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遥かなる星の軌道<8> 

翌朝、出勤した現場は妙な雰囲気に包まれていた。
何とは無しに騒然とした雰囲気に、サディユースと誠司は顔を見合わせる。
もしかして、皆川が何か云って来たのだろうかと、事務所に向かうが、それにしては二人に注目するものが誰もいない。
ガチャンと何かが割れる音がして、誠司とサディは走り出した。
がらりとプレハブで出来た事務所の扉を開く。
そこには、腰を抜かしかけた呉と、隣で相手を睨みつけるようにした大宅めぐみ。対峙している相手は、目付きの悪い数人の男たち。着崩したスーツを見るまでも無く、その連中の正体は知れる。
「監督、一体何が」
誠司は呉に走り寄って、助け起した。
男たちが、走り寄ってきたサディと誠司を、剣呑な表情で見下ろす。
それにゆらりと、サディユースが立ち上がった。
百九十以上あるサディユースが、今度は男たちを上から見下ろす形になる。トレクジェクサでは近衛隊長だった男の無言の圧力に、男たちが、思わず一歩下がった。
「俺にも、さっぱり…、グエンを探してると云うんだが」
男たちが下がった事に、ほっとしたらしい呉が口を開く。
「今日はまだ現場には来てないわ。グエンさんもヴァンさんも」
大宅が叫ぶように云うのに、サディユースがずいっと前に出た。
「聞いた通りだ。帰れ」
恫喝した訳では無い。静かに言葉を発しただけだ。だが、明らかに男たちの腰は引けている。
「ベトナム野郎が来たら、知らせろッ、さもないと…」
「さもないと?」
男の一人が踏みとどまって発した恫喝は、最後まで云い終わることは無かった。
繰り返されたサディの言葉に、男の舌が凍りつく。
温和で実直で真面目な男の仮面を、今や、サディユースは完全に投げ捨てていた。そこにいるのは、人の皮を被った、銀色の獣に他ならない。
「それから?」
青い瞳が、ぎらりと光った。
「ひ…ッ、」
男たちの喉の奥が、引きつったような音を発する。
「覚えてろ!」
それでも、最後にありきたりの台詞を吐いたのは、むしろあっぱれな程だろう。逃げさる男たちの後姿を眺めながら、サディの視線は厳しいままだ。
「何があったのか、俺にも良く判らないんだ。いきなり、この現場で働いてるベトナム人を出せって、大勢で囲まれて」
「グエンさんとヴァンさんは?」
「土曜から来てない」
呉は、男たちが消えた途端に、呪縛が解けたように、舌がすべらかになる。誠司の問いには、サディが答えた。
「元から、休みがちだし、気にもしてなかった」
グエンとヴァンは、ベトナムから技術交換留学で、日本にやって来たエリートだ。日本で働いて技術を学び、帰国した後に役立てる。
本来なら、週休2日の契約の為、どうしても土曜は休みがちだ。特に金曜は給料日だった為に、呉は土曜に来ない二人を気にも留めなかったのだ。

「金曜に、一緒にキャバクラ行ったのって、誰ですか?」
誠司が問い掛けた。グエンはキャバクラ好きで、金が入ればそこに行くのは知られている。
「そんなこと、どうでもいいじゃない! 次にあいつら来たら、佐渡さんを隠さないと」
呉を助け起していた大宅が、ヒステリックに喚きたてる。
「サディなら、心配はいらない」
それを、誠司はあっさりと切り捨てた。
「何でそんなことが判るのよ? あいつら、ヤクザよ! 今度逆らったら、佐渡さんがどうなるか…」
大宅のヒステリカルな声の調子がふっと止み、いきなり涙声になる。大宅めぐみは、肩を震わせて嗚咽を漏らしていた。
「心配なのよ。危ないことしないで…」
それを呆然と、呉が見つめている。
いかにも自分だけが心配しているかのような口調に、誠司はムッとした。
サディユースが、どれだけ強く勇猛でならした戦士だったのか。王の信頼も厚く、あの国を守り抜いた近衛隊長。誇り高い銀狼。
「何も知らない癖に」
ぽつりと呟いた誠司の本音を、大宅が耳ざとく聞きつけた。
「何よ! 自分は何か知ってるの? 付き合いが長い分だけ?」
激高する大宅を、呉が抑える。ひどく悲しそうな心配している目だ。すぐ隣にあるそれさえも気付かない女。そんな女が何を判ると云うのだろう。
「いい。セージ」
反論しようと前に出た誠司を、後ろから抑えたのはサディユースだ。
「お前さえ知っていればいい。お前さえ判っていればいい」
――――お前だけだ。
そう云われたも同様の言葉に、誠司は思わず呆けてしまう。こんな熱烈な告白を、他人のいる前で聞けるとは思わなかった。
「サディユース…」
「それよりも、何を云いかけた?」
サディに促され、一気に頭が冷える。こんな些細なことで言い争っている場合ではない。
「呉さん。金曜に一緒にキャバクラ行ったのって、誰ですか?」
「一体、何でそれに拘るんだ?」
「あいつら、多分、また来ますよ。それに本社に連絡する前に、何があったかは掴んでおかないと」
はっと呉が立ち上がった。本社に警備員を増強してもらうにしても、ヤクザが来ましたというだけでは、一体何があったのか判らない。
「キャバクラか」
「多分、そこで何かあったんでしょう」
このまま消えられては、次の交換留学生を廻してもらえなくなるだけではない。会社の大きな信用問題だ。
「ソネとクラキは一緒に行ったぞ」
サディは、ロッカールームで、グエンに声を掛けられたときに、隣にいたメンバーを思い起こす。
「曽根内装と、倉木板金か。呼んで来てくれ」
「あ。はい」
呆然と告白を反芻していた大宅が、我に帰って、涙をぬぐって走り出した。


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