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強くなる男<5> 

「その、親戚のオヤジと、何があった?」
さすがにそのままでは眠れそうに無かった俺と佐伯は、部屋風呂で身体を流した。
部屋風呂と云っても、窓無しの半分露天のような造りだ。雪が降っていないのが、幸いだった。
無茶をされて、ほとんど力の入らない俺を、佐伯は支えたまま、身体を綺麗にしてくれる。
ゆっくりと風呂に浸かって、身体が温まったころに、それまで無言だった佐伯が口を開いた。
多分、聞きたくて仕方が無かったのだろう。
「見間違いかもしれないけど、な」
「本人かどうかより、そいつと何があったか、だ。俺が聞きたいのは」
イラついた調子で云われて、俺は少し反省した。俺だって、佐伯が隠し事をしたら、きっと嫌な思いをするだろう。
「親父の兄貴なんだ。親父の親戚は、ほぼ全員が教師でさ」
俺自身も、体育教師になるつもりだった。あの事件が起こるまでは。
「俺がレイプされた時、最も騒いだのが、この叔父貴だったんだ。ホテルになんか着いて行くから、こんなことになるんだって。覚せい剤も進んでやったんじゃないかとか、自分から誘ったんだろうとか。親父と母さんの育て方が悪いとか。もう云いたい放題」
あのままでは、親父も母さんも妹も多分、親戚から縁を切られていたはずだ。
「で、家とは縁を切らせろって話になって、戸籍から外されたんだ」
「外された?」
「ああ。独立戸籍って奴。今は、引越しなんかで簡単に出来るらしいけど、同じ都内で引越しするのに、本籍を移す奴なんかいないって、区役所の人が驚いてたよ」
九州や北海道の人間が、東京へ移り住むときに、本人だけが本籍を移すのはあるらしいし、それは役所も勧める傾向にあるようだ。
結婚や離婚、出産などで、本籍が必要な場合に、また田舎へとりに行くのは面倒であると共に、手間が掛かる。
だが、同じ二十三区内。しかも、引越しするのは未成年だけとあっては、区役所の職員が首を捻るのもうなずける。
幾度も念を押す役所の職員を、俺はさっさと急かして手続きを終えたものだ。
英次が、そっと俺の肩を抱き寄せる。
俺は、暖かい腕に、抱きしめられるままに身を寄せた。


「おはよう。ヒロ」
にっこりと微笑んだ香澄おばさんに、俺は落ち着かなく視線を彷徨わせた。
後からやってきた佐伯は、大あくびをして、寝不足であることを示す。
俺は居たたまれない気分だった。
「おはようございます」
朝食は、部屋へと運び込まれている。
俺は覚悟を決めて、佐伯と揃って席についた。多分、聞こえている部屋もあったはずだ。
焼き魚、味ノリ、生たまご、おしんこに、味噌汁と云う、典型的な旅館の朝食をもくもくと食べていると、悠里がちらちらと此方を盗み見るのに気付く。
しまった。悠里にも聞こえてたか。いくら、恋人がいるとは云え、高校生には刺激が強すぎると、おばさんに怒られてしまうかもしれない。
ハイネックのセーターで良かったよ。
「ヒロ、今日は何処に行こうかしら?」
「登山鉄道と、ロープウェイ。それに、芦ノ湖の遊覧船なんてどうですか?」
「ああ。いいわね」
おばさんの了解を得て、皆が出掛ける支度に掛かる。俺と佐伯は既に着替えていたので、そのままその場で茶をすすった。大体、ポケットの中に財布とタバコさえ入っていれば、何時だって出かけられる。
お茶菓子を摘んでいると、香澄おばさんがじっとこっちをみていた。
「うん。いい顔になったわね」
「え?」
俺が思わず聞き返すと、にっこりと笑う。
「夕べ嫌な顔してたわよ。うちの息子も役にたったみたいで良かったわ」
さすがに顔に出ていたか。まぁ、叔父貴との確執は、自分の中のトラウマと直結しているだけに、動揺しやすいのは判っているんだが。
「あ、悠里……」
もしかして、悠里が俺を気にしていたのは、声が聞こえた所為では無くて。
「あの子もそういうの、鋭いから。でも、元気になって良かったわ」
「当たり前。恋人にあんな顔させとく訳ないだろう」
いけしゃあしゃあと云う佐伯に、俺は半ば呆れ、だが、少しだけ感動した。
うん。俺の恋人がお前で良かったよ。
「さ、邪魔者は退散」
「か、香澄おばさん…」
クスクスと笑って立ち上がると、香澄おばさんは隣の部屋へと姿を消した。
それを待ちかねたかのように、佐伯が俺の腰を引き寄せ、深く口付けてくる。
隣室には、親兄弟がいると云うのに、まったく困った男だ。
少しだけ、それに応えてから、俺はパンと音がするくらいに、佐伯の額を叩く。
恥ずかしいんだよ。
「何時、戻ってくるかわからないんだぜ?」
「うん。悪い。でも、可愛いからさ、つい、な」
この男は、いつも俺なんかを可愛いと云ってはばからない。可愛いというのは、悠里とか、男なら圭くんとか真幸とか、ああいう奴らのことを云うんじゃないのか?
相変わらず、腐った頭だ。
がらりと襖が開いて、俺は突き飛ばすような勢いで、佐伯から離れる。
そこには呆れた顔をした佐伯兄弟が並んでいた。
「あのな、久世くん。そんなに恥ずかしがらなくてもいいだろう? 俺たちはとっくに君と英次のことは知ってるんだぞ」
「はぁ。それは解ってるんですが、反射的に、つい」
俺はもごもごと口の中で言い訳を並べる。
「あのな、久世くん。いや、俺もオフクロみたいに、ヒロって呼んでもいいか?」
「別に構いませんが…」
真面目な顔で云う総一さんに、俺は思わず身構えた。
「ヒロは、英次と付き合っているのを恥ずかしいと思ってる?」
「いえ、別に」
「じゃ、ゲイだと知られるのが恥ずかしい?」
「それも別に」
確かに、目の前でどうこうは勘弁して欲しいが、それはゲイだとかストレートだとかの問題では無く、当たり前の羞恥心と云う奴だ。
「じゃあ、何でなんだろうな。俺にはヒロは極端に何かを怖がっている風に見える」
「ああ。俺、ゲイだって分かって家追い出されたんで、多分、その所為かな? あんな風に人が変るのを目の当たりにすると、やっぱ怖いんすよね」
正直なところだ。結局、全面的に味方になってくれたのは妹だけだった。
「そうか」
総一さんはうなずいて、それ以上突っ込んでこようとはしない。
俺、いろんな人に心配かけてるな。
思わず、下を向いた俺の手を、横から大きな手が包み込む。はっとして隣を見ると、俺の恋人はテーブルの下で俺の手を握ったまま、素知らぬ振りで新聞に目を落としていた。
その手をしっかりと握り返し、自分に云い聞かせる。
この男だけは変らずに、俺の隣にいてくれるのだ、と。


その日も一日遊びまわり、疲れた身体を引きずって、旅館に戻ったのは、既に夕刻だった。
悠里ははしゃぎまわり、総一さんがそれを追い掛ける。それを、うらやましげに涎たらして見ている佐伯を、俺は横合いからどつき倒した。
当たり前だ。アレをやりたいなぞと云ったら、俺はその辺に穴掘って埋まるぞ。

「あの、ヒロ兄。まさかと思うけど、一緒に風呂行くつもり?」
長兄・次兄にならって、五実は俺をヒロと呼ぶ事にしたらしい。ヒロ兄か、悪くない響きだ。
「あん? 一日観光終わって、旅館に帰って来たんだぞ。風呂行くに決まって…」
居心地悪そうに、浴衣に着替えた俺の胸元から視線を逸らす五実に、俺ははっとして前を掻きあわせる。しまった! 忘れてた!
「と、云うわけで、俺とヒロは、部屋風呂」
佐伯は云うなり、俺をずるずると引きずって個室へと戻ってきたが、俺の腹は収まらなかった。
「だから、云っただろう! 跡付けるなって!」
「お前、思いっきりナチュラルに着替えてるから、俺はホントに見せつける気かと」
「んなワケねーだろ!」
馬鹿野郎! 誰がそんな恥ずかしいマネするか!
「せっかく温泉来てんのに!」
「ここだって温泉だろ? いーじゃねーか。二人っきりで、さ」
気障ったらしくウインクするのが、嫌味なくらいに似合っている。
俺ははぁ~とため息を吐いて、肩を落とした。
どーせ、こいつには敵わない。いや、口にすることは多分無いが、俺、やっぱりコイツに惚れてるんだよ。
仕方が無いというポーズは照れ隠しの演技だ。とっくにバレてるんだろうな。
「とりあえず、風呂だ、風呂!」
もう、これ以上は墓穴を掘るのは確実。
俺はさっさと風呂へと向かった。


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