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俺の主治医<10>完 

「家出しなきゃ、良かったんかな?」
ホテルを出た亮の足は、自然とここへと向いていた。ずっと昔に住んでいた、小汚いアパートの前。
母親は今もあそこに住んでいるのだろうか?
亮の母親はだらしの無い女だった。中絶もせず亮を生んだのも、気付いた時には既に手遅れになっていたからだ。
家を出なければ、少なくとも学校でくらい普通の学生生活は送れただろうか。いや、あの母親がいてそんな生活が送れる筈が無い。庇ってくれた隣のお兄ちゃんがいなくなってからの生活は、地獄だった。
難癖をつけて殴られ、蹴られ、食事は与えられず、夜はセックスに邪魔だと追い出された。あんな生活では、そのうち、家に帰らず犯罪行為に手を染めるか、母親の男を殴り倒して、怪我でも生わせるかと云うところだろう。
どちらにしても行き着く先は、今と変わらぬチンピラヤクザだった筈だ。

笑うしか無い結論だ。結局、自分はヤクザになるしかなかったのだ。なのに、いまやソレからさえドロップアウト仕掛かっている。
道端でくすくす笑う亮は、異様な存在だったのだろう。
通りすがりの人々は、皆、眉を潜めて遠巻きにしている。それに気付いても、笑いを収める気にはならない。

「君、さっきからここにいるみたいだけど、何かこのあたりに用事でも?」
誰かが通報したのだろうか?
言葉遣いだけ丁寧な警官は、胡乱な目つきで亮を見ていた。
通常以上に整えられた身なりも、亮の着崩し振りでは、どう見ても、マトモな職業には見えない。かと云って大人しげな容貌は、カタギであることしか連想出来ないらしく、真昼間にスーツ姿の得体の知れない男が、長時間路地裏をうろついていると云う、思いっきり不審者が出来上がってしまっている。
どう取り繕いようも無く、亮はふて腐れた態度のまま、真実を口にした。

「懐かしくて、昔住んでた家を見に来ただけっすよ」


結局がところ、任意同行と云う形になった。
こういう場合は逆らわないに限る。探られれば痛い腹の一つや二つどころか、三つも四つもある身だ。警察に逆らうのは馬鹿のすることだ。
「名前は?」
「本間亮」
「年齢は?」
「29」
聞かれたことだけに簡潔に答える。仮定の話には決して応じない。それがやり過ごすコツだ。
「あそこで何をしていた?」
「昔、住んでたアパートを見てただけ」
「住んでいたのはいつだ?」
「んー、っと。15年前」
「誰とだ?」
「ハハオヤ」
「その親は、今どうしてる?」
「さぁ……」
何度も、同じ話を繰り返させられるが、面倒だと思いつつ、同じ答えを返す。少しでも答えが違えば、そこをついてくるのが警察のやり口だからだ。
ただ、本当に面倒くさいので、どうしてもあくびが漏れる。
噛み殺す気も無いので、数人の警官に囲まれたまま、堂々とあくびをした。
「貴様、馬鹿にしてるのか?」
「昨日、あんま寝てないんすよ」
大あくびをした亮を責める警官たちだが、そこはチンピラとは云え、ヤクザの亮は、しれっとやり過ごす。

「すみません」
取調室に入ってきた警官が、何事かを囁く。明らかな舌打ちが場に響いた。
「もう、帰っていいぞ」
「あ、そっすか」
亮の云ってる事の裏づけが取れたのだろう。誰か亮のことを覚えている他人が、あのアパートにいたとは驚きだ。
「ほんじゃ」
「待て。迎えが来るそうだ」
「へ?」
迎えと聞いて、亮は耳を疑った? まさか、母親が? それこそ、まさか、だ。
その後に浮かんだ可能性は、ひとつ。あのアパートで唯一、亮のことを気に掛けてくれたのは――――
「とし兄ちゃん?」
嫌だ。反射的にそう思った。
ヤクザで今は組に飼われている医者のオンナ。そんな自分を晒したくない。
「本間亮は、何を疑われていたんですか?」
ドアが開いて顔を出したのは、背の高いすらりとした見覚えのある男だ。
「放火です。あのあたりでは不審火が数件起こっていまして」
「それで、拘束ですか? 疑いは晴れたんでしょうね? それとも、片端から調べもせずに拘束してるくらいの無能ぶりじゃ、それも無理ですか?」
患者以外には、上から見下ろすようなキツイ物言い。現れたのは間違いなく。
「克利、先生。何で?」
「大家には頼んであったからな。お前が、あそこへ帰ってくるようなことがあったら、連絡してくれってな」
にやりとシニカルに克利が笑いかけるが、亮はすっかり混乱していた。何故、亮の家のことを克利が知っている? 組の連中さえ知らないことなのに。しかも、大家が何故、克利に連絡するのか?
「それで? 最近の放火は何時ですか?」
「最後は昨夜です。午後9時ごろ」
「それなら、本間は私と一緒にホテルボストンです。ラウンジのバーにいました。今ならすぐに証言が取れるでしょう」
「判りました」
切り口上に告げる克利の理路整然とした話には、警官も納得せざるを得ない。
「大体、子供が親に虐待されているときには、近所が訴えても何もしないくせに、相手がちょっと弱そうだと犯人扱いで拘留ですか? 警察なんぞ、馬鹿の集まりだ」
冷たく辺りを見廻しながら、そう言い放つ。さすがにむっとした責任者らしき男が立ち上がった。
「それは別の話だろう! 今回の件とは関係が…」
「いや、ある! あんただ!」
その胸元に、指先を突きつけて克利は氷の一瞥を投げ掛ける。殺意さえ篭ったその視線に、男は竦みあがった。
「15年前、アンタはそこの公園のとこの交番の警官だった。あそこのアパートで子供が虐待されるたびに、アンタは呼び出されてあのアパートに行った。あそこの母親は男と二人で子供を殴ってたからな。でも、アンタは近所がこのままだと殺されると訴えても、何もしてくれなかっただろ? とうとう母親と男の暴力に耐えかねた子供が出て行った時、隣の家族がうちで引き取るから探してくれと、訴えたときも、この警察署は家出人としても探してくれなかったよな? 家族からの訴えでないと捜索は出来ませんってな」
ぐるりと周りを見廻す克利に、その場にいた署員たちはばつが悪そうに視線をそらす。
視線を逸らさなかったのは、ただ一人だ。

「とし兄ちゃん…?」

その呼び掛けに、克利は本当に嬉しそうに微笑む。
「帰るぞ。亮」
「は、はい」
云いたいことは云い終えたとばかりに、さっさと立ち去る克利の後を、亮も追った。

マンションへついたのは、もう夜中に近かった。
「克利先生。メシは?」
「いらん」
「風呂、用意して……」
「いいから、ここへ来い」
克利はイラついた調子で、亮の手を引くと、強引にソファへ座らせる。
「亮」
奪うように唇を重ね、そのままその場へと組み敷かれた。
「せんッ…、せい、あ…ん、はっ」
克利に触れられると、身体はすぐに熱くなる。
「亮、……亮」
繰り返し呼びながら、克利の手は休み無く亮を辿る。
性急に躯を押し広げられた時、亮ははじめて克利の背にすがり付いた。
その亮に仕草に気付いた克利が、ゆっくりと強く、亮の躯を抱きしめる。
「もう、いなくなるな」
「かつとし、せん、せ?」
強く胸に引き寄せられた亮には、克利の顔は見えない。
だが、その言葉が震えているのを、亮は強く感じ取った。
「俺のそばにいろ」
「はい。先生」
すがるような言葉に、素直に返事を返せたのは何故だったのか。
亮は自分でも判らないまま、ただ、その熱さに身を任せた。


<おわり>


番外編「クリスマス・キャロル」

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~ Comment ~

Re: 一気読みしました。

そんなに夢中で読んでいただいて嬉しいです。
ちょっと不満の残る話なので、続編も書いています。
また、読んでくださいね。
[2008/12/23 22:48] 真名あきら [ 編集 ]

一気読みしました。

こんなに難しい設定、どうするのかと思ったらあれよあれよという間にお話しが進んで、ああ、良かった~と終わってほっとしました。引き込まれた~って感じです。面白く読ませていただきました。
[2008/12/23 21:40] adocyan [ 編集 ]















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