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癖<SS> 

昔の俺は何処にもいない。でも、鏡を見る癖はついたまま。

癖<2> 癖<3>  癖<4>完




あれから、どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。
鏡に映る俺は、もう少年の頃の面影なんか、綺麗さっぱりと消えうせている。
歯磨きするときに自分の顔を確認する癖は、ずっと付いたままだ。
髭を剃って、自分の顔をじっと見た。
何処から見ても、ただの疲れたサラリーマンの顔でしかない。
ため息と共に鏡の前を離れるのは、いつものことだ。
もう、あの頃の可愛かった自分は何処にもいない。


とぼとぼと駅までの道を歩き、駅の蕎麦屋で朝食を済ませる。
満員電車に揺られて会社に到着するのもいつもの風景だ。

世界的な不況とやらで、残業代はカットされ、残業をしている奴は、仕事を時間内に終わらせられない駄目な奴との評価に変った。
結果を残す為なら、進んで残業する奴が出来る奴という、今までとは百八十度違う評価に戸惑いつつも、会社の方針に従うしかない。
仕事が趣味だと云う俺みたいな男は、定時に仕事が終わったところで、行く場所が無かった。
いつものコンビニで弁当と酒を買う。
帰宅時間が早くなった所為か、店員は、いつもの気の利かない、いかにもなバイトの学生では無かった。
俺より若いだろうが大人の男だ。接客態度もキチンとしている。
「ありがとうございました」
妙な省略の無いキチンとした挨拶を好ましいと感じるのは、自分が年をとった所為か。
つり銭を受け取る為に伸ばした手には、だが、いつまで経っても店員の握った小銭が落ちてくることは無かった。
不審に思って、顔を上げる。
店員は目を見開いて、こちらを見ている。その男の顔には、確かに見覚えがあった。

「祐樹」

呟くように、男が自分の名を口にした瞬間、俺は弾かれたように、つり銭も受け取らずに走り出す。
「祐樹」
呼ばれた声が、耳の中で木霊する。
「可愛いよ。祐樹は」
高校生になっても、まだ子供のような身体つきと、顔つきだった俺。
女の子と間違われることも多かった。
だが、それも数年の猶予だ。
少年期はあっと云う間に終わりを告げ、大人の男の身体つきへと変化する。

「可愛い」
そう云ってくれた彼が、云えなくなるのは何時だろう。
毎日、怯えながら鏡の中の自分の顔を確認する。
まだ、大丈夫。
そう考えていたあの頃の俺。


家に駆け戻って、後ろ手でアパートのドアを閉める。
久しぶりに走った所為か、息が上がって、整うのに時間が掛かった。
いや、息が整わないのは、走った所為だけじゃない。
「知徳」
黒い髪も、真っ直ぐな男らしい眉も、広い肩も変っていない。昔は大人びて見えた柔和な顔つきは年相応の落ち着きとなって、むしろ若々しい感じさえする。
それに、引き比べて自分は、昔の細い身体も、女の子みたいだった可愛い顔も無い。生活に疲れたサラリーマン

「祐樹――――」

背にしたドア越しに掛けられた声に、びくりと身を震わせる。
「祐樹、開けてくれ」
嫌だ。開けたくない。
「祐樹、いるんだろう?」
このまま、帰って。変ってしまった俺を、これ以上、惨めにさせないでくれ。
「祐樹ッ、開けろッ!」
焦れたらしい知徳が、ドアをガンと叩く。
「祐樹ッ!」
俺は、耳を塞いで、座り込む。
何度もドアを叩く音が、安アパート中に鳴り響いた。
「うるせえ! 静かにしろ!」
案の上、隣の住人に怒鳴られる。
「知るかッ! こっちは一大事だ!」
怒鳴られて帰ると思っていた知徳が、冷静な奴らしくもなく、怒鳴り返したかと思うと、より一層激しくドアを叩き始めた。
「祐樹ッ、開けろッ、祐樹ッ!」
鬼気迫る様子に、俺はそっとドアを開いた。
隙間が出来たドアが、外からすごい力でこじ開けられる。
そこには追い詰められたような表情の知徳がいた。
「祐樹」
さし伸ばされる手から逃れる術は無い。
次の瞬間、息苦しいくらいの抱擁が降って来た。
「祐樹。ホントに祐樹なんだな? 夢じゃないよな?」
ますます、抱擁がキツくなる。
「夢じゃ、ない。知徳、苦しいよ」
訴えると、ほんの少しだけ、知徳の腕が緩んだ。だが、それは逃れることは許されないくらいの力を残している。
「祐樹」
知徳の瞳がじっと俺を見つめた。
降りてくる唇を避けることすら、考え付かない。
頭が思考を拒否しているのが判る。

「さっきからうるせぇんだよ!」
何時までも、止まない騒動に、全開のドアから隣の住人が顔を覗かせた。
それすら、知徳にはどうでもいいみたいだ。
俺が逃れようと身体をよじっても、あわせた唇が解かれることすらない。
「ちっ、痴話げんかかよ。もっと静かにやれよな!」
男がドアを閉じながら、文句を云った。
それに、俺ははっと現実に立ち戻る。
「知徳、見られたよ」
「構わない」
「お店。戻らなきゃ」
「どうでもいい」
「ねぇ、ともの…」
上げ掛けた声は、再び唇で塞がれた。
もう、逃げられない。自分の気持ちから。
今は、この情熱に身を任せるだけ。


<おわり>

NEXT 2

東尾さとみさまの詩「鏡の中の執行猶予」(東尾さとみの詩歌三昧より)から、ヒントを得ました。


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~ Comment ~

Re: わおう。

いや、続きがHはいったんで、こっちにUPしました。
満足してくれるといいんですが。
[2009/03/09 22:00] 真名あきら [ 編集 ]

わおう。

こちらでも、ありがとうございます~~。
昨日、一昨日と訪問者が多いのは、そのせいかな?感謝!
[2009/03/09 20:40] おふくこと東尾さとみ [ 編集 ]















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