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憧憬の王城<31> 

「セイ?」
部屋へ戻った誠吾を迎えたのは、不安な瞳を揺らすアデイールだった。戻ったものの、仕事にはならなかったのだろう。
「すまん。大人げなかった」
誠吾は素直に頭を下げた。そんな顔をさせたかった訳じゃない。自分の醜い嫉妬で、こんな不安な顔をさせてしまった。
「謝ってほしい訳じゃない。話してくれ、どうしてだ? どうして逃げた? やっぱり俺とじゃ嫌なのか? サディみたいな大人の男が…」
「違う! アデイール」
誠吾は慌てて、言い募るアデイールを遮った。
「違う。俺は嫉妬したんだ。お前と一緒に笑ってた誠司に…」
「セイ?」
アデイールは信じられないと瞳を見開く。
「誠司と笑ってたお前は、ちゃんと子供の顔だった。俺には見せない顔だ。それが、悔しかった。それだけだよ」
「本当に?」
「ああ。お前が大人だと思い込んでる俺は、こんな男だ。カッコ悪いだろ?」
自嘲の笑みを浮かべた誠吾を、アデイールは骨が折れそうな程、強く抱きしめた。
「セイ、セイ…」
額に頬、唇はもちろん、首筋や耳にもアデイールのキスが降ってくる。
そのまま抱き上げられ、ベッドへと運ばれた。いつの間にこんなに大きくなったのだろう。出会った当時は、誠吾よりほんの少しだけ大きい少年だった。
抱き上げることも出来ず、サディに任せるしかなかったのだろう。
「アデイール。俺でいいのか?」
覆いかぶさってくるアデイールに、問い掛けた。
「セイがいいんだ」
華やかに晴れやかにアデイールが笑う。まるで大輪の花のような笑顔に、誠吾は満足してされるままに男を受け入れた。


「間抜けすぎるぜ、親父。あの時、俺と王子が何話してたと思う?」
自分そっくりに、可愛くなく成長した息子は、苦い顔をして、誠吾を見下ろす。はっきり云って、父親の威厳台無しだ。
「親父の話だぜ。一から十まで、ずっと親父の話!」
「俺の?」
誠吾は意外な話に、間抜けそのものの顔を上げる。
「父親としての親父はどうだったか。なんて話。後は、オフクロから聞いた学生時代の親父の馬鹿話」
「ゆかりなら、俺のアホ話は山ほど知ってるだろうが、何でそんな話に」
元妻のゆかりは、誠吾の高校時代からの同級生だ。結婚期間よりも、友人でいた時間の方が長いかもしれない。だが、一体何故?
「親父のことが知りたいからに決まってるだろ。ホント、男の癖に、男心の解からない人だよ。ほら、親父、ここ曲がってるぜ」
誠司はあきれ返ったと云わんばかりに、わざとらしいため息を吐いた。そうしながらも、盛装をまとう誠吾を手伝う手は止めない。
今日は、いよいよ披露目を行う日だ。
ドレスは免れたものの、盛装としてドラテアに贈られたのは、星図を簡略化した、刺繍のある青い下衣とスタンドカラーの短い上着だ。上品な光沢のあるそれが、かなり高価なものであろう事は、さすがの誠吾でも想像が付く。
ここへ来た当初は、着替えに他人の手を借りることもあったが、普段着として用意されたぴらぴらとした女物の長衣で無ければ、もう他人の手を煩わせることも無い。
しっかりと腰紐を留めた誠吾は、誠司から手渡された短刀を、腰に挿した。
それを一歩下がって、誠司が眺める。
「オッケー。親父、いいじゃん」
「本当か?」
今時の子供らしい軽さで褒められても、微妙すぎて本気なのかと疑いたくなる。
「疑うのかよ? いいって。何か、ホントにロープレの賢者っぽいけど」
鏡に自分の全身を映した誠吾は、誠司の当たらずとも遠からずの例えに納得した。
「賢者か。裾が長ければ、魔術師だな」
確かにロールプレイングゲームのそれっぽいかもしれない。
何処も乱れていないことを確認して、誠吾は広間へと向かう為に足を踏み出した。


大広間への扉が開かれる。時刻通りだ。
誠吾は意識的に、背筋をぴんと伸ばして、真っ直ぐに顔を上げた。
平凡極まりない自分の容姿も、無駄に食った年の程も承知している。だからこそ、堂々と通路の真ん中で待っている金の王子の下へと向かった。
他人からどう思われようとも、アデイールの隣に立つ自分の位置を変える気など、誠吾には無い。
これは、その決意表明の一歩だった。
アデイールが差し出した手に、己の手を重ねる。お互いの手を捧げるようにして、広間の正面に作られた祭壇へと向かう。
そこで待つのは、背中を覆い隠すのではないかと思う程、長い髪が神秘的な雰囲気をかもし出すドラテアだ。
星術師の長の前に、誠吾とアデイールが並ぶ。
「異邦人・名はアキセイゴ。間違いないか?」
「はい」
誠吾が大きくうなずいた。
「先王クレストスの息子・アデイールの星の示した、番いの名はアキセイゴ。異邦人だ」
水を打ったように広間がしんと静まり返る。
「星の導きにより認められた、番いの片割れであることは間違いない」
祭壇から、ドラテアが白い花を手に取り、アデイールに渡す。カラーに似たその花を見て、誠吾は、アデイールの母・ソラリエの言葉を思い出した。これがセスリムの花なのだろう。
アデイールから、その花が誠吾に手渡される。それを誠吾は胸にそっと抱いた。
「次代の王の番いは決まった」
ドラテアの、女にしては低めの声が、広間に響き渡る。
その途端に喚声が広間を支配した。
「セイさま!」
「セスリム・セイ!」
声は、近衛隊と周りを囲む使用人たちからだ。あっと云う間に、アデイールと誠吾に祝いの言葉を述べようと、集まってくる人々で、二人は身動きが取れなくなる。
求められる握手に次々に応えていると、その人波がすっと引いた。
不審に思って目をあげると、目の前には一族の重鎮たちが揃っていた。
「久しぶりだ」
重々しく、長老が歩み寄る。
「すっかりご無沙汰をしております」
そっと誠吾を庇うように、アデイールが長老の前へと進み出た。
「アデイールをすっかり手懐けたようだ。男の癖に、凄腕の獣使いと見える」
しわがれた声が、そう呟くのを、アデイールは聞き逃さなかった。
「我がセスリムを侮辱するのは止めていただきたい。それ以上は、長老とて容赦しません」
「ほう、容赦せんと? どうする気かな?」
呟くような長老の声は聞こえないものの、周囲にも只ならぬ気配は伝わってくる。皆、固唾を呑んで二人の諍いを眺めていた。
「いい加減にしていただこうか」
祭壇から降りてきたドラテアが、二人の後ろから進み出る。
「私の認めた次代の王の番いに、何ぞ不都合でもおありか? それとも、私の星占は信用出来ぬとでも申されるか?」
長老はいかにも不満げに黙り込んだ。ただ、アデイール王子の番いが無いと知ったときには、一族の娘を見合わせる旨の約束も、先王とはあった。だからこその思惑もあったというのに、誠吾が現れた所為で台無しだ。その上、いつの間にか星術師の塔を後ろ盾につけた誠吾は、簡単に排除も出来ない存在になってしまった。
しかも、アデイール王子は突然現れたセスリムに骨抜きと来ては、嫌味のひとつもいいたくなると云うものだ。
それにさえ、ドラテアが立ちはだかる。
「何も不満などありはせんよ。跡継ぎをどうするかと心配なだけだ」
「心配はご無用です。一族でさえあればいいのでしょう? 幸い、育てる親の無い一族の子供を保護もしておりますし、親戚筋にもまだ一族はおりますので」
アデイールは、はっきりと云い放った。誠吾をセスリムにと決めた時点で、子供が望めないことは解かっていたのだ。手を打っていない方がどうかしている。要は、王の資質がその子供にあるかどうかだ。
それに、アデイールでさえ誠吾が現れる前は、王候補からは遠かったことを考えると、どうしても自分の子供でなければならない訳でもないだろう。
明らかに、この場ではアデイールに分がある。長老は黙って身を翻した。
「長老」
「何かな?」
それを引き止めたのは、誠吾だ。
「アデイールを愛おしいという気持ちしか俺にはありません。それではいけませんか?」
「ほう、これは小賢しいことだ。気持ちしかないのなら、離れた方が良かろう。これはいずれ王になる男だ」
「王には愛情はいらないと?」
「そればかりではいられん。力も無ければならん、その為に婚姻が有効な場合も多い」
長老の言葉は、否定出来ない。それも真実だからだ。だが。
「王であるから、アデイールのそばにいたい訳ではありません。ですが、アデイールは誠実な王になりたいと望んでいる。それを傍らで見守りたいのです」
誠吾はキッと瞳を上げた。それが、アデイールの真実に応える術だ。
誠吾と長老のやり取りを見つめていたアデイールが、誠吾の肩に手を置く。震えるその手を誠吾はしっかりと握り返した。
この場が人前でなければ、口付けを交わしていただろう。そのくらいに熱い瞳が絡み合う。
その二人を目にして、長老はそのまま声も掛けずに歩み去った。
後に一族の連中が続く。
いくつもの突き刺さる視線も、誠吾には、もうどうでも良かった。


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