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憧憬の王城<34>完 

政務が終わって、引き上げてきたアデイールは、ひどく疲れた顔をしていた。
「ラウラジェスの裁きが出た」
どっかりと、ベッドへと腰を下ろしたアデイールは、呟くように一言告げる。
「一族の長老預かり。但し、外へ出ることは許されない。おそらく、一族のエリアの中で、一族の男へ嫁いで、子供でも生んで、普通に暮らして行くだろう」
「ああ」
予測は付いていたことだ。セスリムの息子とは云え、誠司は立場的には只の異邦人である。
しかも、結果的には助かっているのだ。
「セイは悔しくないのか? アイツはセージを殺すところだったんだぞ!」
「誠司が死んでいたら、俺がこの手で、あの女殺してやったさ」
淡々と告げた誠吾だが、その口調は強い。誠司が刺された時には、本当に殺してやるつもりだった。
「だが、今は、あの女も哀れだと思う。誠司が助かったから云えることだがな」
誠吾の膝へと、頭をもたせ掛けてきたアデイールの、さらりとした金色の髪を指で梳く。
「セイの家族は俺の家族だ。それを奴らは異邦人だと云うだけで、軽く見る。一族が何だと云うんだ。所詮は獣じゃないか!」
「アデイール」
怒りが収まらないらしいアデイールの髪を、誠吾は何度も撫でる。

「一族は、そう遠くない内に滅びるぞ」

アデイールが誠吾の言葉に、はっと顔を上げた。
「一族は、女が多いだろう? なのに、一族の男には番いがいない」
誠吾は、一族のことを知ってから、ずっと考えていた。可笑しいのだ、どう考えても。
「そして、一族の女が妻合わされた男の子供も、一族とは限らない。一族に生まれたとしても、番いがいない」
「それは、どういう?」
アデイールの問う声は震えている。
「血が濃いと云っていたジャスティの家でさえ、ディオルは番いがなかった。だからこそ、ジャスティは、ディオルの表向きの替え玉を用意したんだろう」
もし本当に、あの僧院にいるディオルがホンモノだとすれば。だが。
「女は余っている筈なんだ。だが、番う相手がいない。男のセスリムは、俺が初めてじゃないと云っていたな?」
アデイールは呆然としたまま、うなずく。
「当然、男同士で番っても、子供は生まれない。そうして、一族同士の幅は段々と狭くなって行く。後は少なくなるばかりだ。判るな?」
金色の瞳が、誠吾を真っ直ぐに見上げた。
「だからこそ、奴らはそれに必死でしがみつこうとする」
「哀れだな。それしか生きる術が無い」
アデイールの呟きに、誠吾はうなずく。
「一族のエリアでしか生きられないものは、これからも増えるだろう。そして、いつかそれもなくなる」
誠吾は窓の外へと目をやった。
暗くなり始めた城下に明かりが灯る。城壁の先には暗い森が広がっているだけだ。
あの森から、始まったのだ。
「セイで良かった」
「うん?」
頭を抱え込まれ、口付けられる。金色の王子の舌が誠吾のそれに絡まった。
「俺のセスリムは、カッコよくて、頭のいい、素敵な男だ」
真っ直ぐに誠吾を見上げて、そんなことを云うものだから、誠吾はすっかり照れて、視線を逸らすばかりだ。
「セイ…」
それを無理やりにアデイールは自分の方へと向ける。もう一度、口付けが交わされ、そのまま体勢を入れ替えた。
アデイールの躯が誠吾の上に覆いかぶさる。
誠吾は、されるままに受け止めながらも、しっかりとその背を抱いた。
貫かれる痛みも、それを上回る快感も知っている。それは、二人で分け合ってこそ意味のあるものだった。


戴冠式の当日は、晴れ渡った青い空が広がっていた。
今日、広間でアデイールを迎えるのは、誠吾だ。
ドラテアと共に、王となるものを待つ。
控えの間で出番を待つのは、何だか妙に緊張する。
まず、ドラテアが呼ばれ、王になるものの資質を問う。
そして、その王を迎えるものとして、セスリムが呼ばれるのだ。
ドラテアが、長い髪と裾を翻し、すっと立ち上がる。
広間への通路が開かれ、堂々と出て行くドラテアは、優美で威厳を備えていた。
あの隣に並ぶのは、誠吾とて、尻込みする。
広間から、王たるものの資質を問う、ドラテアの声が響いていた。

『親父』
『誠司』
緊張する自分を見かねて来てくれたのかと、顔を出した誠司に笑い掛けようとした誠吾の笑顔が、誠司のその格好を見た瞬間に固まる。
誠司が身につけていたのは、自分と色違いで用意した筈の衣装では無く、どう見ても誠司の通う中学の、紺色の学生服だった。
『お前、何故?』
『うん。帰るときが来たみたいだ。朝から、引っ張られるような気がするんだよ』
にこりと笑った誠司の顔は、少し寂しげだ。
『親父も幸せみたいだし、俺も安心出来たからかな』
『誠司』

「セスリム・セイ!」

ドラテアの問いは終わったのだろう。広間から、誠吾を呼ぶドラテアの声が響く。
『ほら、親父。行って』
誠司の手が、誠吾の背を押す。
「セスリム・セイ!」
大勢の声が、ドラテアの声に重なるように、また誠吾を呼んだ。
それに、誠吾が振りむく。
『親父。元気で』
再びの誠司の声に、誠吾が息子を振り返ると、そこには誰も存在していなかった。
まるで、最初から誰もいなかったかのように。

「セスリム・セイ!」

もう一度、誠吾を呼ぶ、ドラテアの声が響く。
それに促されるように、誠吾は、広間へと足を踏み出していた。


<エピローグ>


『あ…っ』
目をぱちりと開けると、目の前に満開の桜の花がある。
誠司は慌てて、身体を起こそうとした。
だが、誰かの手が自分に絡まって、身動きできない。
腕を手繰ると、そこに銀髪の端正な男の顔がある。
「サディ! おい、サディ、起きろよ!」
揺り起こすと、サディユースの青い瞳がゆっくりと開いた。
「ここ、は?」
「うちの近所の公園。戻ってきたんだ!」
誠司は周りを見回し、確かに戻ってきたのだと確信する。向こうに見える高いビル。コンクリートの誇りっぽい匂い。
と、同時に隣にある安心できる存在に慌てた。
「お前、何で来ちゃったんだよ? 帰れないかもしれないぞ」
「セージが寂しそうだったからだ。離れる気は無い」
きっぱりと云い切られて、誠司は思わずサディの胸に顔を埋めた。泣いている顔は見られたくない。

ビルの谷間にあの山が見えるような気がした。
深い森の向こうにある、トレクジェクサの山は、その頂に城を持つ山だ。
月の無い夜には、獣たちが寂しい咆哮を上げる。


<おわり>

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あとがき

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~ Comment ~

Re: 初めまして

> トリップものといえば少年や少女が異世界で自分の存在意義を確かめつつ
大人の誠吾はちょっとイメージが違ったかもしれませんね。
ドラテアがお気に入りとのこと。ドラテアは、実はお気に入りのキャラです。
こちらこそありがとうございました。
[2009/10/26 21:58] 真名あきら [ 編集 ]

初めまして

転落や身勝手シリーズも好きなのですが、憧憬も面白かったです。
トリップものといえば少年や少女が異世界で自分の存在意義を確かめつつ成長する、そんなイメージがあったのですが、憧憬の場合は誠吾さんが大人なせいか、最初から「自分が相手の為に何が出来るか」を見据えた感じが良かったです。子供相手に嫉妬するところも可愛い親父です。王子が心身ともに成長していく過程も楽しかったのですが、密かなお気に入り人物はドラテア様。
……美人に弱くて済みません。

誠司くんとサディユースさんには君達いつの間にそんな絆作ったんだ、と呟きつつジャパニーズ管理職の強さを存分に発揮してくれるであろう誠吾さんが心強いばかりです。ありがとうございました。
[2009/10/25 13:37] まや [ 編集 ]

ありがとうございます

Yさま。
本館と別館と2度も感想貰ってしまって。
ファンタジーは、好き嫌いが非常に激しく、自分でも書きながら「コレ、ホントに面白い?」と懐疑的に思っていたので、すごく嬉しいです。
引き込まれてしまったとのこと、作者冥利に尽きます。
[2008/12/16 21:02] 真名あきら [ 編集 ]

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[2008/12/15 21:32] - [ 編集 ]















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