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ぬくもり<その後・4>完 

「それ、どげんしたと?」
俺の手元を見た鮎川は、メガネの奥の目を丸く見開いて、呆れた声を上げる。
「いや、宝蔵寺さんとこの荷物運ぶのを手伝ったら、一袋くれた」
宝蔵寺さんは、その名前の通りに、古くからのお寺さんで、兼業農家だ。俺の勤める観光案内所のある道の駅で果物を売っている。
俺が抱えていたのは、冬の定番。五キロの網袋に入れられたみかんだ。
宝蔵寺のばーさんが、重そうに運んでいたので、売り場まで数往復した程度である。
「宝蔵寺のじいさん、入院したらしか」
「そうなのか」
道理で、ばーさん一人しかいないのに、こんな重い荷物の山だった訳だ。
「寒かったろ。だご汁にしたけん」
「ああ」
みかんを台所へと運び込む。袋の中から、潰れかけたものを選び出して、かごに盛った。
この辺りのみかんは、非常に皮が薄い。その為、下にあるものはすぐに潰れかけてしまう。だが、その難点を補ってあまりあるくらいに甘くて美味かった。
かごを手に、居間へと戻ると、味噌のいい匂いが漂っている。旧式の石油ストーブの上で、だんご汁が温まっていた。
「ほら」
「美味そうだな」
刻んだ人参と、たっぷりのごぼう。あとは里芋を煮込んで、小麦粉をこねたものを伸ばして入れただけの、郷土料理だが、麦味噌のいい香りが食欲をそそる。
「温もると良か」
そう云って、温かいどんぶりを手渡された。『ぬくもる』と云う響きが柔らかい。鮎川は最近、俺の前でも、自然に方言が出るようになった。
涼やかな美貌とメガネが相まって、見る人には冷たい印象を与えがちだった、鮎川の標準語は、何処かそっけなかった。が、ここへ越してきてから、抑揚の無いやわらかな言葉尻の無いことが、鮎川の印象をそう見せていたのだと知った。

東京にいた頃も、もちろん鮎川のことは好きだった。だが、ここへ来て、素顔の鮎川を知るたびに、もっと好きになる。

こたつの中で、鮎川の足に、俺の足が触れた。
「ごめん」
九州とは云え、山間部の寒さは、東京などよりずっと冷える。外から帰ったばかりの俺の足は、おそらく、氷のように冷たかったに違いない。
だが、すぐに離そうとした俺の足を追いかけるように、鮎川の足が伸ばされてくる。
「あ、鮎?」
「寒かったろが」
鮎川の視線は、自分の握ったみかんに落とされたままだ。
こたつの中で、温まった足が、俺の足を包み込むように触れてくる。
「うん、寒かった」
「早よ、食わんな」
「うん。食べる」
言葉を交わす間、鮎川はずっと下を向いて、みかんの皮を剥いていた。いつもなら、おおざっぱに皮だけ剥いて、口に放り込むのが、今日は、神経質なくらいに白い部分までもずっととり続けている。

芯から冷えていた身体が温まっていくのは、きっと、こたつの所為でも、ストーブで温められた部屋の所為でも無い。
心尽くしの『だご汁』と、きっと真っ赤になっているだろう目の前の男の所為。


<おわり>


これにて、残り香のその後編は一旦終了です。
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番外編<幸せの香り>

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~ Comment ~

Re: また続編が読みたいです!

冬にほっこりとしていただければ。
日常が一番幸せな二人です。
[2010/01/05 21:02] 真名あきら [ 編集 ]

また続編が読みたいです!

うあ~~~!
この2人の日常がたまらなくいいです。
あきらさん、ありがとうございました。
心があったかーい!
[2010/01/05 00:15] るか [ 編集 ]















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