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憧憬の王城<3> 

食事が終わっても、少年は立ち去ろうとはしない。
用意された時と同様に、数人の男女が入ってきて食卓を片付けていった。
二人きりの空間で、少年はひたすら誠吾を見ては、にこにこと笑っている。
これが、日本ならば、頭でもおかしいのかと思うところだが、誠吾を見る少年の瞳に、邪気はまったくなくて、誠吾はひたすら戸惑いだけに支配されていた。
かといって、言葉も通じないのでは、『何故、ここへ連れてきたのか』という簡単な疑問さえ問いただすことも出来ない。
誠吾は自分自身を指で指し示した。
「誠吾。安芸誠吾」
ゆっくりと、噛んで含めるように、名を名乗る。最初は目をぱちくりしていた少年も、誠吾が何度か繰り返すと、意味が判ったらしい。
「アデイール」
同じように、少年も自分を指した。
「アデイール?」
誠吾は発音が合っているか、気をつけながら、慎重に発音する。名前が重要な意味を持っていたりする地域は多かった。間違えたりすると、怒り出す相手もいる。
だが、そんな誠吾の心配は杞憂だったらしい。
少年・アデイールは、嬉しそうに微笑んだ。
「アキセイ…ド?」
同じように繰り返すが、どうやら、『誠吾』と発音出来ないらしい。
「セイ。セイでいい」
もう一度、今度は『セイ』と何度か繰り返した。
それを聞いて、アデイールは口の中で繰り返している。それから、息を吸って呼びかけた。
「セイ?」
懸命な様子に、笑いを誘われる。誠吾は大きく頷いた。途端に、アデイールが全開の笑みを浮かべる。
そうしていると、やはり少年なのだと強く感じさせられる。もちろん、こんな地域であるからには、子供ではなく、既に大人として扱われているだろうが、もう30過ぎた誠吾から見れば、十二分に子供だ。
何となく、頭を撫でてみたい気分に駆られたが、そこまで子供扱いすれば、怒るだろう。
誠吾は伸びそうな手を懸命に押し留め、代わりに、いろいろなものを指し示しては、単語を教えてもらう。
机。本。ベッド。剣。花。窓。
アデイールは、誠吾のそれに丁寧に応え、半日もすると、ある程度の意思の疎通が図れるようになっていた。
夕刻になって、身体を洗いたい旨を伝えると、大きな風呂桶のようなものが、室内に運び込まれてきて、誠吾は慌てる。身体を拭きたいだけだと身振りで伝えても、アデイールは首を横に振るだけだ。
「滅多なことは口に出来ないな」
誠吾は渋い顔で呟いたが、幸い、それはアデイールの耳には入らなかったらしい。
アデイールは、指示らしいものを与えると、にっこりと微笑みかけて去っていった。


アデイールがいなくなったが、使用人たちは立ち去ろうとはしない。毛糸玉のようなものを手に、風呂桶の横に控えているのを見れば、誠吾を洗うつもりであるのは明らかだ。
誠吾は首を振って、拒絶を示し、出て行って欲しいと、扉を指して、頭を下げる。だが、使用人たちは、戸惑いを示すだけだ。
幾度も手を合わせて、頭を下げると、一人の男が、女性たちを扉の外へと出してくれたものの、自分は横へ控えたままである。
恭しい仕草で湯船を示され、ひざまずかれると、それ以上拒否することは、誠吾には出来なかった。女性を外へ出したのが、おそらく最大限の譲歩だろう。これを拒否するのは、使用人たちの仕事を邪魔することだ。
宮仕えの悲しさは、サラリーマン生活十数年の誠吾には、身に染み付いている。
ため息を吐くと、誠吾は服を脱いで、湯船に浸かった。マッサージを施すように、毛糸玉が筋肉を解していく。
抵抗はあったが、大人しく身を任せた。気恥ずかしいものはあるが、接待を受けているつもりになれば、耐えられないほどでは無い。
身体中を洗われて、やっと終わったかと、ほっとしたところで湯船を出た。すぐに柔らかな布で包まれて、隅々まで拭き上げられる。
差し出された服は、使用人が着ているものと形は似ているが、光沢が違った。おそらく、客用の上等な品だろうと検討が付く。
上衣をはおり、不器用にもたもたと下衣を巻きつけると、やっと使用人が出て行った。
どっと疲れが押し寄せる。
「はぁ……」
天蓋付きのベッドに身体を投げ出し、ようやくほっと息をつく事が出来た。
「こりゃ、早く言葉を覚えないとヤバイな」
こんなのが毎日続いたら、身が持たない。確実な意思の疎通を図るには、やはり言葉を交わすしか無いのだ。
森で目覚めてから、気を抜くことの無かった誠吾の意識は、そのまま眠りへと引き込まれていった。


          ◆◆◆


重く圧し掛かる感覚に、誠吾の意識が浮上する。
日本では有り得ない天井の意匠に
「夢じゃ無かったんだ」
と思わず呟いた。
出来れば、目が覚めたら、全てが夢で、自分は公園で寝ているか、もしくは酔っ払いとして、警察の留置場にでも放り込まれている方が、誠吾としてはありがたかったのだが、そうは問屋が卸さないらしい。
天蓋付きのベッドに寝転んでいる誠吾を、アデイールの金色の瞳が覗き込んでいた。

「アデイール?」

外は既に暗い。窓はぴったりと閉じられているが、月明かりだろうか、薄い明かりが漏れていた。
「What?」
単語を口にする時は、誠吾は日本語では無く、英語を口にするようにしていた。語感が似ているものがあれば、通じるかもしれないからだ。
だが、誠吾の問い掛けは、当然の事ながら、通じなかった。
アデイールは、真剣な眼差しで、誠吾を見下ろしている。
金色の瞳が、ゆっくりと誠吾に接近してきた。
「アデイール?」
生理的な危険を感じて、誠吾は身じろいだが、両手首をアデイールの腕に押さえつけられ、ソレさえもままならない。
アデイールの唇が誠吾のそれと重なる。
首を振って、誠吾が唇を外すと、アデイールは、両手首を一まとめにして、誠吾の顎を掴み、深く唇を重ね合わせた。
キスされていることは認識したものの、どうしてアデイールが自分なんかとキスしているかが判らない。それに、誠吾をもっと不安にしていたのは、アデイールのソレが硬度をましてきているのが、互いの下衣越しにもはっきりとしていたからだった。


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