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遥かなる星の軌道<1> 

逆・オヤジ異世界トリップ。
「憧憬の王城」番外編です。
現代に帰って来た誠司と、後を追ってきたサディの物語。
地下鉄工事の現場で働くサディの元へ、バイトに来た誠司は、何処か不機嫌で。

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<11> <12> <13> <14>完




【遥かなる星の軌道】

星の軌道は、ひとつの運命を描く。
その軌道を変えるのは、本人の力しかない
変えたいと願うのであれば、闘え。




耳に残る声は、確かに幼い頃から慣れ親しんだ星術師のものだ。
本来ならば、星術師の塔に向かって夢占をたてるべきなのだろうが、ここは自分の世界では無い。誠司が『現代』と称する国の名は、日本と云う。
サディユースは、今日もきっちりと着込んだ作業服で、歯ブラシを咥えたまま、鏡の前で考え込んでいた。
「おい、サド。いい男なのは解ってるから、見とれてるな!」
後ろから野太い声が掛かる。声の主は、大柄な逞しい身体つきの男だが、いささか中年に差し掛かった腹がぽってりと出ていた。サディの勤める建築屋の親方だ。
サディは無言で歯ブラシを動かしながら、狭い洗面所を退く。
サディに発音出来ない言葉があるのを知っている男は、無言のままでも怒りはしなかった。
一緒に暮らし始めて、数年になるが、この男のさりげない気遣いには、サディは感謝してもしたりないと思う。

『異世界』と呼ばれるところが、サディユースの生まれ故郷だ。
切り立った険しい断崖の向こうの山の上の小国・トレクジェクサは、その断崖とそれを囲む豊かで深い森の恵みゆえに、独立を保ってきた。
山をくりぬいて作った城は、護りも堅く、その奥に、新月の夜の秘密を抱えて今もある筈だ。
その国の王のパートナーは男性で、この日本の人間だ。
安芸誠吾と云う名の男は、日本から飛ばされてきた『異邦人』で、王のパートナーとなった。サディユースの想い人でもあった相手だ。
それを追って、飛ばされてきた誠司と云う名の誠吾の息子は、おだやかな誠吾とは違い、勝気で、なのに繊細で、いつも張り詰めているような雰囲気があった。顔は似ているが、まったく違う誠司を見ているうちに、自分がどうしようもなく惹かれていることを感じて、とうとう追い掛けて来てしまった。

「あのな、サド。こんなことを云うのも何だが、考え込んでもいい事はねぇぞ。俺でよけりゃ、話は聞くからよ。帰ってからでもぶちまけちまえよ」
ぽんぽんと背中を叩く手は、サディの精神を落ち着かせた。厳しかったサディユースの父親とはタイプは違うが、何処か任せられる安心感がある。
「はい、親方」
「そら、仕事行くぜ!」
乱暴にサディの肩を叩いた親方に続いて、部屋を出た。
とりあえずは仕事をしなければ、拾ってくれた親方に申し訳が無い。


「おーい、渚(みぎわ)さん、佐渡(さど)ちゃん、借りていいか?」
「あん? なにやらせる気だ?」
足場の上で作業をしていた親方に、現場監督が声を掛けた。サディユースが振り向くと、人の良い現場監督が、拝むような仕草でこちらを見ている。
「地下搬入が人手足りなくてさ。今日の昼には終わらせたいんだよ」
この現場は、地下鉄工事をやっている。と云っても、本来の駅は地上に既にあり、それを地下に移す工事の真っ最中なのだ。
地下化の工事の場合、道路に大穴開けて、資材を搬入できる日は限られている。
道路を閉じてしまえば、残った資材は、どうあがいても手搬入になるのだ。
「サド、行けるか?」
「俺はいいです。親方はいいんですか?」
「ここはいい。行って来い」
「助かる!」
サディがうなずくのを見た、現場監督は、大げさに拝む真似をする。素直なそれに、思わず苦笑が漏れるが、断るつもりも無い。
サディユースは、この国の人間たちの中では、非常に大柄だ。百九十以上の長身と、がっちりとした肩幅は、大柄な連中の多いこの現場でも、ひときわ目立つ。
「佐渡ちゃんだと、助かるよ。親方は良い人だし、変な条件も付けられないしさ」
現場監督の呉は、小柄で丸眼鏡を掛けた、いかにも会社員と云う感じで、現場には相応しくは無い気がするが、これでも、大手ゼネコンの生え抜き社員だ。
「松谷金属さんの荷物だから。結構長いんだよ。階段からしか入れられなくて」
地下ホームへの階段はもう出来ている。ゲートへ行くと、松谷金属の社長が待っていた。
「困るんだよなぁ。呉くんとこのミスなんだから、ちゃんと入れてくれないと」
「解ってますよ。人手は連れて来ましたから」
明らかにヅラだと解る真っ黒なパンチの社長は、額を押さえてそう云い放つ。呉が謝っているところを見ると、ミスと云うのは、あながち間違いでは無いらしい。サディの他にも数人の作業員がいた。
「じゃ、みんな頼むよ」
「うーす」
やる気があるのか無いのか判らない、妙な返事がここでの了解の合図らしい。慣れないサディは、ただ、黙って手摺の部品を抱え上げた。
「おいおい、そんなに抱えて、ひっくりかえ…」
社長の言葉が途中で止まる。
トラックに積み込むときに、クレーンで吊りあげたその資材を、サディは軽く肩に担いだからだ。
そのまま、階段へと向かう。きちんとぶつからないように気をつけながら搬入する、銀髪の男を、松谷の社長は口を開けたまま、見送った。

「いや~、助かっちゃったよ。これは俺からね」
資材の搬入は、呉の狙い通りに午前中に終わった。呉は上機嫌で、みなの分の缶コーヒーを差し入れている。
休憩室では、皆が弁当を広げ、ゼネコンから派遣された事務の大宅がお茶を配っていた。
ゼネコンからの派遣事務など、お茶だしなど女の仕事じゃないと突っぱねる人間が多い中、文句も云わず明るく挨拶しながら茶を配る大宅は、人気ものだ。
「佐渡さんもどうぞ」
「ああ、ありげと」
本当はありがとうと云いたかったのだが、サディユースには、未だに『がぎぐげご』の音が上手く発音出来なかった。元々、トレクジェクサには無い音なのだ。故に、王のパートナー・誠吾はセイと呼ばれている。
「おいおい、緊張しちゃって。めぐちゃんに惚れてんのか~?」
それを知らない他現場の連中が冷やかしてきた。若い女なら慌てもするだろうが、三十半ばの大宅めぐみは、そんなオヤジ連中のセクハラなんぞ、鼻で笑い飛ばす。
「何? アタシが嫁き遅れなんで、心配してくれてるの? ここまで待ったんだから、木野さんの東大確実な息子さんでも紹介してよね!」
からかってきた木野のオヤジの息子は親に似ない頭のいい子で、今年大学受験だ。だが、それでも赤門は遥かに遠い。
「キツイなぁ。めぐちゃん、勘弁してよ」
木野のオヤジが弱音を吐くのに、休憩室中で笑いが起こった。
「楽しそうですね、何の話ですか?」
よく通る低い声は、大声でなくてもはっきりと判る。
プレハブの休憩室の入り口をくぐるように長身の男が顔を出した。
「いや、皆川ちゃん、めぐちゃんが茶を注いだのに、佐渡が緊張しちまってよぉ」
「そしたら、めぐちゃんはもっと大物狙いだってさ」
「そうそう、木野の息子がいいんだと」
「東大に受かったらですけど、ね」
オヤジたちの先を制するように、大宅がちくりと嫌味を返す。
「皆川くん、何だい?」
皆川は、呉の会社のアルバイトである。会社と現場事務所のメッセンジャー兼の簡単な事務作業と、図面の直しを請け負っている建築学科の大学生だ。
「橋爪さんが、そろそろ締めの時期だから、こっちに詰めろって云われまして」
「橋爪さん? やだなぁ、そんなに締め切り遅らせたりしないよ」
今は、請求も殆どがパソコンで、データ上のやりとりだ。遅れたりすれば、自動的に支払いが遅れる。それは即、下請けからのクレームとなるのだ。
「でも、いつもギリだから、大宅さんだけじゃ心配だそうです」
にこりと大人しげな顔で、皆川が笑う。
「助かる! あ、皆川くん、お弁当は?」
「持ってきました。一緒に食べようと思って」
皆川は、どっかりとサディの横へと腰を下ろした。
ばりばりと包装を破って、大盛りのコンビニ弁当を広げる。
サディに比べれば、細さが目立つが、広い肩幅と男っぽい仕草が学生とは思えない大人の匂いを漂わせていた。
「久しぶりだな」
「ああ」
何げない風を装い、隣で挨拶を交わす男が、実は不機嫌の極みであることを、サディユースは、とうに見抜いている。伊達にこの数年、家族の次に近い場所にいた訳ではない。
だが、何が皆川誠司の不機嫌の原因なのかまでは、サディには解らなかった。


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