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身勝手な男たち<2> 

「で?お前、今営業事務なワケ?」
勤めだして、最初の週末。昼過ぎまで、布団の中だった俺は、何度も鳴る携帯の音に叩き起こされた。
「うん、いずれは戻してくれるらしいけど」
同期入社の平川に呼び出されたマックは、ビルの中の本屋の脇で、週末の駅前の割りには人が少ない穴場だ。
「ホントかよ。嬉しがらせじゃ無いだろうな?」
「来週から外回りだって。青山のスーツでもいいけど、ネクタイはちゃんとしたの買えって云われた」
「たりめーだ。百均のネクタイはヤメロ。激ビンボー臭え」
「うん。新庄さんにも云われた」
「新庄さんって、すんげえグラマー美女だろ? 少々年増だけどさ。ぜひ、一度お手合わせしてぇよな」
平川は、販売部の所属だ。
「45だぜ」
「嘘ッ!」
俺も聞いた時には驚いた。どー見ても、30ソコソコにしか見えない。比較的、若い人間が多い営業部では、最長老だ。
「あ、でもさ、営業部って、もう一人いただろ? 日本人形みたいな子。あの子フリー?」
「佐藤さんも、36だぞ。子供は中学生だって」
「げッ、マジかよ~。粒ぞろいだと思ったんだがなぁ。目の保養だけか。あ、佐伯さんは?カノジョいるの?」
おいおい、女だけじゃなくって、見境無しかよ~。
「平川、いくら綺麗でも佐伯さんはオトコだぜ」
「あ? なワケねーじゃん。店舗のバイトの女の子達が気にしてんのよ。何か掴んでね?」
ナルホドね。それも、女の子たちとの話のネタかよ。マメな奴だ。
「んー、教育係として話はするけどさ。あの人、必要最小限しか話さないからなー。そんな話聞く暇ねぇよ」
「営業部で他に親しい人とかいないのか?」
「一週間でそんなのわかんねぇよ」
俺はお前ほど、マメじゃ無いんだよ。
「第一、営業部ってメッチャ忙しいんだぜ。のんびりしてたら殴られる」
「一週間じゃ、そんなに出来る仕事なんてねーじゃん。何してんの?」
そーだろ? 普通、そう思うよな?
「カタログの区分だろ。見積もりの作成だろ。図面の区分も、オートCADは使ったことあんだけど、ドラCADなんて初めてだから、まだ扱い慣れないし。型通りのゼネコン見積もりなんかは事務課でやっちまうんだって。毎日、気が付いたら5時だよ」
「うわっ、早々かよ」
「しかも、終わったら、佐伯さんのテスト」
「テストぉ?」


そう、テストというのが正しいかどうかは別にして、そうとしか俺には云い様が無い。
あの冷たい視線で、見積もり一件出来上がる度に、聞かれるんだぜ。
「この見積もり、どうだ?」
「えー、っと。それ、正直にってことですか?」
「ああ」
相も変わらず、佐伯さんはストレート。且つこれでもかと云うほど短いセンテンス。
「利ざやが低すぎる気がするんですが。薄利多売と云う訳ですか?」
「とすると、この見積もりの数字でいいと思うか?」
「でも、ソレ渡部さんの指示通りなんですが」
「営業は動けばそれだけ金が掛かる」
云う事は判る。
「利ざやが少ない分、経費をシビアに出せって事ですか?」
佐伯さんの綺麗な顔がニヤリと笑って頷いた。
「判りました。やり直します」
一時が万事そんな風だ。ひとつ仕事が終わると、ひとつ質問。やり直しになる事も少なくない。
「へー。ソレって期待されてるって事じゃん。イマドキんな丁寧に教えて貰えないぜ」
「そーかぁ?」
そういう見方もあるのか。嫌味でやってるのかと思ってた。
「あれ? うわさをすれば――――――佐伯さんじゃん」
「え? 何処?」
「ほら、入り口んとこ」
うっそぉ。あの佐伯さんがマックでコーヒーだよ。みんな注目してるし。
「やっぱ、迫力だよなぁ、あの人」
いるだけで注目浴びっぱなし。本人は慣れてるんだろう、まったく意に介して無い。
「誰かと待ち合わせかな?」
「じゃ、ねーの?まさか一人でマックってタイプには見えない」
雑誌を片手にコーヒーを飲む様子さえ絵になるとは、いい男はオトクだ。
「お、三人連れだ。女子コーセー行くぞ」
若いってことは、それだけで自信に繋がる。あの佐伯さんに臆さないとは羨ましい。
「お一人ですか?」
複数の強みもあるのだろう。女子高生はおずおずと、だがしっかりした調子で話かけた。
「二人に見えるか?」
辛辣なご意見だ。すばらしい。にべも無いとはこのことだ。俺は思わず吹き出して女子高生に睨まれた。
「小島」
俺の笑いは佐伯さんにも聞こえていたらしい。俺は、また出そうになる笑いをこらえて、佐伯さんに目礼した。
「そこ、空いてるか?」
佐伯さんが指したのは、俺の隣。いや、4人席だし、俺と平川は当然向かい合わせに座っていた。が、だからといって、何で、俺の隣よ????
「どうぞ。佐伯さん」
如才の無い平川が、笑って席を勧める。
「販売部の平川です。佐伯さんのウワサは聞いてます」
「ああ、そう」
平川の言葉にも、佐伯さんはものの見事にそっけない。女子高生たちは、いまだにこっちを睨みつけていた。
「佐伯さん、旅行帰りですか?」
落ち着かなくて視線を泳がせた俺の目に、佐伯さんの足元にある、平服で持ち歩くにはゴツイ造りのバッグが目に入る。
「ああ、俺のじゃ無い。久世のだ」
「久世―――さん?」
って、ダレ?
「総務の久世だよ。お前らの面接やったろうが」
何で判らないんだと云いたげな佐伯さんに、『面接官は五人もいました』等と逆らうことは、俺には出来なかった。
「スーツの似合ういい男がいたろ?」
いたっけ? ガタイのいい強面のおっさんばっかりだった気がする。
「童顔で可愛い顔した――――痛ッ!」
突然、後ろから現れた男が、佐伯さんの頭に持っていた本を落とした。
「会社の新人相手に何云ってる」
「痛ってー、お前わざとやっただろ!」
「当たり前のこと云うな」
すげえ。あの佐伯さんが普通にしゃべってるよ。
「おら、もう行くぞ」
「本屋で引っ掛かってたの、お前じゃねぇか」
丁々発止のやり取りを、俺たちは不思議なものでも見るように、見ていたんだと思う。
男は、俺たちの視線に気付くと、にっこりと笑った。
「君たち、せっかくの休みに、邪魔して悪かったな」
「あ、はぁ……」
あっけに取られているうちに、彼はくるりときびすを返した。
「おい、待てよ!」
佐伯さんが、慌ててかばんを抱えて後を追う。その姿は、どう見ても、佐伯さんが振りまわされているようだった。
「なんだったんだ? ありゃ―――」
「あれが、総務の久世さんだろ。佐伯さんが云った通りの人じゃん」
「え?あの人?」
確かにスーツの似合うガタイの良い人だったが、『いい男』とか『可愛い』とか云う単語は合わない気がする。
「モデルみたいな体型してたよな~。青山のスーツが10割り増しに見える」
え、嘘? あれ量販店のスーツだった?
「お前のスーツと同じには見えないぜ~」
つくづく感心したように云う平川に、俺はちょっとへそを曲げた。
「ちょっとガタイがいいだけのオヤジだろ。俺だって負けてないと思う」
俺だって、結構いい身体してると思うぞ。
「お前、少しは自分と他人を客観視しろよ。同じなのは肩幅だけじゃん。あの広告モデルみたいな久世さんと、丸っきし日本人体型のお前じゃ、勝負になってない」
「何処が違うんだよ!」
「肩幅の割りに、すんげぇ腰細いし、足の長さもぜっんぜん違う!」
足の長さを、えらく強調しやがったな。
「惜しいのはあの顔だよなぁ。あの鍛え上げた身体に、可愛い童顔が乗っかってるのって、なんかアンバランス―――」
可愛い顔? ってあの人が?
「何、不思議そうなカオしてんだよ。顔は可愛かったじゃん、久世さん」
そ、そうか? ごつい身体しか見てなかった。
「遠目に見た時は、もっと平凡なひとだと思ったんだけどな~。こりゃ、あのウワサ本当かも」
「何だよ、噂って」
お前、入社したてでいろんな事知ってるな。それとも販売部って余程暇なのか?
「佐伯さんがホモだって話」
「げっ! 嘘ッ!」
ホモぉ????


「もっのすごくカッコ良い人だったんですよー、声も素敵なの!」
本社のお使いから帰ってきたバイトの典子ちゃんはご機嫌だった。
営業部への届け物なんぞ、本来なら断ってしかるべきなのだが、渡部さんと云う営業部員のポカは、放って置くととんでもない羽目になるそうで、フォローせざるを得ないらしい。
「ああ、そりゃ佐伯さんだな。あの人もよく渡部なんぞ見放さないもんだ」
典子ちゃんによると、渡部さんへの届け物だと云うのに、本人では無く、その素敵な人がわざわざ受付で待っていたと云う。
「佐伯さんって云うんですか? あの人!」
「えらく綺麗な男だろ? 背の高い」
辻本さんは男らしい顔で笑う。五反田店の店長は店舗売り上げナンバーワンの、客からの人気も高い色男だ。
「辻本さんよりいい男ですか?」
平川が聞くと、辻本さんはすごい勢いで首を振った。
「あぁ? 駄目ダメ。俺なんか比べるのは間違いだって!」
「そんなにいい男なんですか?」
「君も見たら解るよ。あれは俺達とは違う人種なの。あいつに張り合おうって云うのが、どだい無理。渡部も無駄なあがき止めりゃいいのに」
苦々しげに辻本さんは吐き捨てる。
「顔良し、スタイル良し、仕事が出来て、そつが無い。社内の付き合いは悪いが、取引先との付き合いは欠かさない。これでホモでさえ無きゃ、完璧な男だろ?」
――――え? ホモ? 
平川の中でその言葉が形になるのに、しばらく時間が掛かった。
正気に戻したのは女の子たちの悲鳴だ。
きゃー! いやーッ、ホモ?
「嘘ですよね?」
熱心に話を聞いていた典子ちゃんが、辻本さんに詰め寄る。
「ま、噂だけどね。営業部では真しやかに語られてるよ」
噂と云いながら、辻本さんはどこか確信を持っているようだった。


「もしかして、佐伯さんに付き合ってる人がいないか知らないかって聞いてる訳か」
「当然」
平川はしれっとしたものだ。
「有力候補は久世さんだそーだ。まぁ、判るけどな」
さっきの態度を思い起こす。まるで恋人自慢だったもんなぁ。
確かに付き合っていると考えると、自然かもしれないが、俺は明日からどう接すりゃいいワケ?
研修は始まったばっかりだし、第一、同じ営業部で、これから顔付き合わせていかなけりゃならない。
お気楽な平川に、余計な噂を吹き込まれて、俺はただ困惑しているだけしか出来なかった。


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