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昔の男と俺の自信<1> 

久しぶりの小説は、前回、夏のコミケットの無料配布本。
BARエルミタージュの番外編です。

短いお話ですが、お付き合いよろしく!


昔の男と俺の自信


<2> <3>完


「圭…くん?」
俺を見たヒロさんは、驚いた表情で目を見開いた。
当たり前か。夕刻の自分の会社の前で、行きつけのBARのバーテンなんぞがいれば、誰だって何事かと思う。
「すみません。ヒロさん。あの、ちょっと聞きたいことが……」
「ああ。いいよ。でも、今日は圭くん、店はいいの?」
「休み、です」
つい、どもってしまった。ヒロさんにはきっとそれが嘘だなんて、丸解かりだろう。
「そうか。呑みにでも行くか? それとも聞かれたくない話なら、家にするか?」
やさしく微笑みかけてくれるヒロさんだけど、俺が実はあてつけでやってきたと知ったら、どんな顔をするだろう。
「じゃあ、ヒロさんの家で」
うかがうように云った俺に、ヒロさんは笑い掛け、先に立って歩き出した。
「少し歩くけど、いい?」
ヒロさんがバス停の前で、俺を振り返る。
あ~、この筋肉だもんな。健康の為とかって歩いていそう。でも、俺の為に習慣を変えさせるのは申し訳ない気がして、俺は歩くことに同意した。
二キロ程歩いた頃だろうか、いかにもな昔風の商店街に入る。総菜屋さんの前で足を止めたヒロさんは、申し訳無さそうに口を開いた。
「悪いが、俺の家、何も無いんだ。アイツも今日はいないし」
頭でも下げそうな勢いのヒロさんに、俺は逆に申し訳なくなってしまう。
「いや、突然訪ねてきたの、俺ですから。第一、ヒロさんがきちんとおさんどんしてたら、そっちの方が…」
云い掛けた俺は、思わず心の中でエプロンして台所に立っている、体格のいいヒロさんを想像して、げんなりとなった。
「はは。そっちが不気味だよな。まぁ、ここの惣菜は美味いんだ。あと、酒はビールでいいか?」
「はい」
総菜屋でいろいろ酒のつまみだか、食事だか判らないものを買い込んで、数軒先の酒屋でものすごく冷えたビールを買う。
キンキンに冷えたソレは、裏の井戸で冷やしてあるんだとヒロさんが教えてくれた。
「ヒロさん、コンビニとか使わないんですか?」
「ああ。日常の買い物は余程遅くならない限りはココだな」
「へー」
意外な感じだ。五十過ぎたオヤジならともかく、ヒロさんの世代で、商店街で買い物なんて。
「こっちだ」
商店街の真ん中にきたところで、小さな路地へ入る。突き当りに小さな一軒家があった。
どうやら、そこがヒロさんの家らしい。
キッチンと隣接した四畳半のテーブルに、買ってきたものを広げた。
冷えたビールが夏の暑さに疲れた身体に心地いい。
所狭しと並べられた惣菜も、所謂ところのオフクロの味という奴で、中々美味かった。
ふと、ビールを傾けていたヒロさんが口を開く。
「俺の勤め先は誰から聞いたんだ?」
「エルミで真幸さんから」
「真幸か」
ヒロさんが納得の表情でうなずいた。
「で? 何があったんだ? 俺がエルミに行くのも待ちきれなかったんだろう?」
俺の勤め先・エルミタージュは、ヒロさんのお気に入りのBARではあるが、ここのところ、ヒロさんは随分ご無沙汰で(それでも二月に一度程は来てくれるが)、正直、相談するには間が開きすぎた。
「あの、ヒロさんは知ってます? そのマスターの前の共同経営者」
じろりと缶ビールから口を離さずに、ヒロさんが目線だけ上げる。
「そんなこと聞いてどうする? もう、過去のことだろう?」
エルミタージュのマスターで、戸籍上の義兄・愁輔さんには、俺の前に、一緒にエルミを経営していた相手がいた。もちろん、俺と恋人になる前の話で、既に十年近く昔の話だ。
「過去の話なら、こんなにこだわったりしません」
俺は数日前のことを思いだして、思わず唇を噛み締める。
「何があったんだ?」
ヒロさんが促すように、頬に手を滑らせたのに安堵して、俺は数日前の出来事を話し始めた。


     ◆◆◆


「すみません。まだ、準備……」
「相変わらず、貧乏くせえ店だな」
夕刻ではあるが、まだ店を開けるには早い時間だ。『準備中です』と云おうとした俺の声を遮るように、その男はずかずかと店の中へ入ってきた。
三十代くらいで、長身で、スーツの上からでも判る鍛え上げられた体躯。いたずらっこがそのまま大人になったような瞳と、大人の男の色気の同居した、見事にマスター好みの男だ。
「僕の店に、何か御用ですか?」
さっき、酒屋が集金に来ていたから、マスターはしばらく裏から戻っては来ないだろう。
昔のなじみ客かもしれないが、なんとなく、口調に険を感じた俺は、むっとしたことを隠しもしなかった。
「お前の店ぇ? 冗談よしな。経営者同士のオトナの話があんだよ。愁は何処だ?」
確かに俺は店の経営者としては半人前だし、まだ二十代の若造だ。にわかには信じがたいだろうが、それでも愁輔さんのパートナーとして店を任されてるんだ。
「愁輔は手が離せません。ご用件は何でしょうか?」
「何だ? お前、ただのバーテンじゃなくて、愁の男かよ」
いかにも馬鹿にしたような口調に、キレなかったことを褒めて欲しい。そのくらい、男の言い草はあからさまだった。
「じゃ、ありがとうございました」
奥のドアが開いて、酒屋のバイトくんが顔を出す。もう二年ほどBAR相手の酒屋の配達を引き受けている大学生は、今時珍しい、くそがつくくらいの真面目なタイプで、最近では集金まで任されている。
「小沢くん。ご苦労様」
「圭さん。失礼します」
きびきびとした動作で頭を下げて出て行こうとする、小沢くんの視線が、店の真ん中に我が物顔で突っ立っている男に止まった。
「木ノ内さん。どうも」
「羽間酒店さんか。ご苦労様」
どうやら、何処かの店の奴らしい。羽間酒店は結構酒の品揃えがいい店だ。こだわりのある店は、結構出入りに指定している。
小沢くんが出て行くのと、奥の部屋からマスターが出てくるのは、ほとんど同時だった。
「愁!」
長身でそれなりに逞しいと思った男も、K1ファイターのようなマスターに甘えた仕草で抱きつくと、悔しいぐらいに似合いのカップルに見える。
「衛?」
マスターはいきなり抱きつかれて、呆然といった体だ。
「愁。話があるんだ」
瞳を輝かせてマスターの顔を見つめるその男の仕草は、端から見ていても、媚に溢れていて、吐き気がする。
「ちょっと待て。衛。俺たちはとっくに別れた筈だぞ。一体、今更、何がある?」
マスターは男を抱きつかせたまま、平坦な声でそう云い放った。
「確かに恋人としては別れたけど、俺たち親友だったじゃないか」
「確かにそうだけどな」
マスターは男を引き剥がすと、興味なさ気に開店の準備にいそしみ始める。
「圭。看板」
「はい」
男なんかいなかったかのように振舞う愁輔さんに、俺は右に習った。
「彼、紹介してくれないの?」
「必要ないだろう。そろそろ店を開けたいんだ。話なら今聞く」
「そう。解かったよ。ビジネスの話なんだけど」
男はけろりと態度を変えると、スーツの襟を正す。見事な変わり身の早さだ。
「興味ないな。うちは昔からのやり方を変える気は無い」
「昔からの止まり木のようなバーなんて、この新宿では古いよ。そろそろ新しいやり方を考えてもいいだろう?」
「それはご親切に」
吐き捨てるように愁輔さんが云い放つ。
「今は、こういうアンティークないかにもな感じの店構えは、結構受けるんだよ。俺にプロデュースを任せてみる気はないか?」
その言葉を聞いて、俺は男の顔をまじまじと眺めてしまった。
小沢くんは『木ノ内さん』と呼んでいた。名前には聞き覚えがある。木ノ内衛。誰だっけ?と考えて、俺はようやく男が誰かを思い出していた。
木ノ内衛――――新宿で一二を争う大きなゲイバーの持ち主で、他にもいろいろな店を経営している実業家だ。同時に、いくつもの店のプロデュースをしているプロデューサーでもある。
確か、愁輔さんは恋人とエルミの経営で上手くいかなくなって別れたんだと云っていたけど、まさか、あの木ノ内衛が愁輔さんの元恋人だったなんて。
「圭?」
俺が露骨に動きを止めたのが分かったらしい愁輔さんが、怪訝そうに声を掛ける。
「愁。俺のこと、恋人には云ってなかったんだな」
「お前とのことは過去の話だ。そういう話に乗る気は無い」
「ふん、そうか」
どうやっても気を引くのは無理だと思ったらしい木ノ内さんは、くるりと身を翻して出て行ったが、その姿も俳優さながらにキマっていた。


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