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遥かなる星の軌道<12> 

じりっと前へと出るサディに、誠司は三人を庇いながら、後ろへ下がる。
ここで自分が前へと出ても、邪魔になるだけだ。
牙を持たない自分を歯がゆく思いながらも、誠司はひたすらグエンたちを無事に連れ帰る事に、全力を注ぐ。
それが、自分に出来ることだ。
拳銃を落とされた男たちは、サディが前へ出る毎に、一歩一歩後じさる。
頼りない現場のあかりを反射して、ぎらぎらと光る刀身は、それがまさしくホンモノであることを示している。
牙を向いた銀髪の狼を、止めるものはない。
男たちの一人が、懐のドスを抜き、サディに切り掛かった。
それをサディは軽く交わして、叩き落す。
「ひッ…」
切っ先を喉元に突きつけられ、男は失禁していた。
腰を抜かしたらしい、その場に座り込んだ男など、もうどうでもいい。
次の獲物を求めて、銀狼が男たちを睥睨した。
「ち、」
一人のスーツの男がした舌打ちが響く。
明らかに分が悪い。何処で警察に目をつけられているか、判らないために、拳銃は全員が携帯している訳ではない。特に、今回は素人相手だ。
人数頼みで相手をするには、荷が克ちすぎる。
「引き上げるぞ」
そのまま、きびすを返した男に、他の数人が従う。

腰を抜かした男も連れて、全員が車へと姿を消したのを見送って、サディユースは刀を納めた。
「サ、サディ、何?」
「事務所へ戻ろう。立てますか?」
質問を口にしようとするグエンの口を押さえて、誠司は少女に手を貸した。
後ろを警戒しながら、ついて歩くサディに、グエンとヴァンがちらちらと視線を走らせる。
「グエンさん、ヴァンさん。俺のオヤジは、今、ある国で王の補佐をやっています。そのオヤジから俺の護衛に派遣されたのが、サディです」
「セージ?」
とんでもない作り事を口にした誠司に、サディが慌てる。
「仕方ないよ。その刀とか、絶対に不審だって。納得してもらうには話さないと」
「だが、セージ、」
反論しようと口を開いた、サディの肩をグエンが叩いた。
「サディ、サディも苦労シタンダ! それで助けてくれたんダネ。アリガトウ!」
「ああ、まぁ」
サディの慌てぶりを良いように解釈したグエンは、すっかり同胞の絆を確信しているようだ。
「とりあえず、戻りましょう。もうすぐ、呉さんが帰ってきます」
急いでもどり、呉に事の報告を済ませる前には、刀を隠さないといけない。
グエンやヴァンは、やたらと後ろを振り返る。誰か追いかけてくるかもしれないという風に。
それは、ここ数日で付いた癖の一つだった。

「グエン! ヴァン!」
帰って来た呉は、二人の顔を見るなり、叫ぶ。
まさか、帰ってくるとは思っていなかったのだ。
「妙な奴らに付けられてました。早く警察に行った方が…」
誠司が云うのに、呉は青冷めてしまう。
「そうか、早く警察に行こう。佐渡ちゃんも皆川ちゃんも、もう帰ってもいいよ」
促して、三人を車に乗せた。
取り残された、誠司とサディは顔を見合わせる。
大変な一日だった。
足場が崩れたのは、今朝のことだ。多分、奴らは他の女たちを移動させているだろう。
布にくるんだ刀をもち、サディと誠司はアパートへの道を辿り始めた。
真っ直ぐに前を見るサディの顔を、誠司は横からちらちらと盗み見る。
足場が崩れたと聞いたときには、生きた心地がしなかった。
なのに、奴らに立ち向かうサディを止めようとは思わなかった。
それは、サディユースが闘う為の牙を持っていたからか、それとも、自分がそれを持たないことを、認識していたからか。
「どうした? セージ?」
「いや、何でもない」
振り向いたサディの微笑みに、どきりと心臓が跳ね上がった。
「セージ」
サディの手が、誠司の頭を無骨に撫でる。いつもならば、子ども扱いだと反発するところだろうが、今はその心地いい感触に身を任せる。
商店街の空に、細い欠けて行く月が掛かっていた。


次の日、誠司が出勤すると、また警察の手が入っていた。
そこここで、指紋や物証を採取しているのだろう。あちこちに立ち入り禁止のテープが張られている。
それこそ、爪先立ちで歩かねばならない程だ。
「皆川ちゃん。来てくれ」
呉が誠司を呼ぶ。
「昨日のことを話してくれないか?」
「すみませんね」
人の良さそうな笑顔を浮かべたオッサンは、ぺらぺらのコートを着ている。
いかにもな現場の刑事っぽい男だった。
「物音が聞こえたので、行ってみたら、グエンとヴァンと、あの女の人がいて。いかにもやくざっぽい連中が後ろ追っかけてるみたいだったんで、石を投げつけて、さっさと事務所に来たんですけど?」
そこは誠司とグエンが打ち合わせた。外国人が警察に目を付けられるのはいいことではない。グエンもヴァンもそこは理解が早かった。とにかく、何も知らないで通すつもりだ。
「現場に拳銃が落ちていましてね」
「ええ?」
刑事の指が、誠司の頬を辿る。そこに残る傷は、夕べ拳銃が掠めた跡だ。
「おい、」
近くに居た鑑識課員を呼ぶ。
「ちょっと見せてもらっていいかな?」
「はい」
傷の上で、ぽんぽんと粉をはたかれ、テープを貼り付けられた。
「硝煙反応があります」
「え? もしかして、俺…」
「拳銃で撃たれたんだよ」
温和そうな刑事の小さな目が光った。
「申し訳ないが、その時のことを、もっと詳しく聞かせてくれないか? それと、出来れば、傷害事件として扱いたいんだが」
しっかりと、誠司はうなづく。これも、サディを護り抜くために自分がやらねばならないことだ。
「皆川ちゃん、佐渡ちゃんは?」
「今日は、休みを貰ってる筈ですが?」
思い出した呉が聞く。月に一度、サディが貰う休みのことを思い出し、呉はうなづいた。
今夜は新月だ。


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