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憧憬の王城<2> 

吊橋を渡り切ったところで、銀髪男の背から下ろされた。
誠吾には、もう抵抗する気力は無い。というより、この橋を自力で渡る気にはなれなかったし、それ以上に、二日酔いの自分の体調を思い出してしまったのだ。
多少、吐き気もする。
これ以上、暴れたら、絶対に吐くことは確実だ。
男たちに促され、歩き出したものの、誠吾の足元は覚束ない。ふらふらと歩き出す誠吾を、若い男が支えた。
「あ、サンキュ」
通じないだろうが、一応礼だけは云っておく。そのまま、誠吾を支えて歩き出そうとした若い男だが、横合いから銀髪男の手が伸びてきて、誠吾を引き取った。
途端に銀髪男の眉が潜められる。誠吾はしまったと頭を掻いた。
「酒臭かったか? すまん」
頭を下げる誠吾に、男は一瞬だけ逡巡する表情を見せ、ひょいと横抱きに誠吾を抱え上げる。所謂、お姫様抱っこという格好で、三十過ぎた男がされることなどあろう筈も無い。
慌てて、誠吾が腕から逃れようとするが、短く恫喝の意味を含んだ言葉を投げ掛けられて、黙ってしまった。
誠吾は若い頃の貧乏海外旅行で、言葉は通じなくても、ニュアンスと云う物は変わらないと学んでいた。礼やあいさつなどは言葉が通じなくても何となく伝わるものだ。それと、脅しの言葉も。
動きをぴたりと止めた誠吾に、銀髪男はにやにやと嫌な笑いを止めない。むかついた誠吾は、男の首に嫌味でしがみ付いた。
改めて、誠吾は周囲の様子に気を配る。
そこは明らかに、城壁の内側というところだ。深い谷の上に掛かる吊橋が、森とここを繋ぐ接点なのだろう。山間部の村だと云うのは、誠吾でも解かった。
歩いていく男たちはここでは、恐れられているか、もしくは尊敬を受ける存在であるらしい。誠吾を抱えて歩く、奇妙な光景にも誰も異を唱えている様子は無い。むしろ、皆が頭を下げていく。
だが、見慣れない誠吾にも感心しきりな様で、通り過ぎた後に、ひそひそと会話が交されていた。
まぁ、山の上の村落だ。見慣れない人間が珍しいのは当たり前だろう。
そう、誠吾は考え、周囲の状況を見極める方に、神経を集中した。
日本ではないことは、もう解かっている。どちらかといえば、ヨーロッパの国境地帯の村に似ているかもしれない。
癖のある乳の匂いは、山羊かそれに類する動物を飼っているのだろうか。太陽はかなり高い。肉を焼く匂いがするのは、そろそろ昼食時だからか。
意識すると、腹が空いていることに気付いた。当たり前だ。昨日の昼から、酒以外何も腹に入れていない誠吾の腹は、空腹を訴える。
情けない音に、男たちはすぐに気付いた。
銀髪男がぷっと吹き出したかと思うと、全員が爆笑し始めた。穴があったら、入りたい心境とはこんなことを云うのだろう。誠吾は頭を抱えた。
短く、若い男の声がすると、爆笑はぴたりと止む。「止せ」とでも云ったのだろうか。少しだけ怒りのニュアンスがある。
若い男は、誠吾に近づくと、さっきまでの怒りの表情を収め、にっこりと微笑んで何事かを囁いた。
何を云ったのかは解からなくて、誠吾が首を傾げていると、若い男はさっと先頭に立って歩き出す。先ほどまでのゆっくりとした歩調では無く、明らかに急いでいるのが見て取れた。
振り落とされないように、しっかりとしがみつく誠吾に、銀髪男だけは笑いを納めていない。誠吾はむっとしたが、こんな訳の解からない場所で放り出されても困る。
しばらく歩くと、西洋の城にあるような大きな門が見えてきた。
男たちが近づいていくと、ぎぃーと軋む音を立てて、門が開く。
それを潜ると、わらわらと人が寄ってきた。口々に男たちへと同じ言葉を掛け、男たちが笑いながら荷物を渡す。
一際、屈強な感じの男が、誠吾を引き取ろうと腕を伸ばしたが、これ以上知らない相手に触れられるのも嫌で、誠吾は思わず縋るように銀髪男の首に腕を廻してしまった。銀髪男も首を横に振ってくれたので安心する。
広場のような場所を抜けると、岩へ取り付けられた扉が開いた。洞窟のような通路は薄暗く、油の匂いがする。多分、油脂で明かりを点しているのだろう。
階段を上り、かなり奥まで歩いただろうか。結構いい造りの扉の前で、銀髪男が立ち止まる。いつの間にか、他の連中の姿は見えなくなった。
扉を開くと、中は結構広い部屋になっている。壁に剣や旗のような装飾品(?)が飾られていて、どれもきらびやかなものだった。
壁際に大きな窓がある。
手振りで開いていいかと聞くと、男はさっとそれを開いてくれた。
眼下に広がるのは、さっき通り抜けてきた広場、村。そして、広大な森は黒々としていて、終わりが無いように思える。
どうやら、山をくり貫いた中で生活をしているらしい。天然のものとは思えないから、技術は見掛けより進んでいるのかもしれない。
呆然と見入っている誠吾の肩を、男がぽんと叩き、手の平に何かを乗せた。
「何?」
誠吾が首を傾げると、男はそれを口に放り込む仕草を示す。
「食べ物? 何か甘い匂いがするな」
見栄えはクッキーに似ている。焼き菓子みたいなものかもしれない。男の云うままに、口へ入れ、恐る恐る噛み砕くと、甘い香りが口中に広がる。味はチョコレートに似ていた。
「うん。美味い。サンキュ」
誠吾は、素直に男に感謝の意を示す。山間部で食物を得るのは、かなりの労苦だということくらいは知っていた。
銀髪の男はにっこりと微笑む。先ほどまでの小馬鹿にしたような笑みでは無く、優しい感じの好意の伝わってくる笑みだ。そうやって微笑まれると、この大きな男がかなりの美男だとは見て取れた。
つり上がり気味の青い瞳はキツイ感じも与えるが、精悍な男の印象を強くする。
男は、誠吾にここにいるように、ということを身振りで示すと、立ち去っていく。どうやら、ここでは男は結構偉い人らしい。とすると、あの男たちを一言で黙らせた若い男は、かなりの身分のある人間ということなのだろう。
何を思って誠吾をここに伴ったのかは不明だが、すぐに殺されるとか、投獄されるなどということは無さそうだ。
取り合えず、部屋の中を見渡してみる。扉は入り口一箇所だけ。中央には、テーブルと椅子。窓の横には書き物机だろうか。小さめのテーブルの上に、本が何冊か並んでいる。
奥にはなんと天蓋つきのベッドまで設えられていた。
「これは、いかにもな客間だな。本当に歓待されてるらしい」
誠吾が呟いたとき、大人しやかなノックの音が響く。
すぐに開けた方がいいのかと迷っていると、扉が開き、しずしずと数人の男女が入ってきた。
全員が誠吾に軽く目礼し、持ってきた木箱の中から、テーブルの上に皿を並べ始める。
やがて、一体何人の客がいるんだ?と疑問になるほどの料理を、テーブル一杯に広げた男女は、入ってきた時と同じく、誠吾に目礼した。
慌てて、誠吾も頭を下げる。
頭を上げると、入れ替わりで部屋へ入ってきた人物がいた。誠吾をここへ伴った金髪の若い男だ。
間近で見ると、男の瞳は髪と同じ金色をしている。体格が良いので気付かなかったが、若いというより、むしろ少年と呼んでも差し支え無さそうな面差しだ。
どうぞという風に料理を示されて、誠吾は添えられたスプーンとフォークのようなものを掴む。向かい側に座った少年は、にこにことしながら、誠吾の食事を眺めていた。
肉は癖があるが、柔らかく煮込まれている。添えられた野菜は甘く、ビネガーのようなものを少年が振り掛けてくれたところをみると、サラダか何かだろう。
確かに腹は空いているが、自分ばかりが食べているのは居心地が悪い。
「一緒に食べないか?」
と、少年に言葉と仕草で示してみると、少年は笑って目の前の芋のスライスのようなものに手を付けた。
どうやら、それが主食にあたるものらしい。少年は肉の煮込みの残り汁をそれで拭うようにして食べていた。誠吾も同じようにしてみると、パサついたパンのような食感が、ソースを浸したことで、味わい深いものになっている。
「美味い」
呟いた誠吾は、すっかり腹を満たすことに集中してしまった。
少年はそんな誠吾を、にこにこと笑いながら見つめているだけだった。


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