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憧憬の王城<20> 

聞いた瞬間に思い出したのは、話し終えた途端に倒れたソラリエの姿だ。
身体を起こそうとして、そのまま全身を支配するだるさと、頭の痛みにベッドへ沈み込む。
「アデ、イール。ソ…ラリエさ、まが、危な…い」
「ソラリエ? セイはあの女に会ったのか?」
「そう、だ。アレは、ソラリエ、さま…用のお茶、なんだ。狙われたのは、俺、じゃない…ソラ、リエさまだ」
誠吾は苦しい息の下から吐き出すように云うと、アデイールの腕に倒れこんだ。
「大丈夫だ。セイ、お前をそんな目に合わせた相手を俺は許さない」
「ソラリエ、さまの所為じゃない…。ソラリエ様が、いたから…お前が、いるんだ」
「ああ。分かったよ、セイ」
アデイールは優しく微笑むと、誠吾をベッドへ横たえる。
「サディ! 今すぐにソラリエの宮へ! 護衛の兵士の手配をしろ」
アデイールの鋭い命令が飛ぶ。それに従う気配が扉の外でするのを聞いて、やっと誠吾は安心して眠りに付いた。


          ◆◆◆


誠吾は呆然と立ち尽くした。
昨日まで、自分が勤めていた会社の前には、同じように唖然と会社の前に貼られた張り紙を眺めている同僚たちがいる。
『本日をもって、スカイウィング旅行株式会社は、倒産いたしました。
 お客様には大変ご迷惑をお掛けいたしますが、何卒、御理解の程、お願いいたします。
 なお、既にお払い込み頂いた旅行代金に対しましては、
弁護士の方へご連絡くださいますようお願いいたします』
書かれた文字が信じられなくて、誠吾は何度も張り紙を読み返す。
資金繰りが苦しくなっているらしいのは、感じていた。だが、まさか、夜逃げをするほど追い詰められていたとは思えない。
「課長。どうしましょう。今日、出発されているお客様の帰りの便は…」
呟くような言葉に振り返ると、部下の一人が、泣きそうな顔で誠吾を見ている。
そうだ、既に出発している客がいるのだ。行った先で立ち往生させる訳にはいかない。
「誰か鍵は持ってるか?」
「あ、あたしが…」
経理の橋本が手を上げた。残業で遅くまで残ることも多い彼女は、どうやら鍵を預かっているらしい。
「顧客名簿。今現在、予約を入れているお客様の分だ。代金がまだの分に関しては、断りの電話をいれろ! 代金が振り込まれている分に関しては、事情をバス会社やホテルに話して、振り替えの手配を取れ」
どうやら、出社している中では、誠吾が一番役職が上のようだ。
ということは、部長以上は、倒産のことは承知していたと云うことになる。
「橋本くん。悪いが、今すぐ法務局行って来てくれ」
本当に倒産しているのか確認しなければいけないだろう。それと。
「誰か社長の本籍地は知らないか?」
「本籍? 何に使うんですか? 課長」
「倒産の手段として、資産を予め別会社に移しておくという事もある」
明らかに、計画倒産だ。だったら、一番可能性が高い手段を調べるべきだ。
だが、誰もが首を横に振る。
「橋本くん。今日、無給になるが、残業頼めるかな?」
「解かってます。法務局行って、その足でハローワーク行ってきます」
「すまない」
橋本は走って駅へと向かっていった。法務局で倒産を確認したら、皆の失業手当の手続きを取らなければ。この東京は、田舎から出てきた一人暮らしの連中も多い。まず、今月分の給料が出ないのだ。即、手続きしなければ。明日から路頭に迷う社員もいるだろう。

米つきバッタさながら、見えない相手に頭を下げ続け、倒産を知った客からの苦情の電話やら、入ってくる連絡やらが、ようやく途絶えたのは、間もなく七時を廻ろうかという頃だった。
これから、片付けて帰宅することを思うと、気が重い。
だが、明日からはココに入れなくなる恐れもある。昼ごろ訪れたビルの大家は、今日一杯は業務の後始末を付けたいと云う誠吾たちに渋々うなづいた。
皆に、私物を持って帰るように指示すると、誠吾は会社の外に出る。
今日は息子の誕生日だ。離婚した今では、年に数度しか会って食事をする程度だが、寄りによって、今日、会社が倒産するとは思わなかった。
携帯の番号を押して、コールが数回鳴る。
「はい」
いつも無愛想な息子・誠司は、今日も無愛想だった。
「誠司。俺だ。悪い、今日はどうしても外せない用事が出来たんだ。すまないな」
誠吾は、しゃべりすぎてがらがらになった声を抑えて、出来るだけ優しく云った、つもりだった。
「いいよ。父さん、もう会わないことにしない?」
あまりにあっさり云われて、誠吾の耳がストライキを起した。
「え? それはどういう……」
「俺も、もう父親が恋しい年でも無いしさ。皆川のお父さんにも悪いし」
皆川のお父さんと、誠司が呼ぶのは、誠吾の元妻・ゆかりの再婚相手だ。
「それに、俺、ホントは気詰まりなんだよね。アンタに会うの」
それから会話を交わしたのか、それともソレきりで電話が切れたのか、誠吾はまったく覚えていない。
戻って来ない誠吾を心配した部下に呼び掛けられた時には、誠吾は切れた電話を未練がましく握り締めていた。
片づけが終わり、大家に鍵を返したのは、もう十時近い時刻で、誠吾は明日からの求職活動を思って、ため息を吐く。
三十半ば過ぎの、ろくに資格も無い男など、一体何処の会社が雇ってくれると云うのだろう。
深くなるだけのため息の元を、誠吾は頭を振って追い出し、夜の街へと足を向けた。


ぱちりと目を覚ました誠吾は、一瞬自分が何処にいるのか判らなかった。
土壁の部屋。白い布の天蓋付きのベッド。
どう見ても酔っ払いが一夜を明かすには相応しくない造りだ。
頭が痛い。どうやら、呑みすぎたのかと身体を起こそうとして、誠吾は自分の傍らに寄り添う男を認めた。
金糸の髪。逞しい躯。閉じられた瞳は、意思の強さを物語る金色であることも、今は知っている。
「アデ、イール…?」
過去の夢だと、誠吾はほっとため息を吐いた。
あの森へ飛ばされる前日の、怒涛のような日。会社は倒産。息子にはもう会わないと云われ、酒に逃げ込んだ。
皮肉なもので、明日への気力なんぞ、まったく残っていない、再就職の不安を抱えた中年男は、現実より厳しいファンタジーの真っ只中へと放り出されてしまった訳だ。
「セイ。起きあがれそうか?」
誠吾の呟きで、目を覚ましたらしいアデイールが声を掛けてくる。
「まだ、無理そうだ。頭が痛い」
「無理はしなくてもいい。セイは働きすぎだ。よく休むといい」
アデイールは起き上がると、誠吾の額にキスを落とした。何だか小さな子供にするような労りに溢れたそれが、誠吾には非常に気恥ずかしい。
「レドウィルに朝食の用意をさせよう。少しでも食べなければ」
控えているレドウィルに、支度を命じて、アデイールは出て行った。
せっかく用意してくれたのだ。誠吾は少しだけでもと口を付ける。
この世界には点滴など存在しないだろうから、食べなければ薬も飲めないし、力もつかない。考えることは山ほどあるが、とりあえずは、まともに起き上がれなければ話にならなかった。


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