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憧憬の王城<33> 

誠司が目を覚ましたのは、翌朝のことだ。
出血の所為で、血の気の失せた顔はしていたものの、言動もハッキリしているし、食欲もあると聞いた誠吾は、ほっとしていた。
ここでの医療技術がどの程度かは判らないが、麻酔や縫合も出来るようだし、とりあえず、後は傷がふさがるのを待つことと、栄養を取らせることしか出来ないのは、元の世界と同じだろう。
誠吾は、誠司が目を覚ましたと聞くと、弓を手に森へと向かった。
滋養のありそうなものと聞いて、肉くらいしか思いつかない自分が情け無いが、新鮮なものならば、内臓も食える筈だ。
内臓系が、血や肉を作るのに有効だというくらいは、誠吾の年なら、誰もが小学生の時分に教えられている。
「まったく、セスリムが自ら狩などなさらなくとも、俺たちに命じてくださればいいのに」「そう云うな。父親として、セイさまも何かなさりたいのだ」
今日はサディの代わりに、近衛の兵が二人、警護に付いていた。サディの信頼する兵士たちだ。
そして、誠吾の熱烈なシンパでもあった。
「セイさま、あそこを!」
「野うさぎです!」
二人は揃って声を上げたが、それは獲物を脅かさないように、囁くような声だ。
それを誠吾は聞き分け、つがえた矢を放つ。
矢は見事に命中した。
三度ほど繰り返し、一羽は取り逃がしたものの、そう長くない時間で二羽の野うさぎを捕らえた誠吾と、近衛兵が城へと向かう。

調理の方法などを、道々説明しながら帰途に付いた。ここには多分、生食の習慣などは無いだろうと云う誠吾の読みは当たったらしく、軽くあぶった程度で食卓にのせてくれと云う誠吾の言葉に、近衛兵は二人が共に目を丸くした。
誠吾の世界でも、生食を嫌う人間もいたが、ここは山間部であるので、生で食べる習慣が無いのは、まず日持ちの観点からだ。
「生の肉は滋養があるんだ。まず、誠司は出血が多かったから、それを補わなきゃいけない」
「それを補給するのに、あぶった程度で食べるのですか?」
「ああ。生でも構わないんだが、誠司は生肉が嫌いだったから、軽くあぶればOKかなと思って」
誠吾が最後に誠司に会ったのは、小学生の頃だ。生のレバーなど、食べる訳が無い。それを誠吾はすっかり失念していた。いつまで経っても、誠吾にとって誠司は可愛い小さな子供なのだ。

「セイさま」
踏み出そうとした誠吾を、一人が押し留める。
周りに走った緊張感に、誠吾ははっとして、弓に矢をつがえた。

気配は明らかに誠吾たちに害意を持っている。
誠吾は、ゆっくりと顔を上げ、それを誰何した。
「このまま帰れば、見逃そう。だが、俺たちに顔を見せれば、お前たちも引くわけにはいくまい?」
弓を引き、狙いを定める。
誠吾の周りを取り巻く空気は、鬼気というのに相応しかった。
アデイールを護る。それは、自分をも護ることに他ならない。
近衛の二人も剣を構えた。
背中合わせに、三方を睨みすえる。
このセスリムは、ただ護られている人ではない。共に戦う、戦える人だ。

どれだけの時間が過ぎ去ったか、感覚もあやふやになった頃、周囲の気配は薄くなる。がさがさと森の木々が動きを伝えては来たが、その音は段々と遠ざかっていった。

『最後の悪あがきか』
誠吾の呟きは、日本語だった為に、二人には聞き取れなかったようだ。
「セイさま。追わなくとも宜しいので?」
「いや、いい。ここまで来れば、そう事態は変わらないさ」
剣を収め、誠吾と近衛兵が城へと向かう。森を抜けたところにある山城は、今日も変わらず、そこに存在していた。


     ◆◆◆


「親父」
「すっかり元気そうだな」
サディユースの部屋へと誠司を訪ねると、傍らにサディの姿がある。それがすっかり自然な姿になりつつあった。
今まで座っていた椅子を誠吾に勧めると、サディユースは誠司の枕元へと移動する。
「もう大丈夫か?」
「ああ。サディが大げさなんだよ。もうちゃんと立って歩けるぜ」
「少し歩くと、息を切らしているのに。か?」
揶揄するように、サディが云うと、誠司は途端に唇を尖らせた。
「うるさいな。ちゃんと歩けてるだろ。父親に心配させまいとする子心を解かれってんだよ」
口答えはしているものの、それは甘えに他ならない。
「それは、良かった」
自然、誠吾の口元にも笑みが浮かんでいた。
「あ、親父。うさぎの肉、美味かった。ありがとう」
「あのくらいしかしてやれることが無いからな。医者でもないから、治してやることも出来ないし」
「セイさま。狩などは命じてくだされば宜しいのですよ」
「だから! 俺の為に行ってくれたの! 親心じゃん。それが嬉しいつってんのに、解からない石頭だな」
近衛隊長と云う立場から、つい口にしてしまったのであろうサディの不安を、誠司は不満気に、また口を尖らせる。
「セスリムとしての立場をお考えくださいと申し上げているだけだ。まったく、お前と云い、セスリムと云い、無茶ばかりをしてくれる」
それに真面目な顔をして反論しているサディが可笑しくて、誠吾はつい声を上げて笑ってしまった。
「笑い事ではありません。セイさまも無茶ばかりをなさってましたが、セージはそれ以上です! 私の心臓を止める気ですか?」
「悪い」
どうやら、やぶへびになってしまった様だ。誠吾は首を竦め、素直に頭を下げる。
「久しぶりなのは判るが、あんまりはしゃぐと疲れるぞ。セスリム・セイ。もう宜しいですか?」
頭をぽんぽんと叩いて寝かしつける。まるで、子供のような扱いに拗ねたような様子は見せたものの、誠司はサディに促されるままに床についた。
「もうすぐ、王子の戴冠式だ。お前にも出て欲しいと云っていたぞ」
「うん! な、親父。また、あの服着るのか?」
どうやら誠司は、いかにもなロールプレイングゲーム風の衣装が気に入ったらしい。
「ああ。何だったら、お前の分も用意させようか?」
「え? ホントかよ?」
がばっと起き上がろうとする誠司を、慌ててサディが押し留める。
「ちゃんと、自力で立てるようになって、体力が付いたらな」
「オッケー。約束だからな!」
ここへ来てからの誠司は、素直に感情の起伏を見せる。
怒ったり、笑ったり、呆れたり。
やはり、離婚した後は、無理をさせていたのかもしれない。誠吾と会うのも、新しい父親にも気を使っていたのだろう。冷めていると思っていた息子の見せる、いろいろな表情を、誠吾はしっかりと覚えておこうと思った。
多分、何時かは会えなくなる息子の顔も。


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