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騎士の誓い<12> 

ソルフェースが軽く目を見開く。切羽詰った戦場ならばともかく、リベアは今まで、自分の名を呼ぶことなど無かったからだ。
「手合わせを、願いたい」
リベアの言葉に、魔術師は今度こそ傍目にも判るくらいの動揺を示す。当たり前だ。最初に手合わせで勝敗の結果として、リベアの躯を求めたのは、ソルフェース自身である。
「手合わせ?」
「おい、リベア。魔術師殿を相手に何を…?」
ラフが慌てて止めに入った。もし、魔術師と諍いなど起せば、後ろ盾の無いリベアは、その場で降格くらいにはなる筈だ。
「いや、いい。ラフ殿。単なる手合わせだ」
普段の優雅な仕草のまま、腰の剣を引き抜く。
隙の無い構えに、渋々とラフが下がった。かなりの手錬だと、構えを見た瞬間に悟ったらしい。
ゼルダムとネイストも興味津々であることを隠そうともしなかった。
彼らは確かに共に戦いはしたが、ソルフェースが魔術によって戦うところしか見たことが無い。剣を振るうソルフェースを見たことがあるのは、おそらく、ここにいる中では、リベアだけだろう。
いや、国にいる中でも見たことがある連中が果たしているのか。
よく魔術師たちの居城、西の宮に逗留することのあるリベアだが、他の魔術師たちが剣や槍を振るうのは見たことがあるが、ソルフェースのそれを見た覚えは無かった。

鋭い斬激が正面から来る。
リベアも真正面からそれを受け止めた。
力比べで負けるのは解っている。細身の身体だが、かなりの力があるのは承知していた。
流して跳ね返し、次から次へと打ち込んでいく。
それを、ソルフェースは交わし、受け止める。
周囲のざわめきすら、遠かった。
受け止めた剣を、ソルフェースが跳ね返す。
たたらを踏んだリベアに、ソルフェースは容赦の無い一撃を見舞った。
ギリギリのところで、その剣を止める。
態勢は、明らかに押されていた。
腰を落とし、リベアが耐える。
それを、ソルフェースは力任せに押さえ込んだ。
ふっとリベアが力を抜く。
剣を流したリベアに打ち込もうとした、ソルフェースの動きが止まった。
リベアの剣は、ソルフェースの喉元に突きつけられている。
敵の懐へ飛び込んで、とどめを刺す、小柄なリベアの独特の剣だ。
「参った」
ソルフェースから、言質をとったリベアは、ニヤリと人の悪い笑いを閃かせる。
「今夜、俺んトコ来い」
すれ違い様に囁いて、リベアはそ知らぬふりで、また他の騎士たちとの立会いに戻った。
「いや、魔術師殿も凄腕だ」
「これでも騎士のみなさんの足手まといにはならぬようにと、修練は積んでおります」
口々に、アルセリアの将軍から発される、世辞抜きの賛辞を受け止めながら、ソルフェースは、いつもの下品な言い草は何処へやらで、『ティアンナ最強の魔術師』という自分の役割を、またそ知らぬふりで演じている。
「いや、蒼の魔術師殿がこんなにお強いとは」
ラフも、まさかリベアと同等の戦いぶりを見せる魔術師がいるなど、予想もしなかったらしい。素直に感嘆していた。
「リベアは強くなったな」
「そうですね。見違えるようです。蒼殿は以前にもリベアと手合わせを?」
「ああ。まさか、遅れを取るとは思わなかった」
思わず漏れたソルフェースの本音だ。
勝った証に、躯を差し出させた。だが、今のリベアならば、そんなものは跳ね除けていただろう。いや、あの当時ですら、リベアが今の立場で、自分以外の魔術師が後ろ盾にいれば、迷いは無かった筈だ。
「そのようなことは、あまり口になさらないでください。奴は只でさえ特別扱いが過ぎます」
裏を知った所為か、ラフの嫌味には、そう強烈なものは感じられない。
つまりは、立場を悪くするようなことは云ってくれるなと云うことだろう。
「不器用なことだ」
ふと、ソルフェースが呟いたが、それはラフには聞こえなかった。


早めに晩餐を辞した。
酒が出ると、アルセリアの高官たちは、中々の酒豪ぞろいで離してくれないのだ。
部屋に戻って明かりを灯す。
今日は、マーロウには自室で休むようにと申し付けておいた。
物云いたげな風情のマーロウだったが、渋々ではあるが、うなずかざるを得ない。
目を閉じて、ベッドへと横たわる。
傍らには焔の剣があった。

唐突に部屋の空気が揺らぐ。

馴染んだ気配に、リベアは安堵さえ覚えた。
そこに立っていたのは、もちろん呼び出された、当のソルフェースだった。
「何か、用か?」
「いつもは呼ばなくとも来るくせに、呼んだ途端にその態度か?」
からかうような言葉を投げると、魔術師の秀麗な眉根が寄った。
「お前は呼んで欲しいときに呼んだためしが無い」
明らかに魔術の助けが欲しいとき、リベアはソルフェースを呼ばない。契約の約定として、助けが要れば、千里さえ掛けることが出来るというのに、それを厭うのだ。
「だから、抱いた報酬としての助けを施すしか出来ないんだろうが! もっと、俺を頼れ!」
叩きつけるような応えに、リベアはうっすらと微笑んだ。
「今日は、えらく素直に本音を吐くんだな」
いつもはからかう言葉や、煙に巻く態度でごまかすソルフェースが、今日は、いやに本音で接してくる。それがリベアの態度も軟化させていた。
「愚痴だ。最後に云いたいだけ云わせろ!」
「最後?」
意外な単語に、リベアが目を丸くする。
「手合わせで、負けた代わりにお前を好きにしたんだ。お前が勝てば、俺はお払い箱か? それとも守護だけやらせて、褒美は無しか?」
リベアはそういうつもりで、手合わせを望んだのでは無い。純粋に、強い男と戦いたかっただけだ。特に、魔術師との手合わせなど、ティアンナでは望んでも得られない機会だ。
絶句しているリベアを見て、ソルフェースも、己の間違いに気付いたらしい。
結局、リベアを誰より理解しているのは、ソルフェース自身だ。
そんな自分の自尊心で行動をおこす男ではない。

「ソル。俺は、今日お前に云いたいことがある。ずっと云わなければならないと思っていたことだ」
思わぬ本音を漏らし、言葉を捜して、視線をさまよわせるソルフェースを見て、リベアははっきりと自覚していた。自分が言葉を惜しんだ結果がこうなったのだと。
ソルフェースの前に、リベアは片膝をたてて、礼を取る。
寝室に似つかわしくない行為に、ソルフェースの目が見開かれた。


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