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憧憬の王城<10> 

転げるように飛び込んできたレドウィルが、窓へと飛びつく。
「山賊? 一体何処から?」
「森の向こうに住んでいるんです。時折、隙をついて襲って来るんです」
「門番は?」
森からここへ来るのは、吊橋が一本。渡っても門が閉ざされていれば、国へ入る術は無い筈だ。
「今日の門番は新人だったんでしょう。そういう日を狙ってくるんですよ」
狭い国だ。新しい人材は少ない。それを徐々に訓練して、一人前の兵士や、職業人に仕立てていくのだ。
「騙すのは、簡単か」
おそらく策を弄して、門を開けたところを一撃だろう。
「セイ様、危ないので、決して外には出ないでください!」
レドウィルが怒鳴るように、言い置いて部屋を出て行く。
だが、誠吾は窓を開いて、街の様子を見おろした。
争うような人々の姿が見える。逃げ惑う気配もあった。
そして、新たな火の手が上がる。
広場に、数人の兵士がいるのが見えた。護りを固めるつもりなのだろうか。
その中に、金色の髪が見えた。アデイールだ。
誠吾は、広場へ向かって走り出す。アデイールならば、なんとかしてくれる筈だ。

「アデイール!」

誠吾を見つけたアデイールの瞳が、大きく見開かれる。
「セイ。こんなところへ来ては駄目だ。ちゃんと部屋に篭もっていろ」
久しぶりに見るアデイールの瞳は、心配そうな色を浮かべてはいるが、ちゃんと自分と向き合っていた。
それに、誠吾はほっとする。だが、それを確認しに来た訳では無い。
「アデイール。ここへあいつら追い込め!」
「セイ?」
「街がめちゃめちゃ。このままは良くない」
興奮して言葉か出ない。最近ではすっかりなれた筈のイントネーションも、ここへきたときとあまり変わらない、たどたどしいものになっていた。
「そうか。ここで迎え撃てと云うんだな」
幸い、アデイールはすぐに解かってくれたようで、近衛の隊に指示を飛ばす。
「皆、聞いた通りだ。取り囲んでここへ追い込め!」
「はいッ!」
近衛の隊は、一本道を向かうのでは無く、ばらばらと路地へと姿を消していく。
「サディ!」
それを見送っていた、アデイールがしんがりを勤めようとした、サディを引き止めた。
「我がセスリムを頼む」
アデイールは、にっこりといとおしげな瞳を誠吾に向けると、そっと頬にキスを落とす。
そんな触れ合いも久しぶりだ。しかも、人前である。
誠吾は、思わず赤くなった。
アデイールが、路地へと姿を消す。その後姿を見送りながら、誠吾は無事で帰って来いと祈るしかなかった。

「セイ。策があるのか」
告白してからこっち、サディは誠吾のことを嫌みったらしく『セスリム』とは呼ばなくなった。だが、この低い声を響かせるように『セイ』と呼ばれるのも、誠吾には落ち着かない。
「策はある」
誠吾も気が付いたのは最近だ。ここには飛び道具が一切存在していないことを。
走って自室に戻り、この間から作っていたものを取り出した。
田舎の子供だった誠吾には、都会の子供たちのように、いろいろとおもちゃを買ってもらった覚えはあまり無い。というか、今のように田舎に大きなディスカウントストアーが出来たのは、ほんの十数年前の話で、買えるような店自体が無かったのだ。
自然と外で遊ぶのが当たり前の子供時代を過ごした誠吾が、一番作るのが上手かったものがこれだ。
「追い込んだら、火を放つ。周囲に油を引いてくれ」
「ああ。承知した、セイ」
後ろを振り返って、サディに指示を飛ばす。
偽だろうが何だろうが、今現在の城のセスリムは自分だ。次代の王のパートナーとして、この城と国民を護る義務がある。
誠吾は開け放った窓に立ち、手にした弓もどきの具合を確かめた。
問題は矢が真っ直ぐに飛んでくれるかどうか。
矢をつがえ、ゆっくりと引く。竹に似た植物で竹ひごを作り、幾本か纏めて蔓を巻きつけただけの代物だ。弦も麻のような繊維素材っぽいものが手に入りはしたが、強度が心もとない。
数本の予備を用意して、数日前の森歩きの時に、サディが用意してくれた、皮の上着と、グローブを身につけた。
街を見下ろすと、追い込みは上手くいっているようで、地響きを立てて、城へと走る男たちが見える。周囲を囲んでいるのは、城の兵士たちだ。
「大丈夫。絶対に上手く行く」
自分に言い聞かせるように、誠吾が呟く。
先頭を逃げるフリをして誘い込んでいるのは、アデイールだ。
金色の髪が夜目にも光って、きらきらと輝いている。
王子を狩ることに夢中になっているらしい、山賊たちは、自分たちが追い込まれていることには気付いていない。
逃げ惑う王子を追い詰めているつもりなのだろう。
真っ直ぐに城への坂道を駆け上がってくる。
アデイールが広場を駆け抜けた。
その瞬間を狙って、誠吾はサディに合図を送る。
追い込まれた山賊たちの周囲に、あっと云う間に火が上がった。
山賊たちも驚いたが、兵士たちやアデイールも目を丸くしている。
「動くな! 蛮族ども!」
誠吾の怒鳴り声が広場に響き渡った。
誠吾は弓を引いた姿勢のまま、片足をバルコニーに掛け、広場を見下ろしている。
「何の真似だ。お嬢ちゃん?」
山賊の頭らしい男が鼻先で笑った。誠吾はこの国の人間に比べれば、はるかに小柄でまるで子供と変わらない。その上、誠吾は知らないが、誠吾の下衣は女物なのだ。そんな誠吾の恫喝など、山賊にはお笑い草だ。
しかも、火を放たれたところで、火が収まらなければ、戦うことも出来ない。
何を考えているのか知らないが、所詮は子供の浅知恵にしか思えなかった。
だが、笑っていられたのも、そこまでだ。

山賊の肩先を掠めた矢が、ずぶりと地面に突き立つ。
誠吾は続いて、三本の矢をつがえた。
何事が起こったのか、呆然とする男たちの足元ぎりぎりを狙って、連射する。
「ひ…ッ、」
山賊たちの一人が腰を抜かして、その場に座り込んだ。
初めて目にする弓矢の威力は、誠吾が思うよりもずっと衝撃的だったらしい。
「次は、頭をぶち抜く!」
誠吾の恫喝は、今度は効果があったようだ。山賊どもは一様に青くなっていた。
「セスリム!」
「セイ!」
「セイ様!」
広場から、誠吾に向けて歓声が上がる。兵士たちが口々に誠吾の名を呼んだ。
「セイ!」
アデイールが晴れやかに、誇らしげに笑っているのが見える。誠吾は、自分自身の手でアデイールと城を護ることが出来た満足感で、満たされていた。


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