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俺の主治医<7> 

「お供させていただきます」
起き上がって着替えを終えた亮を見た克利は、目を丸くして無言になった。
朝食はチーズトーストとサラダ。それに目玉焼きが、2人分食卓に並んでいる。
いつもなら、それが冷め切った頃になんとか起き出してくる亮だが、いつまでもそうしてはいられない。
「まぁ、いい。食事は摂れ」
いつまでも席に着く様子の無い亮に、ため息と共に克利は命じた。
「はい」
「ところで」
朝食をかきこむ亮に、克利はちらりと目線を走らせる。
「その格好で出掛けるつもりか?」
「まずいっすか?」
黒のストレートパンツに、派手な柄物のシャツ。亮の持っている服は大抵がそんなものだ。
「スーツとは云わないが、もっとマシな服は無いのか? 今まではどうしてたんだ?」
「事務所に表から顔出すことは無いっすよ。俺ら」
表向きは普通の会社ということになっているのだ。いかにも怪しげな風体の連中は、路地裏の入り口から事務所に入ることになっている。
「ちょっと、来い」
「へ?」
食事を終えた亮の腕をとり、克利は寝室へと亮を引いていく。
「脱げ」
あっさり云われて、亮は慌てた。もしかして自分を外へ出さないつもりか? 今からもう一度などと云うことになったら、今だって気力を振り絞って立っている自分の腰は絶対に立たない。
「ちょ、ちょっと、待ってください。まさか、朝から……」
「何を勘違いしてるんだ。着替えろ」
差し出されたのは、真っ白なワイシャツとしゃれたブルーのネクタイだ。
「そんないかにもなチンピラを連れ歩く趣味は無いんだ。ネクタイは結べるか?」
「結べ無いっす」
自分の勘違いに真っ赤になりながら、亮はもたもたとワイシャツに袖を通す。何しろワイシャツなんぞ着るのは、中学の制服以来だ。制服は学ランだったから、当然ネクタイを結んだ経験も無い。
「顎をあげろ」
襟元を、克利の手がすべり、器用にネクタイを結んでいく。
「下は黒だし、これで何とか見られるようにはなるだろう。スラックスは帰りに買うか」
「いや、そんな、いいっす」
「俺が嫌なんだ。とりあえず、出掛けるぞ」
食卓の椅子の背に掛けられている背広を掴んで大股で歩き出す克利の背を、亮は焦って追いかけた。


車は運転させて貰えなかった。
「事故った時の弁償は出来るのか?」
と問われて、車の値段聞かされたら、組の連中には劣るものの、引き下がるしかない金額の高級車だった。
「医者って儲かるんすね」
亮は素直に感想を口に上らせる。
「使うあてが、もう無いからな」
「そうっすか。賭け事なんかしないっすよね。お、女じゃなくて男には金は使わないんすか?」
運転する克利の横顔を見ながら、亮は女が喜んで寄ってきそうな顔だと思う。
いかにもな男臭い顔立ちではない。インテリというか、上品で、それでいて軟弱さは無い。背も高く医者で金持ちなら、女ならいくらでも寄って来そうだし、男だってそういう趣味ならいくらでも引っ掛かりそうな男前だ。
「お前が相手してくれてるのに、何処で使うんだ? それとも、デートでもしたいって誘いか?」
「で、デートってッ、いや、あの」
「そういえば、飯も連れて行ってないな。何が好きだ?」
「べ、別にそんな意味じゃ無いっす!」
事も無げに克利は云うが、それではまるで亮がデートをせがんだような言い草ではないか。
「遠慮するな。それとも飲む店がいいか? 女じゃ無いからな、買い物にそう時間は掛からんだろう。今日にでも行くか?」
「ま、マジにいいっす! それに俺は仕事中っすから」
「仕事? お前の仕事は俺に付いていることだろう。だったら付き合え」
「は、はい」
結局、命令される形になると付き合わざるを得ない。頷いた亮に、克利は満足げに微笑んだ。


駐車場に車を置き、エレベーターで事務所に向かう。カンダコーポレートは、このビルの5階のワンフロアだ。1階から4階までは普通の(と云っても水商売ばかりだが)テナントが入っている。
いつも通りに一階の階段脇の詰め所に向かおうとした亮は、克利に制され、そのまま4階へと連れて来られた。
4階の一番奥に、新しいテナントが入っている。
自分が来ていない間に、新しい店が入ったらしい。と思った亮の前で、その扉に克利が手を掛けた。扉には洒落た切り文字で『草野クリニック』とある。
外科・内科・循環器科。院長・草野克利―――――
「俺の病院さ。まぁ、患者は主にここのビルの連中だがな」
「草野。遅いぞ」
ニヤリと笑った克利の後ろから、イラついた声が掛かる。
「おう、田沼。容態は変わりないだろ?」
「あったらとっくに呼び出してるぜ。久川さん、来てるぞ」


奥の病室らしい部屋へ向かう克利と田沼の背中を見送って、亮は落ち着かずに周りを見回す。いかにも病院らしい診察室には消毒液の香りが漂っていた。
久川が来ているのは、何かあったのだろうか? 
病院などろくに行ったことの無い亮には、どうしたらいいのか判らない。
自分も挨拶くらいは顔を出した方がいいのだろうか? 考えてみれば、事務所に顔を出さなくなって既に2ヶ月だ。
逡巡している間に、扉が開いて久川の大柄な身体が現れた。
「じゃ、先生、よろしく頼みます」
「まかせて下さい。あと3日もあれば起き上がれるようになります。ちゃんと定例会には間に合いますから」
「ああ、安心してます」
いつも尊大な態度の久川が、神田(オヤジ)以外に頭を下げているのを見たのは、亮は初めてだった。
「久川の兄貴」
思わず、いつも通りに呼び掛けて、久川の歪んだ笑みを見た瞬間、どうやらしくじったらしいと感じる。
「お前か」
「あ、兄貴?」
だが、他にどう呼べばいいのか判らなくて、戸惑いつつもそう呼ぶしか出来ない。だが、明らかに侮蔑の篭った目を向けられて、背筋を冷たい汗が流れた。
「お前の『兄貴』は先生だろう? 可愛がって貰ってるか?」
ニヤリと笑った久川の口元が下卑た色を浮かべたとき、久川が全て承知の上で自分を克利に譲り渡したことを思い知る。
解っていたつもりだった。もう見放された存在だと。だが、家出した亮にたとえチンピラとしてでも居場所を与えてくれた久川が、こんな冷たい瞳で自分を見るような立場になることがあるとは信じたくなかった。

「先生。ちゃあんと可愛がってやってくださいよ。それが条件でしょう?」
「云われなくてもそうしてますよ。こいつが私の手の中の内はね」

お互いに嫌みったらしい口調で話しているのは、おそらく自分のことだろうと云うのは、いくら亮が馬鹿でも検討が付く。自分のあずかり知らないところで、自分の身が切り売りされるのは気分のいいものでは無い。
あのままでは死ねと云われても仕方の無い失敗だったと云うのは身に沁みている。交換条件としては、上等の部類なのだろう。
それでも、それで男としてのプライドを売り渡すことに納得は出来なかった。
それを渡せば自分は『チンピラ』でさえも無くなってしまう。


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