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憧憬の王城<4> 

誠吾はパニックを起こしそうになる。寄りによって、何故、こんな平凡な三十男に欲情するのか。アデイールなら、いくらでも似合いの若い相手がいそうなものだ。
「STOP! 止めろ!」
誠吾は、離された唇から、必死で制止の声を上げる。アデイールは確かに可愛いが、そういう相手としては考えられない。
「アデイール!」
怒鳴り声を上げると、アデイールの躯がびくりと震えた。泣きそうな顔で、誠吾を見上げてくる。だが、ここで甘い顔は禁物だと、誠吾は表情を引き締めた。
「アデイール! NO!」
誠吾が首を横に振ると、アデイールは腕を離す。誠吾はほっとため息を吐いて、アデイールの躯の下から這い出した。
そして、問い掛けるような仕草で、アデイールの顔を覗き込む。
アデイールは、ただひたすら首を横に振って、誠吾を抱きしめてきた。その必死な様子に、誠吾は何かおかしいと感じる。
小さな子供にするように、背中をぽんと軽く叩いて、抱きしめている腕を引き剥がした。
もう一度、アデイールの顔を覗き込むと、アデイールは刀の形を手で作り、誠吾の胸に刺すような仕草を見せる。
何を云いたいのか判らず、誠吾が首を捻ると、アデイールは何度もその仕草を繰り返してみせた。
アデイールが自分と誠吾を指差し、腰を押し付けてくる。だが、それには先ほどの様な性的な色は無かった。むしろ切羽詰ったような感じさえ受ける。
「お前に抱かれなければ、俺が殺されるっていうのか?」
まさかとは思ったが、そうとしか考えられなかった。要は、自分はその相手として、連れて来られたと云うことなのだろう。
「冗談止せよ……」
唖然とした誠吾の手を、アデイールが掴んできた。そのまま、片方の手を自分の胸に当て、大きくうなずいて見せる。まかせろと云う風に。
アデイールの眼差しは真剣なものだ。ここは任せるべきなのだろう。だが、それでアデイールに危険が及ぶようなことにはならないのだろうか?
誠吾はしばらく考え込んだが、ここで異邦人の自分の考えなど、役には立たないだろうと再認識することにしかならなかった。
アデイールがじっと自分を見ている。誠吾は、握られたままの手を掲げて、手の甲でアデイールの胸を叩いた。
「任せた」
ニヤリと笑って見せると、アデイールの顔が、ぱぁっと輝く。誠吾に信頼されたことが嬉しいらしい。
何度もうなずくと、すっと真剣な顔になった。
誠吾の首筋と自分の唇を指し示す。アデイールの云いたいことは、今度は一度で誠吾に伝わった。
「証拠がいるって?」
まぁ、そうだろう。一晩一緒に寝て、何も無かったで済ませる訳には行かない。状況証拠は残さなければ。
渋々、うなずくと、アデイールの息が誠吾の首筋に掛かった。首筋を強く吸い上げられ、むず痒い痛みが走る。明日には鬱血の跡が残るはずだ。
誠吾は首筋を撫でさするようにして、複雑な表情を浮かべる。
当たり前だ。何が楽しくて、三十過ぎた男の自分が、こんな子供にキスマークなど付けられなければ行けないのだろう。
安心したらしい、アデイールは、当然のように誠吾の背に腕を廻し、そのまま眠りに付いてしまった。今更起こして、体勢を変えるのも、大人気ない気がして、誠吾は抱き枕のように抱えられたまま、眠りに付く。
いろいろなことがあり過ぎた一日は、誠吾の精神と身体に、かなり響いていたようだ。最初は抵抗を覚えた体勢にも関わらず、さほどの時間を必要とせず、誠吾の意識は眠りに引き込まれていった。


まぶしい日の光を感じて、誠吾は飛び起きる。
「まずい、遅刻だ!」
日が高い時間に起き上がるなんて、誠吾のサラリーマン生活では有り得なかったことだ。がばりと身を起こし、ベッドサイドの目覚ましを探るつもりで手を伸ばす。
だが、そこには何も存在せず、誠吾はあやうくベッドから落ちそうになった。
「え? あれ?」
一瞬、自分が何処にいるのか認識できず、目を見開いたまま、周囲を見回す。
土のむき出しの壁、天蓋つきのベッド、木製の窓、壁に飾られた剣。
「そうか……」
誠吾は、自分の身に起こった、信じ難い事実を改めて突きつけられ、ため息を吐いた。
誰かに連れてこられたのか、それとも誠吾自身が飛ばされたのか、一体何時の、何処にあるのか、まったく判らない国に、自分は今いるのだ。
「まずは、言葉だな」
昨日のアデイールの説明では、何がどうなっているのか、まったく不明もいいところである。
とにかく、何かの儀式なのか、それとも慣習のようなものなのかさえ判らないのでは、対応の仕様も無い。
窓を大きく開け、朝の光と冷めた空気を取り入れた。大きく伸びをして、軽く腕を廻す。
見下ろすと、広場の様子が見えた。
剣の稽古の最中らしく、剣を打ち合わせる男たちがいる。ここでの主な武器は剣のようだ。
「剣道の授業は選択してないんだよな」
剣道の授業があったのは、高校だけだが、選択授業だったため、誠吾は柔道を選択している。当然、フェンシングなどにも縁が無い。
帰れる当てがある訳では無いのだ。初心者だろうが、覚えなければならないのだろう。
視線を感じたのだろうか、一人の男が振り向いた。
それは、昨日、森から誠吾を担いできた、嫌味な銀髪野郎だ。
刺すような眼光で、誠吾をじっと見据えている。そんな目で見られる覚えは無い。むっとして窓から離れようとしたが、誠吾は思い直して、すっと息を吸い込んだ。
「おはよう!」
怒鳴りつけるように、朝の挨拶を叫ぶ。
広場で剣を使っていた男たち、全員が音のしそうな勢いで、振り返った。
銀髪野郎は、目を丸くして、誠吾を見上げている。
誠吾は、すかっとした気分で、部屋へ引っ込もうとしたが、その背に、大声で言葉が投げつけられる。
何だろうと振り返ると、銀髪野郎が「イディドル―」と繰り返した。
その顔は、昨日とはうって変わって、さわやかに微笑んでいる。
一体、何のことだろうと首を捻って、部屋へ引っ込むと、扉を叩く音が響き、昨日と同じメンバーが、朝食らしい膳を運んできた。
「イディドルゥ。セスリム・セイ」
うやうやしく頭を下げて、誠吾に挨拶したのは、昨日、誠吾の入浴時に女たちを外へと出してくれた男だ。
「イディ、ドル、ゥ」
たどたどしく、誠吾が口にすると、男はにっこりと微笑み、手振りで朝食を勧める。
通じたことで、先程銀髪野郎が口にしたのが、朝の挨拶だったのだと誠吾は気付いた。嫌味で思いっきり日本語で叫んだのだが、何か悪いことをしたような気になって落ち着かない。そう云えば、腹を空かしていた自分に菓子を分けてくれたのも、あの男だった。
「そんなに嫌な奴じゃないのかも、な」
明日はちゃんと挨拶を返してやろうと、考えながら、誠吾は朝食を口に運んでいた。


          ◆◆◆


さわやかな朝の空気の中、剣を打ち合う音が、広場から響く。
それは以前からの光景なのだが、ここ二週間ほどは妙にギャラリーが増しているようだ。
「セスリム、余所見はしない。危ないですよ」
剣を携えた誠吾の頭を、軽く銀髪の男がたたく。男の名前はサディユース。この山中にそびえる城をいただく国・トレクジェクサの近衛隊長だ。
「セイ! 俺の名前はセイだ」
明らかに自分よりも若そうなサディユースに、子ども扱いされるのは気に入らなかったが、実際に教えてもらわなければいけないことは、山ほどある。それに、アジア人種は若く見えるし、ここの連中は日本人よりずっと体格がいい。誠吾だとて、もしかすると10代くらいの感覚でいるのかもしれない。
ただ、慣れないのはこの呼び名の方だ。
『セスリム』と云うのは、日本語に直せば『奥様』と云うのが一番近いだろう。要は、女主人―――この場合、誠吾は男だし(セスリムが男だったのは誠吾が初めてと云う訳でも無いらしい)、抵抗感もあって、あまりそう呼ばせていないが、一番近いのはそういう感覚だ。主人のパートナーで奥向きを取り締まる人のことだ。
「では、構えて」
「おう!」
誠吾は重い剣を構えて、サディユースに対峙した。子供の頃のチャンバラごっこの他は、木刀はもちろん、竹刀すら握ったことのない誠吾である。最初のころは、構えすらなっていなかった。それが、ここ二週間で何とか様になるようにはなったのだが。


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