スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 


騎士の誓い<11> 

「リベア様。おはようございます」
「ああ。マーロウ、おはよう」
にっこりと邪気なく微笑むマーロウの視線が痛くて、リベアは落ち着かなく視線をさまよわせた。
その不審な態度を見逃すマーロウではない。目だけを動かして、リベアの様子を詳細に観察する。伊達に数年も世話係を承ってきた訳では無いのだ。
「リベア様。湯浴みなさいますか? それとも」
「いや、水でいい。布をくれ」
常ならば、無頓着なリベアが向ける背中に鬱血の跡が残っているのを、そ知らぬ振りで拭うこともあるが、今日のリベアは自分で拭うと言い張る。
これで聡いマーロウに気付くなと云うのが無理な話だ。
案の丈、マーロウは眉根に皺を寄せたまま、リベアに布を手渡してくる。
それでも何も聞かないマーロウに、リベアはほっと息を吐いた。
「リベア様。今日はどちらへ?」
「ああ。近衛の騎士の訓練所に寄らせてもらう。手合わせを頼まれていてな」
「ゼルダム陛下と、ですか?」
王の客であるリベアと手合わせがしたいなど、普通の身分の騎士が言い出せることでは無い。当然、王自身か、その側近というところだろう。
「いや、ネイスト殿だ。後は近衛隊長殿からも。久しぶりに身体を動かしたい。ラフと一緒に出掛けてくる」
突然出た名前に、マーロウは慌てて立ち上がる。
「お待ちください。俺も行きます」
「いや、王の側近とその周辺の連中だけだ。ラフと俺しか呼ばれて無いぞ」
単独で動くリベアはともかく、ラフは自分の小隊を率いてきていた。だが、今回はどうやら一人だけらしい。
それに、アルセリア王宮はどちらかといえば、現国王の戦友であり、王妃の救いの主であるリベアには、非常に親愛の情を示していた。
ならば、ラフの嫌味もそうひどいことにはなるまい。そう考えて、マーロウはあっさりと引く。自国ならば通用するだろう、近衛騎士隊長の息子という地位も、ここで振りかざせば只の馬鹿だ。


リベアを見送って、部屋の片づけをする。
明日には、アルセリアを発つ事になるのだ。
王からの招待ということで断れなかったが、突然のことであったし、主力を担う騎士がひと月以上も国を留守にするなど、出来る訳が無い。
部屋の中に散らばった、細々としたものをしまいながらも、ふいに気配を感じて振り返った。
そこにいたのは、まるで水の揺れるような髪と、青い冷たい瞳をした男。
人では無いその姿に、腰の剣を抜こうとする腕を取られた。
「誰だ? お前は」
「誰か判らないか?」
まさかとは思っていたが、やはり、そういうことらしい。
マーロウは、剣の柄から手を離した。
「水竜様ですね。何故、この場に?」
「ほう、お前は奴よりは物分りが良さそうだ」
まるでからかう様な言葉尻だが、その発する温度は低い。
「リベア様の元に昨夜参られたのでしょう?」
朝からのリベアの様子では、それを白状したようなものだ。
「まぁな。お前が眠っているお陰で、アレは触れさせてくれん。いろいろ小細工を弄して、やっとな」
「何ゆえにそこまで求められるのですか? リベア様はお疲れです。少しは休ませて差し上げて…」
「それも契約の約定のひとつだ」
切りつけるような冷たい言葉に、マーロウの背筋がぶるりと震える。
「俺と契約する酔狂なやからはそういない。魔術の契約に人が捧げるのは何か、お前は知っているか?」
「魂、とか?」
そう云えば、リベアはそれに関しては教えてくれなかった。
「馬鹿な。そんなものを取ったら、それこそ転生も出来ん。契約は死ぬまで一度だけだ」
「では、何を?」
「体液さ。濃厚な生気の交じったものならば尚いい」
耳元で囁かれて、ぎょっとして身を引く。
「神と崇められようが、所詮、我らは魔物だ。人に害を成すか、なさぬかの違いにしか過ぎん。契約は血の盟約か、それとも契りかのどちらかだ。アレは、皇女を救うために、何よりも強い力を欲した。貪られるのを承知で」
ニヤリと酷薄な笑みを浮かべた水竜の顔は、魔物そのものだ。
「アレが力を欲する限り、俺は傍にある。そして、アレを護る」
「もし、リベア様が力を欲することが無ければ?」
魅入られたように動かない舌を、やっと動かしてマーロウが発した疑問は、魔物の笑みに叩き落される。
「他人を護れる力を、アレが捨て去ると思うか?」
そう、リベアはそういう男だ。捨てる訳が無い。それを自分に課したあの男ならば。
水竜は、何よりリベアを理解していた。
「無駄なことは止めろ。いらん横槍を入れるようなら、アレが可愛がっている相手だろうが、容赦はせんぞ」
掴まれていた腕が離れたとき、マーロウは緊張が解けてその場に座り込んでしまう。もちろん、その時には、水竜の姿はまるで煙のように消えうせていた。


切り込んだネイストの剣を払う。
開いた胸元に飛び込んだリベアの剣は、次の瞬間、ネイストの喉元に突きつけられていた。
「参りました!」
ネイストが剣を捨てる。
周囲から喝采が沸いた。
「ネイスト殿を抑えるとは…」
「さすがは、魔封じの剣の騎士ですな」
手合わせを見物していた将軍たちからも、感嘆が漏れる。
リベアは剣を引いて頭を下げた。
「リベア殿。腕を上げられたな。凄みがある」
黒の森で数年前に共に戦った、ネイストならではの感想である。実戦を積んだのがありありと判る剣だ。
「もう、国に並ぶ騎士はおらんのではないか?」
今日は見物に徹しろと云われたらしいゼルダムは、いかにも悔しそうに拳を握る。
「いえ、近衛騎士隊長のバース殿には敵いません。それに」
ちらりとリベアが視線を流す先には、ラフ・シフディが、アルセリアの将軍相手に、力強い剣を繰り出していた。
一合、二合と打ち合う。
かなり大柄なアルセリアの将軍を相手に、一歩も引く気配は無い。
普段、魔物相手の頭脳的な集団戦しか見せないラフだが、人相手の剣は、それとはまったく違う力強さをもっていた。
振り下ろされた剣を受け止める。
体格的にラフが圧倒的に不利な筈だ。
だが、ラフは剣を受け流し、そのまま剣を跳ね飛ばす。
胸元に剣を突きつけ、相手を睨み付けると、将軍が諸手を上げた。
「こちらもすごい腕前だな」
感心したように声を上げるゼルダムに、ラフは貴公子らしい優雅な仕草で頭を下げる。
「どうも、剣技ではティアンナには敵わんようだ」
「末永く、友好を保つのが良いということだな」
見物していた将軍たちから、笑い交じりの声が上がった。
「蒼の魔術師殿はどうしている?」
ふと、思い出したようにゼルダムが問う。
「そう云えば、こちらにはおられないようですが」
「私をお探しですか?」
ネイストの声に応えたのは、アルセリアには無い、紫紺の瞳の魔術師だ。
「こちらの所蔵されている書物を見せていただいておりました。大国だけあって、中々のものですね」
にっこりと微笑む魔術師の秀麗な顔に、一瞬、その場の誰もが見とれる。それが魔物のそれだとは思わずに。
「ソル」
リベアが静かに呼びかけた。


NEXT

BL小説ランキング
FC2 Blog Ranking

スポンサーサイト
*Edit TB(-) | CO(-) 


Back      Next

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。