スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 


憧憬の王城<1> 

憧憬の王城―しょうけいのおうじょう

目次はこちら




身体中が痛い。太陽はもう真上に昇っているらしく、降り注ぐ木漏れ日が眩しかった。
どうやら、夕べは酔っ払った挙句に、何処かの公園で眠り込んでしまったらしい。
背中に感じるのは硬いコンクリートの感触では無く、柔らかな草であることに、ほっとはしたものの、何時までも倒れこんでいる訳にもいかない。
警察や、公園の管理人に通報されない内に、さっさと立ち去るべきだろう。
二日酔いで痛む頭を抱えつつ、誠吾は身体を起こした。
黒い瞳を瞬かせ、地面でじかに寝た為に、筋肉痛の走る身体を伸ばす。
明るさに慣れた瞳を、何とか開いた瞬間。
誠吾は、自分は何かに巻き込まれたのだろうかと、記憶を手繰った。
てっきり、公園か何かで寝ているのだろうと決め付けていたのだが、周囲には田舎育ちの誠吾でさえ見たことの無い深い森が広がっていた。
確かに、東京と云う所は、大都会の割には緑の多いところではある。
等々力渓谷などは、本当にここが東京23区内だとは信じられないくらいの静寂さを味わえる場所だ。
だが、ここはそういう公園や近場の渓谷の類で無い事は明らかである。人の手が入ったような気配が感じられないのだ。
「何で、こんな」
呆然と誠吾は呟いた。自分の身に起こったことが信じられない。
確かに夕べは強かに酔っていた。しかし、フラフラと歩いて家路についた記憶ははっきりしていたし、誰も待っていない家に帰るのが、馬鹿馬鹿しくなって、途中で座り込み、その場で眠ってしまったのだ。

だが、いつまでも呆然としている訳にはいかない。
取りあえず、家に帰らないと、昨日はあまりのショックに思考を停止させてしまったが、やることは山ほどある。
身の回りを確認する。足元に、昨日の朝、抱えていたビジネスバックが落ちていた。
バッグを探り、中身を確認する。財布の中身も、携帯電話も、パスケースも無事だ。
携帯を取り出し、GPSで現在地の確認をしようと試みるが、携帯は完全に圏外だった。
森はかなり深そうな感じで、やたらと歩き回っては、迷うかもしれない。
「とりあえず、水だな」
水のある場所さえ見つかれば、辿っていけば、下にも降りられるし、飲み水さえ確保出来れば死ぬようなことも無い。
軽く間接を動かすと、ごりごりと音がした。若い頃は、多少運動もしたが、最近のデスクワーク続きで、身体はすっかり鈍ってしまったらしい。
ため息を吐きつつ、ビジネスバックをたすき掛けにして歩き出した。

一時間ほど歩いた頃、誠吾ははっとして顔を上げた。数人の足音が近づいてくる。
獣では無い。確かに靴の音だ。
「おおい! 助けてくれ!」
誠吾は近づいてくる人たちに声を上げた。助かった。人里までは送ってくれなくても、近くの道路くらいには案内してくれるだろう。そうすれば、携帯も使える。
そう考えて、声を限りに叫んだ誠吾の前に、森を掻き分けて、数人の男たちが姿を現した。

誠吾の想像では、そこにいるのは、林野業の村人か、猟師の筈である。それか、趣味のハンター達。百歩譲っても、取材のTV局員でなければならなかった。

だが、誠吾の目の前にいるのは、どう見ても、山で暮らす素朴な村人と云う風でも無ければ、金に飽かせたハンター連中でも無かった。
男たちの外見は、どう見ても日本人のそれではあり得ない。色とりどりの髪と瞳。決して日本人にしては低い方では無い誠吾より、頭ひとつ以上高い身長。素肌にまとった毛皮の衣装。何よりも、誠吾の目を疑わせたのは、腰に帯びた大振りの刀。

「ひ…ッ」
悲鳴は恐怖で音にならなかった。
どう見ても、男たちがまともでは無いのは明らかだ。
男たちが誠吾を取り囲む。
誠吾を見下ろして、口々に会話らしきものを交しているが、誠吾にはまったく判らなかった。英語とドイツ語には自信がある。フランス語と中国語も片言ならなんとか聞き取れた。
一応、十年近い旅行代理店勤めで困らない程度の会話能力は培われている。
その誠吾が、まったく聞き取れない言葉だ。
日本では無いのだろうかという疑問が頭を駆け巡ったが、携帯で確認した時刻は翌朝の七時である。どこでもドアでも無ければ、いくらなんでも、移動するには無理のある時間だ。
中でも背の一際高い、銀髪の男が、誠吾に手を伸ばした瞬間、誠吾の頭に閃いたのは、逃げることだけだ。

伸ばされた手を払い、一目散に駆け出すが、獣道しかないような森だ。慣れていない誠吾は、すぐに男たちに追いつかれてしまう。
掴まれた腕を振り払おうと、暴れるだけ暴れたものの、男の腕はびくともせず、誠吾の運動不足の身体は、すぐに息が上がってしまった。
銀髪の男が、焦れたように誠吾を肩に担ぎ上げる。
その肩を、拳で何度も殴るが、それも男は意にも介していない風が見て取れた。
さして気に留める様子も無く、誠吾を担いだまま、男が歩き出す。どうやら、男たちのリーダーのような存在らしく、その後を、他の男たちも付いてきた。


          ◆◆◆


抵抗を諦め、連れて行かれながら、誠吾は男たちを観察した。
男たちの言葉は、まったく聞き取れない。何処の言葉にも似ていないのだ。
一際、背の高い男が銀髪の男がリーダーかと思ったが、後ろを付いて歩く数人の男たちが気を使う金髪の年若い男がいる。他の男たちの体格を平均値とすると、発育途中と云った感じで(それでも、誠吾とさほど変わらない)、まだ少年であろうと思われた。
銀髪の男も、その若者にはへりくだったような物腰を見せる。
全員が、素肌に髪の色と同じ毛皮を纏っていた。誠吾の見知った田舎の猟師が纏ったそれよりも、随分と高級そうだ。
肩に担ぎ上げられた、誠吾の頬に当たるそれも、かなり肌触りがいい。
腰に下げられた剣は、かなり大振りなもので、少し反りがある。よく中近東などで使われる円月刀などよりは、幾分反りは緩い。その刀の形も、誠吾の知識には無いものだった。
中規模の旅行代理店業で、かなりの知識はあるつもりでいたのだが、この連中が何処から来たのかさえ判らない。
揺れる感覚が酷くなった。足元を見ると、吊橋の上にいるのが解かる。
銀髪男の足元には、深い崖が口を開けていた。
短く男が何事かを囁く。
「動くな」とでも命じたのだろう。身体が竦んで、ぎゅっと男の毛皮を掴む手に力が篭もる。
と、誰かの手の感触を感じて、誠吾は瞳を上げた。
若い男が、誠吾の腕を掴み、微笑んでいる。力強い調子で、何事かを云われた。
言葉が通じなくとも、それが元気付ける言葉であるのは明白だ。
「大丈夫」
と、日本語ならそう云ったのだろう。
髪と同じ金色の瞳に、誠吾は安心して、力を抜いた。
銀髪男が舌打ちをした音がはっきりと聞こえ、誠吾はこんな場合だと云うのに、笑い出したい気分になった。


NEXT

BL小説ランキング
FC2 Blog Ranking

スポンサーサイト
*Edit TB(-) | CO(-)  Tag List  [ 小説 ]   [ メンズラブ ]   [ 漢受け ]   [ オヤジ受け ]   [ ファンタジー ]   [ 異世界 ]   [ トリップ ] 


Back      Next

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。