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騎士の誓い<2> 

「今夜はこの辺りで、陣を張りましょう」
マキアス隊長の横で、馬を走らせていたヤコニールが云うのに、マキアスは馬を止め、野営の指示を出した。
「リベア様。焔の剣を」
「ヤコニール。その『リベア様』って云うのは、どうにかならないか?」
剣を、陣の中心となるであろう場所へと置きながら、リベアは不服気に、口元を歪める。
暁のヤコニールは、守護の素養だけで云えば、姉弟子のモニクをしのぐのではないかと云われていた。ただ、緊張しすぎる嫌いがあり、今回の初陣に際しても、魔封じの剣を使った守護陣を、幾度か魔術師の宮で修練を積ませた経緯がある。もちろん、リベアも付き合わされた。
その所為なのか、この少年は、リベアを尊敬し憧憬を含んだ視線で見つめてくる。この視線がリベアは苦手だった。
「では、何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
「リベアでいい。ここだな」
リベアは剣を木の洞へとたて掛ける。年に幾度も抜く訳では無い剣だが、どういう訳か剣をどう使えばいいのかが読み取れるのだ。
「ですが、リベア様は、蒼のソルフェースが同格と認めた方です。私などが呼び捨てなどには…」
ヤコニールが緊張した面持ちで、言葉を紡ぐのに、リベアは重いため息を吐いた。これはどうあっても『様』は取れそうに無い。
「緊張しなくてもいい。何度もやったな? 今は、術に集中しろ。蒼のソルフェースがやってみせたことをやるだけだ」
若くして婚姻していれば、リベアにとっては子供と云っても差し支えない年齢だ。ついつい頭をぽんぽんと叩いてしまう。
「はい。リベア様」
ヤコニールは、だが、その子ども扱いにさえ気付いていないようで、じっと焔の剣を見つめて、呪言を唱え始めた。
高く、低く。ゆったりとした、歌うような調子のそれが、ふっと途切れた瞬間、そこが何か暖かなもので囲まれたのを感じた。
「リベア様……」
「よくやった。ヤコニール。マキアス隊長に報告して来るといい」
成功したのが嘘であるかのように、心細げにリベアを見上げるヤコニールに、リベアは優しい表情で笑い掛けた。
「はい!」
それを見た、ヤコニールは、本当に嬉しそうな顔で走り出す。実のところ、何時も不機嫌そうに見えるリベアの、こんな表情を見ることが出来るものは滅多にいないのだ。
ヤコニールはそれだけで有頂天だった。


「魔物が現れたのは、『ドレスト』というより、国境騎士団の守備塔だ」
「守備塔???」
団議の席。マキアスの言葉に、皆がざわついた。
守備塔と称されるそこは、要するに、国境騎士団の根城だ。そこから、隣国と黒の森からはぐれた魔物たちを見張るのである。
「守備塔。しかも、見張り番の騎士が襲われている」
「馬鹿な!」
リベアは思わず声を荒げてしまった。ありえない事態だ。それなりに鍛えられた集団の、しかも寝ずの番を行うはずの人間が襲われるなど。
「そうだ、リベア。明らかに可笑しいんだ。しかも、魔物は一人だけを襲っている。なのに、気付いた人間はいないんだ」
「誰も?」
リベアの問い掛けに、マキアスがうなずく。
早朝、交代に来ると、既に死んでいる状態だと云うのだ。
「三人立て続けにやられて、見張り番の人数を増やしてはいるんだが」
「もつ訳がない」
見張り番は、只でさえ緊張を強いられるのだ。それが人数を増やせば、それだけ回数が多くなる。しかも、人数は只でさえ少ないとくれば、肉体的にも無理だ。
「襲ってくるのを待つ訳には行きませんね」
「守護陣をいくつか張って、襲ってくる方向を定めることは出来ますが?」
ヤコニールがおずおずと申し出る。
第一騎士団を、護るために派遣されてはきているが、態と襲わせるのならば、そういうやり方もあるだろう。
「暁殿。やってみてくれ。皆もいいな」
マキアスが第一騎士団の連中を見回した。そこで否やというような連中では無い。魔物を相手に腰が引ける様では、第一騎士団は勤まらない。
皆がうなずき、団議は終了した。

「まったく、迷惑なことだ。国境騎士団の腰抜け連中のお陰で」

聞こえよがしな声は、副隊長のラフ・シフディのものだ。
国境騎士団は、騎士の中でも身分の低いものが多い。それは、国境の警備が主な任務であるためで、熟練度や知識が無くても勤まるためだ。
もちろん、リベアがその当の国境騎士団から移動になったのは承知の上である。
ぎらりと、振り向いたリベアの目が光った。
と思うと、ラフの喉元には、抜く手も見せない勢いで、短剣が突きつけられている。
皆が、ぎょっと足を止めた。
「取り消して、いただこう」
抑えた調子のリベアの声が響く。
ラフは、殺気立つリベアの様子に、だらだらと脂汗を流していた。
貴公子然とした秀麗な顔が、恐怖で引きつっている。
「俺のことは何を云われても構わん。本当のことだしな。だが、国境騎士団全部に対する侮辱は許さん」
田舎モノだの、皇女のお気に入りの腰抜けだの、焔の剣に相応しくないだのと、いろいろ並べたてられるのは我慢が出来た。というか、全て当たらずとも遠からずだったからだ。
だが、自分がいたと云うだけで、国境騎士団全てを侮辱されるのは我慢がならなかった。
「取り消していただこう!」
声を張り上げたリベアの腕を、マキアスが抑えた。
「リベア」
静かに声を掛け、首を振る。
ここでラフに謝罪をさせることは簡単だが、それでは副隊長であるラフの面目は丸つぶれだ。王宮でふんぞり返っている、ラフの父親にでも知れれば、面倒なことになるのは必定だった。
苦々しい表情を浮かべたまま、渋々とリベアが剣を引く。
立ち去るリベアの後ろで、がたんと大きな音がした。おそらくはラフが腰でも抜かしたのだろう。振り返りもせずに、リベアはその場を立ち去った。


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