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不倫<3> 

それから、時たま二人で屋上で昼飯を食うようになった。
ツルむようになったのは高校に入ってからだから、2年になるが、こんな風に話し合ったことなど無かったと云っていい。愚痴を聞いてるのは、そう長い時間じゃ無いが、それでもすっきりするのか、話し終えると、浩二は妙にすっきりした顔をしている。
「昨日、姉貴がご機嫌でさー」
2週間ほどしたある日、浩二の話の調子が変わった。
「結婚記念日だったんだと。俺はそんなの忘れてたんだけどさー。兄貴はちゃんと覚えてたみたいで、十年目の記念日なんだとさ。旅行とかプレゼントしちゃってさー。休みをもぎ取るのに苦労したとか、ソレの手配で部下に奢らされたりしたとか云いやがるんだぜー。もう、信じらんねーよ」
明るい調子で話す浩二に、俺は崖下に突き落とされた気がした。
認めたくは無い事実だけど、やっぱり俺は浩二の家庭がうまく行ってないことを喜んでいたのだと思い知らされる。
「それで忙しかったんじゃねーの?」
気力を振り絞って、応えた俺だが、動揺は意外と大きかったらしい。声が震えていた。それに気付かない浩二じゃない。
「ツトム?」
怪訝そうに聞き返す浩二に、俺は笑おうとして、しくじった。
「功? お前、何、泣いてんだよ?」
「べ、別に……。いろいろ思い出しちまったんだよ!」
涙を隠すように目線を反らすと、俺の頭をポンポンと軽く叩く浩二の手があった。
「悪ぃ。お前なら解ってくれると思ったけど、いらんこと思い出させちまったな」
浩二は俺の涙の訳を、オヤが上手く行って無かった頃の事を思い出したと思ったらしい。浩二には悪いと思ったが、本当のことは絶対に知られたくない。
俺は、浩二の誤解をいいことに、頭を撫でてくれる手の暖かさにしばらくの間甘えた。


電話の呼び出し音は長かった。頭の中で、『どうしよう』とソレだけが廻る。
「どうした?」
オッサンの声は、明らかに不機嫌だ。
「ごめん、仕事中だよな」
「当たり前だ。何時だと思ってる」
こっちは学校が終わったところだ。思わず掛けてしまったが、やっぱ迷惑なんだ。声の冷たさが俺を正気に戻した。当たり前だよ、ナニ馬鹿なことしてんだ、俺。
「用が無いなら、切るぞ」
「うん、ごめん」
さびしくて、声が聞きたいなんて、オンナみたいじゃねーか。
「会いたい」
思わず、本音が漏れた。握り締めたままの携帯から、向こうが通話を切る音がやけにデカく響く気がする。
俺は、肩を落とすと、駅に向かう道を歩き出した。


ここんとこツルんでる浩二は部活だし、オッサンと付き合いだして以来、ダチとは疎遠になっている。高校に入った頃は毎日のように遊び歩いていたのに。
いや、今だって遊ぶダチは大勢いる。だけど、そいつらはこんな気分の時に会いたいヤツラじゃなかった。
ポケットの中の携帯が鳴り出す。
「くっそ、ダレだよ」
ムカついた気分のまま、俺は相手を確かめもせずに携帯に出た。
「あん? ダレ?」
『会いたいんじゃなかったのか?』
オ、オッサン?
「だ、ダレが会いたいなんつったよ?」
聞こえてた?
『ふん、珍しく可愛いことを云い出すと思っていたんだが。今夜会うか?』
「い、いいのかよ? 仕事中なんだろ?」
ホントかよ? 俺、期待すんじゃねーか。
『もちろん、仕事が終わった後だけどな。いつものところでいいだろう』
「な、何で」
『お前から会いたいと聞いたのは、初めてだからな』
飛び上がって喜びたい気分だ。俺が、ソレが似合う可愛らしい容姿ならそうしていたかもしんねーが、こんなデカイ男が道端でそんなことやったら、ただのアホだろ?
「会いたいって、云っていいんだ」
ずっと云っちゃいけないんだと思ってた。切れた携帯を片手に握り締めて、俺はうって変わってスキップしそうな足取りで、駅に向かう。
いつもの駅。スーツに着替えた俺が向かう先は、通いなれた古本屋だ。
あんなこと云ってたけど、部長になったらしいオッサンがそう早くに帰れるワケがねー。
スーツのポケットに文庫本を突っ込んで、待つ。
駅前でしばらく待っていると、バイブに切り替えた携帯が震えた。
『残業が入った 遅くなる』
やっぱりな。まぁ、判っていたことだ。忙しいらしいオッサンが、待ち合わせの時間にマトモに来たことは一度も無い。
向かうのは近くのビジネスビルのカフェだ。駅の周りにいくつかビルが立っているけど、純粋にビジネスマンの為のビルはここだけで、  あとは、3階あたりまでショップの入ったものが多いんで、どうしても学生と鉢合わせちまう。
カフェでホットを頼み、スーツから文庫本を取り出す。取り合えず、待っている間、本を読んでいるくらいしか時間は潰せない。オッサンは知らないが、こっちはしがないコーコーセーだ。
冷めたコーヒーをすすりつつ、本の中の宇宙への冒険に没頭していたオレだが、しばらくすると、やはり携帯に目が行く。
閉じたままの携帯は、何も点滅していない。念の為に携帯を開いたが、メールも入ってなけりゃ、着信もナシ。
「お客様、ラストオーダーです」
ゲ? もうそんな時間かよ! ウエイトレスがおずおずと声を掛けるのに、ハッとして携帯を見ると、確かにカフェへ来て、2時間以上経っていた。
「あ、もういいです」
急いで金を払ってカフェの周りを見廻す。ビジネスビルだけあって、もう照明が落とされかけている。
「くっそ、この時間じゃ、酒呑む店しか開いてねーじゃん」
もちろん、そんなところに入る金はねぇ。仕方なく、外にあるコンビニに入った。
カップめんの一番デカイヤツを買って、お湯を注ぐ。
幸い、駅前のことで、ベンチもある。セーフクなら気にしないが、スーツは二着しかもってねーし、地べたに座り込むワケにもいかねー。
小腹を満たした俺は、コンビニで立ち読みをはじめた。
最初はマンガ。雑誌をパラパラとめくる。次は今日発売の新刊。コンビニコミック。
普段は絶対に見たりしねー、メンズのファッション雑誌にまで手を伸ばした。
最初はちらちらとこっちを見ていた店員も、単なる時間潰しだと分かったらしい。遠慮せずに、雑誌の並べ替え作業をはじめる。
店員が邪険にするほど、長い時間をここで過ごしちまったみたいだ。
携帯を眺めると、まだ何の連絡も無い。
雑誌を手にして、レジを済ませた俺は、いつも使っているホテルへ向かった。


結構、大き目のビジネスホテルのロビーは人でにぎわっている。どうやら、結婚式帰りといったカンジだ。
俺は紛れるように、ロビーの椅子のひとつに腰掛ける。
買ってきた雑誌を広げはしたけど、つい入り口をうかがっちまってた。
「伊勢崎さま。本日はお泊りですか?」
半年も使っていると、それなりに顔見知りも増える。ロビーから俺を見つけたらしいホテルマンが声を掛けてくる。
「いや、佐藤さんと待ち合わせなんだが。連絡入って無いかな?」
俺は目一杯オトナの振りして尋ねてみた。
「いえ、ご伝言は承っておりません。カウンターの係りに、佐藤様からご伝言がございましたら、お伝えするように申し付けますので」
「ありがとう、頼むよ」
そうホテルマンに云ったものの、多分そんな連絡は入らねーだろう。
携帯に目を落とすと、グリーンの光が点滅していた。メールの受信中だ。
俺は慌てて、携帯を開いた。しばらくして、受信したメールの差出人は『コウイチ』―――
タイトルの無いそのメールを開く。
『まだ掛かる 残念だ またにしよう』
開いたメールにはそれだけが並んでいた。元々、機械の得意な人じゃ無い。メールの扱いもよく解ってねーから、これだけ打つのに時間が掛かっただろうとは思う。
けど、そんな時間があるんなら断りぐらい直に入れろっての!
イキナリ立ち上がった俺に、ホテルマンが怪訝そうな顔をする。
「あ、佐藤さんから連絡あったよ」
それだけ云って、何事も無かったフリでホテルを出て行くのが、俺の精一杯だった。
「また、お越しくださいませ」
ホテルマンの声が後ろから掛かるのも、もう聞いてない。
端から期待持たせるようなことすんな!ってんだ。無理なら無理って云えばいいんだよ!
それとも、ナニか? 家族と上手くいってるから愛人なんていらねーってことか?
家に帰りたくねー。でも、オンナと遊ぶ気分じゃねー。
「ケッ、馬鹿にしやがって」
どーせ、女房との口直し程度にしか思ってないのなんか承知してるつもりだったが、それでも面白くねーもんは面白くねーんだよ。
俺の足は自然とソコへ向いていたらしい。最初にオッサンと会った、繁華街の外れ。
その近くに公園があって、そーゆーカップルのヤリ場になってるのは知っていた。ここから出てくるオヤジを狩ってる連中に、逆に難癖つけてぶちのめすのを楽しみにしてた時期だってある。
すっきり出来て、ちょっとしたヒーロー気分が味わえる遊びは、一時期俺のお気に入りだった。
公園の周りを見廻すが、今日は狩りの連中はいなさそうだ。
「チッ、つまんねー」
あからさまに舌打ちをして、俺は公園の中へ足を向けた。粘つく視線が俺に向けられる。明らかに、相手を値踏みする視線だ。
「な、兄ちゃん。待ちか?」
「どっちだ? ヤリたい方か?ヤラれたい方か?」
男同士だからなのか、商売女にもいわねーぜ。ってくらい直接的な誘い言葉を何人も掛けてくる。
多分、俺がうなずいたら、すぐにでもおっぱじまるんだろう。だが、いくら何でもこっちにだって好みがある。
「お前、初めてじゃねーだろ? 俺のデカいのぶちこんでやるぜ」
反応しないこっちに焦れたのか、一人が俺の肩を抱きこんできた。振りほどくのも面倒で、させるままにしてると、図に乗ったらしいそいつが俺のベルトに手を掛ける。
「こんなところにいたのかよ」
この場に似合わない、妙に明るい声と共に、俺の身体が引き戻された。
「拗ねてねーで帰ろーぜ」
後ろから俺の身体を抱きしめたオトコの声は、確かに浩二のものだ。
「連れがいるならこんなとこ来んな!」
俺に手を出していた野郎が、ムッとした顔で怒鳴り、大股で歩き去る。
「行くぞ、功」
有り得ない展開に唖然としていた俺の手を引いて、浩二はどんどん歩き出していた。


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