する真幸の言い草は腹がたつが、それでもこいつがちゃんと久世のことを考えているのは解った。
「趣味が悪いのは解ってるよ。でも、仕方無いだろ? 惚れちまうものは、さ」
「解ってるんだったら、どうにかしなよ。そこのオトコと別れるとかさ」
「残念だけど、ね」
クスリと笑った後に、久世は俺を見る。俺もそっと久世に笑い返した。
「解ってるよ、やな感じだな」
そんな俺たちの雰囲気を感じたのか、さっきまで絡んでいたのが嘘のように、真幸はうなづく。本気で反対している訳じゃ無くて、一種の通過儀礼と云う奴だろう。真幸的には、俺は合格と云うことだと判断してもいいのだろうか。


「いらっしゃい、祥くん」
にこにこしながら、俺たちを眺めていたマスターが顔を上げて、話しかける。その声に、思わず俺は身構えた。
「やぁ、久しぶり、ヒロ」
声を掛けて来た男は、なるほどしっかり久世好みだった。男にしては綺麗な顔立ちと、スレンダーではあるがかっきりとした筋肉の付いていそうな躯。
どちらかと云うと、オンナ受けしそうな甘いマスクがにっこりと微笑んだ。
「ああ、祥。久しぶり」
「添田、知らないか? 待ち合わせしてたんだけど?」
「先輩なら帰ったよ。聞きたいことがあったら俺に聞けよ。いつも先輩に電話すんの止めろよな」
久世が睨み付けるような視線で見つめても、『祥』は全く堪えている様子は無い。
「君が素直に僕と会ってくれるなら、そんなことしないよ。でも君、付き合ってる相手がいるってホントなのかい? そうなったら、僕とは寝ないって君が言ったんだよ?」
哀れっぽい訴えは、コイツの手なのだろう。久世の腰に腕を廻して、膝のあたりを撫で回している仕草は、遊び人がオンナを落とすやり方だ。少なくとも、男オンリーの奴はこんなことはしない。こいつ、両刀か。
俺が反対側から、久世の腰をぐいっと抱くと、そいつが険のある視線で俺を見上げる。
「ヒロ、君が付き合ってる相手って、こいつかい?」
「久世。こいつ、誰だ?」
俺たちが同時に声をあげると、さすがに久世も腰が引ける。だが、すぐに久世は腰に掛けられた祥の腕を外した。
「こいつで悪かったな。俺のパートナーだよ。佐伯ってーの。佐伯、挨拶しろよ。俺が大学時代、いろいろと世話になった先輩・祥」
「ふ~ん、何の世話だかね」
真幸……、本当にお前コイツが嫌いなんだな。絶妙な突っ込みに俺は笑いを堪えて横を向く。
「可愛かったから、何から何まで世話焼いたよ。ああ、うちから半年以上、大学通ってたよね」
ところが、動じた様子も無く余裕の態度で言葉を返す祥にカチンと来た。
「へぇ、同棲してたって訳ですか。こいつ、偏食だから大変だったでしょ?」
「ああ。そうだね。何処に連れて行ってもあんまり喜ばないしね。君も苦労してるんだろ?」
「苦労するだけの価値ありますから」
一歩も引く気なんか無い。平然としているこの男に一泡吹かせてやりたかった。
「祥くん。ご注文は?」
マスターが、遮るように口を挟んだ。頭が一気に冷える。
「ロック」
スツールに腰を下ろした祥が、乱れた髪をかき上げて云う。まったく、俳優さながらに何処をどうすれば自分が映えるのかを心得ている男だ。
「ヒロ。個室、使うかい?」
マスターが気遣わしげに囁いた。久世も含めた俺たち3人は、すでに店中の注目の的だ。
今更という気もするマスターの気配りに、久世は静かに首を振った。
「佐伯、付き合え」
久世がついと顎をしゃくる。俺は素直に立ち上がる。
「逃げるのかい?」
「別に。小便だ」
絡んでこようとする祥を軽くいなして、久世は俺を伴って奥へと向かった。


NEXT

BL小説ランキング
FC2 Blog Ranking

スポンサーサイト
*Edit TB(-) | CO(-) 


Back      Next

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。