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癖3<SS> 

だるい身体を起こすと、窓越しに隣家の梅の花が見えた。
うぐいすだろうか? 緑色の鳥が赤い花をついばんでいるのが判る。
おんぼろアパートの中を隙間風が吹き抜けた。ぶるりと身体を震わせると、横合いから暖かい腕が伸びてきて、俺を引き寄せる。
「どうした? 祐樹?」
「ううん、何でも無い」
暖かな腕の感触に安心して、俺は引き寄せられるまま、そっと頭を隣で寝ている知徳の胸にもたせ掛けた。
あの日も、こんな寒い日だったな、と思い起こしながら。


高校の卒業式は、寒風吹きすさぶ雪の日だった。
昨日、両親は転勤先の九州へと向かった。僕は、一人残って、卒業式へと参加することになっている。
だけど、僕には無理だ。
受験勉強の為に、と秋口から僕は、知徳と会うことを避けた。
一緒に行こうと約束した大学は、僕の成績ではかなり頑張らなければいけないハイレベルで、確かに勉強しなければならなかったのは本当だ。
だが、知徳に会いたくない訳は別にある。

小柄で女の子の様だと云われていた、僕の身体に、遅い成長期がやってきたのは、高三の夏だった。
日に日に高くなる身長。逞しさを増す肩。伸びてくる髭。
中学生の頃は憧れていた、男としての象徴が、今更訪れたことに、僕は恐怖すら覚えた。毎日鏡を眺めては来ないように願っていたのに。
はっきりと、僕の変化を感じ取っているだろう知徳は、何も云わない。
口に出すときが最後なのか。
面と向かって聞く勇気も、僕には無い。
「知徳――――」
センター試験の結果は散々だった。多分、知徳と同じ大学には合格しないだろう。
知徳に内緒で受けた滑り止めは、九州の大学だ。

雪の中、遠く見える校舎を、じっと眺める。
きっと今頃は、退屈な校長の長い話が続いているに違いない。
みんな心はとっくに、この後の馬鹿騒ぎに頭が飛んでいるだろう。
それも、今となっては懐かしい記憶だ。
僕はもう、あの中に入ることは無い。
知徳の記憶の中の僕は、きっと可愛い女の子みたいな僕だろう。
そして、君は云うんだ。
「昔、男と付き合っててさ。そこいらの女の子より可愛かったから、つい、迷っちゃったよ。青春の思い出って奴だな」
その時、君の隣には、どんな女の子がいるんだろう。
霞む目の端には、白く舞う雪の中、赤い花が咲いているのが映る。
梅の花は、確かに春が来ていることを指し示していた。
東京の雪は、すぐに溶けて、明日には幻のように消えてしまう。
その後には、雪の中でも咲いていた紅梅の香りが残るのだ。
僕は、校舎を後に、歩き出した。
空港に向かうには、まだ時間があったが、これ以上ここにいても、残るのは未練だけだ。


「卒業、証書」
ふっと知徳が呟く。
「え?」
云われた単語の意味が判らず、俺は知徳の顔を見上げた。
「お前、卒業式出なかっただろう。俺が持ってるぞ」
あの後、俺は学校にも連絡しなかった。親は卒業の後だからと、学校のことなど気にも掛けなかったし、友人連中にも別れを済ませていると勝手に思っていたようだ。
「卒業証書を持って、お前の家に行ったら、隣の家の人が、引っ越しましたよって。俺がどれだけショックだったと思う?」
真剣な目で見つめられて、俺の心に罪悪感が沸いた。
あの時の俺は、逃げ出すことにだけ、気を取られていた。変ってしまう自分を見せたくない。知徳の『可愛い祐樹』でいられなくなるのが怖かった。
知徳の気持ちなんか考える余裕は、俺にはまったく無かったのだ。
「ごめん」
顔を見られなくなって、瞳を伏せる。
「悪いと思ってるんだな?」
知徳の声が、怒りで震えているのが判った。
「うん、ごめん」
「じゃあ、誓え!」
ぐいっと顔を上げさせられた。声は怒りを滲ませているのに、瞳はひどく優しい。
「俺から離れない。もう二度と、俺の前からいなくならないって」
「知徳――――」
「誓え! 祐樹…」
まっすぐに俺を見つめる知徳の瞳は、あの頃、俺を見つめてくれた時と同じだ。
でも、俺はもう『可愛い祐樹』じゃない。
「知徳。でも、俺はもう変っちゃったよ? こんなオジサンになって、どこも可愛くなんか無い」
知徳が深くため息を吐く。
「悪かった」
「何で、謝るの? 知徳は何も悪いことなんて…」
いきなり頭を下げた知徳に、俺は慌てた。知徳が謝ることなんか何も無いのに。
「いや、俺も悪かったんだ。俺は、お前だけが好きなんだってこと、伝え損ねていた」
「とものり…」
「可愛いお前だから、好きなんじゃない。好きなお前だから、可愛いんだ」
知徳に抱きしめられて、キスをされる。触れるだけのキス。何度も何度も。
それだけ、俺のことを好きなんだって伝わってくる。
「だから、誓ってくれ。祐樹。俺から離れないって」
涙が溢れた。
窓の外に見える梅が霞んで見える。
「知徳。誓うよ。君のそばから離れたりしない。俺には知徳だけだ」
「祐樹――――」
抱きしめてくる腕の暖かさは、きっと二人でいるから。
「今度、卒業証書、持ってくるよ。二人で、卒業式やろう」
それは、俺のあの日の呪縛からの卒業式にもなるのだろう。


<おわり>


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~ Comment ~

Re: 良かったね!

おふくさん>小さなすれ違いは、取り返しがつかない事態になることも多いけど(今更、伝えても遅かったり)、誤解が解けてハッピーエンドな結末にしてみました。
同じところから派生しても、人が違うとこうも違うと云う。コラボの面白さ。
[2009/03/14 08:11] 真名あきら [ 編集 ]

Re: わぁ!!続きがあったっ!!

内緒コメKさま>いや、こそこそUPしてるんで。気付くのがひと月先でも別に(笑
何で、あんな人が好きなんだろうって気持ちは、相手にすると酔狂にしか思えなかったりするんですよね。そこで伝えそこなったミスを取り返す話にしてみました。
[2009/03/14 08:08] 真名あきら [ 編集 ]

Re: うわー、こうなった。

アドちゃん>気持ちって伝えないと解らないと思うんだ。お互いのすれ違いはソコから出ると思うんだよ。うちは、もともと、オジサンラブですから!
[2009/03/14 08:05] 真名あきら [ 編集 ]

良かったね!

伝え損なっていたのは両方ともだったんだね。
うん、そうだよね。
伝え合って、ハッピーエンドになれてよかったです。
私の書いた「続き」のお話は、伝え損ねてアン・ハッピーエンドになりました。ひどい作者だ・・・・。
[2009/03/13 22:22] おふく [ 編集 ]

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[2009/03/13 20:22] - [ 編集 ]

うわー、こうなった。

10年の月日をかけてのハッピーエンド。
祐樹の気持ちがイタイタしいけど誤解が解けて良かった・・・オジサンでも愛される!
[2009/03/13 19:05] アド [ 編集 ]















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