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恋絵馬<その後・3> 

季節がちょっと外れてしまいましたが、今年のお正月の様子です。
バレンタインの一年後のつもりでお読みください。



「初詣?」
「ああ。行こうかと思うんだけど」
思うんだけどと云われても、小さな田舎町だ。この町にあるそんなところは、たかが知れている。
「去年はお寺に鐘をつきに行っただろう? 今年もやるんだよな?」
「うん、あれは青年団の役割のごたるモンやから」
たかが百八つ。されど百八つ。町の年寄りや子供たち、後は観光客を動員しても、百八人は無理だ。足りない分は青年団の連中でつくのである。
「その後に、お前とお参り出来る様なトコって無いのか?」
「う~~ん。お稲荷さんなら、何処でもあるけんど。周りに明かりが無かやろ? どっかに足とられたら、怪我するが」
とにかく、関東育ちの一之瀬には理解できないだろうが、ココはものすごい田舎だ。
東京みたいに、三が日の前から、掃除を整え、小さな稲荷神社にまで明かりを点しておくなんてことは、まず無い。
あっても、精々、ロウソクが灯っている程度だ。
「大きな社なんか、町には恋神社ぐらいしか無かが」
恋神社というのは、クヌギ山の山頂にある花菱神社のことだ。古い恋人たちの伝説になぞらえて『恋神社』と呼ばれている。
バレンタインイベントやらの町興しの材料にした故か、いつの間にか『恋愛成就』の神様と崇められている。もちろん、若い観光客の半分はこの社もお目当てだ。
初詣などに行けば、九割がたはカップルだろう。
確かに花菱神社ならば、新しく建替えも済んで、ちゃんと夜中でもお参り出来る様にはなっているが。あの神社に男二人で初詣に行くのは、ちょっと気が引ける。
「そうだな。朝になってから、俺一人で行ってくる」
俺のためらいが伝わったのか、一之瀬は寂しそうに呟いた。
「何で、そげん、二年参りに拘ると?」
「いや、二年参りに拘ってる訳じゃないんだ。絵馬を奉納したいと思って」
「絵馬?」
「ああ。これから、お前とずっと、ここで生きていきますって、誓いの絵馬を、な」
「高良」
俺は思わず、一之瀬を名前で呼んでいた。そこまで考えてくれていたんだ。
「お前のばあさんがいれば、その人に誓ったんだろうけど、それも出来ないだろう?」
もちろん、ばーちゃんが死んだから、俺はここに帰って来たんだから、生きているばーちゃんに一之瀬が会うことは無かっただろう。でも、そう思ってくれたことが嬉しかった。
「絵馬の奉納はしたいけど、お前を好奇の目に晒したい訳じゃ無い。大晦日なら、青年団の連中は、そのまま酒盛りだろう。お参りに行っても、夜の闇に紛れてしまえば、お前と二人で奉納できると思って」
確かに、こんな田舎で、俺と一之瀬がそういう仲だと知られるのが得策だとは思えない。
「いいよ。恋神社なら、巫女にさえ顔を見られなければ、見つかる心配も無いだろう」
巫女だけは、地元の学生バイトだが、奉納しているところを見られなければ、それでいいだろう。


「はちじゅういちー、はちじゅうにー」
鐘が鳴るたびに、青年団が声を張り上げる。
冷たい闇を裂くような、冴え冴えとした鐘の音が、小さな町中に響き渡った。
寺の境内では、つき終わった孫連れのじーさんばーさんや、観光客が、振舞われる甘酒やお汁粉で、身体を温めていた。
地元連中は、この後、寺中にある小さな稲荷神社をお参りして、帰途に着くだろうし、観光客のうちのカップルは、寺の参堂を抜けて、恋神社へと向かう筈だ。
「ひゃくよんー、ひゃくごー」
あと、三つ。一之瀬が引き綱を引く。
「ひゃくろくー」
目線で呼ばれて、俺は近づいて行った。さすがに青年団とは名ばかりの、中年団には疲れが出はじめ、九十を越した辺りから、一之瀬が一人で鐘をついている。
「いいか。しっかり持ってろよ」
俺の手に引き綱を握らせ、一之瀬が上から支えた。
「ひゃくななー、ひゃくはーちー」
最後の鐘がゴーンと残響を残して、辺りを静寂に落とす。
残響が消えるのと同時に、周りから拍手が起こった。
「あけましておめでとう!」
「良いお年を」
お互いに挨拶を交わして、三々五々に消えていく。残って、酒盛りを始めるもの。家族と共に稲荷神社に参るもの。そのまま、帰っていくもの。
俺と一之瀬は、帰る連中から、少し距離を取り、いなくなったのを見計らって、恋神社への道を辿った。


一之瀬が絵馬を買う横で、俺も一つ購入する。
「鮎?」
「俺も、商売繁盛でも願おうかと思って」
俺は、家の土間を改装した、小さな喫茶店をやっている。不自然では無い筈だ。
第一、この神社自体は、元々は恋愛成就の神様ではなく、子宝や、病除け、商売繁盛などの神様なのだ。
あちこちで絵馬に願い事を書くカップルたちの姿が見える。俺たちもそれぞれに場所を見つけて、慣れない筆ペンに四苦八苦しながら、願い事を書き付けた。
「俺は先に奉納してくる」
そう云う高良の手にした絵馬には、癖のある、だが、力強い字が絵馬の真ん中に記されている。
『一生、共にいられますように 一之瀬高良』
俺がうなずくと、一之瀬は絵馬を奉納場所へと結びに行った。
見つかっても、思っている人がいると云えば済む。そのうち、多くのカップルの絵馬に紛れて忘れられていく筈だ。
俺も書き上げて、絵馬を結ぶ。
「鮎。お前ッ?」
見つけた一之瀬が真っ赤になったが、俺はそ知らぬふりで、そのまま町への道を降りていった。

『二人でずっと生きて行きたい あゆ』
まず、一之瀬以外に、この名前を俺だと思う相手はいないだろう。俺の名前は「あゆかわひさし」と云うのだから。
俺だってお前との未来を誓いたいんだよ。


<おわり>


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