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憧憬の王城<7> 

金色のライオンなどいるわけが無い。何かの伝説か、それとも、王の象徴か。
しばらく、扉の前で固まっていた誠吾だが、外でうごめく気配と、低いうなり声にびくりと身を引いた。
サディの言葉を思い出して、急いでかんぬきを下ろす。
窓へ走り寄ると、月の無い暗闇の広場に、大型の獣が数頭徘徊しているのが分かった。
「何だ? あれは」
森の近くの山国だ。どう見ても、豊富な食料のありそうな森から、この城下へくる意味が無い。しかも、国への入り口は、誠吾が最初に渡ったあの吊橋しか無いのだ。
有り得ない事態に、窓を閉めようとした誠吾の動きが止まる。
その誠吾を、一頭の獣が目に留めた。
ゆっくりと近づいてくるその獣は、鹿に似ている。大きな角と、跳躍力のありそうな足は、ここまで簡単に登ってきそうで、誠吾は思わず一歩下がっていた。
その窓を何者かが、体当たりして閉じる。
威嚇の咆哮が、辺りに響き渡った。
途端に、うごめいていた気配が引いていく。窓の隙間から覗くと、獣たちはすごすごと何処かへと立ち去って行った。
誠吾はほっと息を吐く。
そのまま、窓際に座り込んだ。あまりのことに腰が抜けたようだ。
「あれは何だ?」
呟く誠吾の顔色は、蒼白に近い。何が起きたのか、誠吾には理解の外だった。
がたりと背後で音がする。
誠吾は、飛び上がった。窓が閉まっていないことを、今更ながらに思い出す。
おそるおそる後ろを振り向くと、開いた窓からのそりとその巨体を現したのは、金のたてがみをしたライオンだ。
誠吾はびくりと身を引く。じりじりと、自分でも嫌になるくらいの緩慢な動作で、あとじさるが、背中がベッドに突き当たってしまった。
その間も、ライオンは首で器用に窓を閉める。
誠吾は、その動きから目が離せなかった。何時、自分に襲い掛かってくるのか。喉をぐるぐると鳴らし、近づいてくる金色の巨体に、誠吾の腰は抜けたままだ。
ゆっくりと、近づいてくるライオンの金の瞳に縛られたように、誠吾は身動きが出来ない。
誠吾の脳裏を、サディの言葉が過ぎった。
『貴方が今夜、部屋へ迎え入れていいのは、金色の獅子だけです』
あの時には、何かの符丁か暗示だと思ったが、自分はこの獣に獲物として差し出されたのか?
ライオンの舌がちらりと覗くのに、誠吾はぞくりと身を震わせる。

金の瞳がじっと誠吾を見つめたまま、誠吾へ圧し掛かった。
ぺろりと誠吾の唇をライオンの舌が舐める。肩に噛み付かれ、押さえ込まれた誠吾に、逃げ出す術は無かった。
いや、逃げ出そうとした瞬間に、肩を噛み千切られてしまうだろう。
誠吾はじっと目を閉じた。
覚悟を決めて、襲い掛かる痛みを耐えるつもりだったが、それはいつまでも誠吾に訪れることは無い。
目を開くと、金のライオンは、じっと誠吾の首筋に顔を埋めたまま、鼻を鳴らしていた。
それは、まるで大型の犬が甘えているような動作で、誠吾は思わず、たてがみを梳くようにライオンの頭を撫でる。
金色の毛は、柔らかく、指にまとわることもないくらいにサラサラだ。
それで満足したのか、ライオンはすっと誠吾から離れ、窓の傍に陣取る。
その姿は、金のたてがみの所為もあって、まるでスフィンクスの彫像のように見えた。
王の墓ではなく、その獅子が護るのは、誠吾自身だ。
金色の瞳が、誠吾を見つめている。
そのいとおしげな瞳の色彩は、誠吾の心に、一人の少年の姿を浮かび上がらせた。

「アデイール?」

ぴくりと金のライオンの身体が震える。
「アデイールなんだな」
金の瞳が揺れる。それを見た誠吾には、それが有り得ないことだとかは、もう思い浮かばなかった。
「アデイール、何でこんな姿に」
誠吾はライオン、否、アデイールの傍に座り込む。その頭を抱きしめて、もう一度「何故」と問い掛けるが、獣になったアデイールに言葉は無かった。
「戻れるのか?」
それでも、言葉は通じているらしい。誠吾の問い掛けに、アデイールの首が縦に振られる。
誠吾はほっとして、アデイールを抱きしめた。
その誠吾の抱擁から、アデイールは首を振って逃れる。無言で示す拒絶に、誠吾は泣きたくなった。
どんな姿になろうが、それはアデイール自身だ。
「アデイール。どんなお前でもアデイールであることに変わりは無い」
もう一度、誠吾はアデイールの頭を抱きしめて、金のたてがみにキスを落とす。
アデイールは、びっくりしたような瞳で、誠吾の顔を覗き込んだ。
誠吾が優しく、アデイールを見つめる。
アデイールは、再び、誠吾の上に圧し掛かってきた。
ぺろりと唇を舐められ、首筋も舐められる。
大きな獣になったアデイールに、圧し掛かられた誠吾は、じゃれつく獣を笑いながら抱きしめた。
大きな舌が、いろいろなところを舐めまわす。
「くすぐったいよ、アデイール。こら」
くすくすと笑いながら、でも、誠吾はアデイールに逆らわなかった。
誠吾が慌てだしたのは、アデイールの頭が、下衣に潜り込んでからだ。
寝るときの衣装は、上下どちらも、軽くはおった着物を、紐で巻きつけただけのものである。
獣姿のアデイールだろうが、強く引っ張れば、解けてしまう。
「アデイール、駄目だよ。そこは」
下肢にもアデイールの舌が這う。アデイールの息はいつの間にやら、獣そのものの荒いものになっていた。
「アデイール?」
誠吾は、アデイールから逃れようと、身体をばたばたさせるが、大きな獣に圧し掛かられた体勢は、到底覆せそうに無い。
「アデイールっ! 止めろッ!」
誠吾が怒鳴り声を上げるのと同時に、アデイールの牙が誠吾の肩に食い込んだ。
誠吾の動きがぴたりと止まる。
もちろん、誠吾の肩を噛み千切るまでの強いものでは無い。牙で相手を押さえ込んでいるだけだ。
だが、そうと解かっていても、今の今まで、じゃれあっていた相手に受けた攻撃は、誠吾の恐怖を煽った。
「アデイール……」
誠吾が低く呟くが、それはアデイールの耳には一切届いていないかのようだった。
アデイールが、自分自身を下衣の上から、誠吾の下肢に押し付け、動き出す。
それは、獣の交尾を模したものだ。
メスの首筋を牙で押さえ込み、背後から襲い掛かる。
誠吾の目から、悔し涙が零れ落ちた。
子供だと思っていた相手に、なす術も無く押さえつけられ、逆らうことさえ許されない。
しばらく、動きに合わせて荒い息を吐いていたアデイールが、ふっと誠吾の身体の上から退いた。
誠吾の下肢はべっとりと濡れていて、情けなさを噛み締めながら、誠吾は下衣でそれを拭く。
むかついて、投げつけてやろうと、下衣を振り上げた先には、叱られた犬のような悲しげな瞳をしたアデイールが、誠吾を見ていた。
誠吾は、結局下衣を投げつけることは出来ずに、そのままベッドへ潜り込む。
アデイールに対する怒りと、それ以上に、自分自身に対する情けなさを抱えたままの就寝は、いつまでも誠吾に安らかな眠りはもたらしてくれそうに無かった。


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