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You are my Valentine<2> 

何度も打ち合わせを繰り返し、イベントを煮詰めていく。
各地の観光案内所へポスターを配り、貼ってもらうように頼み込んだり、町のばーちゃん連中を捕まえて、衣装を縫ってもらったり。
もちろん、団長たちの、常日頃の地道な活動の成果もあるのだろうが、背の高い一之瀬が身体を二つに折って頼み込むと、真摯な態度にうたれるのか、大抵の人間が『仕方が無い』と引き受けてくれる。それは、一之瀬高良と云う人間の徳と云ってもいいだろう。
ネット配信している民話も、順調にアクセス数を伸ばしている。
もちろん、そっちからリンクしている町のHPもだ。
募集のカップルも結構集まっているらしい。

「こんなに集まるのは予想外やったな」
「断るのも惜しかし。どげんする?」
祭りを二週間後に控えたある日、青年団で緊急の寄り合いが開かれた。
俺たちが行ったときには、すでに主な青年団の連中が深刻な顔で、考え込んでいる。
「どげんしたと?」
「カップルが集まりすぎてな。公民館じゃ入りきれん」
俺が声を掛けると、桑畑さん以下の団員が一斉にこちらを向く。
「何組なん?」
「十九組。それにフリーの男女が七人。スライドの準備場所とかも確保したら、ギチギチになってしもた」
確かに公民館じゃ狭い。
「昔ならどっかの家でも、寺のお堂でもあったんやが」
いくら田舎とは云っても、嫁を貰った家は、やはり現代風に建て替えしたところも多い。
寺だって、町の全員が集まれた五十畳のお堂なんぞ、今は昔だ。
「ウチはどげんかな?」
祖母の住んでいた頃、そのまんまの家は、三つの部屋が続き間になっている。それに土間が広いから、機材をいれるのも楽な筈だ。
「ちゃーのとこなら、楽に入るが。良かとや?」
「うん。一之瀬さえ良かなら」
「高良。どげんや?」
一之瀬に視線を流した俺が聞くよりも早く、桑畑団長が勢い込んで一之瀬に詰め寄る。手伝ううちに、一之瀬はすっかり青年団の一員として溶け込んでいた。
「鮎さえ良いなら、俺は構いませんよ」
な?と同意を求めて、俺の目を覗き込む一之瀬に、俺はちょっとどきまぎしてしまう。
正直、心臓に悪い。顔を覆うような、大きなメガネに感謝するぜ。
「じゃ、ちゃーのとこで場所は決まりな」
「おーい、夕実香が打掛持ってきてくれとるぞ」
振り向くと、俺の数年上の草野夕実香の姿があった。オヤジさんが長く闘病していて、嫁に行くことも無く、町へ残っている、数少ない独身女性だ。
「うわ、もう出来上がったとや?」
「うん。ばーちゃん、すっかり張り切ってしもうて。数、足りる?」
輿へ乗せた女性陣に、着物を着せたいと云う提案があり、着付けを数人のばーちゃん連中に頼んだのだが、お祭り好きな九州人のサガなのか、すっかりノリノリになったばーちゃん連中は、『どうせなら、打掛を着てもらったらどげん? 花の模様の綺麗な打掛。花嫁行列のごとしたら、映えるわ』と、すぐに数着縫ってくれたのだ。
綿も入っていて、確かに冬の山間部のイベントであることを考えると、本人たちの服の上から羽織ってもらった方がいい。ありがたく、ばーちゃんたちの好意に甘える事にしたのだが、中でも、草野のばーちゃんは、一之瀬をいたくお気に召したらしく、『高良の為なら、幾らでも縫うてやる』と既に、半分の打掛を縫ってもらっている。
「あ、高良。何時、ウチんトコに来る?」
いきなり呼びかけられた一之瀬の名に、びくりとした。
呼びかけたのは草野夕実香だ。青年団の連中や、町のじいさんはあさんが呼ぶのとは訳が違う。いつの間に名前を呼ぶほど親しくなったのだろう?
「ああ、そうだな。もう行かないと不味いな」
「何や。高良はまだ行っとらんとや?」
「もう、二週間も無か。早よ、行かんな」
青年団の連中までもが、訳知り顔で、一之瀬に草野の家に行くことを勧める。何だ? 何も知らないのは俺だけか?
草野のばーちゃんの気に入りと云う以外に、何かあるのだろうか?
「鮎」
振り向いた先には、一之瀬が優しい笑みで、俺を見ている。
「頑張ろうな。俺、これが成功したら、この町の一員になれそうな気がするんだ」
「うん」
多分、俺の硬い表情を察したのだろう。誰もいなかったら、きっと抱きしめてくれたに違いない。
そうだ、俺が不安を感じてどうする。一之瀬は俺を頼って、ここまで来てくれたんだ。
「当日のお楽しみを用意してあるからな」
「当日のお楽しみ?」
「そ。サプライズげな」
聞き返した俺に、団長までがサプライズなどと云いだす。
何か企んでるな。と感じたものの、一之瀬が『お楽しみ』というからには、楽しみに待ってやろうじゃないか。


くぬぎ恋祭り――――

銘打たれたのぼりが町中を飾っている。
俺はといえば、スタッフの半被を着て出かけた一之瀬とは別れて、会場となる自宅で、おばちゃんたちに交じって、カップルを迎える準備にいそしんでいた。
土間にテーブルを並べ、そこで飲み物と焼きケーキを用意する。町の入り口にある、道の駅でも売っているフルーツたっぷりのパウンドケーキと、地元の湧き水で淹れたコーヒーと紅茶は、柔らかい香りを漂わせ、これまた地元産のみかんブランデーも用意されている。
「こげなもんまで作っとるんか」
十年ぶりに町へ帰ってきた俺には珍しいものばかりだ。
「ああ、桑畑の兄ちゃんには、すっかりノセられとるわ」
「あはは。団長の勢いは、すごかもんがあるからなぁ」
そう云いながら、おばちゃんたちも楽しそうだ。
仏間までの三つの部屋を仕切る襖を外した部屋は、開放感もあって、より一層広い感じがする。
「ちゃー兄ちゃん、どげんしよう。震えて来た」
仏間の隅に座った湯山栄が、訴えてきた。湯山温泉の息子は、今回、自分の書いた小説の語り部として、神官役を演じることになっている。
ちなみに神官の服も、袴以外は草野のばーちゃんの手作りだ。まったく、器用なばあさんである。


「こちらです。どうぞ」
団長以下、数名の迎え役が、参加者を伴って引き戸を開けた。
「うわー。ホントにレトロ!」
「いかにも、田舎ーって感じ?」
昔ながらの百姓家は珍しいのだろう。みんなきょろきょろしている。
「いらっしゃい」
俺はにっこりと外向きの笑顔で微笑んだ。
目が合った数人の女の子の頬が一斉に染まる。
自分が綺麗な顔と称されることは、ままあったので、若い女性たちには受けがいいんだろう。
「さ、ケーキと飲み物をどうぞ」
身に付いた標準語で勧め、部屋へとあがってもらった。


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