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憧憬の王城<17> 

「セイ。大丈夫か?」
柔らかな声に、誠吾はうっすらと目を開ける。
顔に当たる日の光は強く、今が既に朝と呼べる時刻ではないことを示していた。
「イディ、ドルゥ。アデイール」
目の前に心配そうに覗き込んでくる男の首に誠吾は腕を巻きつける。
大丈夫だ。自分自身で望んだことだ。そう云うかのように、アデイールに深く口付ける。
アデイールは、ここ一月ほどで、すっかり大人びて逞しくなった腕に誠吾を抱きしめて、その口付けに応えた。
「イディドルゥ。セイ」
名残惜しそうに唇を離したアデイールの口からも朝の挨拶が出る。いい加減に起きなければ、職務放棄になりそうだ。
アデイールは笑って、レドウィルを呼ぶと、食事の支度を云いつける。
レドウィルの笑顔にも、妙に安心したような色があり、誠吾は、自分たちの不安定さが露呈していたことを、今更ながらに思い知った。
王宮へ出仕したアデイールを見送って、誠吾はひとつ、手紙を書く。ただ、頼む相手が見つからなかった。昨日までなら、信頼できる人間として頼んでいたであろう相手も、さすがに昨夜の後では、頼みづらい。
仕方なく、手紙を懐にしまい込み、誠吾はレドウィルに留守を頼んで、見回りに出掛けることにした。
「セイ様。サディユース様は呼ばれないのですか?」
「いや、いいよ。使用人たちの様子見と、穀物庫の確認だけだから」
奥からは出ないと明言したことで、レドウィルも安心したらしい。案外あっさりと許可が出た。
本当は星術師の塔へと向かいたかったのだが、王宮の外れに位置する塔までは、誠吾の体調が持ちそうに無い。
さすがに、幾度もアデイールに貪られた躯は、正直なところ平気なフリをするのも辛かった。
が、タイミングとは悪いもので、穀物庫への階段を下りようと足を踏み出したところで、最も会いたくない相手とばったりと会ってしまう。
階段を走って上がってきたのは、青い瞳に冷たい光を宿す銀髪の男・サディユースだ。
「セスリム・セイ。どちらかへお出かけですか?」
すっかり元へと戻ってしまった口調は、妙に抑えたような調子が否めない。
それも、自分が受けなければいけないのだと、どんな誹りも甘んじるつもりだった。
「穀物庫へ行く」
「お供いたします」
平静な調子を保ってそう続けた誠吾の後ろに、サディユースは従う。
これと似たようなことが以前にあったことを、ふいに誠吾は思い出した。あれは確か、前の新月の夜だ。
あの頃、誠吾には、いろいろなことが解かっていなかったのだ。自分の身が危険にさらされていることさえも。
そんなとき、サディはいつも誠吾を護っていてくれた。冷たい青い瞳にはどんな色があったのだろう。
穀物庫で使用人といくつか会話をした。新しい使用人が数日後に麓の村から来るらしい。
肉が足りないというので、近く狩りに行かねばならないかもしれない。
簡単な打ち合わせをして、誠吾は穀物庫を後にした。
階段を上る誠吾の後ろを、サディが無言で付いてくる。痛いほどの視線は感じたが、誠吾に出来ることは、平然としたフリをすることだけだ。

「ありがとう、サディ」
自分の部屋の扉を見たときには、息を付きたい程、ほっとしてしまう。
そのまま、逃げるように扉を開けようとした誠吾の腕は、サディに簡単に捕らえられた。
「ひとつだけ。聞かせてください」
真摯な瞳が射抜くように、誠吾を見つめる。
「な、何だ?」
視線に後ろめたさを感じてしまうのは、どうしようもなかった。
「後悔はしていませんか?」
じっと誠吾を見るサディユースの目は、いつもの冷たい静かさをたたえた瞳では無い。澄んだ水のような青い瞳は、これまで見たことの無い熱さを持っていた。
多分、この男は、いつもこんな瞳で自分をみていたのかと、誠吾は己の配慮の無さに、舌打ちしたい気分だった。
「後悔はしていない。アデイールのそばにいる為に選んだんだ」
だからこそ、嘘や誤魔化しはしない。愛してはいないが、そばで支えたい。その自分の気持ちが間違っているとは、誠吾は思わなかった。
今のアデイールに、誠吾が必要なのは確かだったから。
「ええ。解かっていますよ。貴方なら、きっとそう云うと思っていました。未練ですよ。笑ってください」
サディユースは、苦笑いを浮かべて、誠吾の腕を解放した。言葉で聞くことが、サディなりの納得の形だったのかもしれない。
誠吾が扉に身体を滑り込ませる直前の、サディの言葉は、だから、フラれた男の精一杯の嫌味だ。
「第一、セイの躯中から王子の匂いがしますからね。昨夜がどんなに熱かったかなんて聞くまでも無い」
匂い――――と云われた瞬間に、以前のアデイールの言葉を思い出す。
『鼻の利く奴は既に疑ってる』。そう云ったアデイールの言葉は、まさに、そのまんまだった訳だ。
誠吾は、頭を抱えて、その場に座り込んでしまう。
アデイールたちが獣だと云うのは、解かっているつもりでいたが、あくまでつもりでしかなかったらしい。
つまりは、連中は知っていた訳だ。誠吾の身体からアデイールの匂いがしないと。
それならばと番いのいない一族が張り切るのも解かる。
自分は王子のものでは無いと看板ぶら下げて歩いていたようなものだ。
アデイールだとて、嫌味のひとつやふたつは云われただろう。それでも、なお、自分の気持ちを優先してくれたアデイールを思うと、誠吾は胸が締め付けられた。


「セイ」
昨日とは違う、人間の姿をした男が、誠吾に圧し掛かる。
その重みを、誠吾はここちよく受けとめた。
下衣を脱いだ姿のアデイールを目にするのは初めてだ。柔らかな毛皮は、次第に薄くなりながらも腰の下まで続いている。
思わず、まじまじと眺め回すと、既に臨戦態勢のそれが見えて、誠吾はつい笑ってしまった。
「セイ…」
眉を曇らせた男に、誠吾は微笑んだ。別に馬鹿にした訳では無い。
「違うよ。アデイール。こんな年上の男の何処が良かったんだ? お前なら、もっとお似合いの綺麗な女がいくらでもいただろう?」
なのに、本気で、こんなオヤジを抱きたがっている。
「セイをはじめて森で見たときから。その黒い瞳に惹かれてた」
「一目惚れか? 子供だな。思い込みかもしれないぞ」
「俺は、ドラテアに番いが現れたと云われたとき、嬉しかった。やっと俺を愛してくれる人が現れたんだと。でも、それが男だって云われて、正直沈んだよ」
まぁ、当たり前だと誠吾は思った。貴方の唯一の相手は男です。と云われて喜べる男はゲイでもなければ滅多にいないだろう。
「でも、セイを見たとき、この人だと思った。黒い瞳が怯えたように俺たちを見たとき、この人を護りたいと」
アデイールの金の瞳に映っている誠吾の姿は、何処から見ても冴えないオヤジだ。綺麗でもなければ、色気も何も無い。妻と息子に逃げられた只の中年男。
「セイ」
アデイールの瞳に映る自分が、段々と大きくなる。それがアデイールが近づいているからだと、唇が重なったときになって誠吾は気付く。
アデイールの舌が、誠吾の口腔に忍び込み、舌を捕らえた。
情熱的な大人のキスは、誠吾がアデイールに教えたものだ。
ゆっくりと誠吾の歯列の裏を舐めてから、名残惜しげに唇が離れる。
「セイ」
繰り返す誠吾の名は、耳元で熱く響いた。
そのまま、ベッドへと横たえられる。獣のときと同じように、アデイールは誠吾の身体の隅々まで、舌を這わせ始めた。
その執拗さに、誠吾の背が震える。
「アデイー…ル、いいから、もう」
「駄目だ。今日は存分にセイを愛したい」
誠吾の抗議は、アデイールに一蹴された。


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