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遥かなる星の軌道<3> 

「良かったか?」
欲望を吐き出した後は、ただ気まずい空気が流れている。目さえも合わせられないのに、そんな質問に答えられる訳も無い。
答えないことは誠司も判っているらしく、すぐに立ち上がって、手を洗いに行った。何を洗い流しているのかが判るだけに、サディは余計に居たたまれない気分だ。
再び、誠吾の写真が目に留まる。
家族旅行の写真か何かだろうか、スーツ姿の誠吾は、小さな子供を腕に抱え、隣には、ヒールを履いているのだろうか、誠吾よりも背の高い誠司の母親の姿があった。
幸せそうに笑っている誠吾の姿に、サディが、何処か違和感をもってしまうのは、きっと王子の横に並んだ誠吾しか見たことが無い所為だろう。
思わず、写真立てに伸びたサディユースの手は、誠司に押さえられた。
「セージ?」
妙に硬い表情をした誠司に、サディユースは怪訝な声を上げてしまう。
「触るな」
「あ、ああ」
一体何が誠司の気に触ったのかが判らず、ただ、そんな表情をさせておきたくないサディには、うなずくことしか出来なかった。
誠司も食事を終え風呂に入ると、当たり前のように、ひとつしかないベッドに二人で潜り込む。
時折、妙ないたずらを仕掛けられることもあるが、今のところ、それ以上の関係では無い。
ふたりで一つのベッドで朝まで眠るだけだ。
元々、誠吾が使っていたセミダブルは広いが、それでも、平均より大きな男二人では抱き合って眠るしかない。
今日も、誠司はサディの腕を枕にして、あどけない横顔を見せていた。
最近は、何を考えているのか判らないと思うこともしばしばある相手だが、それでも、誠司のかたわらで、見守りたい気持ちに嘘は無い。
だが、それでも、何を思って誠司があんな真似を仕掛けるのかが、サディユースにはまったくの謎だった。
星の軌道の示した相手でなくとも、誠司を選んで、ココまで来た。
二度と、故郷の山には戻れないだろう。それでも、誠司の寂しげな瞳を癒せたらそれでいいのだ。
星明かりの見えない空を眺めながら、いつしかサディユースは眠りについていた。


サディを泊まらせた翌朝の誠司は、妙に機嫌がいい。
昨日サディが買ったバケットと、珈琲だけの朝食を向かい合ったローテーブルの上に置く。
その仕草は鼻歌でも歌いだしそうな感じに見えた。
「今日から一緒に出勤しようぜ」
「一緒に?」
現場の朝は早い。特に、こんな街中の現場は、七時半には搬入を終えないと、近隣の住民や、駅を使っている人間から苦情が出るのだ。
対して、事務員の出勤は一般の会社と同じ時間である。
「セージ、辛くないか?」
「朝は強いから、平気だ。それとも、サディは俺と一緒じゃ嫌か?」
ストレートに聞かれてしまえば、嘘もつけない。誠司と共にいるのは、サディユースだって楽しいことなのだ。
「いや。そんなことは無い」
サディが正直に云うと、誠司の顔が嬉しそうに輝く。大人びた仮面の下から覗く、素直な表情はサディユースにだけ向けられるものだ。それが、より一層の愛おしさを掻きたてる。
その笑顔が、サディの護りたいものだ。
二人して取るこの朝の朝食は、妙に満ち足りたものだった。

「サド。お前、しばらく皆川ちゃんとこ泊まりか?」
「は?」
親方が云い出したのは、休憩時間に入ってすぐだ。朝が早い現場は肉体労働であることも手伝って、十時と三時には必ず休憩時間を取る。
「皆川ちゃん、めぐちゃんに云ってたぞ。今日から、一緒に来るんだって」
「俺、何も聞いていません」
「元々、お前と皆川ちゃんって昔からの知り合いなんだろ? 泊まるのは別に構わんが」
今日からと誠司が云っていたからには、本当にこっちの現場にいる間、泊めるつもりだろう。
最近、特にあの部屋に住むようになってから、誠司の自分への張り付き度が増えた様な気がするのは気のせいだろうか?
元々、あの部屋は誠司の部屋では無く、誠吾が暮らしていたものだ。
それを誠吾が異世界へ行って、こちらで行方不明扱いになってから、誠司が時折、泊まるようになっていた。
大家である年寄りは、ケチが付いたからと、安い金額で貸してくれたし、高校生になってバイトをするようになってからは、誠司が家賃を払っているものだから、誠司の母親も、義父の皆川も、表向きは何も云えないのが本当のところだ。
誠司が父親に心無い言葉を吐いた後に、行方が解らなくなったと知ったとき、誠司はまだ中学生だった。父親を慕うなと云うのは無理な話だ。
しかも、その父親を追って、誠司は異世界へ行ってしまい、一度行方不明扱いになっている。両親もその後は、誠司に対しては腫れ物でも触るような扱いになってしまっている。
その上、警察では『行方不明の間のことは一切覚えていない。気が付いたら、怪我をした自分をサディが介抱してくれていた』で通していたのが、家に帰るなりに、冒険ファンタジーばりのストーリーを話し始めるものだから、両親の戸惑いも理解できると云うものだ。
付いてきたサディと云うおまけも、それに拍車を掛けていた。
「俺の親父とサディが知り合いなんです」
良く通る声で、誠司が親方の疑問に応える。
「俺の親父って今、海外にいるんですよ。そこで親父の仕事仲間だったんです」
「あれ、皆川ちゃんの親父って、皆川のとっつあんじゃねーの?」
誠司の義父、皆川は土建会社の社長で、以前の現場で親方と一緒に仕事をしていた。実のところ、皆川の紹介で現場仕事をしていたサディを、気に入った親方が、自分のところに来ないかと誘ったのだ。
「皆川の親父は、オフクロの再婚相手なんですよ。俺のホントの親父は普通のサラリーマンです」
「普通では無い。セイさまは立派な方だ。優しくて、強くて、頭も良い」
卑下するような云い方に、ムッとしたサディが口を挟む。いくら、誠司でも誠吾を貶めるような発言は我慢できない。
「あのな、お前ら、親父の事、ホントに神様みたいに思ってんじゃないの?」
「そうは云わん。尊敬している。王の隣に相応しい方だ」
サディの言葉に、誠司はふーっと深いため息を吐いた。やってられないとばかりに首を振る。
「あ、そう。尊敬してて、敬愛するセスリム・セイね。アホらしい」
握った缶コーヒーを投げつけるように、サディに放り投げ、誠司は足音も荒く、その場を立ち去った。サディは呆然とその背中を見送るしか出来ない。
「ありゃ、寂しいんだな。父ちゃんをお前らの国に取られたみたいで」
親方の言葉には、サディもうなずかざるを得なかった。アデイール王の隣には、もう誠吾以外の人間は考えられない。
「それ、後から礼云っとけよ。多分、お前と一緒に飲むつもりで買ってきたんだろうからな」
「はい」
手にした暖かな缶コーヒーを握って、サディは、最近の誠司の気持ちの浮き沈みをどうしたらいいのかと、困惑するだけだった。


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