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武士の背中<六> 

「すまんが、こちらに用心棒として雇われているものがいると聞いたのだが…」
店の裏木戸のあたりを掃除していた小僧が、呼び止められた。
振り返ると、地味ではあるが、きちんとした身なりの、武家の男が立っている。
「羽黒さまのことでございますか?」
「羽黒…と、そう名乗っているのか?」
妙な訊ね方に、小僧は首を捻った。
「違いますか?」
「いや、その羽黒氏でいい。これを届けてはくれぬだろうか?」
何か間違ったのだろうかと云う小僧に、武士は文を握らせる。あまりの必死な勢いに、受け取りはしたものの、名も尋ねていないことに気付いて、慌てて侍を呼び止めた。
「もし、お侍さま!」
だが、侍は留まりたくないのか、それとも探られることを拒否してか、足を止めることは無い。
小僧は、渡された文を見て、ため息を付いた。
何処の誰とも知らない人間の文など、あの方は受け取ってくださるだろうかと、用心棒の顔を思い浮かべる。
用心棒と云う肩書きにはなってはいるが、羽黒陣三郎は、小僧たちにとって優しい手習いの先生でもあった。
陣三郎なら、相手がわからないと云っても拒否はすまいと、文を懐にねじ込んで、竹箒を抱えなおす。
「喜作」
「は、はいッ! 只今!」
後ろから掛けられた声に、さぼっているように見えたのではないかと、びくついた喜作が、忙しく竹箒を動かした。
だが、その腕を後ろから押さえつけられる。
「喜作。今のお侍と何を話していたんだい?」
言葉尻は柔らかいが、上から見下ろすような話し方に、はっとして喜作は顔を上げた。
「だ、旦那様! あの、別に怪しいことではありません!」
そこにいたのは、店の主人・伊衛門、その人である。喜作は以前、賊に脅されて、店を襲うのを手伝わされそうになった過去があった。
「あの、この文を羽黒様にお渡しするようにと……」
疑われてはたまらないと、懐から文を取り出して、伊衛門に差し出す。あの時も助けてくれたのは、優しく強い用心棒であった。
「そう。他には?」
「いえ、用心棒として雇われている方に、渡してくれとお預かりしただけです」
慌てて云いつのる喜作に、伊衛門は心配せずともいいと頭を撫でる。
脅されて、仕方無しにやったことなのは伊衛門にも判っている。それ以来、喜作が今まで以上に真面目に勤めていてくれることも承知だ。
「これは、私が預かるよ。先生には私から渡すから」
主人が、文を受け取ると、喜作はあからさまにほっとした顔をした。
やはり、小僧の身では、誰とも知れぬ人間の文などを、大事なお客人に渡しても良いものか、見当が付きかねたようだ。
伊衛門が懐に文をしまいこむと、喜作は元気よく竹箒を動かし始める。早く、掃除を終えないと、手代にしかられてしまう。
すでに、小僧の頭の中には、文を預けた侍のことなど無かった。


伊衛門は、小僧の与吉を店の前で待たせると、二階へと上がって行く。
「お客様、困ります。あの、お二階は…」
「お侍様がお待ちだろう? 待ち合わせのお相手が来れないと云うから、代理で来たんだ」
こんな寂れた小料理屋には、似つかわしくない人品卑しからぬ客に、慌てて小女が止めに入った。だが、伊衛門はそう声を掛け、店の上へと上がりこむ。
「失礼いたします」
声を掛けはしたものの、待つ気は無い。すいっと襖を開くと、一瞬、喜色に輝いた相手の顔が、いぶかしげに曇った。
「お待たせをいたしました」
伊衛門は、そんな相手の反応には構わずに、向かい側で腰を折り、頭を下げた。
いよいよ持って、侍の眉根の皺が深くなる。
「おぬしなど呼んだ覚えは…」
「判っております。お呼びになったのは実のお兄上でございましょう?」
まだ、若い侍の言葉を遮り、伊衛門が懐の文を差し出した。
「何故、それをおぬしが持っている?」
「うちの小僧にお預けになりましたでしょう? 失礼とは思いましたが、私が拝見させていただきました」
「おぬし、あの店の?」
「御挨拶が遅れました。主人の伊衛門と申します」
伊衛門は改めて、深く頭を垂れた。
「何ゆえにおぬしが…」
「先生を連れて行かれては困ります故」
頭を下げたまま、伊衛門が云う。それに、侍がますますいぶかしげな顔つきになった。
「おぬしが? それとも、おぬしの店がか?」
「私にとっても先生は大事なお方。店にとっては恩人でございます」
「恩人?」
「賊に入られそうになったのを助けていただきました」
それは、用心棒として雇われた身では、当たり前ではないのだろうかと、口を開きかけた若侍に、主人はきっぱりと面を上げる。
「店の小僧が脅されておりました。それを察して、店に入る前に賊を片付けていただきました。のれんに傷がつくこともありませぬ」
「そうか」
若侍の脳裏に、優しく頼もしかった兄の姿が甦る。あの、兄ならば、そういうやり方をするであろう。
「それに、連れ戻して、どうなさるおつもりですか?」
面を上げた主人の冷たい声に、若侍の背筋が、ぞくりと震えた。
「どう、と云われても、兄上には家を継いでいただくに決まっている」
「おなごも抱けぬのに?」
それに気おされたように、いい募る若侍に、冷たく伊衛門が切り返す。
若侍が、刀の柄に手を掛けた。
「貴様、何ゆえにそれを…」
「少しは落ち着かれるがよろしかろう。云い当てられて激高するのは、本当だと白状しているようなものでございますよ?」
怒りで顔を真っ赤にした若侍は、それでも伊衛門の向かいに腰を下ろす。このまま、帰る訳にはいかないと腹を決めたようだった。
「あの方は私の大事な可愛い方でございます。茨の道など歩かせはしませぬ」
「家に帰るのが、茨の道と申すか?」
若侍の膝に置いた手が震える。
「家に帰ったとて、貴方様の母上は、許してはくれぬでしょう? せっかく出奔してくれたと云うのに」
「おぬし、何処まで知っておる?」
「隣家の御在宅の折には、お宅様にも出入りさせていただいておりました、呉服屋でございます。噂は聞き及んでおりますよ」
居住まいを正しての伊衛門の言葉に、若侍が、大きくため息を漏らす。
出入りの商人ならば、事情くらいは知っている筈だ。そのくらいに母親と兄の仲はどうしようも無くなっていた。
しばらく無言だった若侍が、刀を手に立ち上がる。
それを伊衛門は、無言で見送った。


*これより先、15禁。御承知の上、お進みください。

唇が背なの傷を辿る。
その感触に、陣三郎は躯の奥の震えるのを隠せなかった。
「あ…、伊衛、門ッ」
「可愛いお方。どうして欲しいのですか?」
腰をゆるりと揺らしながら、伊衛門は意地悪く問う。
それに陣三郎は応えることなど出来ず、物云いたげに伊衛門を振り返るだけだ。
その視線に伊衛門は満足して、一気に奥を貫く。
陣三郎の唇から苦鳴が漏れた。
「今日、弟御に会うてまいりました」
耳たぶを食みながら吹き込まれた毒に、はっと陣三郎が目を見開いた。
弟が尋ねて来た? 一体何時? いや、何故に伊衛門が?
疑問が山になって、伊衛門の指と共に、陣三郎を苛む。
「何ゆえ?」
「逃しはしませぬよ。もう弟御の元へなど帰しはしませぬ。貴方様は私のもの」
激しく攻め立てながら囁かれるのは、相も変らぬ、伊衛門の執着であった。
「この背なの傷。弟御を庇われたのですね?」
違う。と云おうとして、陣三郎は口をつぐんだ。
守り刀を振り上げた、義母は狂気に満ちていた。あれは鬼女の面だ。
切り捨てようとした弟の刀から、義母を覆い隠す。
それは、義母を庇ったのではなく、弟の心を庇ったのだ。
「あの様な鬼の家に、貴方様を帰しはいたしませぬ。そのくらいならば、私が貴方様を引き裂いてしまいます」
背後から自分を抱く伊衛門の面は見えない。だが、口調は静かな悲しみを湛えていた。
そっと、陣三郎は自分を抱き締める伊衛門の腕に、自分の手を添える。
指を絡ませるそれを、伊衛門がしっかりと握り返してきた。


<おわり>


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~ Comment ~

Re: 内緒コメさま

残念ながら長編になることは無いと思いますが、ドキドキしていただけると嬉しいです。
[2009/05/23 10:08] 真名あきら [ 編集 ]

Re: (*´Д`) =3 ハゥー

艶っぽいと云っていただけてすごく嬉しいです。
和装のチラリズムを目指してます!
[2009/05/23 10:07] 真名あきら [ 編集 ]

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[2009/05/23 06:32] - [ 編集 ]

(*´Д`) =3 ハゥー

もう、いつ読んでも艶っぽいお話です~~~
耽美だわ~~~~(*´Д`*)ハフーンハフーン
[2009/05/22 22:35] りずむ [ 編集 ]















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