スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 


武士の背中<八>完 

日本橋の呉服屋・端午屋の用心棒、羽黒陣三郎の一日は単調なものだ。
夜明けと共に目覚め、庭へ出て木刀を振る。
半時ほどで朝餉の時刻だ。
朝餉が済むと、掃除を終えた小僧たちが離れへと集まってくる。
それを前に、読み書きなどの手習いを教え、店が開く刻限になると、小僧たちを店へと戻し、自らは店の隣に位置する小部屋で、庭を眺めながら書見などをする毎日だ。

だが、最近の陣三郎は、小僧たちが部屋へと戻ると、どうしても身体がだるく、つい転寝をしてしまいそうになる。
用心棒と云う役割柄、店が開いている間は転寝などもっての外だ。大店だけあって、やはり金のなる木だと思うやからは数多く、いそぎ働きの盗賊どもが様子を探りにくることもあるのだ。
頭を振った陣三郎は、書を閉じ、目をつぶって気配だけを追う。
小僧たちの走り回る気配。店先の賑わい。かすかに香る化粧の香り。とりどりの反物の口上を述べる手代たちの声。
すっと襖の開く音。
隣室は上客用の接待部屋だ。
「こちらのものなどはいかがでしょうか?」
抑えた上品な口調は、この店の主人・伊衛門のものだ。
「素敵…」
応える声は、ため息と共に吐き出された。おそらく見事な出来の反物か、着物に見とれているに違いない。
「きっと貴女様によう映えることでございましょう。この色は独特の織りで生み出されるものでございます」
自分の魅力を心得た上での、多少の気を持たせるような物言い。
「商売上手なことだ」
思わず、陣三郎が呟いた。
身体のだるさは、昨晩の伊衛門との荒淫の所為だと云う自覚はある。
それだけに、さわやかに客との応対などをしている伊衛門の声に、やつ当たりに近いものを感じてしまう。
「佐久蔵。喜江さまをお送りしてくるよ。先生をお呼びしておくれ」
余程の上客らしい。主人、自ら家まで送るなど、滅多に無いことだ。
佐久蔵に呼ばれるまでもなく、刀を挿して立ち上がる。
「呼んだか?」
襖の外から呼びかけると、すぐにいらえはあった。
「先生、御足労をお掛けいたします。うちの用心棒の羽黒様でございます」
すっと襖が開き、客の女に紹介をされる。
そこにいたのは、雛も稀なると云わざるを得ないほどの美女だった。しかも、年の頃はまだ、16かそこらであろう。すっと伸びた背筋を正して、品良く会釈をする姿も大輪のみずみずしい牡丹の花を思わせる。
「御足労をお掛けいたしますが、何卒、よしなにお願いいたします」
頭を下げられた陣三郎は、声もなく会釈を返すのみだった。


送る道すがらも、美女は艶然と伊衛門に微笑みかける。
だが、その姿は妙な嫌味の無い、健康的なもので、相手が伊衛門に好意を寄せているのが、ありありと判った。
一歩遅れて、後を歩く陣三郎は、それを見ているしか無い。
伊衛門の声の調子から、年増女の何処かのお師匠さんか、武家の妻女だと思っていたのだが、こんな若い女だとは意外であった。
「では、またのお越しをお待ち申し上げております」
別れ際に、微笑みかける姿も、商売以上の熱心さがあるように見受けられ、常の伊衛門の客あしらいとは違うものを感じる。
帰り道の伊衛門も、陣三郎には、どことなく浮かれて見えた。


夕刻になって、店が閉まったのを見計らって、少し横になる。
身体のだるさは相変わらずだが、まったく眠気も襲っては来ない。
目は閉じたものの、眠りは訪れてはくれず、寝返りだけを繰り返す。
「先生。よろしゅうございますか?」
遠慮がちに掛かった声は、端午屋の老主人・伊衛門の義父のものだった。初が嫁に行ってからというもの、老主人も張り切っているのか、再び店にも顔を出すようになっている。そう云えば、戻った折には店にいた。
「構わん、入ってくれ」
「失礼いたします」
音も無く、襖を開く。
「先生は、将棋はなさいますか?」
「ああ。父の相手はようさせられていたが。一局打つか?」
そう陣三郎が問い掛けたのは、端午屋の手にした将棋板を見たからだ。
「最近、覚えたてなのですが、下手の横好きと云う奴でして、誰も相手をしてはくれませぬ。よろしければ、と思いましてな」
「俺もそう上手い訳では無い。ちょうど良いのではないか?」
好々爺然とした端午屋の笑みが、今は亡き、父に似ている気がして、陣三郎は知らず笑いかけていた。
下手の横好きだと云ったのは、嘘ではないらしい。父親の相手をする程度であった陣三郎でも、充分にいい相手になった。
夕餉までには勝負が付かず、夕餉を端午屋と共にし、勝負をしていたが、夕餉の酒がまわったものか、端午屋がうとうとし始める。
「端午屋。そろそろ迎えに来てもらおう」
母屋へと声を掛けると、女中頭は、すぐに男衆を寄越すと母屋へ走っていった。
ぐったりとなった端午屋を寝かせる為に、座布団を二つ折りにして、頭の下へと差し入れようとすると、酔って誰かと間違えたらしい端午屋は、陣三郎の膝の上でから離れようとしない。
仕方無しにそのままの体勢でいると、手代が幾人かと伊衛門が駆けつけてきた。
「先生、すみません」
手代が謝罪と共に、端午屋を担ぎ上げる。
「いや、かまわんよ」
酔っ払いのことだ。端午屋も、いくら一つ屋根の下とはいえ、娘を嫁に出した後で、寂しいのかもしれぬ。
「これも持っていってくれ」
先ほどまで指していた将棋板も、手代に持たせた。貧乏旗本であった自分の父親などとは、きっと物が違う筈だ。
手代たちが立ち去った後に、その場に残ったのは、伊衛門と陣三郎である。
先ほどから、ひと言も言葉を発することの無い伊衛門に、陣三郎は困惑していた。普通ならば、実の親子以上の仲の良さを見せる端午屋親子であるのに、伊衛門が父親の世話を一切焼こうとしなかったのが不思議だ。
「貴方様と云うお方は…」
沈黙の後に、ため息のように発された言葉に、陣三郎が顔を上げる。
「おとっつぁんまで誑かすとは、大した淫婦だ」
「誑かす? 俺が?」
何を伊衛門が云い出したのか判らずに、首を捻る陣三郎を、伊衛門はその場へと押し倒す。


*これより先、15禁。御承知の上、お進みください。

「そんなに男が欲しいのならば、思う様抱いてやろう。淫蕩なその身に相応しくな」
呆然とする陣三郎を、伊衛門はかき抱き、何も聞く耳持たぬとばかりに、息が止まりそうなほどの口付けを与えた。

幾度も貪られた身は、もう指先さえも動かせぬほどに消耗しきっていた。
それでも、伊衛門は陣三郎を抱く手を止めようとはしない。
喘ぎと共に、伊衛門の背をかき抱いていた腕も、力をなくして、落ちたままだ。
「これだけやっても、まだ俺に絡み付いてくるぞ。淫乱め」
それと同時に与えられる、耳を塞ぎたいほどの侮蔑を、陣三郎はただ受け入れる。
おそらくは、伊衛門は自分に飽きたのだろう。
だが、彫り物までした手前、そうとは云えずに、口実を探しているのだ。
父親とまで関係するような淫婦ならば、捨てるのに何ら後悔は無いに違いない。
陣三郎の脳裏に、昼間の伊衛門の姿が映る。
牡丹の花の化身のような妙齢の女と歩く姿。あれが伊衛門のあるべき姿だ。

やっと伊衛門が身を離したのは、明け方近くだ。
いつもならば、短い刻限でも眠りにつく陣三郎だが、今日は違った。
「気は済んだか?」
着物を調える伊衛門の背に、そう声を掛け、身を起す。
振り返った伊衛門の顔は、今にも泣きそうに見えた。
「長い間、世話を掛けた。この着物だけは貰うていくが、良いか?」
陣三郎が身につけているものは、全て伊衛門が用意したもので、陣三郎自身の持ち物は、腰の大小だけだ。
夕べの荒淫の所為で、おぼつかぬ足を、何とか動かし庭へと降りる。
季節の移りは早い。庭にはいつしか木蓮の花が香っていた。
木戸へと向かうその身を、軽々と担ぎ上げられ、離れへと引き戻される。
驚いて顔を上げると、そこには泣きながら、怒っている伊衛門がいた。
「そんなことは許さぬ。お前は俺のものだと、そう云うたであろう。おぬしも承知したではないか。今更、気が変わったと申すか?」
「おぬしこそ、もう俺には飽いたのであろう? 有りもせぬことを云いたて、俺を攻めたではないか」
伊衛門の激しい調子に釣られて、つい陣三郎も本音を漏らす。
「おぬし、そんな風に思うておったのか?」
呆れたような口調に、陣三郎は口を押さえたが、もとより間に合う筈も無い。
「飽くほどならば、妬心など抱かぬ」
柔らかに伊衛門が陣三郎を抱き締めた。
「おぬしは、まったく俺に心を許さぬように思えた。昔ならば、淫蕩だと攻めれば『そうしたのは兄上だ』と可愛く云うてくれたのに」
「こ、このような年になって、そのようなことは云えませぬ!」
あからさまな伊衛門に、陣三郎は真っ赤になって云い返す。すれ違いとは往々にしてこのような馬鹿げたものであるらしい。


数年後、店を引いた伊衛門と陣三郎が、どのように暮らしたか。
それはまた別の話。

日本橋の呉服屋の庭先には、今日も四季折々の花々が揺れていた。


<おわり>


NEXT<番外>

BL小説ランキング
FC2 Blog Ranking

完結小説一覧

スポンサーサイト
*Edit TB(-) | CO(7)


~ Comment ~

Re: 素敵…

熱心にひとつひとつ読んでくださっているようで嬉しいです。
コメント、すごく励みになっています。

> 普通商業誌なら受け攻めが逆で
そうなんですよ! 私もそれが悔しくて、無いのなら書いてしまえと(笑

ここにある小説はすべて私の好みだけで書いていますので、好みの合致した奇特な方にがいらっしゃると、おのすごく嬉しくなります。
応援ありがとうございます。
[2011/07/19 23:24] 真名あきら [ 編集 ]

素敵…

この作品もものすごく好みでした~

普通商業誌なら受け攻めが逆でいつも悔しい思いをしているのですが、やっと巡り合えました。

ありがとうございます。

とってもおもしろかったです!

もうすっかりファンです。

応援しています☆
[2011/07/19 20:25] koi.02@softbank.ne.jp 寿恵留 [ 編集 ]

RE:最後はハッピーエンドで

内緒コメさま>
ハッピーエンドで終わるの主義ですので(笑
ちょっと変ったお話でしたが、楽しんでもらえたみたいで嬉しかったです。
[2009/06/11 00:43] 真名あきら [ 編集 ]

Re: タイトルなし

終わりました。続けようと思えばいくらでもな作品ではありますが、とりあえずは一旦はENDで。
耽美! アタシの作品に耽美という到底似合わない響きをありがとうございます!
[2009/06/11 00:36] 真名あきら [ 編集 ]

終わってしまったのですね・・・(´・ω・`)ショボーン
いや~~しかし和物耽美、耽美といっても武士というクールな面も持ち合わせた、とても素敵な作品でした!
いやいやいや、クールと言いましたが、二人は熱々・・・
冷えたり燃えたり冷えたり燃えたり、もう読んでてタイヘンでした!!(*´Д`*)ハフーンハフーン

読み応えのあるお話を、ありがとうございました!
[2009/06/10 13:36] りずむ [ 編集 ]

Re: ぶらぼー!!

内緒コメさま>
これで一応終了です。
確かに続けようと思えば、いつまでも続けられる話ではありますが、この辺りで区切りはつけて置きます。
和とじ風で同人誌は出そうと思っています。そちらで、書下ろしも考えておりますので。
[2009/06/07 22:20] 真名あきら [ 編集 ]

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2009/06/07 16:54] - [ 編集 ]















管理者にだけ表示を許可する


Back      Next

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。