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騎士の誓い<7> 

揺られる感覚で目が覚める。
やけに明るい気がするのは、リベアの気のせいではないだろう。重いまぶたを何とか押し開けると、馬上で抱えられたまま、揺られているのが解った。
「あ、おの…」
掠れた声を上げると、口元に水筒が当てられた。冷たいそれを一口飲むと、ようやく頭が覚醒する。
昨夜は明け方まで離してもらえなかった。
最後には、意識を失うように眠り込んだのは覚えている。
だが、何故ソルフェースがここにいるのか。
「お前、何故?」
抱えられている事実は認識できる。と云うか、そうでもしてもらわねば、馬からずり落ちそうなくらい力が入らない。
「第一騎士団と共に、ヤコニールが戻った。代わりの魔術師は必要だ」
周囲を見回すと、後ろにマーロウ、更に後方にラフ・シフディと彼の率いる小隊が続いていた。前方には、馬を進めるゼルダムと周囲を囲むように隣国の騎士団が続く。
「だから、何故、お前だ?」
潜めた声で、囁いた。
「お前が呼んだからだろう?」
「呼んだ? 俺が?」
「声に出さずとも感じるぞ。俺とお前はその指輪で繋がっている」
どうやら、トレシーオに押し倒されて傷つけられた意識の中で、自分は無意識にこの魔術師を頼っていたらしい。軟弱なことだ、とリベアは深くため息をついた。
「俺としては嬉しいんだがな。お前は、あの時、近くにいる半身のことさえ考え付かなかっただろう?」
リベアはかっと頬に朱を散らした。
あまりのことに呆然としてしまったのは確かだが、云われてみれば、確かに傍らに焔の剣があったのだ。水竜を呼べば良かったのではないか。
「動転したんだ。忘れてた」
リベアは、思いつかなかったことを正直に白状した。
「まぁ、あのガキが入っていったから、必要なかったがな」
吐き捨てるように云われて、もうあの時にはソルフェースがいたことを知る。
「蒼のソルフェース殿」
後ろからラフが馬を寄せてきた。
「リベアは起きましたか?」
「ああ。何か?」
不機嫌を隠そうともせずに、ソルフェースが応じる。リベアに対する態度を、常々苦々しく思ってはいたのだが、隊長のマキアスの手前もあり、普段はなるべく平静な態度を崩さなかった。
だが、今日はリベアを立てるマキアスはおらず、リベアを慕う年少の騎士たちもいない。味方は従卒のマーロウだけである。
「リベア、お前はいつもそのように魔術師殿に迷惑を掛けるが、騎士としての自覚を持て。いくら戦いの後だからとは云え、自分で騎乗も出来ない程なのか?」
ラフの言葉は、一々最もではあるが、それに乗じての嫌味であることも確かだった。リベアは、唇を噛み締めて、屈辱に耐える。
今は、気力を振り絞っても、たずなを引くことさえ出来そうに無い。
「はい、すみま…」
だが、謝罪はソルフェースの手によって遮られた。
「何が云いたいのだ? シフディ殿?」
「いえ、私は…」
魔術師特有の紫紺の瞳に睨まれて、ラフが口篭る。
「リベアは、我が水の魔術師の眷属・水竜の認めた騎士だ。だが、焔の属性のものが水竜を動かせば、それだけ消耗も激しい。それは、お分かりの筈だと思っていたが、違うのかな?」
嫌みったらしく教育の是非を問われ、持論を逆手に取られたラフはひと言も返せなかった。
それは承知をしているのだ。だが、騎士たるものが、自分で馬にも乗れず、魔術師に支えられて騎乗するなどと、女子供のような真似をしているのが許せないだけだ。
「まぁ、属性と反対のものを動かすなど、普通の騎士では出来ない真似だからな。解らんのも無理は無いが」
せせら笑うようなソルフェースの言い草にも、唇を噛み締めて耐える。
そのラフを、リベアは気の毒だとは思ったが、かといって、庇うほど偽善的にもなれない。何より、本当に身体が異様にだるかった。
秀麗なというのが相応しい、ソルフェースの横顔を眺めながら、リベアの意識はまた闇に引き込まれていった。


セルダムとリベアの一行が、アルセリアの城下へと到着したのは、その二日後である。
ゼルダムは民に慕われているらしく、一行が通り過ぎるそこここでどよめきと歓喜が沸き起こる。
また、それににこやかにゼルダムが応えていた。
「リベア。お前も少しは、我が国の民に愛想を振りまいてやってはくれぬか」
「は? 俺、ですか?」
横に馬を並べたゼルダムに云われて、リベアはかなりぎこちない笑顔を浮かべた。それを見たネイストが、思わず噴出す。
「リベア殿。それではまるで睨んでいるようですよ。焔の剣を掲げてみせてくれるだけでも良いのです」
つり目がちなリベアは、よく云えば意志の強そうな、悪く云えば目付きの悪い人相だ。それにかてて加えて、照れ屋でもあるため、ふとした時に見せる、心からの自然な笑いは魅力的ではある。だが、こういう場ではその笑いを期待しても無理だろう。
むしろきりっとした顔つきで、軽く剣を掲げた方が様になるのだ。
ネイストに云われるままに、リベアが剣を掲げると、歓声が沸き起こる。
そういう反応には慣れたつもりではあったが、ティアンナの国内ならばともかく、余所の国にこのような歓迎を受けると、どうしていいのか判らない。リベアは思わず、視線をさまよわせてしまった。


王妃との会見は、王宮の王妃の宮で行われた。
王以外は、許された人間しか潜ることを許されないその門を潜ったのは、リベアとソルフェースだけである。
「リベア!」
蔓薔薇で囲まれた庭に設けられたテーブルに座っていた貴婦人が、待ちかねたように立ち上がって駆け寄ってきた。
嫁いだときには、まだまだ幼い印象の強かったレイシアは、数年で見違えるような大人の色香をまとう様になっていて、リベアを戸惑わせる。
おてんばで小さな姫だった頃のように、ドレスの裾も省みず、駆けてきた隣国の正妃は、だが、そんなリベアの戸惑いも知らずに、飛びついてくる。
「お久しぶりです。妃殿下」
リベアはすぐに身体を離して、その場に跪いた。
ソルフェースもそれに習う。だが、さすがに手馴れたもので、優雅にレイシアの手を取ると、それに口付けた。
「お久しぶりです。レイシア様」
「レイシア。そんなに急いでは、転んでしまうだろう。とりあえず、席に着きなさい」
年の離れた夫に、帰還の挨拶もせずに客を歓待するレイシアに、ゼルダムがくすりと笑った。
「だって」
口を尖らせたレイシアに、ゼルダムは軽く口付けると、テーブルへと促し、侍女に茶の用意を云いつけた。
そんなレイシアの子供っぽい仕草も可愛くて仕方が無いといった様子が見て取れる。
幸せそうな様子に、リベアは自然と笑みを浮かべていた。


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