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昔の男と俺の自信<2> 

俺としては、それで諦めてくれたんだと思っていたんだが、どうやら、それは早計だったようで。
再び、木ノ内さんが俺の前に現れたのは、その数日後。
閉店近い明け方に、俺が外の酒瓶を片付けていたときだった。
「やぁ。圭くん、だったよな」
にこやかに笑顔を浮かべた木ノ内さんは、スーツ姿も素敵な、何処から見ても実業家といった風情だ。こんな裏通りには、まったくもって似合わない。
「何か御用でしょうか? 愁輔は中ですが」
俺はなるべく平静を装って云ってみるが、正直、動揺し続けだ。
こんな男らしくて仕事の出来る男と付き合ってた愁輔さんが、何で俺なんかと付き合っているんだろうと、この間から実は考え続けている。
「君が愁の恋人なんだ。意外だな」
「何故ですか?」
「だって、君。愁の好みじゃないからさ。俺はてっきり、アイツはヒロと一緒になっているんだと思ってたからね」
「ヒロさんには、別の恋人がいますよ」
愁輔さんがこの人と上手くいかなくなったのは、店のことだけじゃなくて、ヒロさんに対する想いがあった所為だと云うのは、愁輔さん自身から聞いた。
だが、いくら分かっていても、他人から指摘されるのは気分のいいもんじゃ無い。
「ああ。それでヒロを諦めて、君って訳か」
そんないかにも妥協の結果と云わんばかりの言い草に、俺は内心どきりとするが、それをこの男の前では晒したくは無かった。
「君だってさ、愁輔の店の経営方法は古いと思ってるんじゃないの? 俺に任せてくれれば、今の倍の客が入るよ」
数が全てだと云わんばかりの云い方に、俺はむっとして言い返してしまう。
「古いとは思いません。そういう店が良くて、来てくださるお客さんもたくさんいます」
「でも、新しい客はそうそう来ないだろ?」
「…!」
確かに云われる通りだ。俺たちはそれでいいと思っているが、この男に反論する術が無いのが悔しい。
「まぁ、君が共同経営者だって云うんなら、ちゃんと将来を見据えて商売した方がいいと思うよ」
そう云うと、木ノ内さんは俺の手に自分の名刺を握らせて去って行った。


     ◆◆◆


「圭くん。マスターが信じられないか?」
俺の話を聞き終わったヒロさんが、俺の瞳を覗き込む。
「……」
信じられないのはマスターじゃなくて、俺の方だ。ホントに俺でいいんだろうか?
「マスターは、圭くんをちゃんと籍を入れて、弟にまでしたんだぜ。それはどんな困難も圭と乗り越えて行こうって、マスターの決意だろう?」
俺がマスターの籍に入ったことは、俺の実家にはすぐにばれた。すぐに俺の両親が上京してきて、散々愁輔さんを罵っていったが、愁輔さんは黙って頭を下げてくれた。
「俺が、自信が無いんです」
正直に告白すると、ヒロさんは苦い表情でため息を吐く。
「そこは、俺にも覚えがありすぎるから、説教出来る資格は無いんだがな」
ヒロさんの恋人たちは、現在に至るまでかなりゴージャスだ。確かに、あの人たちなら、俺以上にヒロさんは不安を抱えていたに違いない。
「だからこそ、云わせて貰うと。マスター自身が、圭がいいって云ってるんだ。他からどう見えるかを気にしすぎると、大事なものが見えなくなるぞ」
「はい」
ヒロさんがゆっくりと俺を抱き寄せた。だが、そこに性的な色合いはまったくない。
頭を抱え込み、ぽんぽんと叩かれると、心が軽くなる気がした。
「衛さんか。俺、あんまりいい思い出ないんだよな。今、思うと当たり前なんだが。あの当時は俺も子供で、まさかマスターが俺に惚れてるとは思わなかったからな」
そりゃそうだろう。まだ、大学生だったというヒロさんは、失恋したばかりでそんな余裕なんて無かった筈だ。
「でも、気に入らねーな。要するに、自分から別れたが、未練はたっぷりって奴だろう。相手が俺なら、簡単に奪えるとでも思ってたんじゃねーのか?」
「まさか!」
「いや、きっとそっちの色気もあったんだろ? それとも、もっとタチが悪くて、マスターを躯で懐柔するつもりのかもしれないぜ?」
俺は思わず、むっかりとなった。
自分でパトロン見つけて出て行った癖に、今更?
「そうそう。そーいう貌してな」
「え?」
「さっきみたいな不安そうな貌じゃなくて、戦う男の貌。いい男だぞ、お前」
ニヤリとヒロさんが俺に笑いかける。うん。ヒロさんもいい男だ。
「で、相談料頂きたいんだけど?」
「へ?」
相談料なんて、今まで請求されたこと無かったぞ。
「子供の相談に乗るのは、大人としての役割。でも、お前はもう子供じゃないからな」
ヒロさんの顔が近づいてくる。そのまま唇が触れてきた。
久しぶりのヒロさんとのキス。
受け入れる為に開いた唇の隙間から、熱い舌が忍び込んでくる。
巧みなキスに、膝の力が抜けてきた。

がたんと何かが落ちる音が響く。

俺に圧し掛かるヒロさんの重みが退いた。
「お前…」
玄関先に立ち尽くしているのは、ヒロさんの恋人の英さんだ。呆然と俺たちを見つめている。音の元は、玄関先に転がったスーパーのビニール袋と、ビジネスバッグ。
「お帰り。英次」
悪戯を見つかって開き直っているような表情のヒロさんが、英さんを招きいれた。
「悪い。もうメシ食っちまった。お前、今日来ないって云ってたからさ」
「だからって、浮気かよ」
気を取り直したらしい英さんが、ヒロさんに詰め寄っている。
「たかがキス一つだぜ。相談料だよ」
「何の相談だよ!」
英さんは、ものすごく独占欲の強い人だ。俺はさっさと退散することにする。
「じゃ、俺、これで」
「さっさと帰れ!」
余程腹立たしいのか、英さんの怒鳴り声は腹まで響く勢いだ。
「圭。来週の定休日。空けとけよ。デートするからな」
まだ云うかと思ったが、何事にも慎重な性質のヒロさんが、あえて英さんの前で、そう云うからには、何かの計画があるんだろう。
「はい。分かりました」
「帰れって云ってんだ!」
本気で怒っているらしい英さんに、また怒鳴られた。
俺はさっさと身を翻したが、既にシャツの前をはだけた状態のヒロさんに英さんが圧し掛かってるのが、目の端に入った。
あ~あ、あれは今日はすごいぞ。
俺は肩を竦めて、商店街を駅に向かって歩き出した。



「何処へ行ってた?」
愁輔さんと一緒に暮らしているアパートは、愁輔さんが学生時代から借りている古い小さな2Kだ。
「ん。ちょっと、友達のところ」
「いきなりは止めろ。心配するだろう」
大きな厚い胸に抱き寄せられると、俺はほっと息が吐ける。この人が俺のそばにいてくれるのが、何よりも嬉しい。
「お前の友達って、ヒロちゃんか?」
抱き寄せられたまま問われて、俺はぎくりと身体をこわばらせてしまった。
しまった、これじゃ答えになったも同じだ。
「ごめん。昨日、アイツ、また来て。愚痴聞いてもらった」
俺は素直に、吐いておく。英さんほどじゃないが、愁輔さんもすごいヤキモチ妬きなんだ。
「愚痴ぐらい俺が聞くのに」
「だって、恋人だった人でしょ? 悪口なんか聞きたくないと思って」
いや、違うな。俺がそんなので人を罵るところを見られたくなかっただけだ。いつでも、俺はこの人の前ではカッコつけていたい。
こういうところはやっぱり俺も男だなと思う。
「ン…、ッ」
呼吸が止まりそうなほどの激しいキスで、頭がぼうっとしてくる。
そのまま、畳に押し倒された。
俺が一緒に暮らすようになって替えた畳から、いぐさの青い匂いが立ち上る。
「圭吾…」
俺を呼ぶ愁輔さんの声が、欲望に滲む。
俺はそれを受け止めるように、愁輔さんの逞しい背中に腕を廻した。


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