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騎士の誓い<3> 

「くそッ!」
自分がいたと云うだけで、今、必死に戦っている連中までが悪く云われる。まったくもって、理不尽なことだ。
守護陣の中心となる焔の剣のそばには、それを護る様に、リベアの従者であるマーロウだけがいた。
「リベア様?」
いつも不機嫌そうな顔をしてはいるが、本当は優しく強い精神の持ち主であるリベアは、滅多に苛立ちをぶつけるような真似はしない。
それが、舌打ちせんばかりの勢いで戻ってきたのに、マーロウはあっけにとられていた。
「相変わらずだ。そんなに焔の剣に選ばれたのは名誉なことか?」
これは、団議で何か云われたのだろうと、聡いマーロウは察しを付ける。しかも、マーロウ自身、リベアの世話係りになった頃から、いろいろ当てこすられてきていた。今更、知らぬフリをしろと云われても、無理なことだ。
「仕方がありません。うらやましいのでしょう? 神竜から認められた魔封じの剣の騎士。多分、騎士の誰しもが一度は憧れます。もっとも、それが自分に可能かどうか位は見習いの頃には既に気付きますが」
マーロウの云うことはもっともだ。誰しもが一度は憧れるのは、それが実現不可能な夢物語だと知っているからだ。子供が夢見る英雄譚の一つでしかない。
「気付かない阿呆がいる訳か?」
「正確に云えば、気付きたくない、でしょうね」
近衛騎士団長の息子であり、幼い頃から騎士の教えを厳しく仕込まれてきた、マーロウ・エデンの言い草は、非常に辛辣だ。
「ラフ副隊長は、特に教育の優劣が、人間の優劣になると思っている方ですから」
ラフの考え方の偏りが、そこから来ることは、リベアもすぐに気付いた。
最初は身分の違いで物を推し量る、嫌な奴かと思っていたが、そんな男に副団長などと云う役職が務まるわけが無い。いくら、身分の高い騎士が多いと云っても、それだけで第一騎士団が廻っている訳では無いのだ。
ラフが嫌うのは、教養の無い人間たちだ。リベアなどは、その最もたるものだろう。
貧乏猟師の息子で、元は離宮の門番。国境騎士になれたのも、皇女の推挙があったからだ。
「俺のような無学な田舎モノを嫌うなら、それでもいいさ。俺が学校も出てない田舎モノなのは本当だしな。だが、国境騎士団全部がそうではないぞ」
憤慨しているリベアの意見は至極もっともだが、やはり国境騎士団に、ラフ・シフディ曰くの、無教養な人物が揃っていることは確かである。貧乏人が騎士を目指す場合、やはり門番で数年過ごした後に、国境騎士団に配属されるのが普通だ。
だが、逆にマーロウの見るところ、リベアは粗野で無学な田舎モノといった外見に似合わず、結構な教養の持ち主である。
マーロウや、マキアス隊長のように、リベア自身を見ていれば気付くことなのだ。
皇女や皇子と共にいたのが長かった所為か、マナーはいいし、魔術師たちの宮・西の宮にも出入り自由の身とあって、魔術の理などにも異様に詳しい。
机の上での学問しか知らない、騎士見習いなどより、余程知識は豊富である。
だが、それを認めようとしないのは、ラフの意地か、それとも目に張り付いた鱗であるのかは、既に謎だ。
敵愾心もあそこまでいくと、一種歪んだ執着にさえ見えてくる。マーロウは、密かにため息を吐いた。


「リベア様」
「マーロウ。お前もその『リベア様』はどうにかならないか?」
共に馬を進めているマーロウに、リベアは不満げに口を尖らせた。そういう仕草は、すでに中年に差し掛かったリベアを、妙に少年じみて見せ、マーロウは思わず笑いを誘われる。
「そう云われましても、世話係になってから、ずっとリベア様とお呼びしておりましたので」
今更、どう呼べばいいのか?と逆に問うてみせた。マーロウとしては、リベアが自分が尊敬されるような存在だと思ってはいないことは承知の上だ。だが、強く正義感もあり、真面目で知識もあり、しかも、それを奢らないリベアは、マーロウにとっては十二分に尊敬に値する騎士だ。
リベアに云われたからとて、呼び方を変える気など無い。
「リベアでいい。もう、お前は一人前の騎士だ。慣れるまでは、俺の従卒ということにしておくが、独り立ちすれば、俺は騎士仲間だ」
「僕が独り立ちすれば、また新しい世話係と従卒が別に付きますが? それはお嫌でしょうに」
「は…?」
まるで考えていなかったとばかりにあっけに取られた顔をしたリベアに、マーロウは人の悪い顔で微笑みかけた。
「当たり前でしょう。貴方が御自分をどう思おうが、『神竜の守護を受けた魔封じの剣を持つ騎士』なんです。今まで僕だけだったのが不思議なくらいですよ。僕だけにしておきたければ、近衛騎士団隊長の息子を従卒のまま使っておくべきだと思いますが」
暗に『リベア様』という呼び名を変える気が無いことを示したマーロウに、リベアがため息を吐いた。
頭の良いマーロウは、『近衛騎士団隊長の息子』である自分の地位を存分に使うつもりらしい。
そしてリベアにもそうしろと云う。実力で頭を下げられる騎士になりたいと目標は持ちながらも、利用できるものは利用する。マーロウは、実に強かだ。

「リベア様。来ます」

馬を寄せてきたのは、暁のヤコニールだ。普段であれば、日の沈みかけたこんな時刻に馬を走らせたりはしない。
ヤコニールの守護陣による罠を掛けたのだ。
先鋒は当然、リベアである。
周囲にはいつの間にか、隊長のマキアスはもちろん、副隊長のラフの一団も馬を寄せてきていた。
リベアが剣の柄に手を掛ける。
国境騎士団の守備塔は目の前だ。
自分たちが王都から来た、増援部隊だとはすぐに解る筈。
左手にはすぐに黒の森。そうなれば、魔物たちは絶対に出てくる。
おそらくは、守備塔に入る前に襲ってくるだろう。
前日雨でも降ったものか、道がぬかるんでいた。
「馬の足を取られないようにしろ」
後方の新米騎士まで聞こえるように、マキアスが声を張り上げる。
「うわッ、」
云っている側から、誰かが馬の足を取られた。ように見えた。
ぬかぬみから突き出ている腕が、馬のひづめを掴んでいる。
リベアが馬から飛び降りざまに、その腕を切り捨てた。
幾本もの腕が、下から突き上げるように生えてくるのを、待っているような騎士は、その場には一人もいない。
馬のひづめで逆に蹴りつけ、馬を降りると、すばやく剣を構える。
ぬかるんだ土の中から、まるで泥人形のような魔物たちが這い出した。
「土の中からとはな」
リベアがぼそりと呟く。
これでは誰も気付かなかった筈だ。
「ヤコニール! 新米たちと下がれ! 守護陣を書いて、そこに入ってろ!」
さすがに下からの攻撃などに備えることは無いし、そんな修練もさせていない。それは守備塔でも同じだ。
もちろん、魔術師たちの陣も。
「は、はいッ! リベア様!」
どう動いていいのか解らない事態に、硬直していたヤコニールが、勢い良く返事をする。マーロウが皆を連れて、素直に後方へと下がった。
素早く、ヤコニールが指でその場に陣を描く。呪言を唱えると、それはあっと云う間に、大きさを増し、十人近い新米の足元を取り囲んだ。
目の前を何かを探るように腕が伸びる。
「ひ…ッ、」
「黙れ!」
誰かが声を上げたが、それをマーロウが怒鳴りつけた。
「せっかく、こんな近くの戦闘を安全な場所で見ていられるんだぞ! しっかりと見ろ!」
足手まといにならぬ為に、今日のところは安全圏に引き上げたが、いずれは自分もあの場に立って剣を振るうのだ。
そのためにも、騎士たちの動きを見ておかねば。

ラフともう一人が、連携して魔物を双方から追い詰める。
二人、もしくは三人で、取り囲むように一体の魔物と相対する中、リベアだけは単独で向かっていた。
リベアが魔物の懐に入るようにまっすぐに突き込む。
その後ろから、迫る魔物が二体。
「リベア様!」
マーロウが悲鳴に近い声を上げた。


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