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強くなる男<2> 

「ここですか?」
ナビのままに着いた旅館は、かなり古い建物だが、よく手入れのなされた所謂老舗旅館であることが一目で見て取れた。
「ええ、そうよ。離れをとってあるの」
こんな旅館で離れ。しかも、大人が(一人は未成年だが)六人。どれだけの出費だ?
「だって、カップル二組でしょ? やっぱり食事とかはともかく、お風呂は独立してた方が良いと思って」
「母さん!!」
佐伯と佐伯兄の咎める声が、ユニゾンで響くが、当然香澄おばさんは、まったく意に介していない。俺と悠里は照れて、視線のやり場に困ってしまったし、佐伯弟はやれやれと云った顔で、天井を見上げていた。
「まぁまぁ。香澄先生。ようこそいらっしゃいました」
「速見さん。お元気そうで。顔色もいいわね。食欲はどう?」
「先生のおかげですっかり。そちらが先生の?」
迎えでたおかみさんが、本当に掛け値なしの歓迎の意を表して一行を出迎えてくれる。なるほど、元患者さんか。
「可愛げのない息子三人と、すっごく可愛い親戚の子供たちよ。この子達はいずれうちの子にしちゃうつもりなの」
可愛げのないと紹介された息子より、俺と悠里を引いて、テンション高く香澄おばさんが紹介するものだから、俺と悠里は顔を見合わせて、頭を下げた。
「お世話になります」
「まぁまぁ。こちらこそ、田舎で、たいしたおもてなしも出来ませんが、どうぞくつろいで行ってくださいね」
おかみさんの案内で、ロビー(日本家屋でもそういうのか?)に通される。香澄おばさんが宿帳に記帳をしている間に、椅子に腰掛けて、お茶をすする。その間に、荷物も全て運ばれてしまった。
おかみさんと香澄おばさんは真剣な顔でいろいろと話している。それは、さっきのはしゃいだ様子からは想像も出来ないもので、あれが医者としての顔なんだなと、俺は妙に感心してしまった。


「すげぇ…」
三間続きの離れに案内されて、俺は思わずそう呟いてしまう。
「露天も庭も独立しておりますから、充分におくつろぎいただけると思いますよ。夕飯はどうなさいますか? お部屋がよろしいですか? 良いお庭のある料亭もございますよ」
「すみません。食事は和食だけですか?」
和食一辺倒では大人たちはともかく、悠里はどうだろう?
「フランス料理もございますよ。此方は、明治の頃には外国の方の別荘などもございましたので」
「どうする? 悠里ちゃん?」
俺が悠里を覗き込むと、う~んと悠里が考え込む。いつもは年よりも大人っぽいくらいの子だが、こうして考え込んでいる様子は、ちゃんと年相応だ。
「船盛り?食べてみたい!」
「ええ。じゃ、料亭でお願いします。七時で」
元気良く云った悠里に微笑んで、香澄おばさんが料亭の予約を入れる。
「ホントにヒロは気がきくわ~」
と云いつつ、じろりとわざとらしく息子たちを眺めやった。口やかましい母親と、首を竦めつつ従う息子たちの構図が微笑ましい。
「おばさま。総一さんを虐めないでいてあげてください」
「まぁ、ホントに悠里は優しいのね。こんな息子にはもったいないわ」
そんな大人のじゃれあいなど判らない悠里が、本気で香澄おばさんに訴えているのが可笑しかった。
思わず、佐伯と顔を見合わせて、笑ってしまう。
風呂やらでくつろぐには、まだ早い。
となれば。
「で、何処行く?」
「スタンダードな観光コースもたまにはいいだろう。香澄おばさんは何処がいいですか?」
「そうね。ヒロのオススメは何処?」
「早雲寺にトイミュージアム。女性ならベゴニア園に、ひめしゃらの湯、ガーデンミュージアムってところですか。あと、箱根の旧街道散策なんかがチープなところですね。登山鉄道やらロープウェーなんかは一日掛かりになるので、明日にした方がいいでしょう」
今は昼前だ。食事をして出掛ければ、結構な時間になるだろう。
「詳しいんですね」
「ああ。何年か前に社員旅行で来たんだよ。俺は総務部だから、手配もあったからね」
ロビーに置いてあったガイドブックを広げた手元を覗き込む、悠里の質問に答えると、佐伯が首を捻った。
「あれ、社員旅行で来たっけ?」
「お前らは、最初から酔っ払いだったからな。覚えてないだろうよ。俺はしっかりと覚えてるぞ。小島の野郎が旧街道で迷子になりやがって。探すのにどれだけ苦労したか」
「あれは、俺と小島は被害者だぜ。交換条件とバツゲームで散々呑まされた後だったんだからな」
どういう訳だか、佐伯だけでは無くその時に同行した営業部の連中は、お局様二人掛かりで、呑まされ続け、強羅の駅に着いた時には、ものすごい酔っ払いと化していたのだ。あれじゃ、覚えていないのも無理は無い。
「箱根の旧街道って面白そうだわ」
「ハイキングコースですよ」
「あら、だからいいんじゃない? お昼ごはん食べてから出かけて、歩いた後に温泉と夕食! 健康的じゃないの」
健康的と云うよりは、どっちかといえば体育会系という感じがするのは気の所為か?
何となく、押し切られる形で、俺たちは香澄おばさんの云う通り、箱根旧街道へとハイキングへ行く羽目になった。


普段鍛えている、俺と佐伯は結構平気だった。というか、悠里に合わせて歩いているのだから、当然平気な筈だ。香澄おばさんも、さすがは外科医と云うべきか。体力はあるようだ。情け無いのは総一さんと五実の、佐伯の兄・弟だった。
旅館に着いた後、ぜいぜいと息を吐いたまま、今は大の字になって倒れこんでいる。というか、小児科医と警備員。そんなに体力無くてどうする。
悠里は最初、おろおろしていたのだが、香澄おばさんがさっと聴診器を取り出して、診察すると、やっと安心したようだ。
「単なる運動不足。もっと鍛えなさい。英次を見てご覧」
確かにこの中じゃ、佐伯が一番細そうに見えるが、コイツ、俺を軽々と抱えるんだぜ。
「一応、鍛えてるよ」
さらりと返事をした、佐伯の視線が、部屋の一点で留まる。
「へぇ、浴衣選べるんだ」
ご自由にお選びください。と書かれた紙のある木箱が、部屋の隅に二つ並んでいる。
明らかに、人数に比べて女物の数が多いのはご愛嬌だろう。
「お前、どれにする?」
佐伯が俺を着せ替えにしたいのは良く判るが、そういう時はまずは、悠里と香澄おばさんだろう?
どうせ、香澄おばさんが、黙っていたって俺たちを着せ替えにするに決まってる。女って云うのはそういうの、好きだからな。
「悠里ちゃん。総一さんに選んでもらいな」
俺がそういうと、悠里は顔をぱぁっと輝かせて、総一さんの腕を引いた。
総一さんは、戸惑いがちな渋い顔をしたが、顔を輝かせた悠里を前に、それもすぐに緩む。まぁ、可愛い婚約者に懐かれて嫌な顔をする男はいないだろう。
「香澄おばさんはどれにします?」
悠里を総一さんに任せ、俺は香澄おばさんを振り返った。
「そうねぇ。この牡丹の奴とか良いわねぇ」
「うわ、そんな派手なの着る気か? 母さん、年考えろ」
上機嫌で浴衣を選ぶ香澄おばさんに、余計なことを云う佐伯の腹に、俺は無言で肘を入れる。
まったく、一言も二言も多いっつーの!
ぎろりと息子を睨みつけ、着替えの為にさっさと奥の部屋へと引っ込む姿は、怒っているポーズだろう。俺は、佐伯の頭に拳骨をくれた。
「いてぇなあ」
「お前、いくら息子でも、遠慮なさすぎだ」
「まぁまぁ。それより、お前、どれにする? お揃いっぽいのがいいんだけど」
何となくはしゃいでいるような感じの佐伯に、違和感を覚えつつ、俺は浴衣を手に取った。女でもあるまいし、いつまでも迷っていても仕方が無い。
俺自身も、佐伯と浴衣でくつろぐなんて図は、早々無い代物だ。正直、目の前に用意されたそんな機会を逃す程、馬鹿じゃない。
「俺は、これがいい」
濃紺の細い縦じまの模様のある地味な奴を手に取ると、佐伯は同じ柄の黒を手にした。この野郎、本気でお揃いなんぞやる気か?
「久世くん。一人で着れるか?」
やっと、浴衣を選んだ悠里を、おばさんの元へと送り出した総一さんが振り返った。
「何度か着たことはありますが、一人で着れるかどうかは…」
会社のイベントで何度か着せられたことはあるが、手順を覚えているかと云われれば、心もとない。
「英次と、五実は?」
総一さんに訊ねられた弟二人は、勢い良く首を振った。やれやれといった感じで、俺を手招くと、あっと云う間に俺に浴衣を着せ掛けてくれた。
佐伯や、五実も同様だ。
「総兄、こういうのは得意だよなぁ」
「お前らが稽古さぼってくれたお陰で、な」
五実が感嘆したように云うと、総一さんが深いため息を吐く。
「稽古?」
「お袋が一時期、お茶に凝ってたんだ。週末の度に付き合わされてさ」
「一番上手く逃げ回ってたのは、お前だろう」
余計なことを吹き込まれないようにと、早口で説明する佐伯に、総一さんが苦笑を浮かべて頭を抑えた。
「兄貴は抜け目ないんだよな~」
五実も、うんうんとうなずいて同意する。どうやら、兄弟としての佐伯は、ご他聞に漏れず、ちゃっかり次男坊らしい。
「うるせぇな。総兄たちが要領悪いだけだろ」
口を尖らせて反論する佐伯は、普段俺には見せないだろう、兄弟ならではの甘えた面が現れていて、俺はくすりと笑ってしまった。


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