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遥かなる星の軌道<2> 

「サディ」
帰り仕度をするサディの背に向かって掛けられる、良く通る声の主は、確認するまでも無い。
「セージ」
「うち、行っててくれ。飯は用意してあるから、先に食ってて」
ぽんと誠司の手から、アパートの鍵が弧を描いた。
キーホルダー代わりに付いている石は、紅い色の護り石だ。サディユースが、こちらに来て間もなく、誠司に渡したものである。
それを受け取って、親方と別れる。誠司が来た時点で、今日は誠司のところに泊まる事はほとんど決定事項だ。
現場から電車で二駅。まだ、付近は下町の佇まいを充分に残す地域で、駅前の商店街を抜けてアパートへと向かうサディユースは、注目の的だ。
高い身長と、逞しい身体つき。銀色に光る長めの髪と青い瞳は、例え作業服姿であっても、女性の夢見る王子様の特徴を備えている。
近所の女子高の生徒はもちろん、商店街を買い物するおばちゃんたちも見惚れるような野生的な美貌も、それに輪を掛けていた。
だが、サディユースは、その視線をきっぱりと無視して、道路に面したショーウィンドウが置かれた、総菜屋とパン屋、後は路面に張り出した八百屋で、いくつかの買い物を済ませる。泊まる都度の食事代を、誠司は決して、サディから受け取ろうとしなかった。
自分も少ない給料ではあるが、ちゃんと働いて稼いでいる。誠司のバイト代よりは多いはずだ。汚れた作業服では、店内に入るのはためらわれる為、こんな買い物しか出来ないのだが。
古い小さなアパートに辿り付き、カギを開ける。
ふっと、まだ明るい空に掛かる月を見上げた。欠けた細い月が中空に掛かる。
「遠いな」
この国の月は、小さく遥か遠くに見える程度だ。トレクジェクサで見上げていた大きなものとはあまりに違う。冴えた光は、今は非常に頼りなく見えた。


「ただいま」
「ああ。おかえり」
現場で見せていた不機嫌さとは、うって変わった誠司の笑顔を出迎えたサディは、狐にでもつままれた気分になった。
「飯、食った?」
「ああ」
誠司の料理は、城の下働き中に覚えたというトレクジェクサ風のものが多い。最近では和食にもすっかり慣れたが、やはり、味が恋しい時はあるのだ。
今日は特にすごかった。
柔らかく煮込まれた牛肉は舌の上でとろけそうだったし、添えられた幾種類もの野菜には、ビネガーがふりかけられ、スライスした芋はかりかりに焼かれている。
スパイスの効いた味は、塩辛いものが多い日本には無いもので、懐かしさを呼び起こした。
「うん。今日は俺にとっての記念日だから」
「え?」
「俺があっちへ行った日だよ」
やさしく微笑む姿は、やはり、似ているとサディは思う。
多分、自分たちはいつか滅びていく種族だろうと云う予感は、サディユースの中に強くあった。その中で、王子を護ることだけを自分に課してきた筈のサディの心を揺り動かしたのは、優しい中に意志の強さを秘めた黒い瞳。誠司の父親・今は遠い異世界で生きる王子の番い、安芸誠吾だ。
「セージ」
ゆっくりと誠司を抱き締める。身体はすっかり大人並みに成長したが、柔らかな心は、まだ子供のものだ。黒い瞳は、誠吾には無かった、寂しさを湛えている。
誠司は長いこと、父親の失踪が自分の心無い発言によるものではないかと心を痛めていた。それゆえに、トレクジェクサへの道が開いたのだ。
「大丈夫だよ。俺の所為だったなんて、もう思ってない。それに、親父はあっちで幸せなんだろうからな」
抱き締めたサディの腕を、誠司はするりと抜け出した。出会った頃には、頭一つ分小さかった誠司は、いまやサディと身長も変らないくらいに大きくなっている。
甘えたことが照れくさかったのだろう。誠司は窓をがらりと開けた。
白い月の光に照らし出された姿は、男らしい以外は至って平凡な容姿の誠司を、妙に際立たせて見せる。
「なぁ…、サディ」
はっと気付くと、誠司の顔は、もう目の前だった。


*これより先15禁。御承知の上お進みください。

そのまま、口付けられる。
舌が口腔に忍び込むのを止めるのを諦めてから、どれだけ経ったのか。
息苦しいほどのそれを受け止めていると、誠司の指がスウェットの中に入り込んできた。
だが、そのまま、欲望を煽り立てる指の動きを受け入れるのには抵抗がある。
「セ、セー、ジ…っ」
「駄目?」
上目使いにこちらを見上げてくる瞳に、サディユースは躯の力を抜いた。
そのまま、窓際へと押し倒される。
目に映るのは、隣の壁との間に覗く、切り取ったような形の、異様に明るい空。
人口の光に照らされたそれは、星の瞬きさえ覆い隠すのだ。
『星の軌道は、ここでは見えない』
「何?」
思わず、生まれた国での言葉で呟いたサディユースの言葉は、誠司には聞き取れなかったらしい。
無理も無い。誠司があの国にいたのは、少年期のほんの数ヶ月だけなのだ。和解した、父親の記憶以外は、遠い思い出にしか過ぎないだろう。
「いや」
腕を伸ばして、誠司の頭をかき抱いた。
それを了解の合図だと理解して、誠司は再び、サディユースの欲望に指を這わせはじめる。
お互いの荒い息だけが、部屋の中の音だ。
三段ボックスの上に飾られた誠吾の写真が目に入り、サディは硬く目を閉じた。


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