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遥かなる星の軌道<11> 

「昨日まではしっかりとしていた。誰かが外したんだ」
足場は、一番下の固定金具が外れていた。緩んでいたのでは無い。破壊されていたのだ。
事務所の中は騒然とした雰囲気が漂っていた。
警官や、鑑識がうろうろと動き回り、あちこちで指紋を採取している。一通り、現場の人間たちの指紋も取られた。
鳶たちが集められ、工事の手順の確認が行われる。
手抜きは無かったのか、安全確認はなされていたのか。それとも、誰かが故意に破壊したのか。
どう考えても、最後の線が濃厚だと云うのは、現場の人間たちも判っている。たぶん、犯人が誰かも。

「じゃ、これで失礼します」
夕方になって大宅が立ち上がった。はっとして誠司も顔を上げる。
「送るよ」
がさがさと書類を片付ける誠司の頭を、大宅が軽く叩いた。
「自分の顔、鏡で見て御覧なさい。いいわよ、まだ日も高いし」
「顔?」
さすがにこんなことになって、女性一人で帰らせる訳にはいかないと思ったのだが、意外な言葉に、誠司は戸惑う。
「真っ青よ。君こそ佐渡さんに送ってもらいなさいな」
大宅は、寂しげに微笑んだ。
事故現場。声も無く涙を流す誠司を、サディの腕が抱き寄せ、涙を拭う。その姿に入り込める隙など無い。
「待ちなさい。俺が送っていく。皆川ちゃん、残ってもらっていいかな?」
呉が眼鏡を押し上げて、立ち上がる。確かに誠司に送られるより、大宅も安心できる筈だ。そう考えて、誠司は腰を下ろし、仕事の続きに掛かった。
粗方の職人も引き上げ、シンと静まった事務所に、誠司がキーを叩く音だけが響く。
仕事を終えたサディも、缶コーヒーを啜りながら、誠司の後ろでくつろいでいた。
呉が戻ってくるまでは、留守番をしていなければならない。隣の区の大宅の家までは、車で三十分というところだ。夕方に往復することを考えると、一時間は軽く過ぎるだろう。
「ごめん、サディ」
ぽつりと誠司がつぶやいた。
「いや、お前を待っているのもいい」
手持ち無沙汰ではあるが、真剣な誠司の横顔を眺めているのは、嫌では無い。
「そうじゃない。俺…、自分で情け無いよ」
そこまで云われて、誠司が昼間のことを云っているのだと、気付いた。
「泣いたことか?」
「お前が居なくなったんじゃないかって思うと、俺…」
絶望的な喪失感。それを埋める相手がいない。
「俺も、ああなったら、泣く。いや、泣き喚くぞ」
助かったと、思った瞬間に誠司はほっとした。いや、ほっとするとか云う次元では無い。居てくれたと、それだけが自分を日常に置いている理由。
それはサディも同じだった。
「セージ」
サディの唇が、誠司のそれに触れた。
軽く触れ合うだけのそれを、誠司は、角度を変えて深く貪る。
暗くなり始めた現場に、事務所の明かりだけが灯る。
カタリと小さな音がした。

唇を離して、誠司とサディが目を見合わせる。
小さな物音は、現場の片隅で、遠慮がちな音を立てていた。
そっと立ち上がるサディを、誠司が押し留める。また、あんなことになったらと思うと怖いのだ。
「二人で行こう。それなら、いいな?」
サディユースの提案に、誠司がうなずく。
万が一を考えて現場へと持ち込んだモノを、ロッカーから取り出すと、二人で物音の方向へと向かった。
足音を殺して、その場所へと近づく。
人影は三人。
壊れた足場の下に座り込んでいる。その姿は、悲しんでいるように見えた。実際に、一人はすすり泣いている。
見覚えのある後ろ姿に、誠司は思わず声を掛けてしまった。
「グエン、さん? ヴァンさん?」
はっと振り返った三人が、走り出す。
「待ってくれッ!」
ゲートには警備員がいるし、警察も張り込んではいるはずだが、駅の工事だ。何処からでも抜け道はある。
案の丈、グエンたちはまだ使われていない線路沿いを抜けて、外へと駆けて行く。
「そのまま追ってろ、回り込む」
サディは誠司の耳元に囁いて、反対側に渡ると、高架線路を駆け上がっていった。
そのまま、グエンたちの前に飛び降りる。
腕を広げて、立ちふさがるサディに、グエンとヴァンはその場に座り込んだ。
後ろから、誠司が追いつく。
「サディ。ゴメン、足場くずれたって聞いた。ホント?」
グエンが心配そうに聞く。その顔は、今にも泣き出しそうだった。
「大丈夫だ。どうも無い」
「誰も怪我してないよ。大丈夫」
巻き込んでしまったことを後悔しているのだろう。落ち着かせるように、サディと誠司はそれぞれ大丈夫と口にした。
あれは脅しだったのだ。これ以上、巻き込みたくなければ、女を渡せと。
まさか、ちゃんと連れ出す事に成功しているとは思わなかった。
「戻ろう、朝になって、警察に連絡すればいい」
「オレタチ、ガイジン。話聞いてくれるかな?」
グエンもヴァンも不安そうだ。詳しい事情を整理して、誰かが話さなければならないだろう。
「呉さんに相談しよう。な?」
女を含めた三人を促して、事務所に帰りかけた、誠司の耳元を何かが跳ねた。
熱い火箸を押し付けられたような痛みが、頬を走る。
頬を押さえた指に、血がついた。
「まったく、やっかいをかけてくれたモンだ」
冷たすぎる声の調子に、振り返ると、そこには予想通りにダークスーツを着崩した男たちが立っている。
「その女をこっちへ貰おう」
「嫌だ?っていうのは?」
震える足を叱咤して、誠司が言葉を紡ぐ。ここで、日本語が達者なのは誠司だけだ。
「もちろん、ナシさ。命は惜しいだろう?」
拳銃は一つだけだ。だが、確実に誠司を狙っていた。
女が立ち上がる。
まだ、少女と呼んでも良いくらいの若さだ。
「騙してつれてきて男の相手か」
「下らん詮索はしない方が、身のためだ」
ゆっくりと、女は男たちの元へと歩いていく。誠司の横をすり抜けるとき、誠司は少女の腕を掴んだ。
「伏せろッ!」
誠司が叫ぶ。
拳銃を構えた男の手から、銃がはじけ飛んだ。
線路に敷かれた砂利の一つが、サディユースの手によって、つぶてとなって男の腕を撃ったのだ。
ずいっとサディが前に出る。
男たちが、目を見開いて、一歩下がった。
サディの手の中には、反り返った、厚刃の刀身が握られていた。


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