スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 


転げ落ちた先に<番外2> 

番外編2。本編終了の6年後になります。
今年のバレンタインに書いたものなので、かなり季節外れですが、どうぞ。




From Your Valentine


「きゃー、信じられないッ! セクハラ部長!」
翻る手が、俺の頬を見事にひっぱたいた。腰に手を当てた、秘書課長の結城弥生が睨みつけてくる。
営業部企画課では、毎日の恒例の一幕だ。
俺が、セクハラオヤジであるのは本当のことだし、別にそれ以上のことをするつもりも無い。ので、俺が尻を撫でるのは活きの良い、何かあれば、怒鳴り散らすような男女に限る。
大人しそうな耐えるタイプは、冗談では済まなくなるし、第一好みじゃ無い。
部下連中には、やれやれと云った感じの諦めきった表情が浮かんでいた。
中に一人、度の入っていない素通しの伊達メガネ越しに、切れ長の目線でさげすんだ様な視線を投げかけてくるのは、部下の鈴木義彦だ。
上から睥睨するような、その目線が心地良いと感じるなんて、俺もいい加減マゾだと云う自覚はある。
だが、この顔が見たいだけで、セクハラオヤジを演じている訳では無い。俺は数年前に離婚した。これが、出世に釣られたあげくに痛い目をみた離婚だったのもあって、俺は社内の役員連中には近寄らないようにしている。
あくまで、俺自身に問題があろうが、仕事で認めさせるだけの実力があればいい。

「鈴木。新型の重油吸収体のデータは出来てるか」
「あと経理課からのデータがまだです。今日中にはUP出来ますが」
「急いでくれ。香坂がデータを欲しがってる」
「はい」
鈴木はすっかり仕事に対する姿勢が変わった。俺が来たころは、取り合えず目の前の仕事をこなせばOKという感じだったが、最近は営業の仕事を見ながら、企画課のデータを仕上げていっている。
さすが、俺の惚れた相手だ。
性格も容姿も好みだが、その仕事ぶりにも惚れ惚れするぜ。


「あの、鈴木さん。これ受け取ってください」
午後の会議から帰ってくる途中、珍しく廊下で鈴木が立っていた。大体が、下手をすれば一歩も企画課から出ないこともあるのだ。しかも、女連れ。
俺は、そっと廊下に置かれた観葉植物の影に身を寄せた。
「何? これ」
「チョコレートケーキです。今日、バレンタインでしょ? お世話になったお礼に」
相手の女はすぐに判った。今年の秘書課では一番目立つ新人だ。相手によって見事に代わる態度が、いっそあっぱれな女。確か、河北とか云ったか。
「俺、何もしてないと思うんだけど」
鈴木は本当にうざったそうだ。だが、女も中々引き下がらない。
「鈴木さん。新人研修の時に、すごく丁寧に教えてくださったじゃありませんか」
「それは君にだけじゃ無いだろ。それが身に付いたんなら、俺に礼なんか云うの変だろう」
「でも、お礼がしたいんです」
河北は、今度は悲しげに目を伏せた。中々芝居上手な女だ。
「判った。でもコレきりにしてくれよ。俺じゃなくても、他に渡す相手はいるだろうに」
確かに。目が高いのかそれともゲテモノ趣味なのか。
「新人研修のときにお世話になった方にはお渡ししてます。宮川課長にも渡しました」
「あ、そう」
健気な女に見せるつもりだろうが、まったく空回りだ。女王様は早く解放されたいと願ってらっしゃるのが、ありありと態度に出ている。
受け取った箱を、どうでも良さ気に振り回して、さっさと企画課の中へと帰って行った。
それを見送って、俺も企画課へ戻る為に歩き出す。
すれ違った河北が、身体を固くしてそそくさと通り過ぎた。俺の噂は秘書課にも響いているのだろう。プライドの高い女は嫌いじゃ無いが、妙な勘違いをした女は始末に負えない。
こいつも、俺の元女房と同じ手合いと見た。

「え~、すごい。これ『ラ・マルセイエーズ』の焼きチョコじゃないですか」
「ホントに貰ってもいいんですか?」
企画課に戻ると、女子社員二人が歓声を上げていた。
「義理チョコなんて寮まで抱えて持って帰るのも面倒だからな。お茶の時間にでも二人で食べれば? 第一、俺ソレ食べたら夕飯食えないよ」
鈴木は、病気で胃を半分切除している。食事には調整が必要なのだ。営業部の人間なら、鈴木の状態は知っている筈で、河北は明らかに情報不足だった。
「じゃ、ありがたく貰っちゃいます」
ハートマークが付きそうな勢いで、OL二人組はいそいそと給湯室へと消える。今日のコーヒータイムは早そうだ。


「さ、女王陛下。馬車へどうぞ」
俺は、助手席のドアを開いて、うやうやしく頭を下げる。就業後の駐車場には、車の姿はほとんど無い。
鈴木は、つんとしたまま、礼も云わずに助手席へ滑り込んだ。
「平日だ」
俺の目的がソレしかないと思っているのか、平日に誘うのを鈴木は極端に嫌う。
いや、別にソレが目的じゃないというつもりは無いが、ソレだけと云う訳でも無い。俺だって恋人ともっといたいと思う日はあるのだ。
「今日は付き合ってくれよ。渡したいものがあるんだ」
「スイスランドのブレッドバー」
諦めたらしい鈴木は、端的に今食べたいものを上げる。当たり前だ。寮に帰っても飯は無い。今日俺は、寮の夕飯の締めの時間を鈴木に教えなかった。明らかに態とだとは気付いているだろう。
「申し訳ないが、今日は俺の家でいいか?」
「珍しいな。平日には料理しないんじゃ無かったか?」
料理は俺の趣味の一つだ。だが、あくまで趣味であって、平日にいそいそと料理を作るような真似をしたことは無い。第一、俺が作るのは、週末に数時間掛けて煮込んだシチューとか、数十種類のスパイスを使ったカレーとか、麺からうったうどんとか。オーブンで数時間焼く肉料理とか。要は実用的では無いが、凝った料理だ。
だが、今日だけは、週末から仕込んだ下ごしらえの成果を見ろと云いたい。
「今日だけな」
「は。いいぜ。どんなもんが出てくるか、興味がある」
鈴木はさっきまでの仏頂面は何処へやら、すっかり興味をそそられたようで、楽しげな風情だ。切れ長の目が、伊達眼鏡越しにくるくるしている。

「さ、どうぞ」
鈴木をいつもと同じように、部屋へエスコートした。
もはや勝手知ったるどころではない鈴木は、スーツをソファの背に掛け、お気に入りのカップでエスプレッソマシーンを使い、リビングで新聞を片手にすっかりくつろいでいる。
俺は軽い食事を用意した。今日のメインはコレでは無い。それでも、鈴木がお気に入りのパン屋のクロワッサンに、週末から煮込んだ鶏のホワイトソースのブロッコリー添えに、生ハムと白菜のサラダくらいは用意した。
鈴木は、気持ちいいくらいに美味そうに食事をする。例え、残しても腹いっぱいなのが判るからだろう。鈴木と食事に行った店で、嫌な顔をされた覚えが無い。
「で? 何があるんだ?」
まぁ、食事の量も少なかったし、気付いてるか。
「今日が何の日かは、いくらお前でも知ってるよな?」
「まぁな。起源から説明して欲しいか?」
「一般的な意味だけでいい。俺が云いたいのはそれだしな」
ニヤリと笑う鈴木を、俺は押しとどめた。コイツなら、大学で歴史の講義を受けるのと同じくらいのことは話しかねない。
俺は鈴木の目の前にチョコレートを出す。菓子に興味は無かった俺の初めての作で、多少不恰好だが、ナッツ類を細かく砕いて、チョコレートに溶かしこんである。
カードに添えた言葉は。
「From Your Valentine。中々、洒落てんじゃねぇ」
その言葉は、処刑の前の兵士が愛する女性へ書き残したとされる言葉だ。鈴木なら絶対にわかると思った。
鈴木の口がかりっとチョコを砕く。中には洋酒入りの生チョコを仕込んだ。
美味そうに頬張る口元を見ていると、つい、口付けたくなる。
「俺にも味見させてくれよ」
思わず口に出すと、鈴木は艶然と微笑んだ。
「俺からのチョコレート」
見とれた俺の口腔に、チョコ味の舌が忍び込んでくる。
俺は、ありがたくそれをベッドでいただくことにした。


<おわり>


続編「転げ落ちた後に」


面白かったと思ったら、それぞれをクリックしてくださると励みになります。

BL小説ランキング
FC2 Blog Ranking

完結小説一覧

スポンサーサイト
*Edit TB(-) | CO(1)


~ Comment ~

Re:面白いと思える小説

内緒コメさま>
そんなに褒めていただいて、すごく嬉しいです。
他の作品も読んだら、感想聞かせていただけるといいなと思っています。ありがとうございました。
[2009/09/18 20:03] 真名あきら [ 編集 ]















管理者にだけ表示を許可する


Back      Next

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。